アバンタイトル通り、今週で利休は切腹させられるのかと思いきや、単なる前振りだった。前振りではあったが、茶の湯の理想のみを追い求める利休の美学は充分に描かれていた。利休亡きあと、秀吉が暴走してゆく様を連想させるような伏線もあった。
今週のツボは言うまでもなく利休なんで、レビューは利休と、それを取り巻く人間模様を中心に進めていきたい(江はオマケ…。ま、江はオマケくらいがちょうどいい)
小田原攻めの論功行賞の席上、秀吉の甥、秀次は大幅な石高加増を受け、百万石の大大名に。ライバル家康も北条の旧領、関東の地に240万石もの大領を与えられる。が、引き替えに先祖伝来の三河など、200万石を召し上げられてしまう。まあ、体のいい左遷人事だ。
茶室で利休から茶を振る舞われた家康は、「三河は開墾し尽くした。関東ならまだまだ開墾の余地があるから楽しみ」と強がってみせる。
「殿下はあなた様を恐れて、京・大坂から遠く離れた不毛の地に追いやられたんですなあ」利休は思ったままを家康に言う。
「本拠は江戸に…」との家康の言葉に「あの荒地の…?」利休はいささか驚いた様子。
この当時の江戸といえば、葦が生い茂る湿地帯。僅かに寒村があるだけの、まさしく辺境の地だった。今日のような巨大都市が築かれようとは、この頃は誰も予想すらしなかっただろう。
「それにしても、この前の『茶頭辞めます宣言』には驚きました。あれは本心なんですか?」家康が率直な疑問を利休にぶつける。
「私は人に媚びて茶を立てたことは一遍もありません。たとえ信長公でも…」すっかり達観している利休。
茶を差し出しながら「これが家康様に立てる最後の茶です」
家康はギョッとするが「もうすぐ京へ帰りますさかい…」利休の言葉に胸を撫で下ろす。けれど言外に(この世で最期…)の意は含ませている。静かだけど深みのある演技は、石坂利休の真骨頂だな。
利休と秀吉との間に漂う不穏な空気に危機感を感じた江は、秀勝に相談すべく廊下へ飛び出す。…と、偶然にも当人にぶつかる。
「利休様と秀吉様との間には、以前のような漫才みたいな雰囲気はまるでなくなってしまいました」二人の現状を打ち明け、秀吉の甥である秀勝に仲介を求める。
「伯父上にとって、利休様は単なる茶頭を超えた存在。お二人の関係が易々と壊れるようなことはないでしょう」秀勝は楽観的だが、江の不安は消えない。「胸騒ぎがしてなりません…」
「女の勘は当たりますからね…。で、私とあなたの関係はどうなりそうですか?女の勘で…。近づけそうですか?」と、秀勝が江に唐突な質問。話を急に恋愛モードに切り替えるなんて、チャラい秀勝だなあ
秀勝が去ったあと、一人廊下に佇む江。別棟の二階で年齢不詳の秀忠が大あくびをして起き上がる。二人のやり取りを一部始終、上から見ていたのだ。
「お二人がそんな関係になっていたとは…」意味深に呟く秀忠の言葉に「い、いえ…」と、どぎまぎする江。「私が言っているのは殿下と秀吉様のことですよ。誰のことと勘違いしてるんですか?」皮肉っぽい笑いを浮かべて江をからかう。とても11歳とは思えない小生意気な台詞だ
「あなたには関わりないでしょう!」プンプンする江。秀忠は「私はもうすぐ江戸に帰ります。今度こそ二度と会うことはないでしょう」捨て台詞を残して立ち上がる。
「私も、もう二度と会いたくないですよ!」売り言葉に買い言葉、江も怒って立ち去るが「江戸」という言葉で、徳川家が国替えされた事実を知る。
2ヶ月後、京へ戻った秀吉は、妻と母の前で地図を拡げ「日の本はぜ~んぶ、豊臣家のものになったんじゃあ~」得意満面の自慢大会。
「京は良いのう~」と言いながら、しきりに鶴松のいる部屋の方向を気にする秀吉。おねは「気になるなら早く顔を見てきなされ」と、呆れ顔で促す。これ幸いと駆け出す秀吉。淀の部屋に入るなり、ヨチヨチ歩きの鶴松を抱き上げ、デレデレの親バカぶりを発揮する。
そこへ乗り込んできた江。徳川家の所領を取り上げたことを責め立てる。
「お茶々に余計な心配をかけるでない!」障子の裏側に江を引っ張っていき、たしなめる秀吉。
徳川家の話もそこそこに「利休様とはどうなってるんですか?」一番気になることを問いただす江に「利休…?」秀吉はそう答えたきり不機嫌な顔になり、無言で立ち去っていった。
宿願の天下統一を果たした秀吉は、海外へと目を向け始める。11月、ようやく朝鮮使節団との会見が実現する。
会見の場に、鶴松を抱き抱えて現れる秀吉。長幼の序を軽んずる秀吉の態度に、朝鮮使節団は不快さを露にする。
「ワシは日輪の子じゃ。日輪はこの世をあまねく照らしておる。ゆえに天竺(インド)、南蛮(ヨーロッパ)に至る全てが、いずれはワシの物となろう。手始めに明国を平定する。朝鮮はワシに服属し、明国攻めの際には先鋒として馳せ参じよ! その旨、よくよく朝鮮国王に伝えよ!」
秀吉の言葉を通訳を通じて聞いた使節団の面々は、みるみる表情が険しくなる。
その最中、鶴松がお漏らしをしてしまい、秀吉は大騒ぎ。どさくさに紛れ、『チャングムの誓い』に出てきそうな装束の使節団一行は憤然として席を蹴り、退室していった。
そりゃ無理もない。こんな傲慢不遜な誇大妄想狂の話なんか、まともに聞く国なんかある訳ないもんなあ
「あやつらは無礼極まりない!」別室で秀吉は、自分の非礼を棚に上げ、怒りをぶちまける。
官兵衛や秀次は、公式会見の場に幼い子供を連れ出した秀吉の非常識さに苦言を呈するが「鶴松は関白の子じゃ!」と、とりつく島もない。
江も秀吉に抗議する。
「ご自分のことを日輪の子と仰いましたね? 伯父上も己れを神たる者と仰せでした」
「ワシの考えは親方様に似てるということじゃ!」
「でも伯父上は天下泰平のために己れの身を捧げる覚悟でした。己れの欲のために好き放題する秀吉様とは違います!」
「うるさいっ!」
秀吉は、もちろん江の抗議にも耳を貸さない。
傍らで茶を立てる利休が、独り言のような感じで呟く。
「神たる者なあ…本能寺でああいうことが起きたのも、そのせいかも知れん。ということは…日輪の子たる関白殿下も、同じ道を辿るかも知れまへんなあ…」覚悟が出来ている利休にはもはや怖いものなし。秀吉に面と向かい、言いたいことをズバズバ言う。
「殿下の茶頭、いつ辞めさせてもらえますやろか?」利休の問いかけにも「まだそのようなことを…」秀吉は苦々しげに呟き、やはり取り合わない。
…と、竹筒で出来た簡素な一輪差しが秀吉の目に留まる。質素とか地道な物が嫌いな秀吉は「何じゃこんな物~!」と叫びつつ、襖に投げ付ける。縦にひびが入り、畳の上に転がる一輪差し。
「失礼いたします」襖を開け、一礼して入ってきた人物が、転がる一輪差しを見て仰天する。「こ、これは~!?」
その人物は古田織部。信長の頃から戦を知る古強者であり、利休の愛弟子でもある。
「私が茶頭を辞めたら、あとは織部どのをお引き立て下さい」利休の申し出にも何も答えない秀吉だった。
天正十九年(1591)が明けて間もなく、鶴松が病の床に就く。秀吉や淀、江らは枕元でおろおろするばかり。
秀吉は三成に命じる。「都中の神社仏閣で加持祈祷させるのじゃ!」
そこへ急使。なんと、秀吉の弟、秀長までもが危篤状態との報が届く。
秀吉は雷雨の中、大急ぎで秀長の居城、大和郡山城へと赴く。
秀長の枕元では官兵衛が必死になって呼び掛けている。
「今、秀長様が亡くなられたら、豊臣家は…いや、殿下はどうなりまするか!」
官兵衛の危惧は的を射ている。実際、秀長亡きあとの豊臣家には不幸なことしか起こらなかった。秀長の死と共に豊臣家の家運は一挙に傾いていったのだ
そこへ秀吉が飛び込んできた。
「秀長! しっかりするのじゃ!」手を握り励ます秀吉。
「…兄者には苦労もさせられたが、並みの人間では到底過ごせぬ面白い一生も過ごせた…」途切れ途切れに思い出を語る秀長。
「甘いことしか言わん者より、耳に痛いことを言うてくれる者を信じるんじゃぞ…」利休の言葉を重んじるようにと、秀吉を暗に諭す。
「鶴松の病はワシが抱えていく…」そう言い残し秀長は事切れた。
秀長の言葉の通り、間もなく鶴松の病はすっかり快復した。
「利休のことを、三成が秀吉様にあれこれ言っていることは知っておる」淀は江に打ち明けた。
驚く江に「私は秀吉様の妻ぞ」落ち着き払った態度の淀。揺れ動く乙女心を演じた宮沢りえの演技も良かったが、母親役を演じる姿も堂に入っている。
淀は、江にきっぱりと言う。「三成に何か言われて動く殿下ではない。これは誰にも分からぬお二人の間だけのこと。殿下と利休様だけのな…」
夜半、三成が秀吉のもとへまた讒言に訪れる。
まず持ち出したのは、歴史上も有名な、大徳寺山門に利休が自らの木像を安置したこと。「殿下に、自分の足下を通れと言っておるのです!」懸命に訴えるが秀吉の反応は鈍い。
鶴松の病気や秀長が亡くなったのも、そのせいかも知れないと、とんでもない言いがかりを付ける三成。その上、茶器を目利きして高い値段を付けるのもけしからんと、これまた無茶苦茶な言いがかり。利休のやること為すこと、全てが気に入らないなんて、三成はここまで嫉妬深い小物だったのか?
淀が看破したように、三成が何を言おうが秀吉は動かなかった。秀長の遺言通り、利休を重んじるか、否か…そのことで秀吉の心は揺れていた。
利休との関係に決着を付けるため、秀吉は利休の茶室へ向かう。
「そなた、まだワシの茶頭を辞めたいか?」
「早々に…」
「どうしても、ワシの元を去るか?」
「ここで見聞きしたことは誰にも話しません」
「そのようなことではない!」怒鳴り散らす秀吉に、利休は穏やかに微笑み返す。「そうでしたなあ」
「ワシにとって、そなたは格別な人間じゃ。ワシには分からぬことを分かる。ワシからすれば、仰ぎ見るしかない人間じゃ。だから、ワシの側におってはくれぬか? ワシのそば近くで、言いたいことを言ってはくれぬか!」秀吉は天下人のプライドをかなぐり捨て、利休に頭を下げて必死に頼み込む。
「私が殿下の茶頭になったんは、あなた様が面白いお方やったからや。けど、今はちぃ~とも面白いことあらしまへん。子が出来て可愛いいて、朝鮮のお人まで呼びつけて…その上、日輪の子やなんて…片腹痛うて堪りまへんわ!」言われた通り、好き放題のことを言い放つ利休。
「そなた…」唖然とする秀吉に「言いたいことを言えと仰せでは?」と、利休は畳み掛ける。
そして遂に利休は決定的な言葉を口にする。
「私にとって大事なんは、好きか、好きでないか。私は、私が好きな人のためにだけ、茶を立てたいんですわ。私は、あなた様のために茶を立てるんが、嫌になりましたんや…」ここで利休は、秀吉が大嫌いな黒茶碗で茶を差し出す。
完全な決別宣言。ショックを受けた秀吉は絶句し涙ぐむ。
秀吉はおもむろに立ち上がり、利休に顔を寄せ、非情な命令を下す。
「ならば、望み通りにしてやろう。そなたに切腹を申し付ける。切腹じゃ…」
非情な申し渡しにも顔色一つ変えず、微妙な笑顔を返す利休。
終盤の利休と秀吉のやり取りは緊迫感に溢れていた。深い絆があるゆえ互いに反発せずにはいられない、矛盾した心情を見事に演じた石坂と岸谷。ベテラン俳優同士の真摯なぶつかり合いはやっぱり見応えある。甘口ドラマの中で数少ない、苦味ばしったコクのあるやり取りが来週で見納めとは残念な限り。泰然自若、明鏡止水、散り際の美学、それらの言葉がふさわしい利休の姿だった。いよいよ来週は利休の切腹シーンか…。で、アバンタイトルは「愛の嵐」…いよいよタイトルまで、フジテレビの昼ドラみたいになってきたな!
今週のツボは言うまでもなく利休なんで、レビューは利休と、それを取り巻く人間模様を中心に進めていきたい(江はオマケ…。ま、江はオマケくらいがちょうどいい)
小田原攻めの論功行賞の席上、秀吉の甥、秀次は大幅な石高加増を受け、百万石の大大名に。ライバル家康も北条の旧領、関東の地に240万石もの大領を与えられる。が、引き替えに先祖伝来の三河など、200万石を召し上げられてしまう。まあ、体のいい左遷人事だ。
茶室で利休から茶を振る舞われた家康は、「三河は開墾し尽くした。関東ならまだまだ開墾の余地があるから楽しみ」と強がってみせる。
「殿下はあなた様を恐れて、京・大坂から遠く離れた不毛の地に追いやられたんですなあ」利休は思ったままを家康に言う。
「本拠は江戸に…」との家康の言葉に「あの荒地の…?」利休はいささか驚いた様子。
この当時の江戸といえば、葦が生い茂る湿地帯。僅かに寒村があるだけの、まさしく辺境の地だった。今日のような巨大都市が築かれようとは、この頃は誰も予想すらしなかっただろう。
「それにしても、この前の『茶頭辞めます宣言』には驚きました。あれは本心なんですか?」家康が率直な疑問を利休にぶつける。
「私は人に媚びて茶を立てたことは一遍もありません。たとえ信長公でも…」すっかり達観している利休。
茶を差し出しながら「これが家康様に立てる最後の茶です」
家康はギョッとするが「もうすぐ京へ帰りますさかい…」利休の言葉に胸を撫で下ろす。けれど言外に(この世で最期…)の意は含ませている。静かだけど深みのある演技は、石坂利休の真骨頂だな。
利休と秀吉との間に漂う不穏な空気に危機感を感じた江は、秀勝に相談すべく廊下へ飛び出す。…と、偶然にも当人にぶつかる。
「利休様と秀吉様との間には、以前のような漫才みたいな雰囲気はまるでなくなってしまいました」二人の現状を打ち明け、秀吉の甥である秀勝に仲介を求める。
「伯父上にとって、利休様は単なる茶頭を超えた存在。お二人の関係が易々と壊れるようなことはないでしょう」秀勝は楽観的だが、江の不安は消えない。「胸騒ぎがしてなりません…」
「女の勘は当たりますからね…。で、私とあなたの関係はどうなりそうですか?女の勘で…。近づけそうですか?」と、秀勝が江に唐突な質問。話を急に恋愛モードに切り替えるなんて、チャラい秀勝だなあ
秀勝が去ったあと、一人廊下に佇む江。別棟の二階で年齢不詳の秀忠が大あくびをして起き上がる。二人のやり取りを一部始終、上から見ていたのだ。
「お二人がそんな関係になっていたとは…」意味深に呟く秀忠の言葉に「い、いえ…」と、どぎまぎする江。「私が言っているのは殿下と秀吉様のことですよ。誰のことと勘違いしてるんですか?」皮肉っぽい笑いを浮かべて江をからかう。とても11歳とは思えない小生意気な台詞だ
「あなたには関わりないでしょう!」プンプンする江。秀忠は「私はもうすぐ江戸に帰ります。今度こそ二度と会うことはないでしょう」捨て台詞を残して立ち上がる。
「私も、もう二度と会いたくないですよ!」売り言葉に買い言葉、江も怒って立ち去るが「江戸」という言葉で、徳川家が国替えされた事実を知る。
2ヶ月後、京へ戻った秀吉は、妻と母の前で地図を拡げ「日の本はぜ~んぶ、豊臣家のものになったんじゃあ~」得意満面の自慢大会。
「京は良いのう~」と言いながら、しきりに鶴松のいる部屋の方向を気にする秀吉。おねは「気になるなら早く顔を見てきなされ」と、呆れ顔で促す。これ幸いと駆け出す秀吉。淀の部屋に入るなり、ヨチヨチ歩きの鶴松を抱き上げ、デレデレの親バカぶりを発揮する。
そこへ乗り込んできた江。徳川家の所領を取り上げたことを責め立てる。
「お茶々に余計な心配をかけるでない!」障子の裏側に江を引っ張っていき、たしなめる秀吉。
徳川家の話もそこそこに「利休様とはどうなってるんですか?」一番気になることを問いただす江に「利休…?」秀吉はそう答えたきり不機嫌な顔になり、無言で立ち去っていった。
宿願の天下統一を果たした秀吉は、海外へと目を向け始める。11月、ようやく朝鮮使節団との会見が実現する。
会見の場に、鶴松を抱き抱えて現れる秀吉。長幼の序を軽んずる秀吉の態度に、朝鮮使節団は不快さを露にする。
「ワシは日輪の子じゃ。日輪はこの世をあまねく照らしておる。ゆえに天竺(インド)、南蛮(ヨーロッパ)に至る全てが、いずれはワシの物となろう。手始めに明国を平定する。朝鮮はワシに服属し、明国攻めの際には先鋒として馳せ参じよ! その旨、よくよく朝鮮国王に伝えよ!」
秀吉の言葉を通訳を通じて聞いた使節団の面々は、みるみる表情が険しくなる。
その最中、鶴松がお漏らしをしてしまい、秀吉は大騒ぎ。どさくさに紛れ、『チャングムの誓い』に出てきそうな装束の使節団一行は憤然として席を蹴り、退室していった。
そりゃ無理もない。こんな傲慢不遜な誇大妄想狂の話なんか、まともに聞く国なんかある訳ないもんなあ
「あやつらは無礼極まりない!」別室で秀吉は、自分の非礼を棚に上げ、怒りをぶちまける。
官兵衛や秀次は、公式会見の場に幼い子供を連れ出した秀吉の非常識さに苦言を呈するが「鶴松は関白の子じゃ!」と、とりつく島もない。
江も秀吉に抗議する。
「ご自分のことを日輪の子と仰いましたね? 伯父上も己れを神たる者と仰せでした」
「ワシの考えは親方様に似てるということじゃ!」
「でも伯父上は天下泰平のために己れの身を捧げる覚悟でした。己れの欲のために好き放題する秀吉様とは違います!」
「うるさいっ!」
秀吉は、もちろん江の抗議にも耳を貸さない。
傍らで茶を立てる利休が、独り言のような感じで呟く。
「神たる者なあ…本能寺でああいうことが起きたのも、そのせいかも知れん。ということは…日輪の子たる関白殿下も、同じ道を辿るかも知れまへんなあ…」覚悟が出来ている利休にはもはや怖いものなし。秀吉に面と向かい、言いたいことをズバズバ言う。
「殿下の茶頭、いつ辞めさせてもらえますやろか?」利休の問いかけにも「まだそのようなことを…」秀吉は苦々しげに呟き、やはり取り合わない。
…と、竹筒で出来た簡素な一輪差しが秀吉の目に留まる。質素とか地道な物が嫌いな秀吉は「何じゃこんな物~!」と叫びつつ、襖に投げ付ける。縦にひびが入り、畳の上に転がる一輪差し。
「失礼いたします」襖を開け、一礼して入ってきた人物が、転がる一輪差しを見て仰天する。「こ、これは~!?」
その人物は古田織部。信長の頃から戦を知る古強者であり、利休の愛弟子でもある。
「私が茶頭を辞めたら、あとは織部どのをお引き立て下さい」利休の申し出にも何も答えない秀吉だった。
天正十九年(1591)が明けて間もなく、鶴松が病の床に就く。秀吉や淀、江らは枕元でおろおろするばかり。
秀吉は三成に命じる。「都中の神社仏閣で加持祈祷させるのじゃ!」
そこへ急使。なんと、秀吉の弟、秀長までもが危篤状態との報が届く。
秀吉は雷雨の中、大急ぎで秀長の居城、大和郡山城へと赴く。
秀長の枕元では官兵衛が必死になって呼び掛けている。
「今、秀長様が亡くなられたら、豊臣家は…いや、殿下はどうなりまするか!」
官兵衛の危惧は的を射ている。実際、秀長亡きあとの豊臣家には不幸なことしか起こらなかった。秀長の死と共に豊臣家の家運は一挙に傾いていったのだ
そこへ秀吉が飛び込んできた。
「秀長! しっかりするのじゃ!」手を握り励ます秀吉。
「…兄者には苦労もさせられたが、並みの人間では到底過ごせぬ面白い一生も過ごせた…」途切れ途切れに思い出を語る秀長。
「甘いことしか言わん者より、耳に痛いことを言うてくれる者を信じるんじゃぞ…」利休の言葉を重んじるようにと、秀吉を暗に諭す。
「鶴松の病はワシが抱えていく…」そう言い残し秀長は事切れた。
秀長の言葉の通り、間もなく鶴松の病はすっかり快復した。
「利休のことを、三成が秀吉様にあれこれ言っていることは知っておる」淀は江に打ち明けた。
驚く江に「私は秀吉様の妻ぞ」落ち着き払った態度の淀。揺れ動く乙女心を演じた宮沢りえの演技も良かったが、母親役を演じる姿も堂に入っている。
淀は、江にきっぱりと言う。「三成に何か言われて動く殿下ではない。これは誰にも分からぬお二人の間だけのこと。殿下と利休様だけのな…」
夜半、三成が秀吉のもとへまた讒言に訪れる。
まず持ち出したのは、歴史上も有名な、大徳寺山門に利休が自らの木像を安置したこと。「殿下に、自分の足下を通れと言っておるのです!」懸命に訴えるが秀吉の反応は鈍い。
鶴松の病気や秀長が亡くなったのも、そのせいかも知れないと、とんでもない言いがかりを付ける三成。その上、茶器を目利きして高い値段を付けるのもけしからんと、これまた無茶苦茶な言いがかり。利休のやること為すこと、全てが気に入らないなんて、三成はここまで嫉妬深い小物だったのか?
淀が看破したように、三成が何を言おうが秀吉は動かなかった。秀長の遺言通り、利休を重んじるか、否か…そのことで秀吉の心は揺れていた。
利休との関係に決着を付けるため、秀吉は利休の茶室へ向かう。
「そなた、まだワシの茶頭を辞めたいか?」
「早々に…」
「どうしても、ワシの元を去るか?」
「ここで見聞きしたことは誰にも話しません」
「そのようなことではない!」怒鳴り散らす秀吉に、利休は穏やかに微笑み返す。「そうでしたなあ」
「ワシにとって、そなたは格別な人間じゃ。ワシには分からぬことを分かる。ワシからすれば、仰ぎ見るしかない人間じゃ。だから、ワシの側におってはくれぬか? ワシのそば近くで、言いたいことを言ってはくれぬか!」秀吉は天下人のプライドをかなぐり捨て、利休に頭を下げて必死に頼み込む。
「私が殿下の茶頭になったんは、あなた様が面白いお方やったからや。けど、今はちぃ~とも面白いことあらしまへん。子が出来て可愛いいて、朝鮮のお人まで呼びつけて…その上、日輪の子やなんて…片腹痛うて堪りまへんわ!」言われた通り、好き放題のことを言い放つ利休。
「そなた…」唖然とする秀吉に「言いたいことを言えと仰せでは?」と、利休は畳み掛ける。
そして遂に利休は決定的な言葉を口にする。
「私にとって大事なんは、好きか、好きでないか。私は、私が好きな人のためにだけ、茶を立てたいんですわ。私は、あなた様のために茶を立てるんが、嫌になりましたんや…」ここで利休は、秀吉が大嫌いな黒茶碗で茶を差し出す。
完全な決別宣言。ショックを受けた秀吉は絶句し涙ぐむ。
秀吉はおもむろに立ち上がり、利休に顔を寄せ、非情な命令を下す。
「ならば、望み通りにしてやろう。そなたに切腹を申し付ける。切腹じゃ…」
非情な申し渡しにも顔色一つ変えず、微妙な笑顔を返す利休。
終盤の利休と秀吉のやり取りは緊迫感に溢れていた。深い絆があるゆえ互いに反発せずにはいられない、矛盾した心情を見事に演じた石坂と岸谷。ベテラン俳優同士の真摯なぶつかり合いはやっぱり見応えある。甘口ドラマの中で数少ない、苦味ばしったコクのあるやり取りが来週で見納めとは残念な限り。泰然自若、明鏡止水、散り際の美学、それらの言葉がふさわしい利休の姿だった。いよいよ来週は利休の切腹シーンか…。で、アバンタイトルは「愛の嵐」…いよいよタイトルまで、フジテレビの昼ドラみたいになってきたな!
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