CAFE PACIS

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アフガニスタンはどうだ:国連報告「大混乱に舞い戻るか」

2005-03-01 22:58:51 | ニュース@海外
 「このたび発表された国連の報告は、アフガニスタンがふたたび大混乱に舞い戻りかねないと警告。理由は、この国がいまだ究極の貧困にあえいでいるからである。国連は、現在、アフガニスタンを世界で6番目の貧困国と指定。経済を支えているのが不法麻薬貿易であるこの国は、いまや世界最大のアヘン提供国となっている。教育分野では、国連はアフガニスタンの教育制度を世界最悪と認定。成人の識字率は29%。平均寿命は実に44歳で近隣諸国を少なくとも20年下回る。国連報告は、「歯に衣着せずにいうなら、この脆弱国はあっけなく無秩序に舞い戻りうる。」「基本的な人的ニーズと人々の紛れもない苦悩――職・医療・教育・収入・尊厳・参加の機会がないこと――は克服されなければならず、国際援助は厳格に管理されなくてはならない。」同報告はまた、アメリカ合衆国の軍事作戦が、「不安、脅迫、恐怖、無法」地帯の形成に一役買っている、と結論している。」National Human Development Report, Security with a Human Face

 以上、2月22日Democracy Now!が報道した、国連報告の概要である。タリバンを掃討し、「選挙」をし、カルザイ「民主」政権で落ち着きを取り戻す計画だったことを考えれば、完全に計算ミスだが、アフガニスタンのかつての文明を考えると、この数値はなお聞くに堪えない。

 まずアヘン経済。アヘンの原料のケシ栽培地区のひとつであるカンダハルは、かつて豊かな果樹園と、それを支える発達した灌漑システムで名をはせていた。この乾いた地域のオアシスであったカンダハルには、ぶどう、メロン、桑の実、イチジク、桃、石榴などが実り、インドやイランにも運ばれたという。それを破壊したのは、79年から軍事侵攻をしたソ連。この扁平な地形でムジャヒディン(ゲリラ)の格好の隠れ処となったのがこの灌漑と果樹園であり、ソ連はゲリラ撲滅のため、果樹をなぎ倒し、灌漑をことごとく破壊。10年に及ぶソ連・アフガンゲリラの戦いが、この地を世界最悪の地雷原へと変えた。ソ連撤退後の1990年、難民がこの地に戻ったときやむなくはじめたのが、のちタリバンの主要な財源となるケシ栽培のであった。

 ちなみに、国境なき医師団で活動している山本敏晴医師によれば、アフガニスタンの母親のおおくが、子どもにアヘンを与えるようになってしまったという。ただ泣き止ませるだけの理由で。同医師は、任務に就いた当初、不可解なほど泣き止まない乳幼児の多さに驚いたそうだが、なぜか「泣いたらアヘン」という悪習が母親の間で定着しており、アフガニスタンでは赤ん坊のときから薬中の世代が生まれている。
 
 次にイラン国境に近いへラット。アフガニスタンの歴史と文明のゆりかごであった場所である。人が住み着いたのは5000年前といわれる山で囲まれたこの谷間の地域は、中央アジアでもっとも豊かな土壌をもつ土地と考えられていた。歴史の父・ギリシャのヘロドトスは、この地を中央アジアの穀倉地帯と記し、ムガール帝国のバーブル皇帝は「世界で人が住む土地でヘラットほどの(すばらしい)ところはない」と書き、植民者のイギリス人は、その美しさを故郷の姿になぞらえたという。15世紀に繁栄の絶頂を迎えたときには、ペルシャ(現イランのあたり)、インド、中央アジア各地から建築家が住み着き、数々の優美な建築物が造られた。天文学者が活躍し、石を投げれば詩人にあたるというほど一般市民も文学に親しむ気風があったという。1937年、この地を訪れたイギリスの詩人バイロンは、目の覚めるようなペルシャンブルーで飾られたへラットの建築物をして、「建築物の色彩という形で、人間の手が神と神自身の栄光を表現したもっとも美しい例」と書き残している。

 1979年、ソ連はこのヘラットも爆撃で破壊。いまやカンダハルとならぶ地雷原と成り果てている。経過は省くが、90年代になって、このイランに近く使用言語がペルシャ語で、文明の誇り高き民族が住むこの地域を主にパシュトゥンからなるタリバンが支配。理由も省くが、ペルシャ語をしゃべらないタリバン勢力は、へラットを「占領地区」として支配し、数百のへラット人を拘束し、すべての学校を閉鎖し、勝手に偏狭に解釈したイスラム法を強制。その多くが、パキスタンの難民キャンプ育ちで、アフガニスタンの歴史も文化も社会的慣習も知らず、教育といえば自称教師「ムッラー」による「イスラム法」だけで育った「無教養」の「野蛮人」であるパシュトゥン・タリバンに支配されることは、誇り高きヘラット人には耐え難い屈辱であったという。

 前述した国連報告は、アメリカの戦争もあって、アフガニスタンは恐怖で支配されるに地域に身を落としていると指摘しているが、文明に対する無知とそれを破壊することの野蛮さにおいては、アメリカとロシアもタリバンもいい勝負である。タリバンについては、地方軍閥による無法を鎮めた、などといった「評価」も一部あるが、それはほんの一時、一面的なことだ。

ちなみに、2003年に始まったイラク戦争では、米軍がバビロンなどの遺跡を破壊し、兵士たちが砕け散った歴史的工芸品をおもしろがって持ち帰ったそうであるが、自分たちの生活・社会を成立させている、数学、天文学、法律(?!)などがこの地ではぐくまれたことを兵士たち知っていたなら、そんなことはできなかったのではなかろうか。

 外国による戦争にせよ、内戦にせよ、無知・無教養がなしうる破壊。ガスのパイプラインを通すのもいいけど、やっぱり教育制度を確立する努力をしないと、混乱はおさまらないでしょう。

 あい

文献:
山本敏晴『アフガニスタンに住む彼女からあなたへ――望まれる国際協力の形』(白水社)
Ahmed Rashid ”Taliban: Militant Islam, Oil and Fundamentalism in Central Asia ” (Yale University Press. 邦訳アハメド・ラシッド『タリバン――イスラム原理主義の戦士たち』(講談社)