「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.624 ★ 単なる嫌がらせではない中国軍機の領空侵犯、日米レーダー施設破壊が 目的 スパイ機の領空侵犯と接近は、台湾・日本への侵攻準備の一環

2024年09月04日 | 日記

JBpress (西村 金一:軍事・情報戦略研究所長(軍事アナリスト)

2024年9月3日

航空自衛隊の早期警戒機「E-767」(航空自衛隊のサイトより)

1.情報収集機Y-9は、中国軍のスパイ機だ

 中国軍情報収集機「Y-9」が、2024年8月26日、下図のように接近飛行を行い、午前11時29分頃から11時31分頃にかけて、長崎県男女群島沖の領海上空を侵犯した。

 情報収集機というのは、俗にいうスパイ機である。 

 このスパイ機が、監視・通告を受けても堂々と接近して領空侵犯を続け、実働行動による妨害も受けず帰投していったのである。

写真と図:領空侵犯した情報収集機Y-9と接近・侵犯の経路

出典:統合幕僚監部

 今回の接近で、スパイ機Y-9は九州に配置されている航空自衛隊の監視レーダー、戦闘機基地、海上自衛隊の航空基地、港あるいは九州近海に所在していた艦艇とそのレーダー、米軍の艦艇とそのレーダー電子信号情報(以下レーダー信号)をキャッチ、録音して母機地に持ち帰った。

 中国国防省呉謙報道官は8月29日の記者会見で、26日の中国軍機による初の日本領空侵犯について「深読みしないことを望む」と強調した。

 スパイ機の役割を知っている軍の報道官は、それを公にされると中国が批判されることが分かっているので、批判をそらそうと、この表現にしたのだろう。

 中国のスパイ機が、日本に領空侵犯してまで取った米軍および自衛隊の通信電子情報は、戦時に監視レーダーや艦艇を攻撃するために使われる。

 戦時に使う貴重なデータとなることは、軍事専門家であれば「深読み」をしなくても分かっている。

 スパイ機Y-9に関わって、

①電子情報を取る方法
②その情報の戦時での使用法
③ウクライナでの戦争でレーダーの破壊に使用
④中国軍の日米の電子情報を入手する狙い
⑤中国はどの場面で電子情報を使用するのかについて、考察する。

2.スパイ機Y-9による電子情報取得の方法

 中国のスパイ機Y-9は日本の九州に向かってきた。

 そこで、日本と米国の各種兵器はレーダーを作動させ、電子信号を放出してその機を監視し、追随したと考えられる。

 なぜなら、その機が日本に侵入し攻撃行動を取った場合に、撃墜する必要があるからだ。

 今回の場合、航空自衛隊の監視レーダー、防空ミサイルの捜索レーダー、戦闘機の捜索レーダー、日米軍艦の防空レーダーが、図1のように活動したものと考えられる。

 監視レーダーは、300キロを超える探知能力、戦闘機は約150キロの探知能力がある。

 Y-9に捜索レーダー波(射撃用レーダー波ではない)を照射するはずである。

 つまり、中国のY-9は、各種レーダー波を照射された。

 

図1 侵入するY-9が電子情報を収集するイメージ

出典:各種情報をもとに筆者作成(図は、以下同じ)

 Y-9は、エリント情報とシギント情報の両方を収集する能力を保有しているので、その情報を受信し録音する。

 そして、そのデータを持ち帰り、解析専門の機関に提供する。

 解析機関は信号を詳細に分析し、それぞれの信号はどの種類の戦闘機、軍艦、監視レーダーなのかを特定する。

 例えば、電子信号であれば、戦闘機の「F-15」「F-16」「F-35」のどれなのか、イージス艦なのか空母なのかを特定できるようにする。

 海上であれば、商船を含めた各種艦船が航海中に電波を放出しているので、その中から空母やその他軍艦の電子信号を分離しなければならない。

 それができなければ、軍艦を対レーダーミサイルで攻撃することはできない。

 空母は、レーダー信号を放出することが少ないため、エリント衛星で入手した信号とY-9から入手した信号と照合することになろう。

 中国軍は今、最も知りたい米空母の位置を知るために、空母のレーダー信号を特定することに努力を集中している。

 以前、中国が米本土にバルーンを飛行させたことがあったが、そのバルーンも、米艦艇のレーダー信号情報を取るために、軍艦の上空を飛行させたものだと思っていたが、その意図がバレてしまったため、今はできなくなったと推定している。

図2 米空母などのレーダー信号を取得する要領(イメージ)

3.監視レーダーやレーダー搭載艦攻撃に使用

 スパイ機が取得したレーダー電子情報は、兵器の種類や特定個別番号(例えば艦番号)を特定するのが目的であると前述した。

 そのほかにも重要な狙いがある。それは、対レーダーミサイル攻撃だ。

 対レーダーミサイルは、射撃目標に信号がなければ、自らレーダーに向かって飛翔していくものではない。

 攻撃時には、空軍の監視レーダーか海軍艦艇の監視レーダーか、あるいは防空ミサイル用レーダーの信号なのかを特定できていなければならない。

 地上や海上には、レーダー信号を出すありとあらゆる兵器があるからである。

 その中から、戦闘機のレーダーが照射される信号を識別して、対レーダーミサイルは特定のレーダー信号を出す兵器に向かって行く。

 その具体的な要領は以下の順序である。

①敵の監視レーダー(空母の場合もある)が、レーダー波を放出する。
②戦闘機がそのレーダー信号を受信する。
③戦闘機は、そのレーダー信号にロックオンする。
④戦闘機は、ロックオンしたレーダーに対レーダーミサイルを発射する。
⑤対レーダーミサイルが、レーダーの放出源に向かって飛翔する。
⑥対レーダーミサイルが、目標に命中して、破壊する。

図3 中国戦闘機による対レーダーミサイル攻撃(イメージ)

 日米の艦艇については、これまで収集し、解析したレーダーの電子信号をもとに、エリント衛星を使って艦艇の位置を特定することになる。

 そして、日米の艦艇、特に米国の空母がレーダー信号を出し続けていれば、その未来位置を予測して対艦弾道ミサイルを発射し、空母に命中するという仕組みである。

図4 空母のレーダー信号をエリント衛星が受信して攻撃(イメージ)

4.戦争初日に対レーダーミサイル攻撃

 ロシアが侵攻した2022年2月24日の朝、ウクライナの監視レーダーがロシアのミサイル攻撃で破壊され、燃えている映像が世界中に流れた。

 私は、対空レーダーすべてが破壊されて、ロシアが完全に航空優勢をとるだろう思っていた。

 確かに、ウクライナ軍の防空レーダーのいくつかは破壊されたが、多くは生き残っていた。

 ウクライナは、ロシアの対レーダーミサイル攻撃を予想して、それをこれまでの位置から取り外し、隠していたのだ。

 そして、破壊を免れた。すべてのレーダーが破壊されていれば、ロシアはその時点でウクライナを占領していただろう。

 現在では、侵攻当初と異なり、ウクライナがロシアの防空兵器を多数破壊している。

 ウクライナは、「ミグ29」機を対レーダーミサイル攻撃ができるように改良して、ロシアの「S-300/400」防空ミサイルを破壊しているのだ。

 ロシアの防空ミサイルは、「飛翔してくるミサイルを破壊できる」と公表されていた。

 実際は、対レーダーミサイルや巡航ミサイル攻撃を阻止することができず、撃破されている。

 これは、平時にエリント衛星と情報収集機が収集していたロシアのS-300/400の捜索レーダーの電子信号を米軍が解析していたので、その位置データを改良したウクライナのミグ戦闘機に入れて攻撃し、対レーダーミサイル攻撃に成功しているものと考えられる。

5.取得レーダー信号をどの場面で使用するか

 中国国防省の呉謙報道官は、中国軍機による初の日本領空侵犯について「深読みしないことを望む」と強調した。

 だが、実際のスパイ機の能力と接近の目的は、日米の各種レーダーの電子情報を取ること、そしてそれを解析して、その信号データを戦闘機の探知レーダーと対レーダーミサイルに装填し、その後、日米のレーダー攻撃に使用することだ。

 この対レーダーミサイル攻撃は、ウクライナレーダーがロシアによって破壊されたのと同じように、侵攻作戦と同時に実施される。

 その準備を今始めたのである。

 中国軍は、日本の非難を受けようとも、戦争を想定して堂々と実施してきている。

 そして、中国の報道官は「戦争が生起すれば直ちに日米のレーダーとそれらを搭載する兵器を攻撃する作戦が中国にあること」をなるべく隠そうとしているのだ。

 日本の政治家や国民は、中国の真意を知る必要がある。

 中国が「戦時になれば、初日に日米の兵器を破壊することを考え、そして中国はその準備を今進めている」ことを深く認識すべきである。

西村 金一のプロフィール

西村金一(にしむら・きんいち)

 1952年生まれ。法政大学卒業、第1空挺団、幹部学校指揮幕僚課程(CGS)修了、防衛省・統合幕僚監部・情報本部等の情報分析官、防衛研究所研究員、第12師団第2部長、幹部学校戦略教官室副室長等として勤務した。定年後、三菱総合研究所専門研究員、2012年から軍事・情報戦略研究所長(軍事アナリスト)として独立。

執筆活動(週刊エコノミスト、月間HANADA、月刊正論、日経新聞創論)、テレビ出演(新報道2001、橋下×羽鳥番組、ほんまでっかTV、TBSひるおび、バイキング、テレビタックル、日本の過去問、日テレスッキリ、特ダネ、目覚ましテレビ、BS深層ニュース、BS朝日世界はいま、言論テレビ)などで活動中。

著書に、『こんな自衛隊では日本を守れない』(ビジネス社2022年8月)、『北朝鮮軍事力のすべて』(ビジネス社2022年6月)、『自衛隊はISのテロとどう戦うのか』(祥伝社2016年)、『自衛隊は尖閣紛争をどう戦うか』(祥伝社2014年)、『詳解 北朝鮮の実態』(原書房2012年)などがある。

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