徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Dance with Midians 3

2014年11月06日 22時18分09秒 | Nosferatu Blood LDK
 考えるまでもない――たった四人で出入り口を塞いでも、まがりなりにもひとつの市の郵便局の本局なのだ。百人近い職員は無論いるだろうし、建物の規模だってそれなりのものだ。四人で出入口をとざしたところで裏口から出ることも出来るし、目の届かない者だっているだろう――仮にほかに仲間がいたとして、何人いたとしてもそれで建物の内部すべてをカバー出来るとは考えにくい。
 郵便局は銀行とは違う――金融課だけでなく大量の郵便物や小包を保管・管理・仕分けしている郵便課を持つ郵便局の構造物は、銀行よりもはるかに複雑な構造をしているのだ。
 どこかに隠れてしまえばそれまでだし、携帯電話で通報することだって出来る。時間の余裕などほんの少しでいいのだ。110番をダイヤルし、あとは黙ったまま携帯電話をポケットに入れっぱなしにして犯人の言われるがままにしていれば、周囲の音を携帯電話が拾って警察は状況を掴むだろう。
 仮にほかに仲間が裏口から侵入していたとしても、建物の開口部がいくつあるか知れたものではない。ざっと考えるだけでも玄関、裏口、郵便小包等の荷物を扱うための搬入出口。あらかじめ構造と人員配置に熟知して、かつ十分な人数がいなければ、完全に制圧することは不可能だろう。
 そういった要素をすべて考慮して、アルカードはこの犯行に計画性の様なものが見られないと結論づけた。
 実際、アルカードが営利強盗の計画を立てるなら、建物の構造が複雑で二階、三階、もしかすると地下フロアもある様な建物など間違ってもターゲットにはしない。
 大きな建物を制圧すれば犯人が分散して特殊作戦部隊の突入は難しくなるが、だからといって突入部隊による制圧は決して不可能なことではない――対テロリズムの歴史に名高い在英イラン大使館人質事件の際の救出作戦『ニムロッド』において、SAS連隊がそれを成し遂げた様に。
 むしろ戦力が分散して兵力の重厚を欠くぶん、強襲制圧ハード・アンド・ファーストに対しては不利になる――カバーすべき場所が増えるにもかかわらず人数が減るぶん、死角も増える。まして彼らの戦力は片手で数えられるほど。
 そう考えると、あまりに大規模な建造物を占拠するのには意味が無い――犯人グループの人数が百人くらいいて分隊支援火器S A W汎用機関銃ギンピーの様な強力な弾幕を張れる火器を複数装備しているとでもいうなら別だが、たいがいはワンフロアのほうが楽だ。
 なんだか場当たり的な犯行だなあ……
 強いて言うなら、日勤の警官の退勤後を狙ったというところか――日勤の警官が退勤して帰宅した時間帯を見計らえば、即応が可能な実働人員の数はいくらか減るだろう。
 そんなことを考えながら、アルカードは強盗犯のひとりが気の弱そうな小柄な女性職員に手にしたショットガンの銃口を突きつけているのを見て溜め息をついた。銃口で小突く様にして女性職員を奥の扉から押し出し、そのあとについて姿を消す。警備室に案内する様に命じているのだろう――目的はほかの出入り口をすべて施錠したり、防犯カメラで周囲の状況を検索したりといったところか。
 ただでさえ少ないカウンターの監視員ウォッチマンを警備装置の無力化に割くということは、彼らのグループに裏手から侵入して警備装置を無力化する人員がいないことを示している――極めて高い確率で、彼らの人手はこの四人しかいない。
 やれやれ、香港から帰ってくるなりこれかよ――
 げんなりした気分で、アルカードは再度溜め息をついた。横からショットガンの銃口でこちらを小突き、ほかの客たちの近くに行く様命じている男の言葉に黙って従いながら、おびえている小雪を安心させる様に微笑んでみせる。
 とりあえずは、警備装置のほうに行った犯人が戻ってくるまで待たなくてはならない――こいつらを無力化するのは簡単だが、彼らが発砲したら防犯装置を壊しに行った最後のひとりに気取られる。
 銃口で小突かれるままに――この時点で、アルカードはこの男はこっぴどく痛めつけてやろうと心に決めた――歩きながら、カウンターの上にボストンバッグをいくつか並べて金を詰める様に命令している男の動きを観察する。
 素人だ。
 今自分を小突いている男ともうひとりが、客の見張り役の様だが――手にした銃の銃口を下に向けている。あれでは人質が動いたときに咄嗟に対応出来ないし、出入り口をほとんど警戒していない。せめて出入り口の一方はシャッターを下ろさせないと、二方から同時に警察が突入してきたら彼らの能力では対応出来ないだろう――対応出来ないというその事実すら、理解出来ていないのだから。
 とはいえ、警察は当てに出来ない――日本の警察は腰抜けすぎる。
 なにしろ目の前で訓練に費用を使ったSAT隊員が死んでいくのも放置する様な、実力行使を行うべき時期を判断することも出来ない役立たずの集団だ――現場の隊員がどうあれ、指揮官に問題がありすぎる。
 さっさと殺して終わりにすればいいものを、説得にだらだら時間をかけたりして状況を悪くすることが多い――まあ警官を石燈籠で殴り殺そうとした在日外国人を射殺したら訴えられ、しかもそれが裁判所で却下されずに審理されるという気違いじみた司法制度にも問題があるだろう。英陸軍特殊空挺連隊ザ・レジメントの格言にもあるとおり、裁判にかけられるほうが死ぬよりはましなのだが。
 とにかくこの国は薄汚い犯罪者の命と被害者や訓練に費用を費やした警官の命を同列に扱うという、頭に蛆が涌いているとしか思えないとち狂った価値観の持ち主がのさばっている――アルカードに言わせれば、人の命は平等ではないのだが。取るに足らない虫の様な犯罪者と、無辜の一般市民や一人前に育て上げるために費用を費やした警官の命の価値を比較するなどナンセンスだ。
 それはともかく――胸中でつぶやいて、アルカードは思考を切り替えた。
 アルカードが指揮官の立場なら、近隣の建物から狙撃して終わりにするだろう。頭が無くなろうが腕が吹き飛ぼうが、知ったことではない――こんなことにしか使えない腕なら無くなってもたいして困らないだろうし、もう二度と誰も襲えなくなる。
 なんの役にも立たない汚らわしい人権屋や頭に虫の涌いた弁護士がぎゃんぎゃんわめくかもしれないから、殺したほうが後腐れが無いかもしれないが――まあいずれにせよ、被害者を差し置いて加害者の命を尊いとかぬかす白痴どもの囀る寝言など、耳を傾ける価値も無い。
 さて、どうしたものかな――この連中を皆殺しにするのは簡単だが、ここは目撃者が多すぎるうえに監視カメラの記録にも残る。ルイーズの一件の様に、大使館から圧力をかける様な状況にもしたくない。
 軽く首をかしげて――アルカードは唇の端を軽くゆがめる程度の笑みを浮かべた。
 
   †
 
 見るからにかったるそうに、金髪の青年がアンのそばにやってくる。アルカード・ドラゴスは背後からごりごり押しつけられたショットガンの銃口をさして気にもしないまま、客たちが座らされた長椅子の空いている席に腰を下ろして軽やかな動作で脚を組んだ。
 余裕に満ちあふれたその仕草の意味が理解出来ないのだろう、不気味そうにこちらを見つめている客たちの視線を無視して、アルカードがそれまで片手で抱っこしていた雑種犬を膝の上に下ろす――隣に座っている小雪に仔犬を預けると、アルカードは小雪の頭を優しく撫でた。
 今のところなにかしようという素振りは見えないが――壊れた玩具を見る様な氷点下の眼差しが、強盗犯たちに対する侮蔑だけを湛えている――、状況を打開する方法を考えているのに違い無い。
 だがそれだけだ――強盗犯に制圧されているはずなのに尊大に椅子にふんぞり返っている青年を気味悪そうに見つめていた犯人たちは、やがてこちらと出入り口とを半々くらいに警戒する様になった。
 彼女は知っている――彼という男を。
 彼は本当の化け物だ――というのは文字どおりの意味だが。
 自分を見つめているアンの視線に気づいたのか、アルカードが視線をこちらに向けてきた。
 大丈夫だ、心配するな――そんな感じの笑みを、金髪の青年が一瞬浮かべてみせる。アルカードはすぐに視線をそらして、犯人たちに注意を戻した。
 おそらく、犯人たちを排除するための隙を窺っているのだろう――能力的にも性格的にも、この青年は助けを待つなどという面倒なことはしないタイプだ。
 アンが犯人たちから見えない様に袖を引っ張ると、アルカードは再びこちらに視線を向けてきた。
「どうするの?」 声には出さずに唇の動きだけでそう伝える――アルカードはいろいろな言語の読唇術が出来る人で、英語も当然含まれている。こちらの伝えたい内容を正確に読み取ったのか、アルカードの口元が小さく笑みにゆがんだ。
 アルカードが視線だけを動かして、先ほど女性局員と犯人のひとりが入っていった、おそらくは警備室に通じる扉を示す。それから、彼は今度は視線を下に落としてみせた――視線の先には小雪がいるわけだが、どうやらそうではなく、この場所そのものを示しているらしい。
 つまり出て行った犯人がここに戻ってくるのを待つ、ということか――それはクレデンヒル基地に勤務する軍人の父親を持つアンにもなんとなく理解出来た。誰かひとりでも逃がすか、もしくは制圧し損ねれば、逃げ出した犯人によって誰かが危険に晒される。
 要するに、全員を制圧出来る状況になってから行動を起こさなければ意味が無い。
 そう判断したからだろう、アルカードはすぐにどうにかしようとはしなかった。おびえている小雪の頭を軽く撫で、
「心配しなくていいよ、大丈夫だから」 小雪の眼を覗き込む様にしてアルカードがそう囁いたとき、アンの服の袖を掴んでいた少女の指から不意に力が抜けた――アンの小さな体が、アンの肩にもたれかかる様にして倒れてくる。そのまま長椅子から崩れ落ちそうになる小雪と仔犬の体をあわてて受け止め、アルカードに視線を投げる。
「アルカード、貴方なにを――」
「心配無い、ちょっと眠らせただけだ。子供には刺激が強いだろうからな」
 そんなことを言って、アルカードが軽く首を回す。だが、次の瞬間には彼は眼前に突きつけられた銃口を目にして動きを止めた。
 客の見張りについていたふたりのうちのひとりが、手にしたライフルの銃口をアルカードの眉間に押しつけている。
「さっきからなにごちゃごちゃ言ってやがる、この外人が――てめえ、自分の立場わかってんのか?」
「どんな立場だ?」 日本語に切り替えて、アルカードがどうでもよさそうに返事をした。
「たかが強盗犯風情に、命乞いでもすればいいのか?」 言いながらも、アルカードは眼前の男を見ていない――彼の視線は先ほど出て行った男が、店の奥から戻ってくる光景に向けられていた。彼はポケットから取り出したさいころ型のキャンディ――ふたつセットで小袋に個包装されているものの片割れだ――を口に入れつつ、
「よし、これでもう問題無いな。行動を起こしていいころだ」
「なに訳のわからねえこと言ってやがる。あんまり嘗めた態度取ってやがると、そっちの女とガキがどんな目に――」
 犬でも追い払う様に適当に手を振って、アルカードはかすかに笑った。
「嘗めた真似されて腹が立ってるのは同感だ。ついでに言うなら――もう飽きた」
「てめぇ――」 怒鳴り声を最後まであげられないまま、ライフルを手にした男の動きが止まる。瞬時に白目を剥き、口から泡を噴き始めたのか、目出し帽の口元が湿り出した。
「おやすみ、おっさん」
 その言葉とともに――股間を蹴り潰された男の体が崩れ落ちる。その手の中からライフルを奪い取り、アルカードが立ち上がった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« Dance with Midians 2 | トップ | Dance with Midians 4 »

コメントを投稿

Nosferatu Blood LDK」カテゴリの最新記事