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地震・雷・火事 ...

2004年10月08日 18時20分03秒 | Hey, DJ !
 ここのところ、バタバタしている ... 。 ............................................................

 もう金曜日。

 すこしずつ、記事をアップしていこう ... 。

 ええと、タイトルは、あまり意味はないです。

 むかしは、「火事」 のあとに、「親父」 が つづいていたのですよね。

 いまは、どうなのでしょう?



§




 おとついの地震のときは、いつものお店で DJ をしていた。

 (DJ 関連記事(?)は、こちらをご覧ください ... )

 じぶんも含めて、お客さんも、なんとなく、まったりモオドだったので、フィリー・ソウルとか、ゆるやかなファンクとか、ジャグ・バンド、ジャム・バンド、ウェスタン・スウィング、などなどをかけた。

 (↑ は、ジャンル名です。 音楽にあまり興味のないかた、すみません)

 ノリノリで曲をかけていたら、とつぜん、地震が。

 さいしょ、じぶんが酔っぱらって、ゆれているのかしら ... なんて思った。 あらやだ、わたしったら、酔っちゃった? と。 

 あるいは、だれかが酔って暴れ出したかと。

 はっとお店のカウンターに目をやってみたら、

 「ばか! 早く離れろ!」

 と、店主に怒鳴られた。

 しかし、なにを思ったのか、私は、DJ ブースのすぐうしろにあるレコードラックを両手で支えてしまった。

 そう、大事なレコード !! 命よりも ... ?!

 しばらく、揺れが収まらなくて、内心こわかったけれど。

 なにごともなく、無事に済んだ。

 ア~、よかった、よかった。

 あとで、レコードラック上部を見てみたら、「突っ張り棒」 が、ぜんぜん突っ張っていなくて、ガバガバだった。

 うわあ。 もしかしたら、レコードラックがたおれて、もろとも下敷きになっていたかもしれないのだ ... 。

 でも、レコードに埋もれて 逝く ... なんてのは、DJ としては、かっこいいカナ?? なんて思ったりして。

 ああ、でも、やっぱり、そんなの、いやだ!



§




 ああ。 そうだ。 地震で思い出した。 むかし、考えた小話。

 O ヘンリーの 『最後の一葉』 をもじったものなのだが ... 。



§




 病床の娘。

 窓の外の、一本の木。

 秋が訪れ、一枚一枚葉が散っていく。

 そして、最後の一葉になったとき、娘は、

 「あれが散るときが、きっとわたしの最期なんだわ ... 」。

 それを聞いて、こころを痛ませる友人たち。

 ある日のこと。 娘と友人たちとが、談話をしていたら、大きな地震が。

 しばらく大きく揺れ、余震もかなり長い間つづいた。

 ふと、なにげなく窓の外を見てみると、「最後の一葉」 が、いまにも散ってしまいそうなくらい、ぷらぷら揺れて ... 。

 固唾を飲んで見守る一同。

 そのうち余震も収まり、なんとか たえぬいた「最後の一葉」。

 娘も、友人たちも、ほっと一息。

 「最後の一葉」! すごいじゃないか! あんな大地震にも たえてみせるなんて!

 友人の一人が、感激して、窓をガラリと開けて、「最後の一葉」 を褒め称えようとしたら、その空圧でか、「最後の一葉」 がひらりと散っていった ... 。










 娘がショックで、悲しむのではないか ... おそるおそる振り返ってみると ...

 娘は、可笑しくてたまらない、といった様子で笑い転げていた。

 その後、娘は、病を克服して、「最後の一葉」 を散らした友人と、結婚した。















 BGM:
 ‘枯葉 / Autumn Leaves’





 trackback to:
 ・『Three frogs which smile.』 - 「こんなに揺れるうちはいらない」





 当 blog 内関連(?)記事:
 ・「7.17 / ムーン・リバー」










 ---
 思い出したので、追記。 (2004.10.9)
 ・『死に様占い』



有名になりたいと思ったあなたは、得意だったスポーツの分野で偉業を成すことにする。
世界初、62段の跳び箱を飛び越えるも、着地に失敗。
頭から着地して、首の骨を折る。

死因: 頚椎骨折
死因の種類: 不慮の外因死
死亡した場所: 陸上競技場



--------------------------------------------------

あなたの死に様は、残念ながらCランク



とのこと ... 。


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あに・いもうと・かれ

2004年09月23日 15時10分54秒 | Hey, DJ !
 私には、兄が四人いるのだが、その、四番目の兄が、今日、泊まりに来るというので、いったい、何が起こるのだろう ... と、ちょっとどきどきしているのである。



 ん? なにを言っているの? と思われるかもしれないので、私の兄について、ちょっと語ってみることに ... 。

 私の四番目の兄は、私の一歳年上。 四番目ともなると、己が道を突き進む性格となってしまうのか、かなり自由奔放な人。

 半年から一年単位で、南米だの、タイだの、バリだのを、ふらふらしていたこともあったりして、ほんとうに、マイペースで、じぶんらしく生きている。



 半年以上まえの話だが。

 私が、いつも DJ をやらせてもらっているお店ではないところから、たまたま声がかかって、はじめてのお店で回すことになったとき、兄が、観に来てくれたことがあった。

 もともと、音楽が好きな人だし、タイに行ってから 踊るのが大好きになってしまったらしく (タイの人は、踊り好き!)、とてもたのしみにして、わざわざ遠くから足を運んでくれたのだ。

 その日は、ロック / パンクのイベントで、DJ は総勢五人。 みんなで、ロックでがんがんに盛り上がろう! という趣旨だったのだけど。

 そのお店が、ちょっと辺鄙な場所にあったのと、深夜十二時からのオールナイト イベントであったのと、お天気が雨模様だったのと ... その他もろもろの事情があって、お客さんが、ぜんぜん入らない夜だった。

 いちおう、私は、友人 (というか彼) も観に来てくれて、兄も含めて、二人、お客さんを呼べていた。 でも、きっと、二人しか呼んでいない DJ なんて、私だけだろうな ... なんて思っていたら。

 ほかの DJ がだれもお客さんを呼んでいなかった!

 お客さんは、私の彼と、兄のみ!

 どうしよう ... なんて思いつつも、イベント開始。

 一人目の DJ が、まずは、ゆったりと曲をかけはじめる。

 なかなかいい感じの選曲だったのだけど、いかんせん、お客さんがいないため、フロアがさむい ... 。

 私が、今夜、だいじょうぶかなあ ... なんて考えていたら、兄が、

 「あれ? なんでだれも踊らないの?」 なんて言い出して、ふらあ~っと、踊りはじめた。 タイ仕込みの、太極拳ふうな(?)独特の踊り。 う~ん、音楽に合っていないような??

 でも、だれも踊っていないよりは、ぜんぜん、ましだ。

 そもそも、踊りなんて、じぶんの踊りたいように踊ればいいのだものね。

 うん。 好きなように、踊ってくれい。

 そんなふうに思いながら、私は、兄をじっと、見守っていた。

 (兄は、体が弱いのにもかかわらず、酒呑みなので、ちょっと心配なのだ ... )

 そうして、二番目の DJ のときも、三番目の DJ のときも、ふらあ、ふらあ、と踊っていた。

 四番目の私のときは、私がはげしめの曲をかけたので、熱くなってしまったみたいで、むちゃくちゃになって踊りまくっていた。 うふふ。 変な踊り! でも ... ありがとう。 なんて、こころのなかでつぶやいた。

 兄妹って、いいな。

 兄は、最後の DJ のときも、ふらあ~っと踊っていた。

 約四時間、踊りっぱなし!

 「いやあ~、たのしいねえ。 いや、ほんとに気持ちいい!」 なんて言って、満足げな様子だったので、私は、ほっとしていた。

 そして、世が明けて、イベント終了。 イベントとしては、きっと、失敗であろう。 しかし、仕方がない ... 。 こんな日もあるさ。

 みな、無言で片づけをはじめた。

 兄の姿がなくて、ちょっと心配だったのだが、きっと、煙草でも吸いに行っているのかな、と思って、私も無言で、荷物をまとめていた。

 DJ をやっていたひとりが、ぽつん、と、

 「なんかさあ、ひとりで、ずーっと、踊ってる人、いたよな」 とつぶやいたら、

 「うん、すげえ、キモかった」

 なんて言い出す人がいて、内心、ぴくり、と きたのだけど。 十八、九くらいの若者だから、まあいいや、と放っておくことにした。

 そうしたら、それを聞いた、私の彼が、

 「あんたの DJ のときにも、踊ってくれたんじゃん。 感謝こそすれ、そういう言い方はないだろ!」

 と言ってくれて。

 ああ! 彼という人は、なんというやさしさと、男気があるのだろう ... 。

 ほんとうに、ほんとうに、うれしかった。

 それにひきかえ、妹の私は ... 。

 お兄ちゃん、ごめんなさい ... 。





 そんなことを思い出しながら、兄を待つ、午後。





 今宵も、どこかに踊りに行きたい ... なんて言い出したら、どうしよう? ... なんてね。





 BGM:
 Bruce Springsteen ‘夜の精 / Spirit in the Night’

 (今日、九月二十三日は、Bruce さんのお誕生日 ... )

 (リンク先は、記念すべき、デヴュー・アルバム。 いちばん好きな作品 ... )


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ブルースを、通い合わせて / Same Old Blues

2004年09月17日 18時00分50秒 | Hey, DJ !
 音楽は、ときに、不思議な力を放つことがある ... って、まえにも書いたことがあるような気がするけれど。



 まっすぐ家に、帰りたくない夜。 というのは、どんな人にもあるものなのだろうか?

 なんとなく、家にいたくない夜。 寄り道して帰りたい夜。 誰かに会いたい夜。

 ううん、わからないけれど。

 「あのバー」 には、そんな人たちが、ほの暗い灯かりに誘われるように、やって来てしまうのだろうか?





 ああ。 そう。 わたしは、DJ ( ... なんてね)。 昼間、仕事をしながら、趣味で DJ などというものをやっている。

 「あの店」 に集まってくる人のこころの渇きを癒すのが、「お酒」 や 「会話」、だとするなら、わたしの役目は、それらの効果を高める音楽をかけること。

 もともとはロックが好きなのだが、ブルース、ゴスペルにドゥーワップ、ソウルに R&B, オールディーズなんかもかけちゃうし、ボサノヴァやレゲエ、スカにダブ、ファンクや AOR,八十年代ポップスからニュー・ウェイヴまで。 ときには、Eminem や Avril Lavigne をかけちゃうこともある。

 ロック以外は、広く浅く ... という感じで、われながら節操がないな、と思ってしまうけれど。 お客さんが喜んでくれるのが、うれしいのだ。

 レイヴ・パーティーで、がんがん曲をかけまくって、フロア中を踊らせてしまう ... そんな世界には、ほどとおい、わたしの DJ ライフ。 けれど、これでいいのだ。 わたしは、主役でなくていい。 わたしは、ただのひき立て役で、いいのだ。





 ほぼ毎日のように飲みに来ているお客さんがいる。 ケイさんと呼んでおこうか。

 近所に住んでいる三十二歳の男の人。 お酒はそれほど強くなくて、ただ、話をするのが好きなようだ。 あるいは、店主の人柄ゆえにであろうか。 店主に惚れこんで、お店に足繁く顔を出さずにはいられなくなったのかもしれない。

 店員さんでもないのに、すっかり、お店のムード・メイカーとなっている。 ムード・メイカーというのは、和製英語なのかしら。 よき雰囲気づくり人、とでも言えばいい? とにかく、もはや、お店になくてはならない人だ。





 ある晩のこと。

 わたしが曲をかけるときは、直接リクエストしてくる人はほとんどいない。 たいてい、いつも、空気の流れや雰囲気をみて、その場その場で曲をかけていくことになっている。

 女性のお客さんが多いときは、なんとなく、ポップスやボサノヴァなどのやわらかめのものをかけたりするし、渋めの男性がいるときは、ブルースをかけたりする。 あるいは、お客さんの話し声に耳を澄ませて、「David Bowie が好きだ」 なんて言っているのが聞こえてきたら、さりげなく ‘Space Oddity’ なんかをかけたりして。

 けれど、その晩は、めずらしく、ケイさんがリクエストしてきた。 ‘Same Old Blues’ というブルースのスタンダード曲を。 なんとなく、聴きたい気分なのだと言う。 どうしたのだろう、と、一瞬、ケイさんの細い顔にそっと目をやった。 とてもやせている人なのだけど、いつもよりも、さらにやつれているような気がした。

 とりあえず。 じゃあ、あとで、ころあいを見てかけるわね、なんて言って、他の曲をかけながら、‘Same Old Blues’ はいろいろな人がカヴァーしているので、だれのものをかけようかな、なんて考えていた。

 そのうち、若い女性のお客さんが、お店の戸をカランと開けて、ひとりでやって来た。 どうやら、はじめての人のようだった。

 若い女性がひとりで来ることなんて、あまりないお店なので、ちょっと気になってしまった。

 どんな音楽が好きなのかしら。 近所の人かしら。 ああ、あんなカウンターのはしっこなんかにポツンと座っちゃって、そんなんじゃ、もろ 「わけありの女」 ぽいじゃない、だれか、席を変わってあげなよ ... なんてことを勝手に考えたりして ... 。

 その女性は、だれに話しかけるわけでもなく、バーボンをちびりちびりと飲んでいた。

 わたしは、その女性が、とてもきれいで、落ち着いた雰囲気のする人なので、なんとなく、Bryan Ferry とか Peter Gabriel などの、オトナの女うけしそうな(?)ものを選曲していた。

 いまどきの R&B とかのほうがいいのかしら。 それとも、ジャズとかのほうがいいのかしら。 などと考えていたら。 その女性が、わたしのほうへ、そろりとやって来て、

 「すみません、‘Same Old Blues’ っていう曲、ありますか?」 と訊ねてこられた。

 まあ、なんという偶然。 ‘Same Old Blues’ を聴きたがっている人が、もうひとりあらわれるとは!

 「ええ。 何枚か持って来ています。 ご希望のアーティストってありますか?」 驚きを抑えつつ、わたしは、訊ねかえした。

 「希望のアーティスト? エリック・クラプトンしか知らないんですが」 女性がこたえた。

 「スタンダード曲なので、いろいろな人が歌ってるんですよ。 フレディ・キングという人のものがいちばん有名かもしれません」

 「そうなんですか。 エリック・クラプトンは、兄が好きなので、家に CD があって、よく聴いていたんです。 ‘Same Old Blues’ が入っているアルバムなんですけど。 大好きなんです」

 「じゃあ、それ、あとでかけますね」

 わたしがそうこたえると、その女性は、とてもうれしそうに、じぶんの席に戻っていった。

 そうして、それまでかけていた曲が終わったあとに、ちょっとタメてから、満を持しての、‘Same Old Blues’ を。

 女性のお客さんも満足そう。 ケイさんは、ちょっと意外な顔。 ほかのお客さんはうっとりと聴き惚れていた。

 音楽ひとつで、空気が変わる、そんな瞬間。

 ‘Same Old Blues’ が終わってから、ケイさんが、つと寄って来て、「いまの、だれ?」 と訊いてきた。 わたしは、「エリック・クラプトン」 とこたえ、なぜ Clapton さんを選んだのか、いきさつを説明した。 ケイさんは、へえ~、と言って、例の女性に、話かけはじめた。

 ケイさんが聞き出したところによると、その女性 ―― ミキさんという ―― は、わけあって、さいきん引っ越してきたばかりらしく、まだこの地域に友だちがいないのだという。 また、引っ込み思案のため、なかなか知り合いも作れないのだとか。 その夜は、お酒を飲むのと、音楽を聴くのが好きなので、思いきって、一人でやってきた、と。

 「へえ~、それにしても、クラプトンが好きってのが意外だなあ。 おれ、クラプトンの ‘Same Old Blues’ は知らなかったよ。 でも、なかなかいいね」

 ミキさんは、照れながらも、うれしそうに、笑っていた。 「でも、わたしは、ほかのヴァージョンを知らないんです。 さっき、DJ さんが、ナントカさんのがいちばん有名だって ... 」

 「ああ、フレディ・キングかな。 フレディ・キングのもいいですよ、おすすめします」

 そのうち、ミキさんは、ほかのお客さんとも話をしはじめて、結局、閉店までいらっしゃっていて。 帰るころには、すっかり意気投合した様子だった。

 ああ、良かった良かった、なんて思っていたのだけど。





 その日を境に、ケイさんがぷっつりとお店に来なくなった。

 ミキさんは、はじめてやって来た日以来、三、四日にいっぺん、やって来ていた。 話し相手ができて、楽しそうに飲んでいたけれど、ケイさんがいないのが、やはり気がかりのようだった。

 さいしょは、風邪でもひいたのかしら、くらいに思っていたのだけど、二週間近くあらわれないので、さすがにわたしも心配になってきた。

 店主に訊ねてみると、なんと、なにか持病がとつぜん悪化して、入院しているのだという。

 なんてことだ。 ぜんぜん知らなかった。

 とりあえず、心配しているミキさんに入院している旨を教えてあげた。 ミキさんも、すっかりおどろいて、「どうしよう? お見舞いに行かきゃ?」 なんて言って。

 「そうねえ、いろいろお世話になっているから、お見舞いくらい行かなくちゃね」

 「わたしは、一回しか会ったことがないんですけど、あのとき、ケイさんに話しかけてもらえて、とってもうれしかったんです。 おかげでとてもたのしい夜を過ごせました。 こうして、このお店にまた来るようになったのは、ケイさんのおかげなんです」

 「それと、‘Same Old Blues’ ね」 わたしは、すかさず言ってみた。

 ミキさんは、あっと言って、笑った。 「たしかに、そうですね。 兄が、エリック・クラプトンが好きなおかげですね」





 その数日後、わたしは、ミキさんといっしょに、ケイさんのお見舞いに行った。

 病室に入って、すっかりやつれはてたケイさんを見て、はっと胸が締め付けられた。 ミキさんも、こころなしか、うっすらと目がうるんでいるように見えた。

 でも、あえて、わたしたちからは、なんの病気なのか、とか、病状のことは訊かなかった。

 気を紛らわせるように、それぞれ手土産を渡しだす。 わたしは、とりあえず本を、と思って、詩集を。 ディラン・トマスという人のもの。

 ミキさんは、CD だった。 Eric Clapton ! ケイさんとミキさんがはじめて会ったとき、わたしがかけた ‘Same Old Blues’ が収録されているアルバムだった!

 ケイさんは、力なくも、うれしそうに、笑ってそれを受けとった。

 ミキさんたら、粋なプレゼントね、なんて思っていたら。

 ケイさんが、ベッドの脇の棚の、一番下を開けてくれ、と言い出した。

 ミキさんは、そのことばに従って、棚の戸を開けた。

 「そのなかに CD があるでしょ」

 「はい」

 「それ、出して」

 言われるまま、ミキさんは CD を取り出した。

 見ると、Freddy King の CD だった。

 ケイさんは、

 「それ、ミキちゃんにあげようと思って、店で会った次の日に買ったんだよね。 ‘Same Old Blues’ が入ってるから。 で、そのまま店に持って行こうと思ってたら、急に身体がおかしくなりやがって。 でも渡しに行かなきゃ、店に行かなきゃって思って、CD をかかえたまま ... 、気がついたら、ここに運ばれた」

 そう言って、照れくさそうにわらった。

 ‘Same Old Blues’ ! ―― ひとつの曲をめぐって、こころを通い合わせたふたりの、すてきな偶然、のようなものを、目の当たりにしたできごとであった。





 ... でも。 どう考えても、わたし、おじゃまむしだったわ、ね。





 BGM:
 Eric Clapton ‘When You Got a Good Friend’

 (先ごろ発売された、Robert Johnson のカヴァーアルバムより)




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見守(まも)るべき場所

2004年09月15日 22時40分23秒 | Hey, DJ !
 何度かここでふれたことがあるのだが、私は、音楽の趣味が高じて、ときおり、クラブ DJ というものをしている。

 といっても、House とか Techno とか Hip Hop などの、いわゆるダンス・ミュージックをかけているのではなくて、Rock や Blues, Soul などの、お酒を飲みながら、ゆったりまったり聴けるような音楽を。

 先日、いつも DJ をやらせていただいている場所で、いつものように曲をかけていたら。

 ヨッパライのお客さんがやって来て、私に話しかけてきた。

 曲かけ中に話しかけられるのは、気が散るので、ちょっぴり困るのだけど、じぶんのかけた曲に反応してもらえるのはうれしいので、にこやかに対応。

 「レコード何枚くらい持って来てるの?」 なんて聴かれて、「今日は、四百枚くらいですね」 なんてこたえていたりしたら、「ちょっとさ、レコード見せてくれない?」 なんて、言い出されて。

 内心、困惑したのだが、曲かけに忙しかったのと、ヨッパラっているから、止めても無駄だろう、と、放っておいたら、DJ ブースにまでズカズカと入り込まれてしまい。

 私が DJ をしているあいだ、すぐうしろで、私のお宝たちを物色しながら、

 「ああ、このアルバム、いいっすよねえ。 次、これかけてくださいよ」 とか 「おれ、Reggae とか好きなんですけど、持って来てないですか」 とか、あれこれ茶々を入れてくる。

 そうしていたら、店員の若い男の子が、「ちょっと、なにやってるんですか? 飲みすぎですよ!」 なんて言って、そのお客さんを DJ ブースから引っ張り出そうとした。

 DJ ブース内は、いちおう、関係者以外立ち入り禁止なのである。

 そんなふうに言われても、そのお客さんは、ぜんぜんおかまいなしに、「いや、おれはこの人と話をしてるだけなんだから、いいじゃん」 なんて言って、そのままレコード物色をつづけていた。

 そのうち、ほかのお客さんも出てきて、そのヨッパライのお客さんを、DJ ブースから連れ出そうとしても、頑としてきかずに。

 そこへ、とうとう、おそれていたことが。

 お店のマスターがなにごとかとやって来て、烈火のごとく、怒り出したのだ。

 「おまえ、なにやってるんだよ! DJ ブース内は、DJ 以外は立ち入り禁止なんだよ!」

 「いや、おれはただ、この人がひとりで曲をかけてて、さみしそうだから、話しかけただけなんだよ」

 「話しかけるのは勝手だけど、このなかには、入るんじゃねえ! この貼り紙が見えねえのかよ!」

 「そんなもん、見てねえよ」

 「じゃあ、見ろ! そして、早く出ろ!」

 「そんなに怒らなくたっていいじゃないですか」

 「いいから、早く出ろ!」

 ... と、怒鳴り合いとなってしまい、結局そのお客さんは、逆ぎれ状態となって、店を飛び出してしまった ... 。

 店主は、大切なレコードが無くなってしまったことがあったとかで、DJ ブースのなかに、関係者以外の人が入るのを、なによりもきらっているのだ。

 ああ。 私のせいだ。 私がさいしょに注意しておけば ... と思っていたら、案の定、店主の怒りが私にも向けられた。

 「○○○(筆者の DJ 名)! おまえがいちばん悪いんだからな! DJ ブースってのは、神聖な場所なんだぞ! 知らないやつが立ち入ろうとしたら、カラダをはってでも、まもらなきゃいけない場所なんだ! 死ぬ気でまもらなきゃ、駄目なんだよ!」

 「 ... そうですね。 すみません」

 「ほんとにおまえ、わかってんのかよ!」

 「はい。今度から気をつけます ... 」

 なんて。 怒られてしまって。 その場の雰囲気も、さいあくになってしまった。

 しょんぼりしながら、その晩は、とぼとぼと、帰宅したのである。



 ほんとうに、仕方がない。 私が悪いのだから。

 きっと、じぶんのかけた曲に興味を持たれていると思って、いい気になっていたのだ。

 店主の言うとおり、じぶんの、神聖な場所は、必死で、まもらなければならないのだろう。



 ところで。 じぶんにとっての、まもるべき場所って、なんだろう? と、考えた。

 まずは、DJ をしているときであれば、DJ ブース。 そして、DJ をやらせていただいているお店。

 そして、もちろん、職場。 じぶんの住む部屋。 じぶんの住む地域。

 たいせつな人と出会う場所。 たいせつな人の住む家。 たいせつな人の住む地域。 国。 星。 宇宙 ... なんて、どんどん大きくなっていくが。

 じぶんのまもるべき場所 ―― "blog" ってのもあるのかもしれない。

 万が一、じぶんの blog が、理由もなしに荒らされたら。 閉鎖されたら。

 なんて考えたりして。

 ありえないことではないし。



 「まもる」 とは、もともと、「目」 で 「守る(もる)」 という意味の、「目(ま)守(も)る」 が語源であるとか。

 「守る(もる)」 とは、



(1)注意して見張る。番をする。まもる。
「山田―・る秋のかりいほに置く露はいなおほせどりの涙なりけり/古今(秋下)」
(2)いつもそばにいて守る。保護する。
「しらとほふ小新田山の―・る山のうらがれせなな常葉にもがも/万葉 3436」
(3)いつも見ていてすきをうかがう。
「心なき雨にもあるか人目―・りともしき妹に今日だに逢はむを/万葉 3122」

goo 辞書 検索結果より




 という意味だそうだ。 「子守り」 と同じように、注意深く、目を向けておく、ということであろうか。

 注意深く、目で、番をする。

 いや、べつに、荒らしとか、そういうことに目を向ける、という意味だけではなくて。

 万が一のとき、うれしいとき、かなしいとき、いろんなときに、注意深く 「みまもって」 いれば、blog も、スクスクと、元気に、育ってくれるかな ... なんてね。

 「まもり」 すぎは、良くないかもしれないけれど、ね。



 ―― こんなオチで、どうでしょう???





 BGM:
 The Police ‘見つめていたい / Every Breath You Take’

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