「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.46 ★ 香港「難民の中継地」の知られざる過酷な現実 映画『白日青春ー生きてこそー』

2024年01月29日 | 日記

東洋経済オンライン (壬生 智裕 : 映画ライター )

2024年1月26日

映画『白日青春─生きてこそ─』監督・脚本:ラウ・コックルイ/出演:アンソニー・ウォン、サハル・ザマン、エンディ・チョウ、インダージート・シン、キランジート・ギル/配給:武蔵野エンタテインメント株式会社/1月26日(金)からシネマカリテほか全国順次公開(PETRA Films Pte Ltd © 2022)

『インファナル・アフェア』シリーズなど、いぶし銀の魅力で香港映画界を牽引してきた俳優・アンソニー・ウォン。2014年に民主化を求めた若者たちによる「雨傘運動」(警察の催涙弾などを雨傘で避けたことに由来)を支持し、中国政府を批判したことで、香港および中国映画界から締め出されることとなった反骨の映画人である。

しかしそんな逆境の中、半身不随の男とフィリピン人家政婦との交流を描いた『淪落(りんらく)の人』(18年)で、香港電影金像奨最優秀主演男優賞に輝くなど、その存在感はいまだ衰えることはない。

そんな彼の最新作が、偏屈なタクシー運転手と、パキスタン難民の少年との心の交流を描いた本作である。

難民中継地での過酷な現状

本作でウォンが演じるのは、1970年代に中国本土から香港に密入国してきたチャン・バクヤッ。彼はタクシー運転手として生計を立てていたが、警察官を務める息子との関係はギクシャクしたままだ。一方、パキスタンからの難民の子である少年ハッサンは、カナダに移住することを夢見ていたが、バクヤッとのトラブルがきっかけで引き起こされた交通事故で父親が死去し、その夢も無残に打ち砕かれてしまった。

そこで彼は難民によるギャング団の仕事を手伝わされることとなるが、その事実を知ったバクヤッは、ハッサンの出国を手伝うことを決意。その心の奥底には彼が抱く過去への贖罪(しょくざい)の思いがあった──。

舞台は、人口の90%以上が中国人で、残り数%はフィリピン人など他国籍の人たちで構成されている香港。亡命を希望する難民の国際中継地として、毎年数千人もの難民がこの地にたどり着き、安全な国に移住するために政府からの承認を待ち続けている。だがその間は働くことができず、ほんのわずかな支援金で暮らすことを余儀なくされる。

しかし近年は「この制度を悪用した偽装難民が多額の予算を浪費させ、治安や医療にも悪影響がある」という見解から政府の態度が厳格化。なかなか難民申請が受理されない状況が続いている。

それゆえ地元民が難民に向ける目にも厳しいものがある。バクヤッ自身も最初は難民に対して高圧的な態度を取っていたが、彼らの過酷な現状を知り、その気持ちが変わっていく。そんな男の心の変遷をウォンが実に繊細に演じ分けてみせた。

注目の監督 ラウ・コックルイ

近年、中国当局の厳しい締め付けが顕著になり、表現の自由が奪われつつある香港だが、そんな中で才能豊かな若手映画人が次々と登場。「第2の香港ニューウェーブの到来」といわれる昨今だが、ラウ監督もそんな一人。中華系マレーシア人4世である彼は、高校卒業後、広東語がわからないままに、香港に来て映画を勉強。多くの困難と向き合った。それゆえに本作の登場人物に、監督自身の移民生活を投影させたという。

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No.45 ★ 業務時間外の「チャットでの対応」は残業 中国で初の司法判断、企業に賠償命令

2024年01月29日 | 日記

36Kr Japan 編集部

2024126

 

中国の北京市高級人民法院(高等裁判所)は2023年の活動報告で、SNSアプリなどを利用した時間外労働に関する訴訟を取り上げた。いわゆる「見えない残業」をめぐる裁判は、中国では初となる。

 

原告の李氏は、所属する会社に対して19年12月21日から20年12月11日までの残業代の支払いを求め、訴訟を起こした。李氏が主張した残業とは、退勤後にSNSアプリ「微信(WeChat)」や企業向けコミュニケーションツール「釘釘(Ding Talk)」などを通じ、顧客や同僚とコミュニケーションを取り、労働力を提供したことを指していた。一方、会社側はこれは残業にはあたらないと主張した。

 

北京市第三中级人民法院(地方裁判所)は審理の結果、李氏が一部の勤務日の退勤後や休日にSNSを利用して行った業務は、単純なコミュニケーションの範疇を超えていたと指摘。その業務内容は周期的かつ固定的という特徴があり、一時的かつ偶発的な一般的コミュニケーションとは異なり、雇用主の企業による雇用管理の特徴を反映したもので、残業とみなすべきだとの判断を下した。同裁判所は、企業に対して李氏に残業代3万元(約60万円)の支払いを命じる判決を言い渡した。

*2024年1月23日のレート(1元=約20円)で計算しています。

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No.44 ★ サッカー中国代表「弱体化」の元凶、〈偽りの名監督〉李鉄の公開懺悔ー東アジア「深層取材ノート」(第220回)

2024年01月29日 | 日記

JBpress (近藤 大介:ジャーナリスト)

2024年1月26日

2022 FIFAワールドカップカタール大会で、予選グループで日本代表との対戦前に記者会見する中国代表監督の李鉄(写真:新華社/共同通信イメージズ)

「退屈な番組ばかり…」と思いきや

 ここのところ、「中国のNHK」にあたる中国中央電視台(CCTV)が、さながら朝鮮中央テレビ(KCTV)と化していて、実に無味乾燥な報道が多い。

 例えば、夜7時から7時半のメインニュース番組『新聞聯播』(シンウェンリエンボー)は、だいたい最初の10分が、習近平総書記・国家主席がいかに「偉大な存在」かを伝える。最近はネタが尽きたのか、習氏が30年以上前に福建省に勤務していた頃の「偉業」まで発掘して、トップニュースで称えている。

 続く10分が、中国経済はいかに躍進しているか。マイクを向けられる工員も農民も経済学者も、皆、笑顔いっぱいだ。

 そしておしまいの10分が、中国以外の世界はいかに悲惨な危機に満ちているか。ウクライナ、中東、それに「敵国」アメリカで銃撃事件でも起ころうものなら、鬼の首でも取ったように、大仰に報道する。最近は、能登半島地震のニュースも多い。

 ただ私は、中国ウォッチャーを名乗っている手前、そんなニュースも追わないといけない。ああ、退屈!

 と思っていたら、あくびの止まる番組を見つけた。日本で言うなら「NHK特集」のような番組だ。タイトルは、『引き続き力を込めて深々と推進する 第4回 「三不腐」を一体になって推進する』。

 要は、「反腐敗キャンペーン」の4回シリーズ番組(各回1時間弱)の最終回だ。「三不腐」というのは、最近の「習近平語録」の一つで、「腐敗をしない、腐敗をできない、腐敗をしたくない」(不敢腐、不能腐、不想腐)という意味だ。

この手の番組は、習近平政権になってからたびたび作られている。腐敗で取っ捕まった元幹部が、「獄中インタビュー」に応じる「涙の謝罪シーン」が、番組のハイライトになっている。一説によれば、インタビューに応じると減刑されるのだとか(真偽は不明)。

 それが今回のテーマは、「腐敗にまみれた中国サッカー界」だったのだ。「悪役」は、かつて中国サッカー界最大のヒーローだった李鉄(り・てつ)元中国代表チーム監督(46歳)である。

中国サッカー界の伝説的プレーヤー

 番組は、李鉄監督の「栄光と挫折」の半生を振り返りながら進んでいった。1977年5月、遼寧省の省都・瀋陽の6人兄弟家庭に生まれ、父親は「鉄のように強くなってほしい」と思って「鉄」と名づけた。実際、小学生の頃から抜群の運動能力を見せ、15歳で遼寧省ユース代表のキャプテンとなり、翌年、16歳でブラジル留学を果たす。

 帰国後、遼寧チームに加わり、2001年には「甲A」(中国プロリーグ)MVPに選ばれた。翌2002年には、日韓共催ワールドカップにも出場し、その活躍を認められて、中国人選手として初めて、英プレミアリーグのエバートンに移籍する。

イングランド・プレミアリーグ、エバートン時代の李鉄(写真:ロイター/アフロ)

 2008年に帰国して、成都チームに入団。深圳チームとの対戦で決めた「40mゴール」は、いまでも中国のサッカーファンの間で語り草となっている。

翌2009年に、古巣の遼寧チームに復帰。だが、2010年10月の南昌チームとの試合で右太腿を打撲し、事実上、選手生命を絶たれてしまった。

指導者としても好成績…

 中国代表としての出場回数は、93試合。まさに中国サッカー界に君臨した李鉄だったが、ここから指導者として「第二の人生」が始まった。

 2012年、後に親会社が破綻問題で世界を揺るがす広州恒大チームの監督補佐となり、チームを優勝に導く。2014年からは、中国代表チームの監督補佐にもなる。

 2015年8月、「一部リーグ」(中甲)の河北華夏の監督となる。チームはそれまで6位に低迷していたが、李鉄監督に代わってからは破竹の8連勝を決めた。

 CCTVの映像を見ると、勝利するたびに、スタジアムは大歓声である。そしてついに、河北華夏は、悲願だった「スーパーリーグ」(中超)への昇格を果たしたのだった。マスコミは「奇跡」と称え、李鉄監督は再び、中国サッカー界の寵児となった。

 だが「奇跡の8連勝」は、実際には中国語で言う「偽球」(ジアチウ)=八百長試合の賜物だったのだ。

チーム大躍進の陰で行われていた不正

 例えば、最終戦となった深圳宇恒戦は、勝つか引き分けで「スーパーリーグ」への昇格が決まる試合だった。李鉄監督率いる河北華夏はこの試合も、2-0で勝利した。

 だが、番組中の本人の「獄中インタビュー」によれば、李鉄監督と河北華夏は、1400万元(約2億8000万円)の資金を使って、相手クラブチームと監督、選手たちを買収した。深圳宇恒にとってはただの消化試合だったため、河北華夏からの「申し出」にあっさり応じたという。

 さらに李鉄監督は、これとは別に相手DFの黎斐(り・ひ)を600万元(約1億2000万円)で買収。ファウルしてPKを取られることなどを頼んだ。

獄中インタビューを受ける元サッカー中国代表監督の李鉄(中国CCTVのYouTubeチャンネルより)

 獄中でほっそりした顔つきになった李鉄は、カメラを前に、低い声で語った。

「私は選手時代、こうしたことに手を染める選手を、最も憎んでいた。だが監督になったプレッシャーの中で、どうしても勝たねばならないという思いから、自分も同じことをやってしまった……」

 以後、「偽球」に味を占め、「名監督」として、中国スーパーリーグで名を馳せていった。

念願の「代表チーム監督」の座を射止めるために

 そんな李鉄監督の次なる野望は、中国代表チームの監督になることだった。

「私は本当に、代表監督になりたかった。そのため、やれることは何でもやった。サッカー協会の幹部に会って、推薦してくれるよう頼み込んだ……」

 最大のターゲットは、中国サッカー協会の陳戌源(ちん・じゅつげん)主席だった。李鉄は陳主席に、200万元(約4000万円)を積んで頭を下げた。さらにサッカー協会の劉奕(りゅう・えき)書記長にも100万元(約2000万円)を差し出して、保険を掛けた。

 そしてついに、2020年1月、念願の中国代表監督に就任する。すると翌日には、武漢卓爾チームの本社に飛んでいた。今度は資金を回収するためだった。李鉄新監督は、この二流チームの4人の選手を、代表チームのレギュラーに抜擢することなどと見返りに、6000万元(約12億円)を手にしたのだった。

サッカー中国代表監督時代の李鉄。カメラの前でポーズをキメているが、実は八百長と買収で得た地位だった(写真:アフロ)

 だが、こんなことばかりしていたため、中国代表チームは国際試合で一向に勝てなかった。結局、李鉄監督は中国のサッカーファンたちから罵声を浴びて、2021年12月に辞任した。そして翌2022年11月、「御用」となったのである。そこから芋蔓(いもづる)式に、陳主席以下、十数人が捕まった。

 こうした影響で、現在、中国サッカー界は「暗黒の時代」を迎えている――。

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No.43 ★ 「もしトラ」で中国が恐れる米の台湾放棄、周辺国“核ドミノ”の驚愕シナリオ 米大統領選の行方は台湾問題、さらにはアジアの安全保障に重大な影響を与える

2024年01月29日 | 日記

JBpress (深川 孝行)

2024年1月26日

大統領再選を狙うトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

大統領時代「台湾に思い入れはない」と言い放っていたトランプ氏

 世界中が注目した2024年1月13日の台湾総統選挙は、親米・反中を貫く政権与党、民進党の頼清徳副総統に軍配が上がった。(5月20日に新総統に正式就任)

 頼氏は「台湾と中国は別だ」を掲げる蔡英文総統の右腕で、現路線の踏襲は確実と見られている。しかも「台湾独立」を強調した過去もあることから、大陸と台湾の「祖国統一」に執着する中国国家主席の習近平氏には“目の敵”に映るだろう。

台湾総統選で勝利した民進党の頼清徳氏(写真:AP/アフロ)

 中台関係のさらなる悪化も予想されるが、習氏にとっていま最大の心配事は、今年11月の米大統領選での「トランプ氏再選」ではないだろうか。

「頼、トランプ両氏の“化学反応”で、台湾の核武装と『核ドミノ』が発生する、とのシナリオが現実となって、中国の安全保障を脅かしかねないと考えているのでは」

 と、米中関係に詳しいある専門家は推測する。

 台湾の核武装とは、台湾が秘密裏に続けてきた核兵器開発を再開すること。「核ドミノ」は、台湾の核武装を引き金に、韓国や日本など周辺国が“ドミノ倒し”のように次々と核保有に走るという連鎖反応のことである。

 まずは、いまネットでも急上昇中のキーワード「もしトラ(もしも、トランプ氏が米大統領に返り咲いたら)」と、台湾への影響が注目される。

「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を叫ぶトランプ氏が米大統領に復帰すれば、アメリカの外交戦略は、中国に対する猛攻へと大きく軸足を移すとの見方が強い。猛攻と言っても、軍事力の行使ではなく、巨大取引「グレート・ディール」のことだ。前出の専門家はこう説明する。

「不動産取引で財を築いたトランプ氏にとって、ディールによる金儲けは一番の関心事だろう。アメリカにとっての最大の貿易赤字国である中国と“がっぷり四つ”で駆け引きし、大きく稼ごうと考えているはずだ」

 さまざまなカードを取引材料として切り、中国側に米製品の大量購入などを迫る腹積もりで、ここ一番の時に「台湾カード」を切るのでは、と欧米の一部メディアも推測する。

 国際情勢に詳しいあるジャーナリストもこう推察する。

「トランプ氏は先の大統領時代、周囲に『台湾に思い入れはない』と言い放っていたのは有名な話だ。それでも当時、アメリカの安全保障上、台湾が極めて重要だと諫めるブレーンが多数いたが、いまや大半が去ってしまった。

 仮に中国が台湾に武力行使、つまり台湾有事を起こしても、アメリカは直接参戦しない。見返りに中国は米製品の大量購入や、技術の第三国移転の防止、知的所有権の保護を強化し、アメリカの対中貿易赤字を劇的に減らすという“密約”が交わされているだろう」

 この戦略がいわゆる「台湾放棄」だ。

台湾が参画した核の枢軸ともいえる秘密軍事協定「ネクサス」

 だが、台湾もトランプ氏のハシゴ外しに黙って従うとは思えず、そうなれば頼氏は核保有という“伝家の宝刀”をついに抜くのでは、との声も少なくない。そして実はこのシナリオを中国側は一番恐れているという。

 ある軍事研究家は、こう深読みする。

「トランプ氏が台湾放棄を少しでもほのめかせば、台湾は封印してきた核開発の解除をチラつかせ、逆にこれを切り札として、トランプ氏にディールを仕掛け、台湾放棄を思いとどまらせる大勝負に出る可能性もある」

 台湾の核開発の歴史は意外と古い。1964年に宿敵の中国が原爆実験に成功すると、危機感を抱いた当時の台湾総統・蒋介石は、すぐさま小型核爆弾の開発を開始。「核の平和利用」を表看板に、研究用原子炉はカナダから、核関連技術はアメリカ、フランス、西ドイツから、ウランは南アフリカ共和国からそれぞれ調達した。

 だが、台湾の“保護者”であるアメリカは、この動きが原爆製造のものと感づき、開発中止の圧力をかけ、最終的に台湾は1988年に核開発を断念した。核兵器が拡散すれば、核戦争のリスクが増え、自国の安全保障にも多大な脅威になるからだ。

 また台湾の核兵器保有は、中国からの核攻撃を助長しかねず、アメリカもこれに巻き込まれて第3次大戦にエスカレートしかねないと考えたのである。

 台湾の核開発は、他国とタッグを組んだ点が特徴だ。1960~1980年代、当時親米でありながら、世界の“憎まれ反共国家”と揶揄された台湾、イスラエル、南アフリカは、核開発の枢軸ともいえる極秘軍事協定「ネクサス」(Nuke Axis)を結成した。実際、イスラエルは1960年代後半から国際社会では事実上、核保有国と見なされている。

 南アフリカも1991年まで原爆6発を持っていたが、冷戦終結で国際情勢が急変。不要と判断して廃棄したと公表した。だが、台湾は巨費を投じてまとめ上げた設計図や技術を温存している、と見るのが普通だろう。

歴代総統が核開発の事実を認める発言をしている台湾の「気になる動向」

 台湾の歴代総統は、核開発能力があることをしばしば口にしているのも気になる点だ。

 例えば1995~1996年に中国は、民主化を推進する当時の李登輝総統を「独立派」と警戒し、台湾近海に弾道ミサイルを多数打ち込んで恫喝した。世に言う「第3次台湾危機」である。

 これに対して李総統は、「この問題(=核兵器開発)を長期ビジョンで再研究する必要がある」と意味深長な発言を行い、「我々は核兵器を開発する能力を有する」ともつけ加えている。

 さらに後任の陳水扁総統も、2000年代後半に過去の核開発の事実を認める発言を行っている。これらが、中国側への強力な牽制のメッセージであることは明らかだ。前出の軍事研究家もこう見立てる。

「台湾は数発の小型核兵器を所有しているか、またはすぐに製造可能な段階では、と中国側が疑ってもおかしくない。開発に不可欠な核実験は、ネクサス時代にイスラエルや南アの砂漠地帯を使って実施済みで、詳細なデータや、必要なプルトニウム、ウランも確保。核弾頭を載せる弾道ミサイルもイスラエルから技術提供を受けていると確信しているかもしれない」

 さらに中国は近年、台湾国産の潜水艦にも警戒しているという。2023年に1番艦が進水(実戦配備は2025年以降)した通常(ディーゼル機関)型の大型潜水艦「海鯤(かいこん/ハイクン)」級で、核ミサイル搭載潜水艦に進化するのではないかと勘ぐっているとも聞く。

台湾の国産潜水艦「海鯤」の進水式(写真:ロイター/アフロ)

「魚雷発射管から巡航ミサイルを発射する型と、艦をより大型にし、VLS(垂直発射システム)を備えて弾道ミサイルを発射する型が考えられるが、いずれにせよ台湾が次のステップとして、核ミサイル搭載型潜水艦を考えることはあり得る」(前出の軍事研究家)

 中国はこれまで、台湾が核保有に走れば即座に攻撃すると警告してきた。だが、台湾が地上に置く核ミサイルではなく、核ミサイル搭載型潜水艦を配備したとなれば話は別。発見が難しいからだ。

 中国が核兵器で先制攻撃を仕掛けようとしても、水中から核ミサイルの報復攻撃を受ける恐れがあるため、躊躇せざるを得ない。台湾にとってはまさに「核抑止」の真骨頂である。

アメリカは台湾の核兵器保有を容認するかどうか

 気になるのは、台湾の後ろ盾であるアメリカが、核保有を容認するかどうかだ。トランプ氏が再選して台湾放棄に動けば、これまでアメリカが台湾に提供してきた「核の傘」(同盟国が核兵器の開発・保有を行わない見返りに、アメリカの核戦力で敵の攻撃を抑止すること)も見込めないことを意味する。

「核の傘」の庇護が得られなければ、自衛のために自ら核兵器で武装するしかない、と台湾が迫ればトランプ氏も反論できないだろう。逆に彼の身勝手さだけが目立ち、最悪の場合、アメリカの他の同盟国の間にも、「いざという時にアメリカは当てにならない」という不信感が広がりかねない。

 こうなれば、台湾はアメリカの警告を無視し、核兵器保有に走ると見るのが自然だ。これに対してトランプ氏は、報復としてエネルギーや食糧の供給停止など、経済制裁による“兵糧攻め”で、台湾を絞め上げようと必死になるかもしれないが、前出の国際情勢に詳しいジャーナリストはこんな推測をする。

「いまや台湾は世界最大の高性能半導体の供給地。報復として台湾がアメリカへの半導体供給をストップしたら、逆にアメリカの稼ぎ頭であるIT産業が大打撃を被る。結局、経済制裁は、中国など対外的なパフォーマンスを見せるだけで、骨抜きの制裁でお茶を濁すしかないのではないか。奇しくもトランプ自身が、「台湾はアメリカの半導体ビジネスを奪取している」と声高に叫んでいるだけに、何とも皮肉な結果になりかねない。

 アメリカ主導で核兵器の拡散防止を目指す国際機関のIAEA(国際原子力委員会)は、あまりにもダブル・スタンダード(二重基準)で機能していないとの批判が多い。実際、イスラエルやインド、パキスタンといったアメリカの同盟国、友好国の保有は“例外扱い”とし、それどころか、アメリカと敵対する北朝鮮の核保有までも事実上認めている」

 つまり、トランプ氏は台湾の核保有を追認せざるを得ない状況に追い込まれる可能性があるということらしい。

際限のない「核ドミノ」の波が日韓にも押し寄せる?

 だが、これでは中国側にとってはまさに本末転倒で、「グレート・ディール」などにつきあっている場合ではなくなる。しかも、騒ぎはこれだけにとどまらず、「核ドミノ」というさらに恐ろしい“副作用”がアジアで巻き起こるかもしれないのだ。

「台湾の核保有をアメリカがしぶしぶ追認すれば、間違いなく今度は韓国が核保有に動き出す。同国は北朝鮮の核開発の脅威にさらされ続けており、国内では核保有に賛成する割合も増加している」(前出の軍事研究家)

 現在、米韓相互防衛条約により、アメリカは韓国を防衛する義務があり、「核の傘」で北朝鮮の核攻撃を抑止する代わりに、韓国の核開発を抑えているのが実情だ。

 前出の軍事研究家は、「だがトランプ氏は以前、在韓米軍の撤退を口にしたこともあり、アメリカの『核の傘』が絶対に守ってくれると韓国が信じ切っているとは言い難い」と疑問を呈し、日本の動向にもこう言及する。

「韓国が核武装を達成すれば、今度は日本でも『核兵器を保有しよう』との議論が、保守派を中心に盛り上がる可能性は十分にある。また、周りの国は全部核保有国なのに、日本だけが非保有国という状況は、純軍事的に見た場合、あまりにもバランスがおかしく、安全保障上かえって危険、という説もある」

 韓国は1970年代の軍事政権時代に、北朝鮮に対抗するため、台湾と同じように密かに核開発を行ったことがあるが、やはり同盟国のアメリカによる強い警告で中止している。

 それでも、韓国は2021年に大型の通常型潜水艦「島山安昌浩(トサンアンチャンホ)」級を実戦配備、注目は艦内に国産の潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)を発射するためのVLSを6基搭載する点だ。

韓国の島山安昌浩級潜水艦(写真:韓国海軍Webサイトより)

 ミサイルの射程は現在300~500kmと短く、現在のところ通常弾頭を搭載すると韓国側は強調するが、前出の軍事研究家は、

「核兵器を保有する北朝鮮への対抗上、将来的に核弾頭の搭載も考えていると見るのが自然だ。こうなると、ベトナムやミャンマー、インドネシアなども後に続くように、アジア太平洋諸国が核保有に走りかねないと、一部欧米メディアは忠告している」

 と、「核ドミノ」の際限のない広がりを懸念する。

 唯一の被爆国である日本としては“正夢”になってほしくないが、はたして「鬼が出るか蛇が出るか」、米大統領選の行方は台湾問題、さらにはアジアでの核拡散にも重大な影響を与えそうだ。

深川孝行(ふかがわ・たかゆき)
昭和37(1962)年9月生まれ、東京下町生まれ、下町育ち。法政大学文学部地理学科卒業後、防衛関連雑誌編集記者を経て、ビジネス雑誌記者(運輸・物流、電機・通信、テーマパーク、エネルギー業界を担当)。副編集長を経験した後、防衛関連雑誌編集長、経済雑誌編集長などを歴任した後、フリーに。現在複数のWebマガジンで国際情勢、安全保障、軍事、エネルギー、物流関連の記事を執筆するほか、ミリタリー誌「丸」(潮書房光人新社)でも連載。2000年に日本大学生産工学部で国際法の非常勤講師。著書に『20世紀の戦争』(朝日ソノラマ/共著)、『データベース戦争の研究Ⅰ/Ⅱ』『湾岸戦争』(以上潮書房光人新社/共著)、『自衛隊のことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版)などがある。

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No.42 ★ 日系高級食パンが深セン進出 に志かわ、コーヒーブーム追い風

2024年01月29日 | 日記

NNA ASIA

2024年1月25日

日本の高級食パンブームの火付け役となった高級食パン専門店「銀座に志かわ」が広東省深セン市に同市1号店を出店した。昨年5月に上海市で開業した中国1号店は話題を呼び、一部で転売が起きるほどの人気となった。中国では近年コーヒー市場が拡大しており、それに伴っておいしいパンの需要も高まっている。に志かわはコーヒーブームの波に乗って、中国の高級食パン市場の開拓を目指す。【広州・川杉宏行】

開業式典であいさつする「銀座に志かわ」の親会社OSGコーポレーションの湯川剛代表取締役会長(写真中央)=20日、深セン市

に志かわは20日、深セン市の大型商業施設「深セン湾万象城」で深セン1号店を開業した。中国では3店目となる。深セン店の高級食パンを食べた女性客からは、「柔らかくて弾力がある」「何もつけなくてもほんのり甘い」といった声が聞かれた。

に志かわの親会社OSGコーポレーション(大阪市北区)の湯川剛代表取締役会長は開業式典のあいさつで、「に志かわのパンは最高級の食材を使っている」と述べ、商品への自信を示した。

に志かわは親会社が機能水の総合メーカーであることを生かし、高級食パンに独自のアルカリイオン水を使用。仕込み水として使うことで、風味豊かな味わいや独特のしっとり感を生み出した。高級なカナダ産の小麦粉を使うなど、材料にもこだわる。

に志かわが深センで販売するのは当面、「定番食パン」の1商品のみ。大きさは2斤で、価格は98元(約2,000円)。中国の一般的な食パンの3倍以上の価格だ。

高い価格設定にもかかわらず、消費者からは強く支持されている。に志かわが昨年5月に上海市で開業した中国1号店では食パンが飛ぶように売れた。店舗内で手作りするため、1日の生産量は600本(1本=2斤)が限界だが、連日売り切れが続いた。

■「アイフォーン4」以来の行列

に志かわの中国進出は交流サイト(SNS)で話題となり、1号店の開店当日には店舗が入居する上海市の商業施設「香港広場」の前に長蛇の列ができた。に志かわの関係者によると、香港広場の米アップル販売店の従業員は「香港広場の前にこれほど長い行列ができるのは、(2010年の)スマートフォン『iPhone(アイフォーン)4』の発売時以来だ」と驚いたという。あまりの人気に、に志かわの高級食パンを転売する人まで現れた。

東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出による影響もあり、昨年7月以降は1号店の売り上げが落ち着いたものの、湯川氏は「当初の売れ行きが想定外だった。現在はあらかじめ想定していた範囲で販売できている」と話す。

■「贈答品」に需要

なぜ通常の3倍もする高級食パンが飛ぶように売れるのか。湯川氏は二つの要因を挙げる。

一つは「自分へのご褒美」。週末に売れ行きが増えることを踏まえ、「消費者ががんばった自分へのご褒美として休日にいつもより高めのパンを買う」と分析する。

もう一つは「贈答品」としての利用だ。に志かわの高級食パンは日本で贈答品としての地位を確立しており、ゴルフコンペの景品などに利用されている。そして、中国でも贈答品としての地位を築きつつある。

湯川氏が引き合いに出したのは昨年の「教師節」での受注。教師節は教師に感謝を表す日で、上海市のある学校の卒業生らが在職中と退職した教師へに志かわの高級食パンを贈った。購入数は600本。1店舗の1日の生産量に匹敵し、2日に分けて納入した。

湯川氏は「パンは贈答品として優れている」と強調する。例えば、酒やたばこの場合、喜ばれるかどうかは相手の年齢や嗜好(しこう)に左右されるが、食パンは「老若男女を問わない」(湯川氏)のが強みだ。

に志かわの商品のレプリカ(深セン1号店での販売は当面右側の商品のみ)=12日、深セン市(同社提供)

■相性の良さも追い風

湯川氏は、近年中国で起こっているコーヒーブームも追い風とみている。

英調査会社によると、中国のコーヒーチェーン店は昨年12月中旬までに4万9,691店となり、米国を抜いて世界最多となった。25年には中国コーヒー市場が21年比2.6倍の1兆元規模になるとの予測もある。

湯川氏は「中国の伝統的な朝食とコーヒーはぴったり合う組み合わせではないが、パンならコーヒーとぴったり合う」と指摘する。

中国ではベーカリー市場も成長している。「25年前は中国においしいと思えるパンはなかった」(中国に長年暮らすパンに詳しい日本人女性)が、その後次第に味が向上。10年代には店内がおしゃれで味もおいしい外資系の店舗などが増えたことで、中国ベーカリー市場のレベルが大きく上がったといわれる。

に志かわはこうした流れにも乗りながら、中国での店舗拡大を狙う。上海では3号店(中国4号店)の開店準備も進んでおり、中国1~3号店にはなかった飲食スペースを店内に設けるほか、パンの食べ方の提案も行う計画で、パン文化の浸透を図る。中国では今後、長江デルタ地域を中心に出店を進める予定だ。

<メモ>

銀座に志かわ:18年9月に銀座で本店をオープン。店舗数は現在、日本が136店、米国が1店、中国が3店。上海の2店は中国企業との合弁会社が運営、深センの1店は加盟店が運営する。上海2号店(長寧竜之夢店)の開業は23年10月。

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