「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.450 ★ 出張者はスマホでなくガラケー 中国スパイ摘発強化に戦々恐々の  日系企業

2024年07月04日 | 日記

日経ビジネス (By Shinya Saeki)

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この記事の3つのポイント

  1. 中国がスパイ摘発へ、スマホとパソコンを検査できる新規定
  2. 改正「反スパイ法」施行から1年、国家安全の強化へまい進
  3. 法適用の範囲が曖昧で、日系企業に事業活動を制限する動き

 「少し不安だったが、特に何かを調べられることはなかった」。7月に入り、中国・上海へ短期出張で訪れた日本人男性は中国入国後に安堵の表情を浮かべる。

 この日本人男性が不安を抱くのも無理はない。2024年7月1日、中国でのスパイ行為を摘発する改正「反スパイ法」が施行されて1年が経過。同日から、中国当局にスマートフォンやパソコンの検査権限を与える新規定が施行されたからだ。

 今回の新規定は、反スパイ法の執行手続きを具体的に定めたものだ。中国当局の担当者は緊急時に警察証などを示せば、個人や組織が保有するスマホやパソコンの中身を調べられる。メッセージのやり取りや写真や動画などのデータが対象になるという。

 この新規定が24年4月に公表されると、日本人駐在員など外国人の間で情報が錯綜(さくそう)。これまでも当局による検査は可能だったと見られるが、明文化されたことで一気に不安が広がった。SNS上では「中国入国時に外国人すべてがスマホなどをチェックされる」などとする情報が駆け巡った。

 これに対して中国当局は「一部の海外の敵対勢力が悪意を持って、センセーショナルな内容に捏造している」と真っ向から反論。検査対象は「反スパイ活動に関連する個人と組織で、一般人は対象外だ」と、否定する事態にまで発展した。

 いざ蓋を開けてみると、一部の渡航者に対してはスマホの確認は実施されているもよう。ただ、外国人すべてがスマホの中身を見られることはなく、大きな混乱は起きてなさそうだ。

SNSでスパイ摘発を啓発

 新規定に対する懸念がここまで過度に広がったのは、習近平(シー・ジンピン)政権がこの1年で「国家安全」を強化する姿勢を鮮明にしているからだろう。

 23年7月に施行された改正反スパイ法では、スパイ行為の対象がこれまでの「国家の秘密や情報」に加えて、「国家の安全と利益に関わる文書やデータなど」に拡大された。運用の基準がより曖昧になったことで、外資系企業の中で事業活動に対する不安が広がった。

 さらに改正反スパイ法では、国民に対してスパイ行為の通報を義務化した。電話やインターネットで通報を受け付け、貢献すれば表彰するほか、報奨金を出すことも定めた。

 啓発活動にも余念がない。中国でスパイを監視・摘発する国家安全省は、改正反スパイ法の施行直後の23年7月末に中国のSNS「微信(ウィーチャット)」に公式アカウントを開設した。初投稿では「スパイの防止には全社会の動員が必要だ」と国民に協力を訴えた。

 国家安全省はその後も連日、スパイ摘発強化に向けた投稿を繰り返している。24年4月15日の「国家安全教育の日」には、23年以降にスパイ摘発に貢献した86人を表彰したことを明らかにした。7月1日には、米英情報機関のスパイ行為を摘発したケースを紹介し、「海外の情報機関の横暴を抑制し、社会全体の反スパイ意識を強めた」と1年間の成果をアピールした。

出張者にガラケーを持たせる

 「国家安全」を盾にスパイ摘発に躍起となる習政権。中国に進出する日系企業の多くは、事業活動に対して制限をかけざるを得なくなっている。

 23年3月には中国当局がアステラス製薬の社員をスパイ容疑で拘束。同10月に逮捕し、日系企業に衝撃を与えた。1年以上たった今も同社員は拘束されたままだ。とりわけ、中国政府との意見交換などに対して慎重になっている日系企業は多い。

中国当局はスパイ摘発強化に向けて監視を強めている(写真=AP/アフロ)

  今回の新規定に対しても同様だ。ある日系の電子部品メーカーは中国出張者専用パソコンを用意し、データはすべてクラウド上で管理しているという。さらに別の日系素材メーカーは、「出張者にはスマホではなく通話がメインの『ガラケー』を持たせるようにした」と明かす。業務効率よりも、従業員の安全を優先せざるを得ない状況になっている。

 中国国家外貨管理局によると、24年1~3月の外資企業による直接投資は前年同期比で56%減った。23年は8割減と30年ぶりの低水準となったが、24年以降も減少傾向は続いている。米中対立に加えて、改正スパイ法の施行が外資系企業の投資抑制につながっている。

 習政権は24年に入り、外資誘致強化へ積極的なアピールを繰り返している。だが、その一方でスパイ摘発に向けた動きは加速させている。外国人の監視を強化する中で、果たして外資企業の投資は再び拡大するのだろうか。

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