嵐の月曜日

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父親たちの星条旗

2006-12-29 23:59:53 | 映画暮らし

先日の『硫黄島からの手紙』に続いて、銀座テアトルシネマで『父親たちの星条旗』を観てきました。
クリント・イーストウッド監督作品「硫黄島の戦い二部作」の、先に公開された方の作品です。

---<以下、ネタバレあり>---

「硫黄島の英雄」の一人であったジョン"ドク"ブラッドリーは、硫黄島での真実を一切語らないまま死の床についていた…。

太平洋戦争末期、日本本土への直接攻撃をかけたいアメリカにとって、硫黄島は戦略上の最重要拠点であった。マリアナ諸島から発進する爆撃機B29への補給と、護衛する戦闘機(P51など)を発着させるための中間基地が必要不可欠であったためである。
当初5日間での占領を予定していたアメリカ軍海兵隊は、日本軍の組織的な防衛戦を受け苦戦を強いられることとなった。

ようやくにして多数の死傷者を出しながらも、アメリカ軍は遂に硫黄島最大の要衝である擂鉢山を占領する。
この時、かの有名な報道写真「硫黄島での国旗掲揚」が撮影されるわけだが、実はこの写真にはウラがあった。
擂鉢山を占領した部隊が掲げた写真は軍上層部の個人的な理由から降ろされ、そのすぐ後に歴史を変えることとなる旗が、別の兵士たちによって再び掲揚されたのだった。

つまり一種のやらせ演出が作用していたのである(故意に行なったわけではないが)。

しかしそんな戦場の事情を考えることなどなく、掲揚された星条旗の写真は当時厭戦気分が蔓延していたアメリカ国内のムードを一変させる。
6人の英雄のうち、戦死をまぬがれた3人はアメリカ本土に帰還を命じられ、戦時国債公募ツアーに駆り立てられることになった。

自分たちを英雄などとは露ほども思っていなかった彼らは、創られた英雄像を演じ続けることを強要されることで、戦場とはまた違った地獄を味わうことになるのだった…

公開順ならば見る順序が逆なのですが、本作では硫黄島の戦いを回想で描いていて、主人公たちの戦後が描かれています。
『硫黄島からの手紙』はまさに硫黄島戦のさなかに戦前の回想を挟んでいるので、時系列的には正しい見方なのかもしれません。

硫黄島占領を最優先目標に掲げる海兵隊側と、中国領内から沖縄を臨む戦略を視野に入れた戦略を立てていた艦隊側の作戦の齟齬が描かれていたり、「アメリカ軍は兵士を見捨てない」という信仰にも似た幻想を打ち砕くシーンが挿入されたりと、これまでよく知らなかったアメリカ軍側の事実が遠慮会釈無く描かれていて、興味深い。
彼らをキャンペーンの矢面に立たせた軍広報官や上層部は鑑賞者からは悪役的な位置づけとしてうつりますが、イーストウッド監督には特段そうした意図は感じられません。
軍広報官らは彼らの立場で戦勝への努力をしていたわけで、それによりアメリカが勝利を決して戦争が終わったこともまた事実
硫黄島は日本本土へと至る防衛拠点であり、結果的に硫黄島を占領されたことで日本本土は焦土と化すことになったのです。

むしろイーストウッド監督としては、戦争が一己の人間の都合などを全く考えずに踏み躙っていく様や、戦後の英雄に対してすら向けられた人種差別や、一過性の熱狂が過ぎ去った後の無残な扱いなどに矛先を向けていて、硫黄島での或る出来事に端を発した人間の運命の流転を描きたかったのだと感じました。

2部作を観終わって感じたことは、イーストウッド監督が常に客観的な視点で作品を作り上げたということ。
それがために2部作となったわけですが。

無論過去にも『プラトーン』『フルメタル・ジャケット』といった戦争映画の良作もあったわけですが、どちらかというと監督の個人的体験や個人的な戦争感に基づくものが多かったと思います。

本作の主人公たちは、偶然から英雄という偶像に祭り上げられたことで、その後の人生を大きく狂わされる悲劇を背負い込んでしまいました。
で、結局それは『硫黄島からの手紙』で散っていった日本人たちと同じなんですね。
同じことを2つの映画で違う視点から描くことによって、過去の戦争映画に類を見ない、複眼的な視点を備えた作品になりました。

逆に違うところは、『父親たちの星条旗』では無名に近い役者を起用することでリアリズムに徹し、個人を英雄として描くことを巧みに避けているのに対し、『硫黄島からの手紙』では有名な俳優が起用されている点でしょうか。
とはいえ日本人以外の観客にとっては知らない役者ばかりだろうし、唯一ハリウッドで名が売れている渡辺謙でも『ラストサムライ』の人?程度の認識が一般的だと思われるので問題はなさそう。
(『独眼竜政宗』とか観たこと無いだろうしな…)

と、言うわけで『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』は二つで一つ、ぜひとも両方セットで観ておきたい作品です。
最後に硫黄島に建立された慰霊碑に刻まれた言葉を引用させていただき、本稿を終えたいと思います。

「硫黄島戦四十周年に当たり、かっての日米軍人は本日ここに、平和と友好の裡に同じ砂丘の上に再会す。
我々同志は死生を越えて、勇気と名誉とを以て戦った事を銘記すると共に、硫黄島での我々の犠牲を常に心に留め、且つ決して之れを繰り返す事のないように祈る次第である。」

参考文献
「硫黄島協会」ホームページ



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