徒然なるままに修羅の旅路

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Vampire and Exorcist 4

2014年09月26日 23時46分03秒 | Nosferatu Blood
 吸血鬼が被害者を同族に作り変える能力を魔殺したちの専門用語で『繁殖』といい、被害者を噛んだ個体を『上位個体』と呼ぶ。
 吸血鬼による吸血を受けた被害者が吸血鬼となるかどうかは被害者を噛んだ吸血鬼、上位個体の能力と被害者本人が生来に備えた適性によって決まり、噛まれ者ダンパイアと呼ばれる下位の吸血鬼個体となることもあればひたすら肉を貪るだけの動く死体リビングデッド喰屍鬼グールとなることもあり、またまったくなんの変化も生じないこともある。
 同様に吸血によって作り出した下位個体の能力は上位個体の能力と本人の適性によって決まり、吸血によってその能力は徐々に向上していくが、下位個体の能力が上位個体のそれを上回ることは無い――下位個体は自分が血を吸った対象から吸い上げた力のほとんどを上位個体に奪われており、魔力の蓄積量は上位個体のほうが多くなるからだ。そのため、下位個体の力は必ず上位個体よりも弱くなる――その上位個体もまた、そのさらに上位個体に奪い取った魔力の大部分を奪われているのだが。
 したがって吸血鬼としての力関係が下にいけばいくほど、噛みついた相手の吸血鬼化の確率は低くなる――繁殖の成功率は被害者の適性と吸血鬼の能力によって決まるため、被害者の適性の高い低いにかかわらず、吸血加害者の能力が低すぎて失敗することもままあるからだ。大元となった不死者の強さにもよるが、この法則に例外はまず無い。
 ヤナギダ司祭は、十六人ぶんの遺体が現場に残っていたと言った――つまり、それらの遺体は噛まれ者ダンパイアはもちろんのこと喰屍鬼グールにすらならなかったのだ。
 十六人もの人間を噛んでおきながら被害者を噛まれ者ダンパイアにも喰屍鬼グールにも仕損なったということは、彼らを噛んだのはかなり末端の噛まれ者ダンパイアなのだろう――それこそ変わりたてヴェドゴニヤか、生身の人間に毛の生えた程度の力しか持たない下級中の下級の吸血鬼だったのだろうか。
 そもそも吸血鬼が盛り場で獲物をあさること自体は珍しくない。だがその盛り場で凶行に及べば、人間側の警戒を招くだけだ――だから吸血鬼が実際にことに及ぶのは、隠れ家に選んだ場所まで被害者を連れ去ってからだ。こんなふうに、その場で凶行に及ぶことはまず無い。
 そんなセオリーも知らない変わりたてヴェドゴニヤだったのか、あるいはそんな定石にかまっていられないほどに消耗し追い詰められていたのか――
 とはいえ、現時点で判断するのも早計だ。すべての情報を聞いてから判断しても遅くない。そう判断して、彼女は続きを促した。
「それで、その遺体は?」
「すべて傷んでいたので安全と判断し、遺体を火葬しました」 ヤナギダの返答に、フィオレンティーナはうなずいた。
 上位個体が生きている場合、吸血を受けて死んだ被害者の遺体が噛まれ者ダンパイアもしくは喰屍鬼グールなるかどうか・・・・・・を短時間の観察で判別する方法は無い。ただし時間は必要だが、一応の判別の手段はある。
 腐らないのだ――遺体を確保した時点で上位個体がまだ生きている場合、遺体が噛まれ者ダンパイアもしくは喰屍鬼グールに変化する適性を持っていると、その遺体はどんなに過酷な環境に置かれても傷まない。干からびてミイラ化することも、紫斑などの傷みが進行することも、腐敗することも無い。
 その一方で噛まれ者ダンパイア喰屍鬼グール、どちらの適性も持たないただの死体は腐敗する。
 よって、単純に死体が傷むかどうかで死体が変わる・・・かどうかは判別出来る――もちろんたいていの場合はその前に蘇生してしまうので、現実的な判別方法ではないが。
 しかし、すでに遺体の傷みが進行しているのなら、その死体は安全だと判断していい。
「それと、遺体を確保した時点で吸血の痕が残っていたのは、七名――残る九名は、噛み痕が消えていました」 司祭が穏やかな口調でそう続けてくる。それを聞いて、フィオレンティーナは眉をひそめた。
 吸血被害を受けた人間の死体の首に残った噛み痕はその犠牲者が吸血鬼に変化した場合、蘇生した吸血鬼が人間を襲って獲物の血を吸った時点で消える。
 だが、吸血被害者がまだ蘇生していない場合に、噛み痕が消えるケースはひとつだけだ。
 その遺体が喰屍鬼グールとして蘇生する遺体であって、かつ蘇生前に上位個体が死亡すること。
 喰屍鬼グール適性を持つ死体は、蘇生前に上位個体がなんらかの理由で死亡すると、死体に働き掛けていた魔力の作用が無くなってただの死体に戻り、同時に噛み痕が消える。
 それが示唆する事実はひとつ――彼らを襲った上位個体はすでに死んでいる。
 つまり、十七人中九人は、そのまま放置しておけば喰屍鬼グールに変わっていたのだ。全体の半分以上が喰屍鬼グールになるということは、やはり上位個体自体もそれほど強力な吸血鬼ではなかったのだろう――喰屍鬼グールとは吸血鬼が吸血被害者をうまく造り変えられない、言ってみれば失敗作の様なものだからだ。
 つまり今回の事件で十七人を襲った吸血加害者は十七人もの人間を襲っていながら、そのうちのひとりしか吸血鬼にすることが出来ない下級の下級の吸血鬼で――
 逆に言えば、そんな下っ端吸血鬼が出てくるほど、この国では既に噛まれ者ダンパイアが増えているのだ――吸血鬼の増え方は基本的に鼠算だから、ランクが下になればなるほど数は増えていく。
 この国の――少なくとも東京近郊に限って言えば、吸血鬼の病根は相当に根深い。
 早くなんとかしないと……
 胸中でつぶやいて、フィオレンティーナは胸元で揺れる銀十字架を握り締めた。
 
   *
 
 ドラキュラは有史以来確認された、七人目の『真祖』だ――真祖はノスフェラトゥ、もしくはロイヤルクラシックと呼ばれる大元の吸血鬼で、吸血によって下位の吸血鬼を増やす能力を持つ。吸血鬼の中でもっとも高い能力水準を持ち、ある意味唯一の吸血鬼と呼べる存在だ。
 彼ら七人の真祖を含むすべての吸血鬼が、最大の脅威と看做すのが彼だった。
 吸血鬼でありながら、同じ吸血鬼を虐殺する吸血鬼――過去五百年間にわたってドラキュラを追い続けている、同族殺しの殺戮者。
 『血塗られた十字架ブラッディークロス』アルカード。
 その吸血鬼は、不死者たちの間でそんな通り名で呼ばれていた。
 吸血鬼アルカードは、ある意味ドラキュラよりもたちの悪い相手だった――ドラキュラの僕たる『剣』であるにもかかわらず、ドラキュラの意思によらず完全な自由意思で動き、ドラキュラを狩り殺すために行動する、強力無比の吸血鬼。
 分け与えられた力もさることながら、恐ろしいのはその特性だった。吸血鬼に限らずあまねく闇の眷属が弱点とする日光を意に介さず、聖性を帯びた十字架も聖水も効かない。
 人間側が吸血鬼の弱点だと考えてきたものが一切通じず、戦闘能力においては数十人もの魔殺しの集中攻撃を一蹴する。
 フィオレンティーナの眼前にいるのは、そういう相手だった。

 だというのに。

 かちゃりと音を立てて、アルカードが空になったBOSSブラックの空き缶を机の上に置く。彼はバラエティー番組を聞き流しながら、相当年代物のパソコンを起動させてWindowsを立ち上げた。
 Windows XPのロゴが真っ黒な画面に浮かんでいる――ワイヤレスマウスの受信機をUSBポートに差し込み、のんびりと机に頬杖を突いて欠伸を噛み殺し、アルカードはバイクのメンテナンスの雑誌を読みながらパソコンの起動を待っていた。
 このお気楽さ加減はいったいなに!?
 ここは店員用に用意された事務室兼休憩室なのだが、そこに据えつけられたテーブルに着いて、ティーカップを前にひとり頭をかかえるフィオレンティーナ。それを知らぬげに、アルカードは缶コーヒーの空き缶を手近なペール缶の空き缶用ゴミ箱に放り込んだ。
 おじいさんの話によると、この吸血鬼ときた日には、ボスジャン欲しさでBOSSブラックを箱買いしたらしい――結局一口も当たらず、五ケースものBOSSブラックだけが手元に残ったのだそうだが。
 いったいなんなの、この人は?
 否、人ではないわけだがまあそれは置いておいて、この噛まれ者ダンパイアはフィオレンティーナの知る吸血鬼像からあまりにも乖離していた。
 いったいどこの世界にこんな吸血鬼がいるというのか――朝の六時に起きて最初に犬を散歩に連れて行き、毎日店の前を箒で掃いて、店の前を通って学校に行く小学生たちと手を振って挨拶を交わし、労働に一日の大半を費やして夜眠るという(人間の基準で)健康的な昼型生活を送り、店の経営者の信頼を得て老夫婦の持ち物のアパートの管理を任されていたりしかもそれを結構誠実にこなしていたり、日本刀に興味を持って近所の鍛造刃物職人の工房に見学に行ったりデジタル音楽プレーヤーはiPodよりもケンウッドの乾電池式のがお気に入りだったり近所のDucatiのオーナーズクラブの幹部で会報誌を作るのを引き受けていたりする様な吸血鬼など。
 まあ、アルカード本人に言わせると、「ここにいるじゃないか」という返答が返ってくるのだろうが。
「どうした? さっきから顰めっ面したり頭かかえたりして」 椅子ごとこちらに向き直り、アルカードが声をかけてくる。彼はテレビに映っている最近ミヤザキ県知事になったという痩せた元タレントに視線を止めて、
「その番組はつまらないか? 別に俺は観てないからチャンネル変えてもいいぞ」
 ――これである。
 この吸血鬼ときた日には、彼女がここに来てからずっとこの調子なのだ。
 別に棺に引きこもって眠ったりはしないし、大蒜だって普通に食べている。
 首からかけているペンダントはシルバーの十字架だし――まあ、なんの法儀礼も施されておらず聖性を帯びていない十字架など、ドラキュラ相手でも大して効果も無いだろうが――、普段着の革のジャケットの背中にも真紅の十字架が描かれている。もっとも、これはおそらく自分の通り名に合わせて選んだものだろうが。
「別にテレビはどうでもいいです」
 眉間に皺を寄せてそう答えると、アルカードはやれやれと頭を振ってわざとらしく盛大に溜め息をついた。
「相変わらず怖い顔だな、いつもいつもそんな顔してないで、少しは笑ったらどうだ? 俺と顔突き合わせるたびにそんな顔してたら、おじいさんとおばあさんが変に思うだろうに」
「貴方が今この場で自殺したら笑って見送ってあげます」
 剣呑な口調で言い返すと、アルカードは適当に肩をすくめた。
「おお、怖い怖い。それにしても――まあ、勿体無いと思うんだけどな、俺は」
 言いながら、アルカードが表計算ソフトを起動する――このパソコンには表計算用ソフトが最初から入っていなかったらしく、使っているのはOpen Officeという無料頒布ソフトらしいが。
 アルカードはレジの機械の記録を元に、手馴れた仕草で午前中の売り上げを打ち込んでいく――ブラインドタッチまで完璧にこなしているあたり、この吸血鬼の順応力の高さには驚くほかは無い。
「勿体無い? なにが勿体無いっていうんですか」
 つっけんどんに聞き返すと、彼は振り向かないまま答えてきた。
「君がだよ――せっかく美人なのにな。笑えばきっと可愛いのに」
「な――」 また、不意打ちでそういうことを口にする――動揺を必死で抑え込んでいる顔を見るのが面白かったのか、アルカードは肩越しに振り返って楽しげに笑った。
「アルちゃーん、フィオちゃーん、お客さん来たわよ――」 店側の厨房からおばあさんの声が聞こえてきて、アルカードは打ち込み終えたOpen Officeを手早く終了してから返事をしながら席を立った。
「さあ、仕事に戻ろうか」
 
   *
 
「――さあ、着きました。騎士フィオレンティーナ」
 その言葉に、時差ぼけでうつらうつらとしていたフィオレンティーナは顔を上げた。
 後部座席の狭い窓から外を見遣ると、そこが簡素な駐車場であると知れた――煉瓦造りの花壇に囲まれた駐車場に、ずいぶん手のかかった改造をされたトヨタのスポーツカーと真っ赤なスポーツカーが止まっている。
 立地が傾斜地だからか、少し急な階段を登ったところに、お世辞にも大きいとはいえない教会の建物が見えた。
 どちらかというと前時代的、というか割とヨーロッパの古い教会のそれに近い雰囲気の、煉瓦造りの教会だった――角度の鋭い切妻型の屋根のてっぺんに、十字架が設置されている。雨よけの設置された玄関に照明も無い様な古い建物だったが、雰囲気は悪くない。
 まあこの町自体がそれほど大きいわけではないので、これで十分なのかもしれない――そんなことを胸中でつぶやいて、フィオレンティーナは助手席のドアを開けているヤナギダ司祭に視線を戻した。
 この教会は彼女たち聖堂騎士の様な武装聖職者の行動拠点としての意味合いが強いので、規模はあまり問題にならないのだろう。
 空いているスペースに空港から乗ってきたゲレンデヴァーゲンをバックで駐車し、ヤナギダ司祭がエンジンを切った――シスター・マイも運転免許持ちなのか、しきりに運転をしたがったのだが、ヤナギダ司祭が頑としてやらせなかったのだ。
 ヤナギダ司祭がバックドアを開けて、ラゲッジスペースに置いていたフィオレンティーナのトラベルバッグを取り出した――彼はバックドアを閉めて、樹脂製のトラベルバッグを小脇にかかえて戻ってきた。
「あ、わたしが自分で――」 フィオレンティーナが声をかけたときには、ヤナギダ司祭はさっさと階段を昇り始めていた。
「さ、どうぞこちらへ」 にっこりと――同性でさえも心ときめかせそうな微笑を湛えて、シスター・マイがそう言ってくる。
 階段を昇りきって教会の脇に廻り込むと、なにに使っているのかKIRINのビールケースがいくつか並べられた向こうに、柵と括りつけて倒れない様にしたテント、その下に子供用大人用取り混ぜて数台の自転車が並べられている。その隣には小さな鍵つきの倉庫。
 ちょうどその金属製の物置の向かいあたりの壁に、両開きの扉がついている――おそらく教会の勝手口だろう。きっとパイプオルガンの様な大物の荷物を運び込むのに使うのだ。
「司祭さまお帰り――!」
 ヤナギダ司祭がちょうどその前を通過したとき、両開きの扉が内側から開いて四人の子供たちが飛び出してきた。子供たちは歓声をあげながらヤナギダ司祭に向かって駆けていき、タックルみたいな勢いで飛びついた。
「うごぉッ」 ヤナギダ司祭の喉から潰れた蛙の様な悲鳴が漏れる――どうも先頭の男の子の頭が、絶妙にいいところに入ったらしい。
 勢いのままに横倒しに薙ぎ倒されて頭を打ちつけたらしく、ごんという厭な音が聞こえてくる。フィオレンティーナのトラベルバッグがその手から離れてばたりと倒れた。
「うおおおおおっ!?」 悲鳴をあげてのたうち回るヤナギダ司祭。その後頭部から血がだくだく流れ出していた。
「あらあら」 のほほんと口元に手を当てるシスター・マイ。目の前で流血沙汰になっていても動じないあたり、大物である。
 なんとなく心配するのが馬鹿馬鹿しくなってきたが、だからといって放置するわけにもいくまい。
「大丈夫ですか、司祭様」
 子供たちに押し潰されてぐったりしているヤナギダ司祭のかたわらに近づいてそう声をかけると、
……死なない程度に……」 返ってきた声が消え入りそうに小さい。
「あらあら」 再びシスター・マイがのほほんとつぶやく。
 動じないのはいいが、もう少し司祭に気を使う、というか心配してもいいと思うのだが。
 フィオレンティーナはヤナギダ司祭から子供たちを引き離し、彼を助け起こした。観察すると、後頭部が切れて出血しているのがわかった――まあ傷口は浅いし大丈夫だろう。ヤナギダ司祭は自力で立っているし言葉遣いも足取りもしっかりしている。
 ただ、ちゃんと手当てはしないとまずいだろう――ポケットから取り出したハンカチをヤナギダ司祭の後頭部にあてがうと、フィオレンティーナはシスター・マイに救急箱の場所を尋ねた。
 宿舎のほうだということだったので、そのまま教会の裏手に併設された宿舎に歩いていく。どうやらヤナギダ司祭に手を貸す必要は無さそうだった――子供たちに囲まれつつ、すたすた歩いている。
「あの子たちは……?」
 彼らの数歩後を歩きながらシスター・マイに尋ねると、彼女はかすかに形のいい眉をひそめてみせた。
「自分の家族から虐待を受けたり、育児放棄を受けてた子供たちです――この近くにはそういった子たちを引き取って保護する施設が無いので、司祭様がお引き受けになりました」
 子供たちは合計六人――フィオレンティーナの疑問を読み取ったのか、シスター・マイがこう言ってくる。
「あの子たちのほかにまだふたりいます」
「そんなに大勢ですか? 面倒を見るのが大変では?」
「そうですね――そのお蔭で司祭様はいつも駆けずり回っていらっしゃいます」 一緒に仕事してるわたしたちの苦労も考えてほしいものです、とシスター・マイは大げさに溜め息をついてみせた。だが別段それを嫌がっているわけでもないらしく、子供たちの相手をするヤナギダ司祭を見守る視線はあくまで優しい。
「あ、それと――」 シスター・マイが足を止めて、こちらに向き直る。
「あらためて、ようこそわが教会――『主の御言葉』へ」

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