徒然なるままに修羅の旅路

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悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Dance with Midians 5

2014年11月06日 22時19分55秒 | Nosferatu Blood LDK
 
   †
 
「おい、涼ちゃん。頼むから手伝ってくれよ」
「ああ、すまない」
 同僚の言葉に中村はあわててうなずくと、
「すみません、スカラーさん。もうしばらく娘のことをお願い出来ませんか?」
「はい」 アンがうなずくと、中村は安心した様な笑みを見せてカウンターの奥に入っていった。
「ねえ、アルカード。わたしたちはどうしようか?」
「さあ? 君は帰ってもいいと思うがね――小雪ちゃんは俺が警察署に連れて行って、奥さんに引き渡せばいい。中村さんが直接知ってるんだから、事情聴取したければあとからいくらでも呼び出せるだろ」 そして俺はもはや逃れ様が無いな――投げ遣りにつぶやいて、アルカードが適当に肩をすくめる。
「俺は立場上、残ってるしか無いだろうな。目撃者が山ほどいる上に知り合いがここに来ちまった以上、簡単に特定されちまう」 小声でそう付け加えて、アルカードはお世辞にも乗り気には見えない様子で長椅子に腰を下ろした。
「まあ、中村さんに声をかければ帰らせてくれるだろ。帰ったら、俺の部屋にフリドリッヒとエレオノーラがいるはずだから、俺はしばらく戻らないと伝えといてくれ」
「なんであのふたりがアルカードの部屋に?」
「今頃ゲームでもやってるんじゃないか――電気代の無駄遣いの罰に、エレオノーラには晩飯作らせてきたし」
「なんのゲーム?」
「メタルギアソリッド3」
「ああ」 納得の声をあげながら、アンはアルカードの隣に腰を下ろした。いい加減疲れてきたので、小雪の体を椅子に寝かせてやる。
「あれ面白いのかしら?」
「好みに合うかどうかはまあ別として、面白いぞ。野戦技術の参考にはならないけど」
 要はネタに走りすぎなんだよなぁ――というのが通常版のスネークイーターに完全版のサブシスタンスと貢ぎに貢いだ彼のいだいた正直な感想だった。
「ただ、あのゲームはボス戦が余計だな――ボスが現実離れしすぎてて萎える」 と返事をしておく――どうも潜入パートは楽しめるのに、ボス戦に入ると途端につまらなくなるのがあのシリーズの特徴ではある。
「アルカードって、そういう角度から見るわよね。前にもなんかの映画で似た様なこと言ってたじゃない――ほら、ブルース・ウィリスが主演の空港がテロに遭うやつ。ダイ・ハードのシリーズ二作目だったかしら? マシンガンは空砲じゃ連射出来ないんだとかなんとか」
「そうだな。MP5は作動機構上、銃身内部に圧力が発生しないとブローバックが起こらないんだよ。でもそういうのは君の父さんも気にするんじゃないか?(※)」
「うちの父さんは、そもそもそういう映画観ないのよ。特殊部隊がけちょんけちょんにやられるのが気に入らないみたいで」
 そのときの様子を思い出してくすくす笑いながら、アンはそう答えた――アンは長いことロンドンの寄宿舎学校にいたが、両親と妹はヘリフォードに住んでいる。
 アンの父親はそこから十キロほど離れたクレデンヒル空軍基地――現在のSAS連隊本部――に勤める特殊作戦部隊員で、現在は中隊長を務めているはずだ。そのせいか、特殊作戦部隊が主人公の引き立て役になってこっぴどくやられる類の映画は嫌いらしい。
「なら、アルカトラズ刑務所のあれもダメか。ショーン・コネリーの」
「ああ、ニコラス・ケイジも出てるやつ? なんだっけ、赤いHUMMERハマー(※2)でカーチェイスしてたあれでしょ――SEALが滅茶苦茶にやられてたものね。でも、あれはコネリーがSASの配役になってるから平気みたい」
「なんだそりゃ」 アルカードが苦笑する。
「そういえば――あの映画でSEALの隊長役をやってたマイケル・ビーンって、ほかの映画でもSEALの隊長役をやってるんだよな。階級も一緒、大尉で」
「テレビで観たことあるわ。タイトルなんて言ったっけ? パラシュート降下のシーンがすごく綺麗だったわよね」
「ネイビー・シールズ(※3)」
 そう答えたところで、中村の同僚のひとりに声をかけられ、アルカードはそちらに視線を向けた。
少々よろしいですかExcuse me?」 アルカードが中村と日本語で会話しているところを見ていなかったわけではないだろう、が――たどたどしい英語で話しかけてきたその警官に、アルカードは日本語で返事をした。
「なんでしょう?」
 普通に日本語が通じる相手だということがはっきりわかって安心したのか、警察官は少しだけ笑みを見せた。
「すみません――犯人を無力化したのが貴方だと局員から聞いたんですが、少し署のほうでお話を聞かせていただいてもよろしいですか?」
 早く帰りたいアルカードがあからさまに嫌そうな顔をしたので、宥める様に警官が両手を挙げる。
「犯人を制圧したのは貴方だということですので、事情を窺いたいんです――別に犯人扱いということでは」
「晩飯が……」
 ぼやくアルカードの肩をぽんぽんと叩いて、アンが小雪を抱いたまま立ち上がった。
「ほら行こ、早く終わらせて早く帰りましょうよ」
「そちらのお嬢さんも御同行を?」 警官が視線を向けると、アンはうなずいた。
「連れですから」 そう答えて、アンは中村に視線を向けた。
「中村さん、小雪ちゃんもいったん警察署に連れていって大丈夫ですか?」
 その言葉に振り返った中村が、眠ったままの小雪とふたりを見比べてからうなずいた。
「すみません、よろしくお願いします――妻がまだ署にいますんで、そっちに引き渡してもらえたら」
 アルカードはその言葉にうなずいて、アンを促して入口のところにいた別の警官の案内で郵便局から出た。ハザードを焚いて路上駐車していたパトカーの後部座席に乗り込むと、警官は外からドアを閉めて助手席に乗り込み、運転席で待機していた若い警官に視線を向けた。
「事情聴取で署に戻る。出してくれ」
「アイアイサー」 と返事をしてハザードをオフにしてクラッチをつなぐ若い警官に、ちょっと年配の巡査部長が盛大に溜め息をついた。
「だからそのアイアイサーをやめろと言ってるだろ」
「すんません、それは無理です」
「無理でもやれ」
「出来ないから無理なんです」
 という会話を聞き流して、アルカードは腕の中の子犬の頭を軽く撫でた。
 結局書留めを受取れなかったことを思い出して、小さく舌打ちを漏らす。中身は警察署隣にある交通安全協会で更新手続きを受けた、運転免許証だ。まあ急ぐものではないので日を改めることに決めて、アルカードは目を閉じた。
 
   †
 
 これをあの若者がやったのだとしたら、たいしたものだ――胸中でつぶやいてアルカード・ドラゴスとアン・スカラー、中村がそう呼んでいた外国人ふたりが出て行った出入り口のほうに視線を向け、柏崎は苦々しく顔を顰めた。
 カウンターの中で床の上に倒れている男が、ショックで細かく痙攣している――大口径のライフル弾で撃たれたらしく左腕の上膊の肉がえぐれて派手に吹き飛び、凄惨な射出口を形成していた。この状態で一度立ち上がって反撃を試みたらしいが、よく立ち上がれたものだ。
 まるで馬に蹴られたみたいに胸部が陥没しているのは、いったいなにをされたのだろう?
 担架の用意をしている中村の様子を一度確認してから、柏崎は再び犯人に視線を落とし――ふと気づいて、彼は足元に落ちていた黒い布切れの様なものを拾い上げた。
「なんだこれ。手袋か?」
 拾い上げたのは、ずたずたになった黒い革手袋だった――掌の部分はそうでもないが、指と手の甲の部分が原形を留めないほどにずたずたに裂けている。まるでその内側に収まっていた手が、一気に膨れ上がったかの様に。
 特に人差し指の指先部分は、明らかに途轍も無く鋭利な刃物によって斬り裂かれていた――まるでその手袋の中に収まっていた指が、突如として刃物に変わったかの様だ。
 視線を転じて、中村は柏崎がかかえ起こそうとしている犯人を見遣った。その両腕を覆う衣装の左腕の袖だけが、竹槍の様に斜めの輪切りにされている――まるで服ごと一度切断された腕が、そのそばから再び癒着したとでもいう様に。
 犯人の足元には、これも半ばから切断されたショットガンが転がっていた――金属製のレシーヴァーが鏡の様に滑らかな断面を見せて切断されており、撃発機構がその一撃で完全に破壊されたために機能を失っている。
 これがあの金髪の男の仕業だというのならば――
 馬鹿な。
 胸中でかぶりを振って、柏崎は中村に手を貸すために彼に歩み寄った。
 こんな真似をするためには、切れ味はもちろん十分な速度を乗せられる長さのある刃物が必要だ。居合道を嗜んで真剣も扱ったことのある柏崎には、それがよくわかる。
 まして、現代の技術で仕立てられた金属を切断するのには、相当な速度と角度の適切が不可欠だし――そしてそれ以上に、おそらく犯人の左腕は斬撃の軌道に巻き込まれて一度切断されている。そして刃が抜けると同時に、まったく破壊されなかった細胞組織がそのままくっついて癒着したのだ。
 いったん切断した生体組織をそのまま元に戻せるほどの滑らかな切断面を作り出すのは、並大抵のことではない。それをやってのける遣い手がいることは耳にする、耳にするが――たとえそんな遣い手でも、斬ったものに傷跡ひとつ残さず、斬りつけたものを切断面から分断すること無く刃を『通り抜けさせる』ことはそうそう出来まい。そんな神業を実践するには、すさまじい技量的習熟ととんでもない業物の剣が必要だ。
 でも、だったらこれは――
 考え始めたところで中村に呼ばれ、柏崎は思考を止めて彼に手を貸すために犯人の腕に手をかけた。
 
   †
 
 取調室の素っ気無い机に腰を下ろすと、向かい側にスポーツ刈りの四十代半ばの男性が腰を下ろした。彼は調書の書類を取り出して、
「いやぁ、どうも申し訳無いです。お手間を取らせてしまって」 そんなことを言いながら、彼は机越しにこちらに手を伸ばした。
「風祭といいます」
「どうも」 差し出された手を握り返して、アルカードは風祭が手を引っ込めるのを待った。
「まずはお名前から伺いたいんですが」
「アルカード・ドラゴスです」
 アルカードは言いながら、腰のポーチから取り出した名刺入れの中から一枚の紙片を取り出し、それを刑事に差し出した。アルカードが勤め先の店で使っている名刺だ。
 警察官が名刺の内容に視線を落として、
「ルーマニア郷土料理……? すいません、この店名は――」
「Domn batrin si vechi femeieです。呼ぶのが面倒だったら爺婆とでも」
 風祭は名刺の裏側に印刷された店の簡単な地図と住所を確認して、
「ああ、近くの料理店の店員さんなんですか」
「ええ、オーナーの御厚意でそちらでお世話になってます。フロアスタッフの主任をやってますから、昼間はたいていそこにいます。なにか連絡があるときは携帯に電話をもらうより、店の電話で呼び出してもらったほうがこちらとしてはありがたいですね――接客中は携帯持ってませんので。お客として来てくださったら歓迎しますよ」
 その言葉に警察官がはは、と笑う。
「近所を通ることがあったら、そうさせてもらいます。で、そろそろ事情聴取に入ってもよろしいですかね」
「ええ、出来れば手短に」 というアルカードの返答に、風祭はうなずいた。
「ええ、もう夕飯の時間帯ですからね。ではまず、当時の状況から――」

※……
 映画ダイ・ハード2において特殊部隊とテロリストが教会で戦闘を行う際、実際には内通していた両者が空砲ブランクカートを使って戦闘を演出し逃走と追跡を装って離脱するという描写がありました。
 彼らが装備していたHK MP5は装薬パウダーが燃焼・膨張する際に銃身内部に発生する圧力を利用して排莢イジェクション再装填リロードを行うのですが、圧力が発生するためには弾頭が銃身内部に存在している必要があります。
 圧力はすべての面に均等にかかるというパスカルの定理に則って、発射ガスの圧力は薬莢の内面、弾頭の後端面、発射ガスの触れている銃身内部の面すべてに均等にかかります。そして銃身の両端を閉塞させる弾頭と薬莢を銜え込んだボルトが可動箇所であるために、発射ガスの圧力の大部分は弾頭を銃口から押し出すと同時にボルトを後退させる様に作用します。逆に言えば、弾頭が薬莢についていなければ銃身内部にはそもそも圧力が発生しません。
 自衛隊の六四式及び八九式小銃やM16アサルト・ライフルの場合は銃身内部に穿った小孔から発射ガスの一部を導き出し、その圧力で動作するピストンを介してボルトを後退させているのですが、いずれにせよ作用機構の違いにかかわらず弾頭が無ければ排莢・再装填機構であるボルトは動作しません。
 弾頭というが無ければ発射ガスは全部銃口から噴き出すだけで、薬莢やピストンには力がまったくかかりません。そのためボルトを後退させることは出来ず、したがって連射機構自体が動作しなくなるのです。
 特にディレイド・ブローバックのMP5シリーズは通常のブローバックより高い圧力を必要とするため、空砲の使用によるこれらの演出は絶対に不可能です。
 サブマシンガンで空砲ブランクを使用する場合は弾頭の代わりに銃口部分をふさいで圧力を発生させるためのアダプターが必要になるのですが、当然これを使用している間は今度は実弾の発射が出来なくなります。
 しかしブルース・ウィリス扮する警察官ジョン・マクレーンがスノーモービルで追跡してくるのを排除する際、テロリストグループは実弾を使用して迎撃しており、空砲から実弾に切り替えたときにアダプターを取りはずしたりといった描写は無く、アダプターが取りつけられている様にも見えませんでした。
 同様に発射体の無い空砲使用時と実弾使用時では射撃時の反動がまるで異なるのですが、前作においてMP5の使用の経験のある主人公がそれに気づいた様子もありませんでした。

※2……
 HMMWVは米軍用の高機動多目的装輪車輌、High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicleの略称で、M998四輪駆動軽汎用車、およびその派生型です。
 ハブリダクションギアをアクスルに採用してプロペラシャフトの位置を高くし、シャフトが左右の座席の間を通る様に配置することで最低地上高を非常に高く取った構造や銃弾の命中率を下げるためにボンネットの真下に寝かせて配置されたラジエターコアなどが特徴の軍用車です。
 映画『ブラックホーク・ダウン』や『アウトブレイク』に、ガンビット化されたHMMWVが多数登場しています。
 ちなみにHMMWVの民生用車輌がHUMMERです。ふたりが話している映画はショーン・コネリーの『ザ・ロック』で、赤いHUMMERでカーチェイスが行われています。元カリフォルニア州知事であり俳優でもあるアーノルド・シュワルツェネッガー氏の要請で民生化されたとかなんとか。
 二〇〇九年、中国の企業四川騰中重工機械にブランドの売却が決定しましたが、その後中国政府の介入によって交渉は破棄されています。

※3……
 ルイス・ティーグ監督、マイケル・ビーンとチャーリー・シーンの出演する一九九〇年の映画『ネイビー・シールズ』のことです。
 中盤におけるSEALチームによるHALO降下のシーンは非常に美しく、のちにウェズリー・スナイプスの映画『マークス・マン』に使い回されています。

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