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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

4/19(火)読響名曲シリーズ/ウィーンの音楽史に燦然と輝く「ジュピター」と「ヴォツェック」の組み合わせ

2016年04月19日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
読売日本交響楽団 第591回 名曲シリーズ

2016年4月19日(火)19:00~ サントリーホール S席 1階 3列 20番
指 揮:下野 竜也
ソプラノ:エヴェリーナ・ドブラチェヴァ*
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:小森谷 巧
【曲目】
J.S.バッハ:「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」より第24番 前奏曲 ロ短調 BWV869(弦楽合奏版)
ベルク/フォン・ボリース編:パッサカリア
ベルク:歌劇『ヴォツェック』から3つの断章*
モーツァルト:交響曲 第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」

 4月から新年度(2016/2017シーズン)に入る読売日本交響楽団は、定期シリーズが新編成へと変わった。サントリーホールにおける「定期演奏会」と横浜みなとみらいホールにおける「みなとみらいホリデー名曲シリーズ」はそのままだが、「サントリーホール名曲シリーズ」がただの「名曲シリーズ」に名称変更、東京芸術劇場における「読響メトロポリタン・シリーズ」が「土曜マチネーシリーズ」へ、「東京芸術劇場マチネーシリーズ」が「日曜マチネーシリーズ」へと変わり、『東京オペラシティ名曲シリーズ」と「読響カレッジ」はなくなり、「パルテノン名曲シリーズ」が新設された(パルテノン多摩)。またよみうり大手町ホールの「読響アンサンブル・シリーズ」と「大阪定期演奏会」は継続される。
 私にとっては、読響の2016/2017シーズンは今日の「名曲シリーズ」が最初に当たる。指揮するのは、首席客演指揮者の下野竜也さん。今シーズン末で同ポストを退任することが決まっていて、今年は今日が最後の出演となるそうだ。
 今日のプログラムは、前半のベルクは「名曲シリーズ」にはちょっと珍しい曲を並べた。下野さんらしい選曲である。後半のモーツァルトの「ジュピター」は名曲中のない曲のひとつだろう。コントラストの際立つプログラムである。古典派の形式を熟成させ、ウィーン楽派の伝統を確立したのがモーツァルトで、最後の交響曲「ジュピター」は最高傑作。一方のベルクらの新ウィーン楽派は、古典派~ロマン派の音楽を破壊していくことで新しい音楽の可能性を追求していった。代表作がオペラ『ヴォツェック』であろう。ともに時代の頂点に立ち、新しい時代への橋渡しをした作品ということでの共通点ということのようだが、・・・・ちょっと無理があるかなぁ。

 さて、プログラムの開始に先立って、熊本の震災の犠牲者を悼み、バッハの前奏曲が演奏された。「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」の第24番、ロ短調の前奏曲の弦楽合奏版。多分ストコフスキーの編曲だったと思う。静かに拍子を刻む通奏低音に乗せられるヴァイオリンの調べは悲しみを湛え、美しく透明な弦楽のアンサンブルが切なげであった。

 1曲目は、ベルク/フォン・ボリース編の「パッサカリア」。新ウィーン楽派として知られるアルバン・ベルクは1910年代に管弦楽作品を手がけるようになり、この「パッサカリア」に着手したが、完成に至らなかった(1913年)。残されたスコアの下書きやスケッチ等が研究され、20世紀末になってドイツの作曲家・指揮者のクリスティアン・フォン・ボリースが演奏可能なカタチに完成させた。だから編曲版なのである。わずか5分くらいの曲だが、3管編成規模+打楽器群、シロフォン、チェレスタ、ハーブなどを含む大編成オーケストラだ。
 21音からなる主題が低弦で提示され、様々な変奏として展開していく。この手の曲は下野さんの得意分野だろう。端正で的確な指揮ぶりで、読響から緊張感の高い、それでいて極めて透明なイメージの音を引き出していた。ある一定の「暗さ」を維持してモノトーンのイメージをベースとしながら、その中でトランペットを始めとする金管や、コールアングレ、チェレスタなどが霧の中に浮かぶような曖昧な色彩感を描き出している。最後の変奏に入ると唐突に曲が終わるのは、未完だからなのであろう。不思議な余韻を残すことになるのが、とても趣がある。

 2巨期目は、ベルクの最高傑作であろうオペラ『ヴォツェック』から「3つの断章」。今でこそ20世紀を代表する現代オペラの傑作とされている『ヴォツェック』だが、完成した1922年当時には世間にまったく受け入れられず、上演できない状態が続いた。そこでベルクは、楽曲の認知度を上げるために、登場人物を一人(マリー=ソプラノ)に絞り込み、ソプラノ独唱を伴う演奏会用組曲に編曲した。オペラは3幕15場の構成で上演には1時間35分程度かかる作品だが、その中から3箇所を切り出して編曲したので「3つの断章」ということになる。
 ソプラノ独唱は、ロシア出身のエヴェリーナ・ドブラチェヴァさん。大柄な体型から繰り出す歌唱はドラマティック系で、立ち上がりの鋭い芯の太い声質で、声量もあり、魂の葛藤や行き場のない感情の発散を歌う表現力もなかなか素晴らしい。物語の持つ、どうしようもなく暗く絶望的な情感を見事に歌い上げた。とくに第2曲、オペラでは第3幕第1場のマリーの独白が見事であった。第3曲(オペラでは第3幕の第4場と第5場)では、マリーはすでに殺された後なので、ドブラチェヴァさんは一旦退場し、ステージ下手側の端の方で、ラストシーンの子供たちの役を歌った。
 読響の演奏については、下野さんがうまくコントロールして、4管編成の大オーケストラを抑制的に支配していた。歌唱が入る部分については尚更である。その抑制的な部分がエネルギーを溜め込んで行くように盛り上がっていき、クライマックスでは読響らしい番音が轟く。このダイナミックレンジはかなり広い。ピーンと張り詰めたような緊張感が終始漂い、引き締まった素晴らしい演奏だったと思う。

 後半は、ウィーン古典派の集大成ともいうべき、モーツァルトの交響曲 第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」。それこそ学生の頃から何度聴いたか見当もつかないくらいの名曲だが、そういえば最近あまり聴いた記憶がない。そこで調べてみたら前回聴いたのは5年も前の2011年10月、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキさんの指揮するザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団(世界一長い名前の指揮者とオーケストラの組み合わせ?)の来日公演であった。まあ、5年間くらい聴かなかったからといって忘れてしまうような曲ではないので、久し振りの「ジュピター」を楽しむとしよう。
 珍しく、前半とは弦楽の配置を変えてきた。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを対向に配置し、第1の後ろにヴィオラ、第2の後ろにチェロとコントラバスがいる。この配置で聴く読響というのも、あまりなかったような気がする。
 第1楽章が始まる。下野さんらしく、縦の線がピタリと合ったキレのあるリズム感で、ダイナミックに音楽を構築していく。弦楽のアンサンブルがとても美しく透き通っている印象で、いつものパンチのある読響サウンドとはひと味違っているような気がした。木管群(フルート、オーボエ2、ファゴット2)とのバランスも良い。金管(ホルン2、トランペット2)が刻むりずむも軽快で淀みない。ティンパニも確固たるリズムを打ち出している。演奏は良いと思うのだが、何だか今日は、サントリーホールが響き過ぎるような気がして・・・・。長い残響音が、ナマの音に覆い被さり、本来は澄んだ音色が聞こえているはずなのに、少々モヤモヤした感じに聞こえてしまっていた。
 第2楽章は緩徐楽章。Andante Cantabileである。下野さんは、やや速めのテンポを採り、リズミカルにスイスイと曲を運ぶ。リズム感のキレが良い下野さんならではの演奏だ。個人的にはもう少しCantabileを効かせる方が好きなのだが・・・・。
 第3楽章はメヌエット。この時代のモーツァルトになると、形式的にはメヌエットだが、典雅な舞曲のイメージはかなり薄れて、管弦楽曲としてのダイナミックな曲想になっている。ティンパニによるリズム感の強調が、かえって現代的な雰囲気を生み出していたが、やはり今日はちょっと響き過ぎる。
 第4楽章は速めのテンポで切れ味鋭く、有名な「ジュピター音型」が提示され、華々しい展開を見せる。ここで速めのテンポが縦の線を多少乱れさせたような・・・。展開部のフガートで弦楽の配置を変えたステレオ効果がやっと現れて来た。下野さんの指揮は、終始前のめり気味のテンポ感で、快走していく。曲のイメージは素晴らしいのだが、オーケストラ側が必ずしもその想いを表現し切れていたかというと、やや疑問が残る結果になったような気がする。今日は日本テレビの収録が入っていたが、恐らく多チャンネルでの録音で聞けばアンサンブルはピタリと合って聞こえると思うが、会場で聴いていると、どうしても低音(コントラバスやティンパニ)がが遅れて飛んで来る印象がしてしまう。やはり今日のサントリーホールは響き過ぎのような気がした。

 演奏我終わった後、下野さんがマイクを持って、熊本の震災について振れ、義援金の募金を呼びかけた。楽団員の皆さんもロビーに出て来られて、募金が集められていた。私も些少ではあるが協力した。熊本を中心に現在もなお進行形で震災が続いている。この後、音楽界にも何らかの影響が出てくるだろう。自信は大分県の方まで広がっているというので、ゴールデンウィークから始まる「宮崎国際音楽祭2016」や「別府アルゲリッチ音楽祭2016」も心配になるし、夏には「霧島国際音楽祭2016」もある。演奏家の皆さんは音楽を演奏することで、私たちはそれを聴くことで、少しでも被害に遭われた方たちのお役に立てれば良いのだが・・・・。

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