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「――着いたよ、ここだ」 アルカードがそう言って、ライトエースのシフトレバーを操作しパーキングブレーキを引く。助手席に座っていたフィオレンティーナは、遮光バイザーを避ける様に上体をかがめて窓の外に視線を向けた。
見た目はそこらの居酒屋とそう変わらない感じで、いつぞやの鰻屋の様に駐車場は無い。酒を出すからだろう。あるいは煩わしい大勢の客を嫌っているのかもしれない。
屋号は漢字だ . . . 本文を読む
ディスクアレイは――当たり前の話だが――高さがロッカーくらいある。
内部にはパソコン用の三・五インチハードディスクよりずっと大きなハードディスクが四台設置されていた――パンチングメッシュのメンテナンスドアの向こうでちかちかとLEDが光っている。
「……」 これを持ち出すのは無理だ。速攻であきらめて、アルカードは嘆息した。
ここにあるスーパーコンピュータのデータサーバーは複数のハードディスクを . . . 本文を読む
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ぎしゃああああああ、という耳障りな叫び声をあげて、03と通し番号を振られたキメラが飛びかかってくる――鋭利な爪で引っ掻く様な攻撃を躱し、アルカードは飛び込んできたアサルトの腕の外側に出た。そのまま肩のあたりを突き飛ばし、その反動で間合いを離す。
突き飛ばされたアサルトが、そちらから突っ込んできていた別の個体に激突する――最初に胴を薙いでやった個体、02の通し番号でマークされた . . . 本文を読む
背後でビープ音が鳴り響いたからだ――振り向くと壁一面に設置されたいくつかのコンソールのうちひとつに、先ほど撃ち倒したはずの研究員のひとりが貼りついている。
「――師よ?」
「すまん、デン――少し黙っていてくれ」 そう告げて、アルカードは神田忠泰との通信を打ち切った。向こうがこちらの状況をモニター出来る様に送信ボタンはホールドしたまま、研究員に向き直る。
手首をプラスティック製の結束バンドで固縛 . . . 本文を読む
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隔壁《シャッター》ロック、警報装置《アラームシステム》解除《オフ》――あとは監視カメラの映像だが、過去二時間の映像を再生速度を九十パーセントまで落としてリピート再生。
これでこのセクションでなにが起こっても、しばらくの間は露顕することは無いだろう。
胸中でつぶやいて、アルカードは壁際に設置された大型ディスプレイのキーボードから手を離した。
壁際にはフェンスで隔離されたスー . . . 本文を読む
正面に立っていた二体目のキメラが、滑る様な滑らかな動きで踏み込んでくる。低い軌道で繰り出した廻し蹴りをバックステップで躱し、彼はそのまま数歩後退した。
蹴りを躱してそのまま後退したアルカードに殺到して、キメラがさらに追撃を仕掛けてくる――その場で旋廻しながら繰り出した、バックハンドの一撃。
こめかみを狙って撃ち込まれてきた一撃を体勢を沈めて躱しながら、内懐に飛び込む――同時に、アルカードは一 . . . 本文を読む
装甲の隙間から水が入り込み、左腕に直接触れている――左腕が再び振動波を発し、反響を利用した音響反響定位《エコーロケーション》で周囲の立体図を重層視覚に構築していく。
貯水池の面積は縦横それぞれ約百六十メートル、水深は二十メートルほど。先ほど穿った穴の中に流入したために少々水位が下がっているが、上から見て疑問に思うほどの水位減少ではないだろう。
貯水池の水面から上の様子は今の状況ではわからない . . . 本文を読む
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そろそろ三十分ほどか――
興中でつぶやいて、アルカードは両手足を鎧う万物砕く破壊の拳《Ragnarok Hands》の稼働を解除した。
魔力供給を断ち切られて万物砕く破壊の拳《Ragnarok Hands》が基底状態に戻ったと同時、絶え間無く掻き分けられ押しのけられていた土が固まりきらずにばらばらと足元に落下する。
アルカードは小さく息を吐いて、固く圧縮された土の上に腰を . . . 本文を読む
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東京都心にマックス製薬と呼ばれる製薬会社の本社ビルがある。
ノーベル賞を取得した学者を何人もかかえ、国内外の主要都市にいくつもの支社を持つ、国内屈指の規模の製薬会社であるとされている。
その本社ビルは新宿区内、東京都庁に程近い場所に居を構え、高さ二百五十メートル、五十階建てに地下五階、基部にプリンの様な形状の構造物を持つ。細かい相違点を気にせずにざっくりと外観の印象を述べる . . . 本文を読む