「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.622 ★ 中国の消費不足、世界需要に「300兆円の穴」 中国の低消費・  高投資経済は他国との衝突が不可避

2024年09月03日 | 日記

DIAMOND online (The Wall Street Journal)

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 これは中国だけでなく世界全体の問題だ。中国企業は国内で売れないものを輸出している。その結果、現在の年間貿易黒字は9000億ドル(約130兆円)近くに達している。これは世界全体のGDPの0.8%に相当する規模だ。この黒字は事実上、他国に貿易赤字を強いている。

 中国の黒字は長年、米国にとって頭痛の種だったが、最近では他の国も頭を悩ませている。米外交問題評議会(CFR)のブラッド・セッツァー氏がまとめたデータによると、中国の12カ月間の貿易収支は2019年以降、対米黒字が490億ドル増、対欧州連合(EU)黒字が720億ドル増となっている。日本およびアジアの新興工業国に対しては、赤字幅が740億ドル減った。

 米調査会社ロジウム・グループの中国調査責任者、ローガン・ライト氏によれば、中国が世界の消費に占める割合は13%にとどまるが、投資は同28%を占めている。投資がこれほどの割合になるのは、中国が他国から市場シェアを奪い、他国の製造業投資が成り立たなくなった場合でしかないという。

「中国の経済成長モデルは、現時点では他の国々とのより対立的なアプローチに依存している」とライト氏は述べた。

 多くの発展途上国は初期の成長の原動力として投資と輸出に頼ってきたが、中国はその規模の大きさと消費不足という点で例外的存在と言える。ロジウムはリポートで、中国の消費シェアがEUや日本のそれと同等であれば、中国の年間家計支出は6兆7000億ドルではなく9兆ドルになると推計している。この2兆3000億ドル(イタリアのGDPにほぼ相当)という差は、世界需要に2%の穴が開いていることを意味する。

 こうした消費不足の原因は、中国の財政システムと政策選択の両方に深く根ざしている。

 中国の所得格差は非常に大きい。富裕層は所得に占める消費支出の割合が貧困層よりも低いため、所得格差が大きいと消費は必然的に抑えられる。ロジウムは、上位10%の世帯が貯蓄全体の69%を占め、3分の1の世帯は貯蓄率がマイナスであるというデータを引用している。

 他国では、富裕層への課税を強化し、現金給付や公的医療・教育を通じて中低所得層の消費力を高めることで、このような格差に対処している。中国はそうした取り組みをあまりしていない。ロジウムの推計によると、税収に占める個人所得税の割合が8%にとどまる一方、増値税(消費税に相当)は38%に達しており、相対的に所得が低い層への負担が大きくなっている。

 

 また、中国は主要な市場経済国よりも医療や教育への支出が少ないため、貧困層や中所得層は可処分所得からより多くの資金をこれらの項目に回す必要がある。

 一方、抑制された賃金・金利は家計の所得・支出を押し下げる反面、国有企業の利益を押し上げている。

 地方政府は課税権限が限られているため、製造業支援やインフラ整備向けの資金を捻出するために不動産を売却せざるを得ず、さらに投資を膨らませる要因となっている。

 中国指導部は10年前、欧米の経済学者と同様に、マクロレベルでは中国は投資から消費への転換を進める必要があると考えていた。中国共産党は2013年、今後の経済成長は市場原理と消費者に委ねると述べた。

 習近平国家主席は結局、逆の方向に進んだ。消費の停滞が続く中、経済に対する国家統制を強めた。改革派を排除し、経済全体の成長よりも分野別の目標達成に主眼を置く腹心を要職に起用した。

 こうした消費不足の原因は、中国の財政システムと政策選択の両方に深く根ざしている。

 中国の所得格差は非常に大きい。富裕層は所得に占める消費支出の割合が貧困層よりも低いため、所得格差が大きいと消費は必然的に抑えられる。ロジウムは、上位10%の世帯が貯蓄全体の69%を占め、3分の1の世帯は貯蓄率がマイナスであるというデータを引用している。

 他国では、富裕層への課税を強化し、現金給付や公的医療・教育を通じて中低所得層の消費力を高めることで、このような格差に対処している。中国はそうした取り組みをあまりしていない。ロジウムの推計によると、税収に占める個人所得税の割合が8%にとどまる一方、増値税(消費税に相当)は38%に達しており、相対的に所得が低い層への負担が大きくなっている。

 また、中国は主要な市場経済国よりも医療や教育への支出が少ないため、貧困層や中所得層は可処分所得からより多くの資金をこれらの項目に回す必要がある。

 一方、抑制された賃金・金利は家計の所得・支出を押し下げる反面、国有企業の利益を押し上げている。

 地方政府は課税権限が限られているため、製造業支援やインフラ整備向けの資金を捻出するために不動産を売却せざるを得ず、さらに投資を膨らませる要因となっている。

 中国指導部は10年前、欧米の経済学者と同様に、マクロレベルでは中国は投資から消費への転換を進める必要があると考えていた。中国共産党は2013年、今後の経済成長は市場原理と消費者に委ねると述べた。

 習近平国家主席は結局、逆の方向に進んだ。消費の停滞が続く中、経済に対する国家統制を強めた。改革派を排除し、経済全体の成長よりも分野別の目標達成に主眼を置く腹心を要職に起用した。

貿易の根底にある原則は「比較優位」であり、各国は得意分野に特化し、それを輸入と引き換えに輸出する。習氏はこの原則を否定している。「独立と自立」を追求し、国内でできるだけ多くのものを作り、輸入をできるだけ少なくすることを望んでいるのだ。

 龍洲経訊(ガベカル・ドラゴノミクス)のアンドリュー・バトソン氏によると、中国当局は「国連が定めた工業製品分類の全項目を生産している国は中国だけ」と自賛している。

 中国は電気自動車(EV)や半導体などの先端製品をターゲットにしているからといって、相対的に価値の低い製品の市場シェアを明け渡すつもりもない。 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道 によると、習氏は官僚らに「先立後破(先に新しいシステムを作り、後から古いシステムを壊す)」を命じた。

 その結果、「中国が輸出市場として提供する機会は減る一方で、同国はローテクやミッドテクの分野で新興国と真っ向から競合している」とロジウムは指摘する。

 中国はかつて多くの国から顧客と見なされていたが、今では競争相手と見なされている。韓国銀行(中央銀行)の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は昨年、「中国企業の多くは、韓国の主な輸出品である中間財を製造している」と述べた。「中国の好景気に伴う(韓国経済への)10年来の後押しは消滅した」

 メキシコのロヘリオ・ラミレス・デラオ財務・公債相は7月、「中国はわれわれに売ることはあっても、われわれから買うことはない。これは互恵的な貿易ではない」と不満を漏らした。

 皮肉なことに、2018年にドナルド・トランプ米大統領(当時)が中国に高関税を課し、他の貿易相手国への関税を削減して以来、各国当局は、米国を世界貿易システムに対する最大の脅威と見なす傾向にある。トランプ氏は、今秋の大統領選で勝利すれば、これらの関税を拡大すると約束している。

 もっとも、トランプ氏が導入した関税は、既存の貿易ルールが通用しないことが明らかになった、中国の「近隣窮乏化」経済モデルへの対抗策とみるべきだろう。

 とはいえ、この問題を解決できる国は一つもない。洪水をそらす堤防のように、米国の関税は中国の輸出を他の市場へと迂回(うかい)させているのだ。


 その他の国々は今、行動を起こしている。メキシコ、チリ、インドネシア、トルコはいずれも、年内に対中関税を検討すると表明している。カナダは8月下旬、中国のEV・鉄鋼・アルミニウムに新たな関税を課すと発表し、米国の発表済み措置と足並みをそろえた。

 しかし、世界各国は今のところ、中国の消費不足に対する統一的な解決策を見いだせずにいる。中国がそれを問題と認めないからだ。

 習氏は家計への財政支援について、怠慢を生む「福祉主義」だとして反対している。ジャネット・イエレン米財務長官は4月、中国の「弱い家計消費と過剰な企業投資」が米国の雇用を脅かしていると批判した。中国国営の新華社通信はこれを保護主義の口実と呼んだ。8月には国際通貨基金(IMF)が中国政府に対し、4年間でGDPの5.5%を費やして未完成住宅を買い取るよう勧告した。中国側はこれを丁重に断った。

 中国がこのままでは、さらなる摩擦が起こり、ただでさえ脆弱(ぜいじゃく)な世界貿易システムは限界までストレスを受けることになるだろう。

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――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター

(The Wall Street Journal/Greg Ip)

 


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