音キチの彼女は、どこかで 『中古レコード・フェア』 なんてのが催されていたら、すぐに嗅ぎ当ててしまう。
いつもは、夜風に吹かれながら、まっすぐ自宅に帰り、かんたんに食事をすませ、ビールをやりながら、音楽を聴きあさり、本を読んで、blog を書く ... というのが、つましい彼女の、平日の夜の慣わしであるが。 その日は仕事が早く片付いたので、なんとなく、駅前商店街のバーに立ち寄って、いっぱいひっかけてから帰った。
商店街から、自宅方面へ向かう路地へ入ると、中古レコード店が半額セールを行っていた ! その中古レコード店は、ものはいいのかも知れぬが、中古といえども結構な値段がするため、あまり用を足すことはないのだけど。 半額とあらば、彼女が見逃すはずがない。
六枚の CD を手に入れ、しめて、二千六百円也。 してやったり。
その日の夜は、彼が、彼女の部屋に泊まりに来た。 二人でごろごろしながら、音楽のことを、とめどもなく話しつづけて、いつのまにかつかれて、眠ってしまった。 小学生のようだ。
翌朝、目醒めたとき、彼女は、思い出したように昨夜の収穫について、彼に話した。
「お、これ、いいね」 収穫の一枚を手にとって、彼は言った。
「この曲。 おれが好きだった女の子が結婚することになってさ。 それで、その女の子のまえで、うたうんだよ。 体育館で、でっかい声で。 ―― っていう夢をみたことがあるんだけど」
「なんで体育館で?」
「ワカンナイ。 夢なんてさ、そんなもんだよ。 なんの脈絡もない。 あ、結婚するってのは、ほんとね」
「ふうん」
「でさ、目が醒めて、変な夢だったなあって思いながら、ラジオをかけたんだ。 おれ、むかしは朝、いつもラジオ聴いてたからさ。 それでさ、ラジオをかけた瞬間、おれが夢のなかでうたってた曲がかかったんだよ ! いやあ、あのときは、思わず、その女の子に電話しちゃおうかな、って思ったさ」
「 ... 迷惑かもね」
「そりゃそうさ。 だってさ、この曲って、知ってる?」
「かなしい歌 ... ?」
「そうだよ。 夢で会うことしかできない ... っていう。 ま、それ以来、この曲は好きなわけさ」
「 ... わたしもね、昨日、お昼に、冷やし中華食べたい、と思って、中華料理屋さんに行ったの。 あっつーいなか、てくてくてくてく歩きながら、ボブ・マーリーの 『ノー・ウーマン・ノー・クライ』 を頭ンなかで再生してたの。 ほら、暑いときって、レゲエとか聴きたくなるじゃない? それで、中華屋さんに入って、席について、ふと、耳を澄ませたら、『ノー・ウーマン・ノー・クライ』 がかかってたの ! びっくりして、思わず、七百円のふつうの冷やしじゃなくて、千円の 『特製冷やし』 頼んじゃった ! 」
―― そんなおどろきは、きっと、「音キチ」 である彼らだけに訪れるものではない、のであろうか。 音楽は、ときに、不思議なおどろきを与えてくれる力を持っている。
だからこそ、私たち は、音楽を聴かずにはいられない、のだろうか ... ?
BGM:
The Everly Brothers ‘夢をみるだけ / All I Have to Do Is Dream’
いつもは、夜風に吹かれながら、まっすぐ自宅に帰り、かんたんに食事をすませ、ビールをやりながら、音楽を聴きあさり、本を読んで、blog を書く ... というのが、つましい彼女の、平日の夜の慣わしであるが。 その日は仕事が早く片付いたので、なんとなく、駅前商店街のバーに立ち寄って、いっぱいひっかけてから帰った。
商店街から、自宅方面へ向かう路地へ入ると、中古レコード店が半額セールを行っていた ! その中古レコード店は、ものはいいのかも知れぬが、中古といえども結構な値段がするため、あまり用を足すことはないのだけど。 半額とあらば、彼女が見逃すはずがない。
六枚の CD を手に入れ、しめて、二千六百円也。 してやったり。
その日の夜は、彼が、彼女の部屋に泊まりに来た。 二人でごろごろしながら、音楽のことを、とめどもなく話しつづけて、いつのまにかつかれて、眠ってしまった。 小学生のようだ。
翌朝、目醒めたとき、彼女は、思い出したように昨夜の収穫について、彼に話した。
「お、これ、いいね」 収穫の一枚を手にとって、彼は言った。
「この曲。 おれが好きだった女の子が結婚することになってさ。 それで、その女の子のまえで、うたうんだよ。 体育館で、でっかい声で。 ―― っていう夢をみたことがあるんだけど」
「なんで体育館で?」
「ワカンナイ。 夢なんてさ、そんなもんだよ。 なんの脈絡もない。 あ、結婚するってのは、ほんとね」
「ふうん」
「でさ、目が醒めて、変な夢だったなあって思いながら、ラジオをかけたんだ。 おれ、むかしは朝、いつもラジオ聴いてたからさ。 それでさ、ラジオをかけた瞬間、おれが夢のなかでうたってた曲がかかったんだよ ! いやあ、あのときは、思わず、その女の子に電話しちゃおうかな、って思ったさ」
「 ... 迷惑かもね」
「そりゃそうさ。 だってさ、この曲って、知ってる?」
「かなしい歌 ... ?」
「そうだよ。 夢で会うことしかできない ... っていう。 ま、それ以来、この曲は好きなわけさ」
「 ... わたしもね、昨日、お昼に、冷やし中華食べたい、と思って、中華料理屋さんに行ったの。 あっつーいなか、てくてくてくてく歩きながら、ボブ・マーリーの 『ノー・ウーマン・ノー・クライ』 を頭ンなかで再生してたの。 ほら、暑いときって、レゲエとか聴きたくなるじゃない? それで、中華屋さんに入って、席について、ふと、耳を澄ませたら、『ノー・ウーマン・ノー・クライ』 がかかってたの ! びっくりして、思わず、七百円のふつうの冷やしじゃなくて、千円の 『特製冷やし』 頼んじゃった ! 」
―― そんなおどろきは、きっと、「音キチ」 である彼らだけに訪れるものではない、のであろうか。 音楽は、ときに、不思議なおどろきを与えてくれる力を持っている。
だからこそ、私たち は、音楽を聴かずにはいられない、のだろうか ... ?
BGM:
The Everly Brothers ‘夢をみるだけ / All I Have to Do Is Dream’
コメントありがとうございます(涙…)
うれしいです ...
> DJ!お願いします。
ん? DJ ?! きゃー、ガンバリます ?!