「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.44 ★ サッカー中国代表「弱体化」の元凶、〈偽りの名監督〉李鉄の公開懺悔ー東アジア「深層取材ノート」(第220回)

2024年01月29日 | 日記

JBpress (近藤 大介:ジャーナリスト)

2024年1月26日

2022 FIFAワールドカップカタール大会で、予選グループで日本代表との対戦前に記者会見する中国代表監督の李鉄(写真:新華社/共同通信イメージズ)

「退屈な番組ばかり…」と思いきや

 ここのところ、「中国のNHK」にあたる中国中央電視台(CCTV)が、さながら朝鮮中央テレビ(KCTV)と化していて、実に無味乾燥な報道が多い。

 例えば、夜7時から7時半のメインニュース番組『新聞聯播』(シンウェンリエンボー)は、だいたい最初の10分が、習近平総書記・国家主席がいかに「偉大な存在」かを伝える。最近はネタが尽きたのか、習氏が30年以上前に福建省に勤務していた頃の「偉業」まで発掘して、トップニュースで称えている。

 続く10分が、中国経済はいかに躍進しているか。マイクを向けられる工員も農民も経済学者も、皆、笑顔いっぱいだ。

 そしておしまいの10分が、中国以外の世界はいかに悲惨な危機に満ちているか。ウクライナ、中東、それに「敵国」アメリカで銃撃事件でも起ころうものなら、鬼の首でも取ったように、大仰に報道する。最近は、能登半島地震のニュースも多い。

 ただ私は、中国ウォッチャーを名乗っている手前、そんなニュースも追わないといけない。ああ、退屈!

 と思っていたら、あくびの止まる番組を見つけた。日本で言うなら「NHK特集」のような番組だ。タイトルは、『引き続き力を込めて深々と推進する 第4回 「三不腐」を一体になって推進する』。

 要は、「反腐敗キャンペーン」の4回シリーズ番組(各回1時間弱)の最終回だ。「三不腐」というのは、最近の「習近平語録」の一つで、「腐敗をしない、腐敗をできない、腐敗をしたくない」(不敢腐、不能腐、不想腐)という意味だ。

この手の番組は、習近平政権になってからたびたび作られている。腐敗で取っ捕まった元幹部が、「獄中インタビュー」に応じる「涙の謝罪シーン」が、番組のハイライトになっている。一説によれば、インタビューに応じると減刑されるのだとか(真偽は不明)。

 それが今回のテーマは、「腐敗にまみれた中国サッカー界」だったのだ。「悪役」は、かつて中国サッカー界最大のヒーローだった李鉄(り・てつ)元中国代表チーム監督(46歳)である。

中国サッカー界の伝説的プレーヤー

 番組は、李鉄監督の「栄光と挫折」の半生を振り返りながら進んでいった。1977年5月、遼寧省の省都・瀋陽の6人兄弟家庭に生まれ、父親は「鉄のように強くなってほしい」と思って「鉄」と名づけた。実際、小学生の頃から抜群の運動能力を見せ、15歳で遼寧省ユース代表のキャプテンとなり、翌年、16歳でブラジル留学を果たす。

 帰国後、遼寧チームに加わり、2001年には「甲A」(中国プロリーグ)MVPに選ばれた。翌2002年には、日韓共催ワールドカップにも出場し、その活躍を認められて、中国人選手として初めて、英プレミアリーグのエバートンに移籍する。

イングランド・プレミアリーグ、エバートン時代の李鉄(写真:ロイター/アフロ)

 2008年に帰国して、成都チームに入団。深圳チームとの対戦で決めた「40mゴール」は、いまでも中国のサッカーファンの間で語り草となっている。

翌2009年に、古巣の遼寧チームに復帰。だが、2010年10月の南昌チームとの試合で右太腿を打撲し、事実上、選手生命を絶たれてしまった。

指導者としても好成績…

 中国代表としての出場回数は、93試合。まさに中国サッカー界に君臨した李鉄だったが、ここから指導者として「第二の人生」が始まった。

 2012年、後に親会社が破綻問題で世界を揺るがす広州恒大チームの監督補佐となり、チームを優勝に導く。2014年からは、中国代表チームの監督補佐にもなる。

 2015年8月、「一部リーグ」(中甲)の河北華夏の監督となる。チームはそれまで6位に低迷していたが、李鉄監督に代わってからは破竹の8連勝を決めた。

 CCTVの映像を見ると、勝利するたびに、スタジアムは大歓声である。そしてついに、河北華夏は、悲願だった「スーパーリーグ」(中超)への昇格を果たしたのだった。マスコミは「奇跡」と称え、李鉄監督は再び、中国サッカー界の寵児となった。

 だが「奇跡の8連勝」は、実際には中国語で言う「偽球」(ジアチウ)=八百長試合の賜物だったのだ。

チーム大躍進の陰で行われていた不正

 例えば、最終戦となった深圳宇恒戦は、勝つか引き分けで「スーパーリーグ」への昇格が決まる試合だった。李鉄監督率いる河北華夏はこの試合も、2-0で勝利した。

 だが、番組中の本人の「獄中インタビュー」によれば、李鉄監督と河北華夏は、1400万元(約2億8000万円)の資金を使って、相手クラブチームと監督、選手たちを買収した。深圳宇恒にとってはただの消化試合だったため、河北華夏からの「申し出」にあっさり応じたという。

 さらに李鉄監督は、これとは別に相手DFの黎斐(り・ひ)を600万元(約1億2000万円)で買収。ファウルしてPKを取られることなどを頼んだ。

獄中インタビューを受ける元サッカー中国代表監督の李鉄(中国CCTVのYouTubeチャンネルより)

 獄中でほっそりした顔つきになった李鉄は、カメラを前に、低い声で語った。

「私は選手時代、こうしたことに手を染める選手を、最も憎んでいた。だが監督になったプレッシャーの中で、どうしても勝たねばならないという思いから、自分も同じことをやってしまった……」

 以後、「偽球」に味を占め、「名監督」として、中国スーパーリーグで名を馳せていった。

念願の「代表チーム監督」の座を射止めるために

 そんな李鉄監督の次なる野望は、中国代表チームの監督になることだった。

「私は本当に、代表監督になりたかった。そのため、やれることは何でもやった。サッカー協会の幹部に会って、推薦してくれるよう頼み込んだ……」

 最大のターゲットは、中国サッカー協会の陳戌源(ちん・じゅつげん)主席だった。李鉄は陳主席に、200万元(約4000万円)を積んで頭を下げた。さらにサッカー協会の劉奕(りゅう・えき)書記長にも100万元(約2000万円)を差し出して、保険を掛けた。

 そしてついに、2020年1月、念願の中国代表監督に就任する。すると翌日には、武漢卓爾チームの本社に飛んでいた。今度は資金を回収するためだった。李鉄新監督は、この二流チームの4人の選手を、代表チームのレギュラーに抜擢することなどと見返りに、6000万元(約12億円)を手にしたのだった。

サッカー中国代表監督時代の李鉄。カメラの前でポーズをキメているが、実は八百長と買収で得た地位だった(写真:アフロ)

 だが、こんなことばかりしていたため、中国代表チームは国際試合で一向に勝てなかった。結局、李鉄監督は中国のサッカーファンたちから罵声を浴びて、2021年12月に辞任した。そして翌2022年11月、「御用」となったのである。そこから芋蔓(いもづる)式に、陳主席以下、十数人が捕まった。

 こうした影響で、現在、中国サッカー界は「暗黒の時代」を迎えている――。

*左横の「ブックマーク」から他のブログへ移動


最新の画像もっと見る

コメントを投稿