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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/5(火)クリーブランド管弦楽団/ベートーヴェン・ツィクルス《第3日》/フランツ・ウェルザー=メストの気品ある熱演

2018年06月05日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
クリーブランド管弦楽団「プロメテウス・プロジェクト」
The Cleveland Orchestra "The Prometheus Project : Beethoven"

2018年6月5日(火)19:00〜 サントリーホール B席 2階 LA1列 19番 20,000円
指揮:フランツ・ウェルザー=メスト
管弦楽:クリーブランド管弦楽団
【曲目】
ベートーヴェン:序曲「コリオラン」作品62
ベートーヴェン:交響曲 第8番 ヘ長調 作品93
ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」

 2017/2018シーズンで設立100周年を迎えるアメリカの名門オーケストラ、クリーブランド管弦楽団。ジョージ・セルなど歴代の7人の音楽監督の跡を継いでフランツ・ウェルザー=メストさんとの関係は2002年に始まり、すでに16年の長きにわたっている。このコンビでの来日公演は、2010年にブルックナーの交響曲第7番を聴いて以来で、それももう8年前のことになる。

 今回は100周年を記念する「プロメテウス・プロジェクト」と銘打って、ベートーヴェンの交響曲全曲演奏をメインに一部の管弦楽曲を5回のコンサートで演奏するというツィクルスで、本拠地のクリーブランド、ウィーン楽友協会、そしてサントリーホールで開催するという壮大なプロジェクトだ。
 しかし、ベートーヴェンの9つの交響曲を5回のコンサートで演奏するということは、第九を除けば1回あたり2曲ということになり、そうなるといささか尺が短い。そこで「プロメテウスの創造物」「エグモント」「コリオラン」「レオノーレ」の4つの序曲と「大フーガ」を加えたプログラムを構成した。本日はその第3日で、序曲「コリオラン」、交響曲 第8番、そして交響曲第5番「運命」というプログラムである。ウェルザー=メストさんの方針なのか、アンコールは行わない。従って、本日のコンサートは、慣例通りに19時5分に始まり、途中休憩20分を挟んで演奏が終わったのは20時40分だった。来日オーケストラの中でもチケットが比較的高額になるアメリカのオーケストラにしては、どうしても短時間という印象が強く、割高感が残ってしまった。もっとも、演奏がとびきり素晴らしければ、そうは感じなかったかもしれない。まあ、ベートーヴェンの交響曲などは聴く側のコチラとしても知り尽くしているので、解釈や表現を巡ってはいかなる演奏を聴いても個人的に100%満足するということは、まずない。だから仕方のないことだとは分かっているのだが・・・・。

 この「プロメテウス・プロジェクト」では、曲によってオーケストラの編成を意図的に変えている。プログラムの前半は小編成で、後半は大編成で、というスタイルを全公演で行った(ようである)。本日のコンサートを例に具体的にいうと、前半の序曲「コリオラン」と交響曲第8番は、管楽器は2管編成、弦楽5部は14-12-10-8-7という編成だった。それに対して後半の「運命」は、金管は2管編成+トロンボーン3、木管は全合奏の時だけ倍管にするという念の入れようで、弦楽5部は18-18-11-11-9という大編成だった。けっこう極端に変えているのが分かると思う。LAブロックでオーケストラの真横からステージ全体がすべて見通せていたので、ほぼ見間違いはないと思う。
 その効果はというと、それがまたちょっと不思議な感じだった。後半の大編成は、いわゆるアメリカン・ビッグ・サウンドでドッカーンと派手に行くのかと思っていたら、意外に音量を出さなかった。むしろ大編成を抑制的な演奏することによって、音の厚みを増し、ふくよかなサウンドを作りだしている。アンサンブルもそれほどカッチリ縦の線を揃えるような指揮ぶりでもないので、どちらかといえばエッジが立たないまろやかなサウンドがフワーっと立ち上がる。私はオーケストラが目の前というLAブロックで聴いていたのでそれほどでもなかったが、LCブロックで聴いていた友人によると、あたかもブルックナーの音楽のようなちょっと曖昧だが豊潤な響きに聞こえたという。どうもウェルザー=メストさんの狙いはその辺にあったようだ。

 演奏の方は、全体に共通するのはやや速めのインテンポで、サラリと流していく感じ。前述のようにサウンド的にはマイルドで、それこそウィーンの音に近いイメージだろうか。少なくとも、アメリカ的な派手な分かりやすさというのでもなく、またドイツ的な無骨さや思索的・哲学的なイメージでもない。気品があり、どちらかといえばアッサリしている。ベートーヴェンの持つ、精神性が尖っているイメージの打ち出し方ではなく、純音楽的であったように感じられた。そういえば、大編成のオーケストラでも和声のバランスは驚くほど緻密にコントロールされていて、ディテールまでしっかりと作り上げているように思えた。

 このような「草食的」ともいえるベートーヴェン像は、戦後の巨匠達の録音を聴いて育ってきた私たちの世代にとっては、いかにも軽く感じられ、精神性が乏しいような印象を持ってしまう。しかし、こうした演奏のイメージは、21世紀の新しい潮流かもしれないのだ。高齢化が進んでいるわが国のクラシック音楽ファンには、やはり巨匠の音楽が好まれるようで、海外のオーケストラに若手の指揮者が帯同して来日すると、演奏にコクがないとか、解釈が浅いなどというような批判的な声をよく聞く。ところが、ヨーロッパではウィーン国立歌劇場やベルリン・フィルにも若いシェフが誕生しているし、アメリカの名門オーケストラにも若い指揮者が次々とポストに就いてきている。おそらくは将来を見据えた変化の表れだと思われる。
 ウェルザー=メストさんは1960年生まれの58歳だから、若手でも巨匠でもなく、指揮者としては今が活動力のピークといった年代だろう。ヨーロッパやアメリカにもポストを持つ人だけに、世界の音楽シーンの動きを牽引している指揮者の1人であることは間違いない。彼の創り出す音楽には、そういった意味もあるように感じられる。クリーブランド管弦楽団もかつてのジョージ・セルが鍛え上げたバリバリのオーケストラとはすっかりイメージが変わっている。ウェルザー=メストさんとの長年にわたる関係がアメリカのオーケストラをヨーロッパ風、それもウィーン風に変えてしまった、と言ったら大袈裟であろうか。

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