Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/11(水)森 麻季ソプラノ・リサイタル/堀内康雄をゲストに日本の歌曲と『椿姫』から名曲の数々を

2013年09月13日 14時43分23秒 | クラシックコンサート
森 麻季 ソプラノ・リサイタル2013 ~愛と平和への祈りをこめて~

2013年9月11日(水)19:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 1列 17番 6,300円(夢倶楽部割引)
ソプラノ: 森 麻季
バリトン: 堀内康雄*(スペシャルゲスト)
ピアノ: 山岸茂人**
【曲目】
《第1部》~日本の美しさを求めて~
詞:野上彰/曲:小林秀雄:「落葉松」
詞:原白秋/曲:山田耕筰:「この道」
詞:三木露風/曲:山田耕筰:「赤とんぼ」
武満徹: 雨の樹素描 ~オリヴィエ・メシアンの追憶に~(ピアノ・ソロ)**
詞:北原白秋/曲:山田耕筰:「曼珠沙華」
詞:鎌田忠良/曲:中田喜直:「霧と話した」
詞:石川啄木/曲:越谷達之助:「初恋」
詞:岩井俊二/曲:菅野よう子/編曲:山下康介:「花は咲く」
《第2部》~ジュゼッペ・ヴェルディ生誕200年記念に寄せて~
ヴェルディ: 歌劇『椿姫』より
アリア「あぁ、そは彼の人か~花から花へ」(ヴィオレッタ/第1幕より)
前奏曲(ピアノ・ソロ)**
シェーナと二重唱「神様は天使のような清らかな娘を」(ジェルモン&ヴィオレッタ/第2幕より)
 「天使のように清らかな」(ジェルモン)*
 「どれほど大きな愛情が」(ヴィオレッタ)
 「いつか、愛の喜びが時と共に過ぎ去って」(ジェルモン)*
 「美しく清らかなお嬢さんに」(ヴィオレッタ)
 「どうしたらよいか、仰ってくださいまし」(ヴィオレッタ)
 「愛していない、と彼に言ってください」(ジェルモン)*
アリア「プロヴァンスの海と陸」(ジェルモン)*
《アンコール》
 ヘンデル: 歌劇『リナルド』より「涙の流れるままに」
 モーツァルト: 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』より「セレナード」*
 マスカーニ: 「アヴェ・マリア」

 世界に誇る日本の歌姫、森 麻季さんのリサイタルを聴く。森さんの出演するリサイタルやオペラなどは、東京近郊で開催されるものはほとんど聴いていると思うが、多いようで意外に少ない。毎回、強く印象に残るので、頻繁に聴いているような気がするのかもしれない。今年2013年は3月30日にフィリアホールで林美智子さんとのデュオ・リサイタルを聴いただけ。NHKニューイヤーオペラコンサートなどを除けば、その前は2012年3月に錦織健プロデュースオペラで『セビリアの理髪師』(東京文化会館)のロジーナ、さらにその前は2011年5月に千葉でリサイタルを聴いているだけだった。ほぼ、年に1回のペース。しかもサイン会などのファンとの交流もない。それでもそれぞれの公演を鮮明に覚えているのは、やはり森さんのアーティストとしての存在感が大きいからだろう。何やら批判的な評価も耳に入ってくるが、とはいうものの今日も東京オペラシティコンサートホールがほぼ満席。相変わらずの人気、なんだかんだといっても、日本を代表するオペラ歌手であることは間違いない。
 今日のリサイタルは、あえて選ばれた9月11日。12年前の「9・11アメリカ同時多発テロ」の時、森さんはワシントン・オペラに出演中であったこともあり、この日に寄せる思いが深い。また2年半前の3月11日が東日本大震災に当たることも、この日を選んだ理由の一つになっている。犠牲になられた方々に心よりの哀悼の意を込めて歌うとのことだ。
 リサイタルの前半は、森さんがずっと取り組んできている日本の歌曲を集めた。後半は、ヴェルディ生誕200年を記念して歌劇『椿姫』から名曲の数々を、スペシャル・ゲストにバリトンの堀内康雄さんを迎えてプログラムしている。堀内さんは国内では最高のヴェルディ・バリトンだと思うが、最近ちょっと藤原歌劇団のオペラ公演にご無沙汰してしまっているため、このところあまり聴いていない。やはりNHKニューイヤーオペラコンサートを除けば、錦織健プロデュースオペラの『セビリアの理髪師』でフィガロを歌った時以来となる。


 さて前半は、日本の歌曲。今日のプログラムに組まれている曲はすべて、昨年2012年末にリリースされたのCD『日本の歌 ~花は咲く』に収録されている。ほとんどがビアノ伴奏による歌唱(しかもピアノは山岸茂人さん)なので、今日の演奏と同じだ。
 森さんの歌唱は、最初はかなり抑え気味に始まる。最前列の正面で聴いていてもちょっと頼りないくらい。もちろん、日本の歌曲をオペラのアリアのように歌う必要もないので、しっとりとした味わいの方が良い。ただ、後方の席の人はどう聞こえたのか、ちょっと心配である。
 「落葉松」「この道」「赤とんぼ」と続き徐々に調子が上がってきた。森さんの声は、やはり素敵だ。澄みきった歌声はこの人天性の美しさ。そしてテクニック。テクニックというと超絶技巧のようなイメージになるが(もちろんコロラトゥーラ・ソプラノの一級品でもあるが)、日本の歌曲を歌うときは、音楽的であると同時に日本語の抑揚が美しくフレージングされるといった表現上のテクニックのことである。多くの日本人の声楽家が日本の歌曲を歌っているが、どうしても西洋的な発声・呼吸や歌唱の技法がやや日本的なものをスポイルしてしまう傾向がある。その点、森さんの歌唱は、美しい日本語の、日本的な自然な歌い方だと思う。山岸さんのピアノもとても日本的。優しくてちょっと侘びしげな音色である。
 山岸さんによるピアノ・ソロで武満徹の「雨の樹素描」をはさみ、「曼珠沙華」ではちょっと力を入れると、ピーンと張りつめた声に変わり、ホール空間に沁み通っていく。「霧と話した」は悲しい歌だが、これほど綺麗な声で歌われると涙が出てくる。「初恋」は極端に遅いテンポで、遠い過去の叶わなかった初恋の思いが切々と歌われた。心に染み入る切なさ・・・。
 前半の最後は、東日本大震災復興ソング「花は咲く」。すべての悲しみを受け止めて心が洗われていくような・・・・。いつか悲しみを乗り越えられる時が来ることを信じたい。

 後半はガラリと様相が変わって、オペラの世界へ。プログラムは『椿姫』から、まず第1幕終盤のヴィオレッタのアリア「あぁ、そは彼の人か~花から花へ」。よくよく考えてみると、森さんの『椿姫』はオペラの本編では聴いたことがなかったような気がする。逆にリサイタルなどでこの曲については何度も聴いている。後半になると発声の方法がオペラ歌手のものになって、遠くへと飛ばすような歌い方に変わった。透き通った声の美しさは変わらないが、1本芯が通ったみたいな力感が伴う。コロラトゥーラ的な装飾的歌唱も軽やかだし、フレージングにも情感が込められていて、やはり一級品の歌唱だと思う。最後のハイDも決めて、見事なプリマ・ドンナの歌唱であった。
 続いては、第2幕第1場の中盤、父ジェルモンがヴィオレッタの館を訪ねてきてから去るまでのシーン。スペシャル・ゲストの堀内さんとの二重唱となる。やはりこの役をやらせたら堀内さんの右に出るものはいないだろう。声の調子は必ずしも本調子ではなかったようだが、腹の底から絞り出すような迫力のあるバリトンはさすがのもの。時には憎々しげに、時には哀れを誘うような、感情の表出は見事なもので、久しぶりにまとめて聴いた堀内さんだったが、またこの人のオペラを観たくなった。森さんとの二重唱ともなると、堀内さんの声量が勝っているくらいだが、この辺りのバランス感覚は、オペラ本編だったとしても違和感のないレベルだ。森さんの方は、「あぁ、そは彼の人か~花から花へ」の大アリアよりも、第2幕の方が切なげで可憐な立ち姿がよく似合うような気がした(ちなみに前半とは衣装替えしていて、ステージドレスというよりはヴィオレッタの役柄に合わせた白いドレスだった)。
 後半の最後は、ちょっと異例の扱いだと思うが、堀内さんによるアリア「プロヴァンスの海と陸」。こちらも彼の十八番! 豊かな声量と悩める心情の表現が巧く、圧倒的な存在感を見せた。

 リサイタルがゲストの独唱で終わることはありえないから、当然のアンコール。森さんは再度衣装替えして艶やかに登場した。
まずはヘンデルの「涙の流れるままに」。この曲は森さんの十八番だ。ゆったりとしたテンポで歌われるバロック・オペラの名曲だが、彼女の美しい声で「私を泣かせてください」と歌われたら、世の男性諸氏は一緒に泣いてしまうのではないだろうか。
 次に堀内さんのソロでモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』より「セレナード」。これは意外な選曲。堀内さんのドン・ジョヴァンニ・・・・ちょっとイメージしにくいものがあるが、これもオペラ本編で観てみたいものだ。
 最後の最後は、マスカーニの「アヴェ・マリア」。清らかな歌声、最後はピアニッシモで長く伸ばした声に会場が息をのんで聴き入っていた。Brava!!

 森 麻季さんのリサイタルとなると、いつものコンサートとは客層がやや違っていて、オペラ・ファンが多くなるのだろうか、セレブっぽい人が多い。知っている人とは誰とも会わなかった。一般の(?)クラシック音楽・ファンの間では、声楽家のリサイタルはちょっと分野が違うイメージで、さらに日本の歌曲中心のプログラムのリサイタルは意外と敬遠されるかもしれない。小学校唱歌や童謡のように思える曲名が並んでいると、どうしてもお金を払ってまで・・・・という気分になるらしい。ところが実際に森さんのクラスの歌唱で聴くと、日本の歌曲の名曲たちがいかに素晴らしいものなのかがよく分かるようになる。とくに今日は「初恋」が素晴らしかった。今日の曲の他にも、「からたちの花」や「浜辺の歌」など素敵な歌唱がたくさんある。まだ聴いたことがない方は、ぜひ一度、聴いてみて欲しい。

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