「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.43 ★ 「もしトラ」で中国が恐れる米の台湾放棄、周辺国“核ドミノ”の驚愕シナリオ 米大統領選の行方は台湾問題、さらにはアジアの安全保障に重大な影響を与える

2024年01月29日 | 日記

JBpress (深川 孝行)

2024年1月26日

大統領再選を狙うトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

大統領時代「台湾に思い入れはない」と言い放っていたトランプ氏

 世界中が注目した2024年1月13日の台湾総統選挙は、親米・反中を貫く政権与党、民進党の頼清徳副総統に軍配が上がった。(5月20日に新総統に正式就任)

 頼氏は「台湾と中国は別だ」を掲げる蔡英文総統の右腕で、現路線の踏襲は確実と見られている。しかも「台湾独立」を強調した過去もあることから、大陸と台湾の「祖国統一」に執着する中国国家主席の習近平氏には“目の敵”に映るだろう。

台湾総統選で勝利した民進党の頼清徳氏(写真:AP/アフロ)

 中台関係のさらなる悪化も予想されるが、習氏にとっていま最大の心配事は、今年11月の米大統領選での「トランプ氏再選」ではないだろうか。

「頼、トランプ両氏の“化学反応”で、台湾の核武装と『核ドミノ』が発生する、とのシナリオが現実となって、中国の安全保障を脅かしかねないと考えているのでは」

 と、米中関係に詳しいある専門家は推測する。

 台湾の核武装とは、台湾が秘密裏に続けてきた核兵器開発を再開すること。「核ドミノ」は、台湾の核武装を引き金に、韓国や日本など周辺国が“ドミノ倒し”のように次々と核保有に走るという連鎖反応のことである。

 まずは、いまネットでも急上昇中のキーワード「もしトラ(もしも、トランプ氏が米大統領に返り咲いたら)」と、台湾への影響が注目される。

「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を叫ぶトランプ氏が米大統領に復帰すれば、アメリカの外交戦略は、中国に対する猛攻へと大きく軸足を移すとの見方が強い。猛攻と言っても、軍事力の行使ではなく、巨大取引「グレート・ディール」のことだ。前出の専門家はこう説明する。

「不動産取引で財を築いたトランプ氏にとって、ディールによる金儲けは一番の関心事だろう。アメリカにとっての最大の貿易赤字国である中国と“がっぷり四つ”で駆け引きし、大きく稼ごうと考えているはずだ」

 さまざまなカードを取引材料として切り、中国側に米製品の大量購入などを迫る腹積もりで、ここ一番の時に「台湾カード」を切るのでは、と欧米の一部メディアも推測する。

 国際情勢に詳しいあるジャーナリストもこう推察する。

「トランプ氏は先の大統領時代、周囲に『台湾に思い入れはない』と言い放っていたのは有名な話だ。それでも当時、アメリカの安全保障上、台湾が極めて重要だと諫めるブレーンが多数いたが、いまや大半が去ってしまった。

 仮に中国が台湾に武力行使、つまり台湾有事を起こしても、アメリカは直接参戦しない。見返りに中国は米製品の大量購入や、技術の第三国移転の防止、知的所有権の保護を強化し、アメリカの対中貿易赤字を劇的に減らすという“密約”が交わされているだろう」

 この戦略がいわゆる「台湾放棄」だ。

台湾が参画した核の枢軸ともいえる秘密軍事協定「ネクサス」

 だが、台湾もトランプ氏のハシゴ外しに黙って従うとは思えず、そうなれば頼氏は核保有という“伝家の宝刀”をついに抜くのでは、との声も少なくない。そして実はこのシナリオを中国側は一番恐れているという。

 ある軍事研究家は、こう深読みする。

「トランプ氏が台湾放棄を少しでもほのめかせば、台湾は封印してきた核開発の解除をチラつかせ、逆にこれを切り札として、トランプ氏にディールを仕掛け、台湾放棄を思いとどまらせる大勝負に出る可能性もある」

 台湾の核開発の歴史は意外と古い。1964年に宿敵の中国が原爆実験に成功すると、危機感を抱いた当時の台湾総統・蒋介石は、すぐさま小型核爆弾の開発を開始。「核の平和利用」を表看板に、研究用原子炉はカナダから、核関連技術はアメリカ、フランス、西ドイツから、ウランは南アフリカ共和国からそれぞれ調達した。

 だが、台湾の“保護者”であるアメリカは、この動きが原爆製造のものと感づき、開発中止の圧力をかけ、最終的に台湾は1988年に核開発を断念した。核兵器が拡散すれば、核戦争のリスクが増え、自国の安全保障にも多大な脅威になるからだ。

 また台湾の核兵器保有は、中国からの核攻撃を助長しかねず、アメリカもこれに巻き込まれて第3次大戦にエスカレートしかねないと考えたのである。

 台湾の核開発は、他国とタッグを組んだ点が特徴だ。1960~1980年代、当時親米でありながら、世界の“憎まれ反共国家”と揶揄された台湾、イスラエル、南アフリカは、核開発の枢軸ともいえる極秘軍事協定「ネクサス」(Nuke Axis)を結成した。実際、イスラエルは1960年代後半から国際社会では事実上、核保有国と見なされている。

 南アフリカも1991年まで原爆6発を持っていたが、冷戦終結で国際情勢が急変。不要と判断して廃棄したと公表した。だが、台湾は巨費を投じてまとめ上げた設計図や技術を温存している、と見るのが普通だろう。

歴代総統が核開発の事実を認める発言をしている台湾の「気になる動向」

 台湾の歴代総統は、核開発能力があることをしばしば口にしているのも気になる点だ。

 例えば1995~1996年に中国は、民主化を推進する当時の李登輝総統を「独立派」と警戒し、台湾近海に弾道ミサイルを多数打ち込んで恫喝した。世に言う「第3次台湾危機」である。

 これに対して李総統は、「この問題(=核兵器開発)を長期ビジョンで再研究する必要がある」と意味深長な発言を行い、「我々は核兵器を開発する能力を有する」ともつけ加えている。

 さらに後任の陳水扁総統も、2000年代後半に過去の核開発の事実を認める発言を行っている。これらが、中国側への強力な牽制のメッセージであることは明らかだ。前出の軍事研究家もこう見立てる。

「台湾は数発の小型核兵器を所有しているか、またはすぐに製造可能な段階では、と中国側が疑ってもおかしくない。開発に不可欠な核実験は、ネクサス時代にイスラエルや南アの砂漠地帯を使って実施済みで、詳細なデータや、必要なプルトニウム、ウランも確保。核弾頭を載せる弾道ミサイルもイスラエルから技術提供を受けていると確信しているかもしれない」

 さらに中国は近年、台湾国産の潜水艦にも警戒しているという。2023年に1番艦が進水(実戦配備は2025年以降)した通常(ディーゼル機関)型の大型潜水艦「海鯤(かいこん/ハイクン)」級で、核ミサイル搭載潜水艦に進化するのではないかと勘ぐっているとも聞く。

台湾の国産潜水艦「海鯤」の進水式(写真:ロイター/アフロ)

「魚雷発射管から巡航ミサイルを発射する型と、艦をより大型にし、VLS(垂直発射システム)を備えて弾道ミサイルを発射する型が考えられるが、いずれにせよ台湾が次のステップとして、核ミサイル搭載型潜水艦を考えることはあり得る」(前出の軍事研究家)

 中国はこれまで、台湾が核保有に走れば即座に攻撃すると警告してきた。だが、台湾が地上に置く核ミサイルではなく、核ミサイル搭載型潜水艦を配備したとなれば話は別。発見が難しいからだ。

 中国が核兵器で先制攻撃を仕掛けようとしても、水中から核ミサイルの報復攻撃を受ける恐れがあるため、躊躇せざるを得ない。台湾にとってはまさに「核抑止」の真骨頂である。

アメリカは台湾の核兵器保有を容認するかどうか

 気になるのは、台湾の後ろ盾であるアメリカが、核保有を容認するかどうかだ。トランプ氏が再選して台湾放棄に動けば、これまでアメリカが台湾に提供してきた「核の傘」(同盟国が核兵器の開発・保有を行わない見返りに、アメリカの核戦力で敵の攻撃を抑止すること)も見込めないことを意味する。

「核の傘」の庇護が得られなければ、自衛のために自ら核兵器で武装するしかない、と台湾が迫ればトランプ氏も反論できないだろう。逆に彼の身勝手さだけが目立ち、最悪の場合、アメリカの他の同盟国の間にも、「いざという時にアメリカは当てにならない」という不信感が広がりかねない。

 こうなれば、台湾はアメリカの警告を無視し、核兵器保有に走ると見るのが自然だ。これに対してトランプ氏は、報復としてエネルギーや食糧の供給停止など、経済制裁による“兵糧攻め”で、台湾を絞め上げようと必死になるかもしれないが、前出の国際情勢に詳しいジャーナリストはこんな推測をする。

「いまや台湾は世界最大の高性能半導体の供給地。報復として台湾がアメリカへの半導体供給をストップしたら、逆にアメリカの稼ぎ頭であるIT産業が大打撃を被る。結局、経済制裁は、中国など対外的なパフォーマンスを見せるだけで、骨抜きの制裁でお茶を濁すしかないのではないか。奇しくもトランプ自身が、「台湾はアメリカの半導体ビジネスを奪取している」と声高に叫んでいるだけに、何とも皮肉な結果になりかねない。

 アメリカ主導で核兵器の拡散防止を目指す国際機関のIAEA(国際原子力委員会)は、あまりにもダブル・スタンダード(二重基準)で機能していないとの批判が多い。実際、イスラエルやインド、パキスタンといったアメリカの同盟国、友好国の保有は“例外扱い”とし、それどころか、アメリカと敵対する北朝鮮の核保有までも事実上認めている」

 つまり、トランプ氏は台湾の核保有を追認せざるを得ない状況に追い込まれる可能性があるということらしい。

際限のない「核ドミノ」の波が日韓にも押し寄せる?

 だが、これでは中国側にとってはまさに本末転倒で、「グレート・ディール」などにつきあっている場合ではなくなる。しかも、騒ぎはこれだけにとどまらず、「核ドミノ」というさらに恐ろしい“副作用”がアジアで巻き起こるかもしれないのだ。

「台湾の核保有をアメリカがしぶしぶ追認すれば、間違いなく今度は韓国が核保有に動き出す。同国は北朝鮮の核開発の脅威にさらされ続けており、国内では核保有に賛成する割合も増加している」(前出の軍事研究家)

 現在、米韓相互防衛条約により、アメリカは韓国を防衛する義務があり、「核の傘」で北朝鮮の核攻撃を抑止する代わりに、韓国の核開発を抑えているのが実情だ。

 前出の軍事研究家は、「だがトランプ氏は以前、在韓米軍の撤退を口にしたこともあり、アメリカの『核の傘』が絶対に守ってくれると韓国が信じ切っているとは言い難い」と疑問を呈し、日本の動向にもこう言及する。

「韓国が核武装を達成すれば、今度は日本でも『核兵器を保有しよう』との議論が、保守派を中心に盛り上がる可能性は十分にある。また、周りの国は全部核保有国なのに、日本だけが非保有国という状況は、純軍事的に見た場合、あまりにもバランスがおかしく、安全保障上かえって危険、という説もある」

 韓国は1970年代の軍事政権時代に、北朝鮮に対抗するため、台湾と同じように密かに核開発を行ったことがあるが、やはり同盟国のアメリカによる強い警告で中止している。

 それでも、韓国は2021年に大型の通常型潜水艦「島山安昌浩(トサンアンチャンホ)」級を実戦配備、注目は艦内に国産の潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)を発射するためのVLSを6基搭載する点だ。

韓国の島山安昌浩級潜水艦(写真:韓国海軍Webサイトより)

 ミサイルの射程は現在300~500kmと短く、現在のところ通常弾頭を搭載すると韓国側は強調するが、前出の軍事研究家は、

「核兵器を保有する北朝鮮への対抗上、将来的に核弾頭の搭載も考えていると見るのが自然だ。こうなると、ベトナムやミャンマー、インドネシアなども後に続くように、アジア太平洋諸国が核保有に走りかねないと、一部欧米メディアは忠告している」

 と、「核ドミノ」の際限のない広がりを懸念する。

 唯一の被爆国である日本としては“正夢”になってほしくないが、はたして「鬼が出るか蛇が出るか」、米大統領選の行方は台湾問題、さらにはアジアでの核拡散にも重大な影響を与えそうだ。

深川孝行(ふかがわ・たかゆき)
昭和37(1962)年9月生まれ、東京下町生まれ、下町育ち。法政大学文学部地理学科卒業後、防衛関連雑誌編集記者を経て、ビジネス雑誌記者(運輸・物流、電機・通信、テーマパーク、エネルギー業界を担当)。副編集長を経験した後、防衛関連雑誌編集長、経済雑誌編集長などを歴任した後、フリーに。現在複数のWebマガジンで国際情勢、安全保障、軍事、エネルギー、物流関連の記事を執筆するほか、ミリタリー誌「丸」(潮書房光人新社)でも連載。2000年に日本大学生産工学部で国際法の非常勤講師。著書に『20世紀の戦争』(朝日ソノラマ/共著)、『データベース戦争の研究Ⅰ/Ⅱ』『湾岸戦争』(以上潮書房光人新社/共著)、『自衛隊のことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版)などがある。

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