Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

7/13(水)小林愛実リサイタル/平日午後の横浜で聴くフレッシュなショパンの「24の前奏曲」

2016年07月13日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
別冊 アフタヌーンコンサート Vol.2
小林愛実 ピアノ・リサイタル


2016年7月13日(水)13:30〜 横浜みなとみらいホール 指定 1階 C2列 18番 4,300円
ピアノ:小林愛実
【曲目】
ラヴェル:水の戯れ ホ長調
リスト:巡礼の年第2年「イタリア」より「ペトラルカのソネット 第47番」
    巡礼の年第2年「イタリア」より「ペトラルカのソネット 第104番」
    巡礼の年第2年「イタリア」より「ペトラルカのソネット 第123番」
リスト:ダンテを読んで〜ソナタ風幻想曲
ショパン:24の前奏曲 作品28
《アンコール》
 ショパン:マズルカ 第13番 イ短調 作品17-4
 ショパン:ノクターン 第20番 嬰ハ短調(遺作)

 横浜みなとみらいホールで開催される平日のアフタヌーンコンサート。昨年開催され、多くの日本人がエントリーした「第17回ショパン国際ピアノ・コンクール」で日本人でただ一人のファイナリストとなり、それまでの天才少女ぶりから大きく飛躍した評価が得られた小林愛実さんのリサイタルである。
 プログラムは、前半がリストを中心とした技巧的なもの、後半はショパンの「24の前奏曲」全曲である。あえてオール・ショパン・プログラムにせずにリストやラヴェルを選んだところに、彼女の意気込みが感じられる。彼女の演奏はこれまで一度だけ聴いたことがあるが、それは今年2016年2月の東京フィルハーモニー交響楽団の「東京オペラシティ定期シリーズ」でのこと。桂冠名誉指揮者理チョン・ミョンフンさんがモーツァルトのピアノ協奏曲第23番を弾き振りすることになっていたのに、指の故障でピアノ独奏の方がドタキャンとなり、急遽代役に立ったのが彼女だったのである。その時はおそらく本当に急に決まった演奏だったらしく、端正にまとめ上げたモーツァルトという印象で、むしろソロ・アンコールで弾いてくれたショパンの遺作のノクターンの方にこそ本来の姿が現れているように感じたものである。というわけで、今日はソロのリサイタル。彼女自身の音楽をたっぷりと聴かせていただけるはずなので、無理を押して平日のマチネーに横浜まで脚を伸ばすことになった(もちろん、チケットは発売日にしっかり押さえておいたのだが)。

 さて今日の演奏をざっと概観してみよう。
 1曲目はラヴェルの「水の戯れ ホ長調」。気負いのない可憐なタッチで、比較的狭いダイナミックレンジの中に、キラキラと煌めく音の粒を集めている。音が透き通っていて、向こう側が見えるような・・・そんな印象である。

 続いて、リストの巡礼の年第2年「イタリア」より「ペトラルカのソネット 第47番」、「ペトラルカのソネット 第104番」、「ペトラルカのソネット 第123番」の3曲を続けて。描写的で抒情的な旋律が、美しくしっとりとした音色で描き出されていく。音質に関しては美しく澄んでいて、水が流れ飛び散るよう。高音域の弱音がとくに繊細で綺麗な反面、低音部はホールの長い残響に飲み込まれて濁って籠もりがちなのが残念。解釈と表現の方は素晴らしく、物語性を感じさせる語り口でテンポもフレージングも自在に変化し淀みなく流れていく。完全に自分の世界観を持っていて、抒情的な表現が素晴らしい。

 前半の最後は、リストの「ダンテを読んで〜ソナタ風幻想曲」。陰鬱で重苦しい曲想に対して、愛実さんのピアノが先ほどまでとはまったく違った表情を見せる。広いダイナミックレンジ、立ち上がりの鋭い打鍵、縦横に駆け巡る技巧的なフレージング。力強く、スケール感の大きな、ドラマティックな演奏である。中間部では、高音部の弱音が非常に繊細なタッチで微細なニュアンスで描かれ、ロマンティックな旋律が切なげに歌われる。中盤や終盤の激しい曲想の部分では、強い打鍵と強靱なリズム感による躍動的なフレージングが素晴らしい。しかしここでも、低音部の分離の効かない残響のせいで、音が籠もってしまうのが惜しく感じられた。

 プログラムの後半は、ショパンの「24の前奏曲 作品28」全曲である。愛実さんについてはどうしても天才少女・・・子供・・・のイメージで捉えてしまっていたのだが、20歳を過ぎた今、驚くべきほどの大人っぽい表情を見せる(もちろん演奏の上で)。ショパン・コンクールのファイナリストという結果が生み出した自信なのか、あるいは悔しさなのか。ピアノに関しては私はまったくの素人なのだが、それでも感じるのは、愛実さんの演奏は同じ世代の音大生たちとは世界観が違うように感じられる。
 ショパンを聴く限りでは、音は柔らかく、深い。柔らかなタッチで音が流れるようにつながっていく。全体に美しくレガートがかかったような連続性があり、それが旋律を大きく歌わせ、豊かな表情を作っていく。描かれている抒情性には、少女のような清らかささえ感じられるのである。実際にはかなりねっとりした濃厚な描き方をしているのだが、それがまたごく自然な雰囲気を醸し出しているから不思議だ。

 アンコールは2曲。やはりショパンだ。1曲目は「マズルカ 第13番 イ短調 作品17-4」で、哀愁を帯びたロマンティックな表現が優しく、哀しげで素敵だ。最後はお決まりの「ノクターン 第20番 嬰ハ短調(遺作)」。ねっとりと、濃厚な語り口で、奥深い表現。普通に考えるとやり過ぎっぽいところだが、愛実さんだと何故か嫌らしく感じない。素晴らしいノクターンであった。

 それにしても・・・・横浜みなとみらいホールはピアノのリサイタルには向いていない。ピアノの音量で後方席まで音が十分に届くかどうかは別として、このホール特有の音が濁って籠もるように響き、とくに低音部は音が混ざりあって分離せず一塊になってしまう。これではせっかくの美音も台無しといった感じで、後方や2階の席ではどうなるのか心配に思った。

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