徒然なるままに修羅の旅路

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悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Dance with Midians 4

2014年11月06日 22時19分35秒 | Nosferatu Blood LDK
 
   †
 
「おやすみ、おっさん」
 その言葉とともに――ライフルを手にした男が口から泡を吹きながら床の上に崩れ落ちる。その手の中から銃を抜き取って、アルカードは立ち上がった。
 手にしたライフルを銀玉鉄砲かなにかみたいに片手で据銃し、発砲――ぱあんという銃声が鼓膜を震わせ、小気味いい反動が肩を突き抜けた。耳を聾する轟音に驚いて、小雪の抱いていた犬がびくりと体を震わせる。カウンター越しに飛翔した銃弾がバックヤードから姿を見せた目出し帽を持った男の肩のあたりを直撃し、そのまま派手に薙ぎ倒した。
 ぱっと宙に血が舞って、一箇所に集まっていた客たちから悲鳴があがる。
 当たりどころが悪かったのか、腕がちぎれたりといった致命的な損傷にはなっていない――否、本人にとっては幸運だったのかもしれないが。いずれにせよ、反撃の能力を残している。
 だがどうでもいい――仮に意識が残っていても、即座に反撃に移ることは出来まい。
 しっ――アルカードが歯の間から吐き出した呼気が、そんな音を立てる。もうひとりの見張り役が手にしたショットガンのトリガーを引くより早く、アルカードは手にしたボルトアクション・ライフルのストックを使ってその銃口を頭上に撥ね上げた。踏み込みながらライフルのバットストックで打擲を加える、銃剣格闘術に近い技術だ――GIGNで教わったときは、それが役に立つ日が来ることになるとは想像もしなかったが。
 ショットガンが火を噴き、耳を聾する轟音が局内に響き渡り――無数のバックショットが天井にいくつも穴を穿つ。
 だが問題無い。壁に向かって発砲されれば跳弾の可能性もあるが、モルタルの天井に着弾すれば天井を貫通したときに威力の大部分を殺がれて、ほとんど殺傷力は残っていない。仮に跳ね返っても、もう一度天井を貫通することで威力はさらに減殺される。負ったとしても掠り傷だ。
 そして、これでもうショットガンは脅威ではない――レミントンもモスバーグも、いずれもポンプアクションだ。つまり、手動で排莢と再装填を行わなければならない――操作させなければ次弾つぎは無い。
 続いてレシーヴァーのフォアストックから左手を離し、右腋の下から手を伸ばす――次の瞬間には男のオーヴァーオールの胸元を掴んで強く引きつけている。銃口を撥ね上げる動きから連続して繰り出した肘撃ちが、ちょうどカウンターの様な形で目出し帽の上から男の顔面に突き刺さった。
 短い悲鳴とともに――上唇と鼻柱を叩き潰された男が、その場で頭をのけぞらせる。次の瞬間にはがら空きになった喉笛を叩き潰す様にして、ライフルのストックが男の首に撃ち込まれている。
 さっきのお返しだ――胸中でつぶやいて、アルカードは棒きれの様に振り回したライフルの銃身で男の頭部を薙ぎ倒した。撃ち倒された男が書類記入用のカウンターに後頭部から激突して、そのまま動かなくなる――床の上に仰向けに倒れ込んだ男の顔面をブーツの踵で踏み抜いてとどめを刺し、アルカードは背後を振り返った。
「しばらく寝てろよ、おっさん」
 カウンターのところで女性局員がボストンバッグに金を詰めるのを見守っていた最後のひとりが、アルカードに向かってショットガンの銃口を向けようとしている――ショットガンは弾頭が拡散する様にして発射されるので、多少雑な照準でも命中が見込める。反動に耐えられるだけの態勢が整えば、この状況からでも射撃は出来る。
 が――
 肩越しに振り返り、ショットガンを手にした男の姿を完全に視界に入れたところで、アルカードは唇をすぼめた。男はサングラスやゴーグルなど、目を保護するものをつけていない。ならば――これで十分だ。
「がっ――」 短い悲鳴とともに、男がショットガンを取り落とした。右目を押さえて、数歩後ずさる――なにをされたのかもわからなかっただろうが、どうでもいい。
 男はズボンのベルトの内側に、トカレフTT自動拳銃――グリップに星のマークが入っているから、中国製の黒星ヘイシンというコピー製品だろうが――を差し込んでいる。
 トカレフには安全装置が無いので、コンバットロードのハンマーコックドで安全に携行する方法は無い――安全に携行する方法は二種類、薬室を空にするか、薬室に装填された状態で撃鉄を倒して持ち歩くしかない。
 とはいえかなりトリガーが重いので、取り扱いを間違わなければそうそう暴発することも無いが――手動式安全装置マニュアルセイフティーロックを備えていないのは可動部分を極力減らすことで凍結などによる動作不良の可能性を抑えるためで、暴発の危険性を度外視しているわけではないのだ。
 だが男がベルトに挟み込む様にして帯びているトカレフは、撃鉄が倒れたままになっている――薬室を空にした状態で携行しているのか、それとも安全装置が無いから撃鉄を手動で倒すことで安全性を担保しているのか。
 そしてそのどちらであれ、射撃に入る前にワンアクション必要になる。映画でよくやる様にわざわざ射撃直前にこれ見よがしにスライドを引いて初弾を薬室に送り込むか、もしくは手で撃鉄を起こすか。
 薬室に装填済みかどうかはわからないが、撃鉄は倒れている――ということはダブルアクション機構を備えていないトカレフの場合、最低限撃鉄を起こす動作は絶対に必要だ。つまり、射撃に両手が要る。
 一応片腕だけは潰しておくか――胸中でつぶやいて、アルカードは右手を閃かせた。
「あがぁぁぁっ!」 ショットガンを取り落とした男が、今度は右手首を押さえて悲痛な悲鳴をあげる――そのままよろめいてカウンターに寄りかかった男の右手首に、金色に輝くテーパー状の物体が突き刺さっていた。
 天井の蛍光燈の光を照り返して、金色に輝くなにか――それが薬莢に収まったままの弾薬だと理解した者は、その場に何人いただろう。
 次の瞬間にはアルカードは男に肉薄して顔面を鷲掴みにし、そのまま足を刈り払って押し倒している。百キロを超えるアルカードの体重に押し倒されて、男の頭が後頭部から床に叩きつけられる鈍い音が聞こえてきた。
 これで三人――その場で立ち上がり、アルカードは先ほどライフルの男を倒したときに掠め盗った七・六二ミリ口径のライフル弾の残り数発を足元に投げ棄てた。
 あとひとり――カウンターの向こうで先ほどライフルで撃たれた男が、銃を手に立ち上がりかけている。アルカードはそちらに視線を据えて、カウンターを飛び越えるためにリノリウムの床を蹴った。
 
   †
 
 ポンプアクション式のショットガンを手にした男を倒したところで、アルカードが背後を振り返った――カウンターのそばで女性職員が帯封で留められた紙幣をボストンバッグに詰め込むのを監督していた男が、アルカードに向かって手にしたショットガンを据銃している。
「アル――」 アンが声をかけようとするより早く――短い悲鳴とともに、男がショットガンを取り落とした。
 アルカードが続いて左回りに上体をひねり込みながら左腕を振るい、右目を手で押さえて悲鳴をあげている男に向かって、もう一撃攻撃を加えた――のだろう、たぶん。
 男は今度は右手首を押さえて、その場でカウンターに寄りかかった――そのときになってようやく、足元に飛んできたピンク色の小さな塊がそばの観葉植物の樹脂製の鉢に当たって音を立てる。
 しばらく注視して、アンはそれがなんであるかに思い当たった。先ほどアルカードが口に入れていた飴玉――それを含み針の様にして、男の右目に向かって吹きつけたのだろう。
 アンは再び、アルカードの前でカウンターに寄りかかっている男に視線を戻した。男の手首に金色に輝く小さな物体が、針の様に突き刺さっている。
 ふっ――短く呼気を吐き出しながら、アルカードが床を蹴った。彼はあっという間に男の眼前まで間合いを詰めると、右手で顔面を鷲掴みにして足を刈り、そのまま押し倒して後頭部から床に叩きつけた。
 アルカードはああ見えて体重が百キロを超えるので、この一撃は相当堪えるだろう――それはわかっているのか、アルカードはとどめを刺そうとはせずにそのまま立ち上がった。カウンターの向こう側で起き上がろうとしている、さっきアルカードにライフルで撃たれた男に向き直る。
 左手を軽く振って、アルカードが左手で保持していた金色の棘の様な物体を足元に投げ棄てた。床の上で跳ね回り、一瞬だけ天井の照明を反射してまばゆく輝いたのは――薬莢がついたままの・三〇八ウィンチェスター、NATO規格の七・六二ミリ口径ライフル弾だ。
 いつの間に掠め盗ったものか、先ほど最初に倒したライフルの持ち主から奪い取ったものだろうライフル弾を投げナイフの様にして投げつけたのだ。
 彼はカウンターを飛び越えると、彼ではなくアンたちのほうにショットガンの銃口を向けている最後のひとりへ襲いかかった。
 自分たちに銃口が向けられているのに気づいても――もはやなにも出来ない。男の指はすでにトリガーにかかっている。
 目出し帽の下の男の口元がゆがむのが、妙にはっきりと見えた――嗤ったのだ、きっと。
 だが、結局男は手にしたショットガンを撃つことは出来なかった。
 なにをしたのかはわからない――だが、アルカードが左腕を振るった瞬間、銀色の閃光が一瞬だけ宙を裂いた。
 そのあとのことはよくわからない――今にもトリガーを引かれようとしていたショットガンは結局火を噴くこと無く、続いて金と黒の影と化したアルカードが銃の間合いの内側に踏み込む。
 反撃は無論のこと、男が反応するいとますら与えない。アンの動体視力では、なにをしたのかも理解出来なかった。続けて繰り出した一撃によって男の体は派手に吹き飛ばされ、デスクのひとつに背中から激突して動かなくなった。
Wooooaaaraaaaaaaaaaaaalieee――オォォォォォアァァラァァァァァァァァァァァァァァラァイィィィ――」 縦拳を撃ち込んだままの姿勢で声をあげ、アルカードは構えを解いた。
 デスクに叩きつけられて動かなくなった男を見遣り――アルカードが小さく息をつく。彼はそのまま男のそばに歩み寄ると、上体をかがめて男に手を伸ばした。カウンターの向こうに隠れて見えなかったが、アルカードが引き剥がした目出し帽を肩越しに投げ棄てたので、男の顔を隠す目出し帽を剥ぎ取ったのだとわかった。
 べちゃりという湿った音が聞こえてきたことから推すに、男が吐血していたから窒息を防ぐために剥ぎ取ったのだろう。
 すでに犯人エクスレイ全員が無力化ニュートラライズされたので問題無いだろうと判断し、立ち上がってよく見ると、男の胸部がまるで破城槌ラムでも撃ち込まれたかの様に陥没しているのがわかった。顔の下半分はまだら色の血で濡れ、もはや動くこともかなわずに細かな痙攣を繰り返している。口蓋から吐き散らされた血が、目出し帽を湿らせていたものの正体だろう。
 四人全員が制圧されたからだろう、それまでおとなしく椅子に座っていた局員と客たちが立ち上がった。
 歓呼の声をあげている者もいれば、アルカードに恐怖の視線を投げている者もいる。それらの視線を歯牙にもかけず、アルカードはカウンターを飛び越えてロビーに出てきた。足元に駆け寄ってきた仔犬を抱き上げて耳元をくすぐりながら、
「小雪ちゃんは?」
「大丈夫、寝てるだけ。怪我は無いと思う――警察、まだ来ないかしら?」
「じきに来るだろう――局員の誰も通報してなくても、外で銃声を聞いた奴らが通報するはずだ。通常勤務の警官はもう退勤してる時間帯だから、多少初動は遅れるかもしれないがな」
 そうね、とうなずいて、アンは小雪の体を抱いたまま立ち上がった。
「警察が来る前に帰りたいな――しばらく帰してもらえなくなるだろうし。ああちょっと、そこの局員さん、さっきの俺の書留を――」
 サイレンの音が聞こえてきたことに嫌な顔をしながら、アルカードが局員のひとりにそんな声をかけている――とにかくさっさとここから脱出したいらしい。
 アルカードは市警の元署長である神城忠信と彼が現役であったころから親しく、警察には顔が利く。ローマ法王庁大使館を通じて日本政府から警察の捜査を抑え込んでもらうことも出来るので、アルカードが警察に煩わされる状況というのはまず無い。ただ本人がその特権を行使することを嫌っているのだ。
 声をかけられた局員が、カウンターの中に戻って荷物を探している――犯人たちが発砲したときにどこかに置いたのかを失念したのか、なかなか見つからない様だった。
 早くしてくれないかなー、とアルカードがつぶやく。しかし残念なことに、そのつぶやきを漏らしたときにはサイレンの音は郵便局の前に到達していた。
 硝子製のドアを蹴破らんばかりの勢いで、数人の警察官が駆け込んでくる。銃を持っていないのは、出ていった客にすでに犯人が制圧されたと聞かされているからだろう。
 先頭にいた若い巡査に視線を留めて、アルカードが気楽に片手を挙げた。
「こんばんは、中村さん。お疲れ様です」
「ドラゴスさん? なんでここに? スカラーさんも、ていうか小雪にシロまでなんでここに」 アルカードが片腕で抱いた仔犬に視線を向けて、警察官がそんなことを言ってくる。
「知り合いか?」 同僚らしい警官が、アルカードが中村と呼んだ警官にそう声をかけた。
「ああ、俺の家の近所の人だ」
 アルカードが声をかけた警察官は、小雪の父親だった――ちなみにスカラーというのはアンの姓だが。アンが小雪を抱いているのを目にして、中村はこちらに近づいてきた。
 おまえの名前シロって言うのかー、と白毛に茶色が混じり始めた仔犬を高い高いしながらそんなことを話しかけているアルカードに、中村の同僚の警官が声をかける。
「これは、貴方が?」
「ええ、まあ一応」 そう答えてから、アルカードは中村に視線を戻した。
 小雪が目を覚まさないのを心配しているのか不安げな表情を見せている中村に、アルカードが声をかける。
「大丈夫、眠ってるだけです」 アルカードの返答に、中村がほっとした様子を見せた。
「おい、涼ちゃん。頼むから手伝ってくれよ」
 倒された犯人たちを搬送する準備をしていた警官のひとりが、中村にそう声をかける。
「ああ、すまない」 そう返事をして、中村はアンに視線を向けた。
「すみません、スカラーさん。もうしばらく娘のことをお願い出来ませんか?」
「はい」 そう返事をすると、中村は安心した様に笑みを見せて同僚の作業を手伝いにかかった。

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