「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.4 ★ 英ジャーナリストが占う「2050年の世界経済を左右する5大要素」

2024年01月26日 | 日記

日経ビジネス (ヘイミシュ・ マクレイ:経済ジャーナリスト)

2024年1月4日

中国とインドの今後は?(写真=picture alliance/アフロ)

英国の経済ジャーナリスト、ヘイミシュ・マクレイ氏は、経済の将来を大胆に予測する著書などで知られる。本稿では近著の内容も踏まえ、先進国の高齢化や地球温暖化といった多くの課題を抱える世界経済の未来について2回にわたり考察する。前編では、今後の経済発展を促すカギとなる5大要素のうち、3つ目までについて議論する。

(翻訳・構成=菊池友美)

※本稿は、慶応義塾大学SFCにおいて筆者がゲスト講義で発表した内容などを基に、再構成・再編集したものです。

 本日は、私の近著『2050年の世界 見えない未来の考え方』(日本経済新聞出版)で展開したデータや分析に基づいてお話します。私たちが未来に向けて進んでいく旅路についてのお話です。私たちは常に未来に向かって進んでおり、歩みを止めることはできません。今日は私のことを、未知の世界に向かう人々を率いるツアーガイドだと思って下さい。

産業革命以前の経済大国は印中だった

 過去2000年の経済の歴史をひもとくと、実は今から200年以上前の世界最大の経済国・地域は、欧州でも米国でもなく、インドと中国でした。産業革命がこの構造を変えたのです。そして現代では、新興国と先進国の不均衡がやや緩やかになったものの、米国は過去25年間、先進諸国の中で常に優位な立場を維持してきました。

 西暦0年の世界経済を見てみると、経済規模が最も大きいのはインド、次いで中国になっており、この2カ国で世界経済の半分以上を占めています。欧州は(11%と)とても小さい割合です。1820年時点でも、中国とインドはまだ世界経済の半分近くを占めています。

 しかし第2次世界大戦を経た1950年には、中国が占める割合は5%、インドは4%にまで落ち込み、米国とカナダ、オーストラリアを含むグラフの赤い部分がはるかに大きな割合を占めています。そして2050年の予測では、中国は米国をわずかに上回る経済規模に戻り、インドも大幅に成長しています。世界に占める両国の経済規模は、200年前と同じポジションに復活するという予測です。

 200年前にこのような構造変化が起きた背景には、先進国における国民1人当たり国内総生産(GDP)の急成長があります。中国とインドの国民1人当たりのGDPは、ここ50~60年で急成長するまではほぼ横ばいでした。その間に英国や米国は一気に裕福になったのです。日本も同じように、1870年以降に一気に経済成長を遂げました。

明暗が分かれたBRICS

 その後に訪れたのが、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)革命です。米ゴールドマン・サックスが約20年前に掲げた新興4カ国の成長に伴う経済モデルは、新興諸国が自らを見る目線も変え、20カ国・地域(G20)に対抗するBRICSサミットや新開発銀行などが生まれるきっかけになりました。

 今ではBRICSの「S」にあたる南アフリカのほか、多くの新興国がBRICSに参加しています。ただ、BRICSは構想としては極めて重要だったものの、経済モデルとしてはロシアやブラジルの経済成長の可能性を過剰評価するなど、欠陥があるものでした。

個人的には、私が著書で紹介しているHSBCの経済予測が最も的確だったと考えています。HSBCは11年に「2050年の経済予測」を打ち出したあと、18年に改めて「30年の経済予測」を発表しました。要点をまとめると、(1)中国とインドは急進する、(2)ブラジルとロシアには警戒せよ、(3)先進国中の勝者は米国、の3つです。

 青のグラフはHSBCが予測した50年時点の上位20カ国の経済規模、グレーのグラフは国際通貨基金(IMF)による20年の各国経済規模の推計です。

日本の経済規模は4位

 このグラフでは25年後の世界は、中国と米国がほぼ同じ経済規模になっています。ただ、私が本を書き上げた後の経済情勢の変化を考慮すると、中国が米国の経済規模を超えることはないかもしれません。

 この予測では中国、米国に次いでインドが3位、そして日本、ドイツ、英国、フランスと続き、8位がブラジル、ロシアは13位です。ウクライナでの戦争による打撃を考えると、ロシアは将来的に、この順位にすらいないかもしれません。

今世紀の日本は中国やインドより裕福

 私が考える経済を動かす5大要素は、(1)人口構成、(2)資源と環境、(3)貿易と金融、(4)技術、(5)政治と統治 です。

 まず(1)人口構成を見ると、中国では低い出生率を背景に、日本を上回るペースで高齢化が進んでいます。一方、インドは人口で中国を抜き、世界一になりました。そして今、世界で最も若く、人口増加と経済成長が速いのはアフリカ大陸です。

 先進諸国では、高齢化が進んでも裕福さをある程度維持する傾向が見られます。確かに日本のGDPは公式な数字では上昇が見られませんが、人口1人当たりに換算すれば上昇しています。つまり日本の若者はいまだにとても裕福だと言えます。日本は今世紀中は、中国やインドよりも豊かなままでしょう。

 国連の人口予測では、インドの人口はしばらく上昇を続ける一方、中国の人口はすでにピークを迎え、緩やかな下落傾向に入っています。欧州も下落傾向にあります。アフリカ最大の人口を抱えるナイジェリアは急成長し、米国も緩やかに人口を増やしています。

 (2)資源と環境について見てみると、足元の多くの環境問題の中でも最大の課題は気候変動です。課題解決に向けた技術開発は素早く前進する一方、政治の歩みは遅いです。私たちが進める漸進的な脱炭素への歩みは、はたして十分なのでしょうか?

転換が進む電気、止まらない温暖化

 グリーンエネルギーによる発電は増加しています。米ブルームバーグの予測によると、1990年時点で世界の発電量の38%を占めていた石炭は、2020年には27%、50年には7%に減少する一方、水力・風力・太陽光による発電量は増加します。2050年には太陽光と風力発電が全体の56%を占めるという予測です。個人的には(電気のグリーン化は)この予測よりも速く進むとみています。

一方、地球温暖化も恐ろしいペースで進んでいます。各国は産業革命前からの気温上昇を1.5℃までに抑えることを目標としていますが、足元ですでに1度を超えています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球の気温は今世紀末には最大4~5度まで上昇し、気候変動対策を進めればこれを1.5度未満に抑えることができると予測しています。

 米中やロシア、インドを含む排出大国5~6カ国による確実な合意が取れれば、地球温暖化を制御することは可能でしょう。それだけで十分なのかは、今後も悩み続けねばなりません。

中国の輸出割合は減少傾向にある

 (3)貿易と金融に移りましょう。貿易額が世界のGDPに占める割合は2007年ごろから上昇しておらず、グローバリゼーションは10年ほど前にピークを迎えたと私は考えています。貿易はモノの移動からサービスの移動へと移行しています。

 足元では、西洋諸国が脱「中国依存」を進めており、特にロシアによるウクライナ侵攻以降、自国生産を強化する傾向を強めています。米中対立によって世界は二分化されるのでしょうか? その答えは分かりませんが、ある程度その方向へと進んでいくでしょう。

 金融については不換紙幣、特に米ドルはまだ信用に足りるのでしょうか? 私の答えはイエスですが、足元の急速なインフレは安定性を非常に損なっており、私の答えは正しくないかもしれません。

 実は世界の物品輸出に占める中国の割合は2019~20年ごろから減少しています。日本の割合も1990年代以降、下落傾向にあります。私は今後、世界の物品輸出に占める中国の割合は日本と同じように減少していくとみています。そうなれば、中国対策はより容易になるでしょう。

超低金利は世界的にも普通

 金融に目を向けてみましょう。英国の過去300年間の金利を見てみると、中銀が生まれた当初は10%弱、1800~1950年は2.5~5%を推移したあと、70年代の急激なインフレに伴い長期金利が急上昇しました。足元ではここ10~15年間の超低金利が終わり、4%程に正常化しています。

 私がお伝えしたいのは、日本が体験している超低金利は、世界的にも普通だったということ、そして過去15年間の欧米での金利政策は特例だったということです。私の予測が間違っている可能性はありますが、日本の金利も向こう10~15年で正常化するとみています。金利が正常化し、預金に対してそこそこのリターンが得られるようになれば、金融システムへの信頼度は高まるでしょう。日本円やドルの地位は維持され、世界経済がビットコインで回ることもないでしょう。(後編に続く)

ヘイミシュ・マクレイ[Hamish McRae]
経済ジャーナリスト。英インディペンデント紙の経済コメンテーターを務めるほか、メール・オン・サンデー紙に経済・金融に関するコラムを執筆。ガーディアン紙、インディペンデント紙の金融面エディターも歴任した。英国プレスアワードの年間最優秀ビジネス・ファイナンス・ジャーナリスト賞など多くの受賞歴を持つ。

主な著書に『2050年の世界――見えない未来の考え方』(日本経済新聞出版)、『2020年 地球規模経済の時代』(アスキー)、『キャピタル シティ――挑戦するロンドン国際金融センター』(フランセス・ケーンクロスとの共著、東洋経済新報社)、『目覚めよ!日本――ニューエコノミーへの変革』(中前忠との共著、日本経済新聞出版)など。(写真=Sophie Davidson)

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