goo blog サービス終了のお知らせ 

春夏秋冬。

その時々で思いついた妄想文をつらつらと。
二次創作中心。カテゴリのはじめにからどうぞ。

とある男の半生 2 (血界戦線)

2015年12月19日 23時53分06秒 | その他妄想文。
 街の中は悲惨な有り様だった。血塗れの人々が地面に蹲り、動いているのはグールだけだ。既に人間とは思えない肉片があちらこちらに散らばっている。真っ青な空がおどろおどろしい風景に全く似つかわしくない。近寄ってくるグールを成るべく避けながら、教会を目指す。この街では一番高い建物だ。血界の眷属の目的ははっきりしないがあの目立つ建物を見逃す筈がない。
「クラウス、こんな時に悪いが」
「む?」
「もし子供達がいたら彼らの前で僕の名前を出さないでほしい」
「それは…」
「頼む」
 クラウスが言い終わる前に口を挟む。緑の瞳には疑問が浮かんでいるが、切羽詰まった感のあるスティーブンの声に飲み込んでくれたようだ。
「承知した」
 祈るような気持ちで教会の裏手の小さな孤児院へ向かった。この時間なら子供達は自室で勉強しているか、もしくは外で畑仕事をしている筈だ。感慨に浸る間もなくスティーブンは扉を乱暴に開けた。
「誰かいないか!?」
 スペイン語で叫ぶスティーブンの声に反応する者はいない。一つ一つ部屋の扉を開けるが何処にも人の気配はなかった。部屋の中は慌てていたのか少し散らかってはいたが、部外者に荒らされた跡はない。
「大丈夫かね、スティーブン。酷い顔色だ」
「…ああ…」
「まだ死体がない。皆で避難したのかも…」
 死体がなくてもグールになっているか、最悪転化させられたか、避難した可能性よりそちらのほうが余程現実味があった。
「ここには誰もいないようだ。教会のほうに行ってみよう」
 クラウスの言葉に従って教会のほうへ回り込む。災害時など何かあった時に避難場所となる教会は堅牢な造りになっている。地下には大量に備蓄があるはずだ。誰かが避難していてもおかしくはない。
 正面一ヶ所しかない真っ白い扉は固く閉ざされて、乾き始めた血液が大量に付着していた。一見して致死量だと分かる。スティーブンは絶望的な気持ちに陥った。
「しっかりしたまえ。まだ希望はある」
 クラウスが体が通るだけの扉を開き、慎重に中へ飛び込む。スティーブンもそれに続いた。教会の中は窓が閉められているため薄暗い。正面のステンドグラスだけが光を取り込み、床に色彩を溢している。
 祭壇の奥、貼り付けにされたイエスの像の前に子供が佇んでいた。後ろ姿からでも服は血塗れだと分かる。クラウスが急いで子供に近付き手を差し伸べた。
「無事で良かった」
 ゆっくり子供が振り返る。短く揃えた銀色の髪に大きな深紅の瞳。少年のようだ。人形のように整った顔立ち。スティーブンの記憶の中にその姿は見当たらなかった。うっとりしたような笑みを浮かべて血色の瞳を輝かせる。
「離れろ!!クラウス!!」
 スティーブンの声と同時にクラウスは飛び下がったが、袈裟懸けに切られた傷が血飛沫を上げる。
「つっ…!」
 少年は手に付着した血液をペロリと舐める。途端に顔を大袈裟にしかめた。
「うえええ、まずい。君達牙狩り?」
 鈴を転がしたような声だった。首を傾げる姿は愛らしい。スティーブンは持ち歩いている鏡で少年の姿が写るように翳す。案の定少年は鏡に写っていない。スティーブンの背中に汗が流れた。血界の眷属だ。
「何故この街を襲った?」
 時間稼ぎのつもりでスティーブンが問う。少年の姿をしていても相手は自分達より遥かに長い年月を生きている。
「え?知らないの?」
 知るかよ、と悪態付きたくなる気持ちを押し殺す。幸いクラウスの傷は浅そうだ。孤児院の子供達がいないのならここから早々に撤退すべきだった。出来るかどうかは別にして。
「ここは牙狩りの卵達がいる場所でしょ?」
「え」
 ふふふ、と笑う少年の言葉に目を剥く。そんなこと聞いたことない。心臓の鼓動が早まる。どくどく、と音が体の中で響くようだ。
「可哀想に。知らないで助けに来たの?そういえば援軍、全然来ないねぇ?僕が最初の牙狩り達を殺して24時間は経つよ?」
 スティーブンは混乱した頭で、何処か冷静な自分が納得しているのを感じていた。この孤児院は非合法に集められた牙狩りの才能を持つ子供達の巣だ。能力に目覚めてトントン拍子に里親が決まったことも、スティーブンにはずっと疑問だった。牙狩りは慢性的な人手不足だ。血筋による継承は現代のように近親婚が許されない時代、血が薄まり難しくなっている。突然変異で生まれた子供達をそれとなく牙狩りとして養成する為に人攫い同然に親から引き離す。当然発覚すれば本部は非難を免れない。本部の上役達はそれを隠蔽するためにこの街を見捨てたのだ。
「そんなことが許されるとでも…!!」
 呆然としていたスティーブンの横でクラウスの怒気が膨れ上がる。怒りの矛先は血界の眷属ではない。
「あはははは!!残念だったね!」
 甲高い嘲笑が教会の内部にこだまする。
「でもさぁ…肝心の牙狩りの卵達は中々出てこなくて困ってたんだ。お兄さん達、引っ張り出してくれない?」
 その言葉に弾かれたようにスティーブンは顔を上げた。まだ生きている…!!
 パキッと足元が凍りつく。これで逃げるという選択肢は無くなった。
「彼女がそこを退いてくれなくてさ」
 少年が顎で示した場所には力なく座っている女性がいた。修道服を血に染めて俯く姿はスティーブンが良く見知った姿だった。背後には地下室に続く扉がある。彼女が身を呈して扉を守っているのは明白だった。スティーブンは少年を明確な殺意を持って睨み付ける。
「殺してないよ。まぁ死ねないだけだけど」
 少年は祭壇にあった鋭利な燭台をシスターに向かって投げつけた。腹部に深く突き刺さった燭台はまるでフォークのように見える。シスターは苦しそうに呻き、燭台を引き抜く。動脈を貫いた傷は水道の蛇口を一気に開放した時のように血が吹き出すが直ぐに再生される。
「まさか…」
「そ。彼女はもう僕の仲間だよ。神に遣えるシスターが吸血鬼なんて背徳的で良いじゃない?」
 にんまりと笑う少年の唇から人外の牙が覗く。
「シスターに殺される子供…ってのが見たかったんだけどね。彼女、転化したのに僕の言うことを聞いてくれないんだ」
 参っちゃうよ、と肩を竦める少年は少しも困っているようには見えない。スティーブンは怒りで頭が変になりそうだった。教会全体がひんやりとした冷気に包まれる。
「エスメラルダ式血凍道」
「ブレングリード流血闘術」
 少年の足元に鋭利な氷の刃が出現し、頭上には巨大な深紅の十字架が迫る。
「わお!綺麗だねー」
 少年は笑いながら教会天井近くの梁によじ登った。まるで体操選手のようにくるくる回って着地する。
「もう少し遊びたいけど…そろそろ時間だ。彼女、あれだけ血を流したんだからもう限界だと思うし…後は任せるよ。生きていられたら、また会おうね。お兄さん達」
 少年は戯れのようにスティーブンとクラウスの肩を叩いて一瞬で扉から出ていった。ぱたん、と扉の閉まる音が背後から聞こえ、気配が完全に消えてしまう。
「くそっ!」
 まざまざと力の差を思い知らされた。大切な人が傷付いているのに全く手も足も出なかった。唇を噛み締めると鉄の味が広がる。その刹那。
「スティーブン!!」
 クラウスが叫ぶと同時に修道服が翻り、スティーブンの顔を大きく抉った。迸る血に左目が見えなくなる。咄嗟に左手で傷を強く圧迫した。手の平がぬるついて仕方ない。
「つっ…!ビンタにしては強烈すぎるなぁ…!」
 衝撃に頭がグラグラする。スティーブンの軽口も姿もシスターには見えていないようだ。
「私…子供達を守らなきゃ…」
 シスターの瞳は虚ろで譫言のようにぶつぶつと繰り返す。手には先程の燭台がぶら下がっている。転化してなお、子供達を守ろうとしてきた。それは多量の出血により吸血衝動が高まっている今も、無意識下で刻まれているようだ。かつん、と靴音を響かせて膝を付いているスティーブンに近づく。
「ブレングリード流…」
「クラウス!待ってくれ!」
 制止の言葉にクラウスの動きが止まった。その直後シスターは躊躇うことなくスティーブンの肩に燭台を突き刺した。 
「ぐっ…!」
 激痛に苦悶の表情を浮かべる。シスターは黒髪を包み込むように腕を回して首筋に噛みつこうと、昔はなかったはずの牙を剥き出しにした。スティーブンは目を瞑る。

「守れなくてごめん。シスター(母さん)」
     
 ピタリとシスターの動きが止まる。スティーブンは彼女を強く抱き締めた。こんなに華奢だっただろうか。昔は大きく見えていたのに。
 シスターの手が優しくスティーブンの髪を撫でた。記憶にある手つきと全く変わらない。シスターを離して瞳を覗き込むとそこには先程と違い確かな理性が光っていた。
「エステバンなの…?」
 シスターの手が優しく頬を包み込む。左頬の傷が痛んだが、彼女の手にそっと自分の手を重ねる。懐かしい響きだ。
 少しの逡巡の後、スティーブンは口を開いた。
「そうだよ」
 シスターの薄茶色の瞳から大粒の涙が溢れた。
「間に合わなくてごめん」
 ふるふると頭を振る。
「…本当に居てほしい時にはちゃんと来てくれる。間に合ったよ。みんな無事だと思う」
 ふわりと優しく笑ったシスターはスティーブンのよく知るシスターだった。
「顔をよく見せて」
 頬に走った大きな傷に、痛ましげに瞳を伏せる。ボロボロじゃない…とシスターは小さく呟く。
「ずっとエステバンに謝りたいと思っていたの」
「?」
「貴方を牙狩りにしてしまったこと」
 孤児院は牙狩り組織の一部で、能力の鱗片が見えたら本部へ報告することがシスターには義務づけられていた。だが子供達の未来を縛り付けることにはならないか、ずっと悩んで苦しんでいたという。
「ケイにもね、兆候があったの。あの子も牙狩りとしての才能がある」
 だがシスターはそれを隠蔽した。牙狩り本部に。それは裏切りと捉えられかねない。スティーブンの脳裏には暗い想像が過ぎった。
「私を殺して」
 このままでは、いずれまた理性を失う。そうなる前に早く、と。スティーブンにも頭では分かっている。転化したてであれば滅殺は可能だ。彼女を救うにはそれしかない。だが情けないくらい体が震えてしまった。走馬灯のように幼い頃の記憶が甦る。
「スティーブン」
 傍観していたクラウスがゆっくりと近づいてきた。その瞳は揺らぎない。
「彼女のフルネームを教えてくれないかね?私は彼女を封印することが出来る。君に母殺しの大罪は似合わない」




 シスターはいつも礼拝堂で祈りを捧げる時のように跪いて指を組み瞳を閉じている。それは清廉な儀式のようだった。
「アリシア・アルマス・セラーノ」
 滔々とクラウスの声が教会に響く。まるで懺悔する罪人の声を聞く神父のような佇まいだが神父にしては闘気に溢れすぎている。目を細めてスティーブンはその光景に見入った。

「憎み給え

 許し給え
 
 諦め給え

人界を護るために行う我が蛮行を

ブレングリード流血闘術 999式  久遠棺封縛獄」

 封印される直前シスターは目を開いてスティーブンに向き直る。にっこりと安心させるように微笑んだその目尻には優しげな笑い皺が刻まれていた。
「何でも一人でやらずに友達を頼りなさいね」
 昔と少しも変わらない声音。
 
 後にはカランとした音と共に真紅の小さな十字架が転がっていた。





 
 最期まで人のことばっかりだったなぁ…。

 回想の海から浮上して手の中の血色の十字架を握り締めた。本来なら血界の眷属を封印した十字架がこの場にあることは有り得ない。牙狩り本部の厳重な管理下に置かれて、外に持ち出すことはまず不可能だった。それが可能だったのはクラウスがこの密封のことを誰にも話さなかったからだ。
「この十字架は君が持つのに相応しい。きっと君を守ってくれるだろう」
 そう言って十字架を渡された日を決して忘れることは無い。

****

 本部に連絡しグールを一掃して安全を確かめてから子供達を解放した。地下への扉を開けた瞬間、鉄パイプが振ってきたのは驚いたが。教会の地下で震えていた子供達を守るように先頭にいたのは金髪の少女だった。まるで猫の仔のように威嚇する瞳が懐かしい。少女はスティーブンを認めると訝しげな表情を浮かべた。
「大丈夫だよ。助けに来たんだ」
「お兄さん達、誰?」
 年少者を抱き締めていた見知った少年が不信感を露に問いかける。クラウスは少し驚いたようにスティーブンを見た。グレーの瞳が一瞬だけ寂しそうに瞬いたが、直ぐに優しげな表情を作る。警察関係者だと子供達を言いくるめて、実際に後始末に乗り込んできた牙狩り組織の者に子供達を引き渡す。一旦は病院に入って検査をしてから、各々身の振り方を決めなくてはならないだろう。
「シスターどこ?」
 スティーブンが孤児院にいた頃はまだ赤ん坊だった少女が涙声で話す。胸が締め付けられるようだったが振り向かずにその場を後にした。



「スティーブン」
 気遣わしげなクラウスの声に何時ものような笑顔が出てこない。何故だか無性に誰かに打ち明けてしまいたかった。この真面目な若者はきっと誰にも言わないでくれるだろう。スティーブンは小さく溜め息を吐く。
「彼らは俺のことを知っているけど、知らないんだ」
「…どういうことかね?」
 スティーブンは血塗れのTシャツを脱ぎ捨てた。そこには首から心臓に繋がる紅の刺青が白い肌を犯すように伸びている。クラウスは見事な刺青だと思いながらも、何処か禍々しさを感じずにはいられない。
「足の先まで伸びてるよ」
 そう言いながら汚れたTシャツを再度着直す。
「血凍道関連のものかね?」
「そう。13歳の時だったかな。これを入れたのは」
 13歳の頃、確かスティーブンが初陣を飾ったのと同時期だ。
「氷を使う俺達の術は自身の細胞も痛め付ける。それを戦闘の支障になら無いようにするためのものさ。この術式があるから、エスメラルダ式血凍道はあまり使い手がいないんだ」
 絶対零度とは即ち-273度だ。とても人間の体が耐えられる温度ではない。通常であれば一瞬で足が使い物にならなくなる。
「細胞を活性化させて代謝を促進させる。壊死した細胞もそれを上回る早さで甦らせる。けれど人間の細胞分裂の数は限られているだろ?」
 クラウスは今までの疑問が繋がって答えが見えた気がした。スティーブンが実年齢よりも老けて見えること、同じ孤児院の子供達がスティーブンのことを分からなかったこと…。知らず拳を強く握り締める。
「それは君が望んで入れたものなのか?」
 スティーブンは微笑んだまま答えなかった。クラウスは頭を殴られたような衝撃を感じる。牙狩り組織への不信感は拭いようもない。
「ただ、物理的な攻撃にはあまり効かなくてね。血凍道によるダメージしか回復させてくれないんだ。まぁ例外はあるけど」
 スティーブンの顔と肩の傷は痛々しい包帯に覆われている。先程交換したばかりなのに、もう鮮血が滲んでいた。
 彼の技は文字通り寿命を削る。強ければ強いほどその代償は大きい。悲痛な表情を隠そうとしないクラウスにスティーブンは軽く腕を叩いた。
「血液を武器とする牙狩りはみんな命を磨り減らして戦っている。俺だけのことじゃないさ」
「……」
 遠い目で空を仰ぐスティーブンにクラウスは押し黙る。
「シスターはよく俺のことが分かったと思うよ。多分昔の知り合いに会っても誰も分からないんじゃないかな」
「…それは彼女が母親だったからだろう」
 彼は軽く目を見張ってエメラルドの瞳を見返す。そうだね、と微かに聞き取れるくらいの声で呟いた。

****

 式は終盤だ。まさか彼女の人生の晴れ舞台に呼んでもらえるとは思っていなかったので素直に嬉しかった。他の兄弟達の顔も見える。それとなく彼らのその後を見守ってはいたが、顔を合わせたのは何年ぶりか。勿論スティーブンが一方的に知っているだけだ。大半がラインヘルツ家の援助している孤児院に入れてもらうことが出来、今では半数が結婚して家庭を持っている。クラウスには感謝してもしきれない。まともな教育が受けられたおかげで就職先にも困らなかったようだ。子供達は牙狩りの血を覚醒させた者も多かったが、組織に属したのは彼女…ケイだけだった。シスターが守った命だ。本音を言えばこの世界とは無縁のまま生きていて欲しかった。
 本部で再会した時は問答無用で顔面を殴られた。女の子なのにグーは無いだろう、と抗議したスティーブンに今度は愛銃を突き付けてきたので、言い訳する機会を失ってしまった。彼女とはそれから何度も一緒に仕事をしたが、あの時のことは一度も触れてこない。知らないはずはないのに。
「スティーブン。君はそろそろ名乗り出てもいい頃じゃないかね?」
 クラウスとの付き合いも長くなった。顔を見ただけで何となく言いたいことが分かるくらいには。
「俺は彼らから母親を奪ったも同然だ。今更言えないよ」
 自嘲気味になってしまうのは許して欲しい。柄にもなくしんみりしているのが分かる。
「それは私も同罪だ。君一人の罪ではない」
「クラウス、それは違う。君のお陰で俺もシスターも救われたよ」
「そうだ。君がいたからシスターは救われたのだ」
「……」
「少なくとも彼女はそれを理解している」
 クラウスの言葉に視線を上げると、彼女…K・Kは離れた位置にいるスティーブンに向かって大股で歩いてくる。置き去りにされた夫は優しく微笑んで、K・Kの背中に手を振っていた。
「私の結婚式で辛気臭い顔しないでくれる!?」
 睨み付けてくる青い目は昔と変わらない。
「ちょっとK・K…」
 苦笑いしたスティーブンの手にブーケを押し付けた。
「次はアンタの番よ、エステバン」
「はい?」     
 流暢なスペイン語で話したK・Kとスティーブンにすっかり大人になった兄弟達が集まってフラワーシャワーをかける。驚きを隠せないスティーブンに、ようやくK・Kは溜飲を下げたのかにんまり笑った。
 年齢からしてエステ兄でしょ、早く兄ちゃんの結婚式に出たいなぁ、いや無理無理、顔は良いのにねぇ、いっそクラウスさんに貰ってもらいなよ、いやエステ兄は仕事が恋人でしょ、まだまだ難しそうねぇ、
 飛び交う懐かしい言語に一瞬過去に戻ったかのような錯覚。髪についた花びらがはらはらと落ちる。
「お前達…」
 握り締めた十字架が脈打つように温かい。

 兄弟達が積年の想いを込めてスティーブンを泣かすまで、あと5分。





====


どうでもいいあとがき。

 本当はシスターを殺したのはスティーブンで孤児院の子供達には最後まで正体が知らされないENDにしようかなーと思っていました。そのほうがスティーブンがクラウスに依存するかなーなんて思ったりして。。
 でもウルフウッドがあーいう感じだったから・・スティーブンを幸せにしたかったんです。それだけ!
 ここまでお読み頂きありがとうございました!
 
 次からはおまけです。
 K・Kとスティーブンは兄妹っぽいと思っていたので更なる捏造を重ねました。。



====


 ヘルサレムズ・ロットの高級レストランでスティーブンが接待しているのは、牙狩り組織における幹部の一人だった。灰色の頭髪を後ろに流して、丸い眼鏡をかけており、歳は70半ばといった具合か。ワイングラスを持つ手には深い皺が刻まれている。
「聞きしに勝る魔境だな、ここは」 
「恐れ入ります」
 営業用の完璧な笑顔でスティーブンは応対する。相手は既に現役を退いたとはいえ組織の上役を長年勤め上げている曲者だ。
「で?ライブラは牙狩り本部の手を離れたいと?」
「ええ。暖簾分けという形になるでしょうか。勿論今後も血界の眷属に対しては協力が必要不可欠ですから、そこは今まで通りにご高配を賜りたく存じます」
「上から目線だな」
 鼻で笑う老人がワインを一口含む。ごくりと枯木のような喉が上下した。
「資金はともかく人材はどうする?今でも本部から人材を派遣されているだろう。牙狩りの血を持つ者は少ない。育てるにも時間がかかる」
「そう言えば貴方は後継者対策に奔走されていましたね」
 スティーブンの口調が変化しグレーの瞳が剣呑な光を湛えて笑む。からん、と老人がフォークを取り落とした。
「ヘルサレムズ・ロットは世界の覇権を握る場所と言われている。その中で我々ライブラが活動する意義は大きい。知っていますか?本部の精鋭の殆どが今やライブラに属しています。またここは人間だけではない。異界の住人が多数暮らしている。神と呼ばれる者も、不本意ながらその恩恵にあずかった者も。牙狩りの血だけが必要とされる時代は終わったのですよ」
 返答はない。胸を押さえて脂汗を流す老人にスティーブンは微笑む。
「貴様…何を盛った…っ…!」
「何のことです?ああ、ここのワインはお口に合いませんでしたか?異界産のフルーツで出来ているそうですから」
 老人の唇は紫色に変色してきている。手足が痺れて普通に座っていることも困難だった。
 そうそう、とわざとらしくスティーブンが老人に明るく声をかけた。
「私も貴方のお陰でここまで来れたのですよ。感謝しています」
 最後のプライドなのか床に這いつくばるのを拒否してテーブルにすがり付く。
「はっ…そうか…!貴様、は…あの小娘の…」
「お喋りが過ぎたようですね。ご老体にはそろそろ隠居をお勧めします」
 喘ぐような呼吸の中、老人はスティーブンを睨み付けた。
「こんな、ことをして、身の破滅だとは思わん、のか…!」
「ここでは些細な出来事ですよ。何が起こるか分からない場所ですから」
 何処にでもありそうなリボルバーの銃をスーツの懐から取り出して撃鉄を起こす。 老人の目が限界まで見開かれ、恐怖の色が浮かんだ。

 そう、この街では銃で撃たれるなど蚊に刺されるくらい良くある話だった。





「おやまあ、スティーブンせんせーじゃないの?」
 半分以上は私怨での一仕事を終えて外に出ると真っ赤なコートを翻した金髪の美女が立っていた。スティーブンの顔が引き攣る。
「K・K。君何故ここに?」
 スティーブンの質問には答えず襟を掴んで引き寄せる。くん、と匂いをかいで端正な顔をしかめた。
「硝煙の匂いね」
 その言葉に天を仰いで額に手を当てる。
「血凍道を使うとアンタだと直ぐにバレる。賢いやり方だと思うわ」
 にっこりと弧を描いた唇に、スティーブンは「あ、まずい 」と思った。そのままパァンと小気味良い音が響く。
「いった~~~」
 頬の傷の上から見事なくらいの紅葉が咲いた。
「はっ、いい気味ね。スカーフェイス」
「酷いじゃないか、K・K」
「酷いのはどっち!?どうしてアタシに声をかけないの!?何でも一人で抱え込んで…!!アタシにも復讐する権利はあると思うけど!!?」
「シィー!声が大きいってK・K!」
 なんだなんだ痴話喧嘩か?そんな言葉と視線を集めて更にK・Kが憤る。
「こんな男と痴話喧嘩ですって!?冗談じゃ無いわよ!!」
 哀れな通行人はK・Kの怒気に当てられて顔面蒼白だ。
「まぁまぁ…」
 青い目がきつくスティーブンを睨み付ける。
「何も無かったよ。本当だ」
「この嘘吐き男…!」
 K・Kは苦い顔で吐き捨てる。溜め息をついて金髪をかき上げた。
「で?独立の話は本当?」
「何処で聞いてくるのかなぁ…」
 スティーブンは呆れたように呟く。
「クラっちは知っているんでしょうね」
「僕の独断で決められるわけないじゃないか。心配しなくても、今はまだ牙狩りの傘下にいるよ。今はね」
「この腹黒が…」
 取りあえず戻ろうかと言ってタクシーを捕まえ、K・Kと並んで後部座席に乗り込む。何やら戦隊モノのような音楽が流れて、横を見ると彼女の携帯からのようだった。
「ハァイ、ママだよー」
 猫なで声のK・Kに苦笑いすると鳩尾に肘が入る。スティーブンが腹を抱えて痛みに耐えている間に要件は終わったようだ。
「君は結婚したら家庭に入ると思っていたよ」
 目をぱちくりしたK・Kはスティーブンの言葉に呆れ返る。
「それはアンタの願望でしょ。私は辞める気は無かった。大切なものを守りたくてこの力を手に入れたんだから」
 そこには一切の迷いは感じられない。守れなかったものが彼女をここまで大きくしたのだろう。
「男らしいなぁ」
「さっきから喧嘩売ってんの?」
 降参の意を込めて両手を上げて肩を竦める。
 守りたいもの、か。スティーブンは思考の海に沈み込んだ。  
 子供の頃は無論あの日溜まりのような場所だった。スターフェイズ家に来て牙狩りになってからは、あの子達の平穏を守りたいと思っていた。あの事件の後からは正直何の為に戦っているのか分からないことが多かった。今はどうだろう。
 ライブラのあるビルに到着して、見た目は何の変哲も無いエレベーターへ乗り込む。幾重にも刻まれたセキュリティや術式をくぐり抜けるとようやくいつもの執務室だ。
 ソファーの上ではレオナルドとザップが珍しく仲良く昼寝をしている。ツェッドは水槽だろうか。チェインは人狼局の仕事だっけ。紅茶の香りがするからギルベルトさんはキッチンだろう。クラウスは・・観葉植物に水を上げている後ろ姿が見えた。振り返って、エメラルドの瞳が穏やかに細められる。
「おかえり、スティーブン」
 耳に馴染む低い声。    
 
 ああ、分かったよ。  
 この一言の為に、守りたいのはこの世界だ。

とある男の半生 1 (血界戦線)

2015年12月19日 23時27分56秒 | その他妄想文。
もしスティーブンがウルフウッド(トライガン)のような生い立ちだったら なif話。
クラステ風味です。


====



 真っ白な教会に鮮やかな緋色のカーペット。新たな門出を祝うように青い空が広がり色とりどりの花弁が風に舞う。愛しい伴侶と共にゆっくりと階段を下る彼女は最高に幸せそうだった。太陽の光だけではない、あまりの眩しさにスティーブンは目を細める。マーメイドラインの純白のドレスは細身の彼女によく似合っていた。
「もう少し前に行ったらどうかね?」
 気遣わしげなよく知る相棒の声にスティーブンは苦笑した。
 あまりに場違い過ぎてね。
 そう言えば否定してくれるだろう相棒の言葉が容易に想像出来て、「大丈夫」と言うに留める。不服そうなエメラルドの瞳に気づかないふりをしながらフラワーシャワーの中を歩く彼女を遠くから見つめた。
 スティーブンの胸中は複雑だった。喜びと寂しさと後悔が混じりあい…この式に出たくて堪らなかったであろう人を想う。
 目を閉じると在りし日の光景が浮かんできた。明るい太陽と青空、漆喰の壁が遠い故郷を思い出させたせいかもしれない。

****

 スティーブンは実の両親のことを全く知らない。だがそれを寂しいと思ったことはなかった。周囲は似たような境遇の子供達ばかりだったし、母親代わりの優しいシスターがいたからだ。シスターは教会での仕事をしながら小さな孤児院を切り盛りしていた。明るい茶色の髪を三つ編みにして、化粧っ気のないそばかすだらけの顔はお世辞にも美人とは言いがたかったが、愛嬌があり、母性愛に溢れた人だった。子供達はシスターを慕ったし、貧しい孤児院では皆が助け合って暮らしていた。
 スティーブンは一番年長だったためシスター不在の間は下の子供達のおしめを変えたりミルクを与えたりしたこともある。ザップ辺りが聞いたら、目を剥きそうだ。レオナルドは「スティーブンさん、子供嫌いそうなのに」、ツェッドは「一人っ子かと思いましたよ」と言いそうなので、実は大家族だった、というのはクラウスと極一部の人間しか知らない。
 スティーブンがまだ「スティーブン・A・スターフェイズ」と名乗る前の話だ。





「エステ兄!!」
 泣き声混じりの子供の声がして振り向くと強烈なタックルを食らわされた。受けとめきれずに後頭部を強打し、生理的な涙が溢れる。
「いった~」
 痛みに悶えるエステバンには構わず抱きついた子供は自分の主張をまくし立てる。
「ケイが僕のクレヨンを返してくれない!」
「ルイスが悪いのよ!!あのクレヨンはヨハンナのものでしょ!!」
 ケイ…ファーストネームの頭文字がいつの間にか呼び名になってしまった金髪の少女はエステバンの後ろに隠れた少年をきつく睨み付ける。まぁまぁと宥めようとしたエステバンにも火の粉がかかるのは何時ものことだった。
「ヘラヘラしてるんじゃないわよ!!その顔…むかつく!!」
「えー…」
 ケイはエステバンの2つ年下で金髪と青い目、整った顔立ちがまるで人形のような少女だった。その幼くも美しい顔で怒ると凄く怖い。曲がったことが大嫌いな彼女は孤児院の中でも目立つ存在だった。すぐに手が出るのが玉に傷だが。
「あらあら、どうしたの?」
 困ったような声でシスターが顔を覗かせる。ケイの声は小さな孤児院には響き渡る音量だった。シスターを見ると途端にしゅんとなる二人の子供にエステバンは思わず口許が緩む。膝を折り、子供の目線で双方の言い分を聞くシスターは神に遣えるというよりも母としての色が濃い。ケイはシスターの言うことはよく聞く。すでに青い目には薄い膜が張っているようだった。エステバンはこっそりキッチンに向かって、籠の中から収穫したてのトマトの皮を剥き始める。説教のあとは泣き晴らした目の兄弟たちがお腹を空かせてくるだろう。食事をして一晩寝てしまえば、いつの間にか仲直りできるのが兄弟というものだ。トマトを潰して、鍋に入れて、あとは適当に具をいれて…そうこうしているうちにパタパタと足音がしてシスターが戻ってきたことが分かる。キッチンに立つエステバンを見て薄茶色の瞳を軽く見開いた。
「エステバン、いつもありがとう」
 ふんわり優しく笑ったシスターがエステバンの柔らかい黒髪を撫でる。少し照れ臭くて顔を背けた瞬間、包丁で少し指を切ってしまった。じわりじわりと滲む血液がポタリとまな板に落ちた瞬間、ピシリと血液の形そのままに薄氷が張る。
「え?」
 氷は一瞬にして溶けたため、エステバンは首を傾げた。見間違えたのかとも思ってシスターの顔を仰ぎ見る。
 シスターは見たことないくらい顔面蒼白になっていた。




 エステバンに里親が見つかったのはそんな出来事があってから半年後のことだった。スターフェイズというアメリカ屈指の大富豪。兄弟たちは皆で喜びあい、エステバンの為に細やかなパーティを開いてくれた。手作りの飾りや温かな料理、いつもはめったに食べられない甘い甘いケーキ。これからは毎日美味しいものが食べられる、好きなことを学べる、畑仕事で手がささくれることもない、喜ぶ皆をみてエステバンは寂しさと不安を押し殺して笑顔を作った。皆、家族というものに憧れている。それが戸籍上のものでも里親が見つかるというのは喜ぶべきことだった。
 それが分かっていてもエステバンは何故か胸に鉛が落ちたように苦しかった。突然こんな片田舎の孤児に里親の話がきて茫然とした。養父母は未だ会いに来てもいないというのに、どうして僕が?
「っ…!!いい加減にしなさいよ!」
 ケイが大声を張り上げて、騒がしかったパーティ会場が水を打ったように静かになる。エステバンを真っ直ぐ睨みながら、つかつかと靴音が不自然に響く。ケイはピンと背を伸ばしてエステバンの真向かいにくると胸元を掴み引き寄せた。
「何で笑ってるの!?辛いなら泣きなさいよ!あんたのその貼り付けたような笑顔がだいっきらい!!」
 ぽかんと思わず口が空いてしまう。ケイは泣きそうな顔をしている。手も心なしか震えていた。
「あんた達もよ!何エステバンが居なくなることを喜んでるのよ!…っ!馬鹿じゃなっ…」
 言葉は尻切れて勢いを無くす。同時に青い瞳からぽろぽろと涙が溢れる。ケイの涙に連鎖するように静寂が破られた。
「~~~エステ兄!行っちゃやだよー!!」
「兄ちゃん、行かないで!」
「アメリカなんて遠いよ…」
 堰を切ったように泣き出した子供達にエステバンも限界だった。俯くと見慣れた床板に小さな沁みが増えていくのが分かる。
「いつでも帰って来たかったら帰って来なさい!!ここがホームなんだから」
 ケイがエステバンに抱きつく。胸の中の鉛がじんわりと溶けていくのを感じながら、エステバンはなんて幸せだろうと思った。今日のことを思い出せばきっと生きていける。  一番後ろで子供達を見ていたシスターは肩を震わせ誰にも悟られぬよう懺悔した。
「ごめんなさい、エステバン…」
 愛し子達の泣き声に紛れてシスターの声は誰にも届くことはなかった。




 スターフェイズ家は牙狩りの中でも五本の指に入る名家だった。元を辿ればイギリスの爵位を持つ家に連なるらしい。だがアメリカに渡ってきた経過を考えれば本国にいられなくなった没落貴族なのだろう。アメリカで商才を伸ばし巨万の富を得るのと同時に牙狩りとしての能力は著しく低下していった。
 その血は絶える寸前とも言える。本家筋の老夫婦にはすでに子供は望めず、分家にも牙狩りとしての素質を持った者はいなかった。苦肉の策でとったのが才能のある子供を養子として迎えることだった。
 そうして牙狩り本部から紹介されたのはスペイン片田舎の孤児である少年。古くさい伝統を重んじ、名家としてのプライドだけは高いスターフェイズ家の人々が苦虫を噛み潰したのは言うまでもない。英語は喋れるのか?訛りは酷くないか?基本的な礼儀は身に付いているのか?そもそも本当に牙狩りとしての素質があるのか?とても歓迎する雰囲気とは言いがたかった。
 だが英語圏に合わせてスティーブンと名乗った子供は想像以上に優秀だった。スターフェイズの姓を与えられてすぐにスティーブンはアメリカの本家ではなくイギリスの全寮制の寄宿舎に入れられた。昼間は学業をこなしつつ夜は牙狩りとしての訓練。望まれていたのはスティーブン個人では無く牙狩りの血のみだった。老夫婦はスティーブンを邪険に扱うことはなかったが、基本的には無関心だったし、始めは煩かった分家の人間もスティーブンが力をつけていくに従い掌を返すように媚を売るようになった。スティーブンは冷めた目で滑稽な親戚達を見ながら社交辞令だけが上達していくのを感じた。
 三年後には己の血の特性を理解し、エスメラルダ式血凍道を極めて、史上最年少で初陣を飾った。
 血凍道にもいくつか流派がある。その中でスティーブンがエスメラルダ式を選んだのは懐かしい言葉と足技がかっこいいから、という子供らしさを残した理由だとは実は誰も知らない。





 クラウス・V・ラインヘルツには長い間、顔も性格も知らないが気になっている人物がいた。牙狩りの世界にその名の通り流星の如く現れた彼はクラウスとほぼ同年代だった。史上最年少で牙狩りとして多大なる戦績をあげて今や4年目になる。名家の出でありながら社交界の場には一切顔を出さず、黙々と血界の眷属を狩る彼は何時しかクラウスの憧れのようになっていた。
 ラインヘルツの滅獄の血を持つ者として厳しくも温かい環境で育てられたクラウスは16歳にしてようやく前線に出ることを許された。それは遅くも早くも無かったが、前例がある分、クラウスには遅く感じられた。
 
 初任務は南フランスの穏やかな農村でのことだった。夜になると青白い光が墓地を包み、死体がいつまでも瑞々しいのだという。とある事件で亡くなった被害者の遺体が埋葬後に必要になりフランス警察が墓を暴いたところ発覚した、フランス警察からの依頼だった。
 つまり現代の科学捜査でははっきりした原因が分からず、もしかしたら血界の眷属が関わっているかもしれないということだ。グールの可能性もある。クラウスは牙狩り本部から送られてきた情報に目を通すと、作戦メンバーの中にある人物の名前を見つけた。スティーブン・A・スターフェイズ。
「ふむ」
 顎に手をあてて考え込むクラウスの姿は落ち着き払っており、とても16歳とは思えぬ貫禄だ。だが幼い時から側にいる老執事にはクラウスの気持ちが手に取るように分かった。
「嬉しそうですね、坊ちゃま」
「うむ。やっと彼に会えるようだ。ギルベルトの紅茶も暫く飲めなくなるな」
 クラウスの言葉ににっこりと微笑んだ執事は、これから戦場に行く主の為にとびっきりの紅茶を淹れた。




 フランスに到着するとクラウスを待っていたのは一人だけだった。まだ血界の眷属が関わっているかは分からない調査の段階なのでメンバーはたったの四人。ツーマンセルで行動することになり、うち二人はフランス警察に事情を詳しく聞きに行ったという。やはり文書だけでは分からないことも多いのだろう。
 クラウスと組んだのは柔らかそうなブルネットの髪にグレーの瞳をした、すらりと背の高い男だった。
「クラウス・V・ラインヘルツです。御指導御鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます」
 一番経験の浅いクラウスは先輩に失礼のないよう頭を下げる。相手は困ったように笑いながら頭をかいていた。
「そんなに畏まらなくていいよ。僕はスティーブン・A・スターフェイズだ。宜しく」
 その名を聞いてクラウスは巌のように固まった。確か彼は自分と同じくらいの年代の筈だ。だが目の前の男はどう見ても10代には見えない。黒いシワのないスーツを着て、青いネクタイをしている。首には赤い爪痕のような刺青がちらりと見えて、その姿は20代半ばか後半ぐらいに見える。
「失礼だが牙狩り史上最年少で前線に出たというスターフェイズ氏、であっているだろうか」
「スティーブンでいいよ。よく知ってるね。まぁ早く一人立ちしたかっただけだよ」
「では、私のこともクラウスと。宜しくスティーブン」
 クラウスが差し出した手を軽く握ってニコリと笑った。柔らかく笑みを浮かべてはいるが全く隙のない身のこなしだった。クラウスは深く考えるのをやめた。あまり詮索するのも失礼に当たるし、人を見掛けで判断してはいけない。クラウス自身も年齢相応に見られたことがないので、そう思えば気にならなくなった。
「早速だけど現場に行こうか。運転は僕がするよ」
 スティーブンはキーホルダーのついた鍵をくるくる回して、近くに停めてあったワゴン車に近づいた。
「君は大きいなぁ。後ろの席を使ってくれ」
 助手席はクラウスの体格では狭いと判断したスティーブンは後部座席を指差す。そのままスティーブンは運転席に座って慣れた仕草でエンジンをかけた。運転席から後ろの窓にはスモークが貼られておりトランクには大量の重火器が隠されている。車内は微かに火薬の匂いがした。
 会話という会話もなくクラウスは広がる景色を車窓から眺める。暫くはのどかな葡萄畑が広がっていた。色彩の乏しい窓からは分からないが、恐らくたわわに実った黒みがかった紫の果実が風に揺られているのだろうと想像する。あの木の形からして品種はマルベックだろうか…。図鑑並みに植物のことを記憶しているクラウスの脳が明後日の方向に回転し始めた。窓を開けたら甘い香りがしただろう。
「この辺はワインの産地らしいね」
 スティーブンは黙りこんだクラウスが緊張していると思い、軽い感じで話しかける。
「血のように赤いワインとして有名だ。この地域には昔から吸血鬼伝説がある」
「それは…」
 ヨーロッパでは珍しくもない話ではある。一般に吸血鬼伝承というのは医学が発達していなかった時代に仮死状態の人間がたまたま蘇生したことや、黒死病の蔓延などによって生まれたとされている。だがその伝承の中にほんの一握りの人間が血界の眷属に遭遇し、結果吸血鬼としての形がはっきり浮かび上がった。
 その土地に伝承があるとしても大昔の話なので、当てにならないことの方か多い。それでも不吉な予感を助長させるには充分だった。
「ワインは格別らしいから、君の初仕事が終わったら乾杯しようか」
「それは是非」
 灰色の瞳がミラー越しに微笑む。ドイツでは16歳から飲酒可能であり、社交界デビューを済ませたクラウスはワインやビールなら一通り飲むことが出来る。
 そういえばスティーブンは社交界の場には一切出てこない。身のこなしは洗練されており、甘い顔立ちはパーティの華となりそうであるのに。その疑問を口にするとスティーブンは困ったように笑う。
「パーティは嫌いじゃないけど…そうだな、一度経験してみてもいいかもな。クラウス、君がいるなら行こうかな」
「心にも無いことは言わないことだ、スティーブン」
 クラウスの言葉にスティーブンは目をぱちくりさせた。クラウスは言ってから、初対面の人間には不適切な言葉だったかと思い至る。だが自分は嘘やお世辞は苦手だった。
 スティーブンが先程から自分に気を遣っているのが分かる。ラインヘルツ家の家名は重く、そういうのは今までも幾度となくあったが、スティーブンが言っているのはまた違う種類のような気がする。誰をも魅了するような笑みを浮かべながら、その実、一歩も内面には踏み込ませない氷のような壁。
「私はまだまだ若輩だ。そのように気を遣わず思ったことを率直に話して欲しい」
 呆気に取られたような顔から、スティーブンは吹き出した。それは素の顔のように感じた。
「君は真っ直ぐなんだなぁ」
 眩しいものを見るような瞳がクラウスに注がれる。
「お偉いさんの集まる堅苦しい場所は苦手なんだ。でも君がいるなら行こうかな、というのはたった今本音になったよ」
 悪戯っぽく笑う彼は少しだけ幼く見えた。



   
 現場の墓地に着いたのは既に日が沈もうとしている頃だった。オレンジ色の光が白い墓石や十字架を染め上げて、影を伸ばしている。発端となった生きているかのような遺体は警察が持っていった。そちらは他の二人が見に行っている。蘇生しては大変なので厳重な封印が掛けられているが、今のところ封印が破られたという連絡はない。他の場所も掘り返してみたいが当然ながら納得出来るだけの理由がないと遺族が許さなかった。
「おたくの家族が吸血鬼かもしれないから墓を見せてくれ、って言えばいいのにねぇ」
 少しばかり剣呑な空気を漂わせてスティーブンが呟く。先程のクラウスの話に猫を被るのをやめたのか、少なくとも遠慮は感じられなくなった。
 科学の時代に吸血鬼の話をすれば、新手の詐欺師かと思われる可能性がある。牙狩りの組織はアンダーグラウンドでは有名だが、流石に一般市民は聞いたことないだろう。そう話すとスティーブンはふふん、と鼻を鳴らした。
「甘いなクラウス。20世紀に入ってからも吸血鬼事件というのは起こってる。トチ狂った村人が死人の心臓に杭を打ち込んだ事件だ。血界の眷属じゃなくてつくづく良かった。こういう閉鎖的な村で、吸血鬼伝説があれば、意外と了承してくれると思うんだがなぁ」
「だがそれでは村の人々を余計な混乱に巻き込むことになる」
「真面目だね」
 スティーブンも本気で村人を巻き込もうと思っているわけではなさそうだった。クラウスを揶揄する響きはない。掘り起こしてから「吸血鬼では有りませんでした」となれば問題は避けられない。それをスティーブンが分かっていない筈がなかった。彼なりの冗談(それにしてはブラックジョークだが)なのかもしれない。
 例の遺体が掘り出された場所は、既に土がならされて墓石も元の位置に戻されていた。資料がなければ分からなかっただろう。特に変わった所は何処にも見当たらない。
 スティーブンは墓地の中をフラフラと歩いている。クラウスには彼が何を見ているのか良く分からなかった。全く別の関係のない墓場の墓石を指でなぞったりしている。色とりどりの花や果物が供えられた墓石の数々。太陽はその身を潜めて薄闇が視界を覆い始めた。
「ふぅん…」
「スティーブン、何か分かったのかね?」
「んー多分ね。今夜2時にまたここに来ようか。少し準備するものもあるし」
 



 スティーブンはクラウスに少し仮眠するように言ってから、何処かへ出掛けて行った。小さな古びたホテルにぽつんと残されたクラウスは改めて今回の資料を読み直したり、南フランスの吸血鬼伝説などを調べていたが直ぐに手持ち無沙汰になってしまった。言われた通り仮眠をしようとも中々寝付けない。
 スティーブンはクラウスの想像とは全く違う不思議な人だった。何となく神経質そうで生真面目、厳格、そんな人柄を資料の上で想像していた。
 彼が部隊を率いる立場になってからの過去の戦歴は緻密な作戦が前提とされていることが殆どだった。大胆な実力行使の時も充分な勝算があり、無謀と呼べるものは見当たらない。スティーブン自身も相当な戦力になる筈だが、その頭脳はむしろ参謀向けだ。クラウスは彼の立てる作戦に、完成されたチェスのゲームを見たときのような高揚を不謹慎ながら感じることがあった。これが10代の少年がやったことなのだから、驚きを禁じ得ない。 日付が変わろうする頃、スティーブンは漸くホテルに戻ってきた。スーツ姿からTシャツとジーパン、その上にカーキ色のジャンパーというラフな格好に着替えている。そうすると幾分か若々しく見えた。
「おかえりスティーブン」
 そう言うとスティーブンは少し目を見張ってから微笑んだ。
「ああ、ただいま。遅くなってごめん。早速だが例の場所へ行こうか」
  

  
 車の中でスティーブンはゴーグル付きの解毒マスクのようなものをクラウスへ手渡す。状況が掴めずにいるクラウスに笑って車を出す。
「この目で見るまでは確定出来ないが、恐らく今回のことは血界の眷属じゃないよ」
「確かに不可解なことは多かったが」
「異界の生き物がこちらに迷い混むことはそんなに珍しいことじゃない。牙狩りの仕事はこういうことも多いんだ。血界の眷属相手にドンパチやるほうが実際は少ないかもな。僕もエルダークラスにはまだ当たったことはないよ。そんなに頻繁に出没していたら、人類などあっという間に滅んでしまうだろう」
「今回は異界の生き物が原因だと?」
「多分ね。きっと良いものが見れるよ」


 車を下りて暫く、墓地が近づいてくる。あたりは街灯もなく、今夜は新月だ。星以外に照らすものはなく闇が深い。スティーブンがマスクを着けるよう指示する。ゴーグルを着けた瞬間、急に視界が明るくなった。暗視ゴーグル…というわけではなさそうだ。光源は墓地の方からだった。思わずスティーブンの方を見ると彼はゴーグルだけ着けている。
「マスクはしないのかね?」
 解毒マスクをする、ということは毒か何かが空気に含まれていることなのだろう。訝しげなクラウスの視線にスティーブンは軽く両手を挙げる。
「僕は特殊な体質でね。耐性があるから大丈夫。ほらもうすぐ着くよ」
    
 墓地全体を覆う青白い光にクラウスは目を疑った。それは何百何千という蝶の大群だった。青く光る蝶がふわふわと頼りなげに浮いている。一見すると異界の生き物には思えない、形だけならこちらの世界にもいそうな蝶である。
「ゴーグルだけ外してごらん」
 言う通りにすると光は消え失せて、あたりは漆黒の闇に包まれる。ゴーグルをつけ直すとまた蠢く蝶の群れと眩しすぎる位の光。成る程、通常の人間の目には見えないらしい。
「地獄蝶、夜光蝶、黒骨蝶…などなど色んな呼び名があるけどね。古来蝶は死者の魂を運ぶとされている。これがもしかしたら伝承の元なのかもしれないね」
「では遺体が瑞々しかったのは…」
 ここまでくればクラウスも文献で読んだことがあった。夜になると発光し、死臭に群がる蝶の群れ。その燐粉には強力な防腐作用がある。死体収集家の間で高値で取引されており、生きた人間には毒にもなる違法薬物だ。
「どうして分かったのかね?」
「報告書に青白い光が、ってあっただろ。そこでもしかして、とは思っていたんだ。波長の合う人間には見えることもある。あとは現場に行ってから、供えられた花や果物すべてが瑞々しく美しかった。1つも萎れてないのはかえって不自然だ。あとは墓石に少しだけ燐粉が付着していた」
「成る程素晴らしい観察眼だ」
 探偵のように根拠を述べるスティーブンに素直に感嘆する。
「血界の眷属じゃなくてガッカリしたかい?」
 クラウスの能力は血界の眷属相手に特化している。自分の力を試したいと思うのは人間の性だ。
「いや、穏便に解決出来るのならそれが一番望ましい。それにこんなに美しい光景を見ることが出来た」
「君は…何て言うか僕が今まで会ったことない人種だなぁ」
「?」
 苦笑したスティーブンは直ぐに表情を真面目なものに変えた。靴の感触を確かめるようにタンタンと地面を叩く。
「野暮な警察が墓暴きなんてしなかったら、まだまだ君達はここにいられたかもしれないのになぁ。でも知ってしまったからには俺は君達を排除しなければならない」
 蝶に話し掛けるというよりは独り言に近い呟きだった。放っておけばいずれ近隣住民に悪影響が出るだろう。燐粉の状態ではそこまで強力な毒ではないが、体内に蓄積していけば確実に健康を害する。
「エスメラルダ式血凍道」
 スティーブンの足元からふわりと冷気が漂ったかと思うと一瞬で周囲が氷付けになった。宙を漂っていた蝶も残らず氷の柱に閉じ込められている。標本と化した蝶はすでに発光していない。黒い羽に青と白の紋様が不可思議に走っているのが分かった。氷に閉ざされた蝶は完成された彫刻のように美しかった。辺りが静寂に包まれ暗闇が戻ってくる。星の光が氷に移りこんで、きらきらと光った。





 蝶の回収は牙狩り本部へ依頼した。燃やしてしまえばそれまでだがスティーブンの方法だとどうしても死骸か残る。それを悪用しない輩がいないとは限らない。まぁ後始末だけだ。面倒なことは押し付けてしまおう。
「スティーブンの技は美しいな」
 帰りの車の中で唐突に話し出すクラウスに面食らう。これがお世辞なら「そうかい?ありがとう。君の技も見てみたいな」と言って、必要なら手の甲にキスでもしてやるのに、彼の場合はそれが本心からのようでどうにも調子が狂う。エメラルドのような澄んだ瞳はどこまでも見透かされそうで少し怖い。育ちが良いとはこういうことを言うのだろう。自分のような紛い物とは全然違う。
「ありがとう」
 結局単純に礼を言うだけに留まる。どうやら彼は社交辞令を嫌うようだし。気付いているのかいないのかは分からないがスティーブンが気持ちのこもらない上辺だけの言葉を述べると彼の威圧感が増すのだ。自分の言葉の真意がこうも相手に伝わりやすいのも問題だ。
(うーん、ちょっとめんどくさい…)
 そういえば彼女にも貼り付けたような笑顔が嫌い、と何度も言われたっけ。思い出すと自然と口元が緩んだ。 


   
 風が吹けば壊れるまでは言わないが充分年期の入った安いホテルに泊まらなくてはならなかった。お貴族様にはさぞ不自由だろうと思ったがスティーブンの予想に反してクラウスは一言も不平不満は口にしなかった。まぁ言われた所で変える気は毛頭なかったが。戦場に出たら野営や野宿だってあり得る。雨風が凌げる場所とベッドがあるだけありがたい。クラウスが何か言えば彼の評価はスティーブンの中で確実に下がっていただろう。 まだ出会って一日も経たないがクラウスは中々頑固者のような気がしてきた。思ったことははっきり言うし、自分が正しいと思ったことは疑わない。多少の傲慢さは上に立つ者としての天性のものか。16歳とは思えぬ立派な体格はベッドをかなり小さく見せたが、明け方まで動き回っていた二人は直ぐに眠りについた。

 リリリリリ…

 目覚ましよりも早くスティーブンの携帯電話が鳴る。初期設定そのままの機械音にクラウスは既に目を冷ましてスティーブンの方を伺っている。他人の携帯電話に出るわけにも行かず、だが鳴り続ける電話にクラウスは少し困っているようだった。低血圧ぎみのスティーブンの寝起きはあまり良くない。繕うことも忘れて不機嫌さを丸出しにし、電話に出る。二、三言葉を交わすうちに彼の顔色はみるみる蒼白になった。
「エルダークラスが出現した」

 スティーブンとクラウスは服を着替えて素早く車に乗り込む。場所はスペイン南部。フランスの国境を越えて直ぐだ。残りの二人は南フランスにいる他の牙狩り達を集めてジェット機で向かうという。
「小さな街だ。住民の殆どがグールとなっている。潜行チームは既に全滅。僕らは援軍チームに合流する予定だが…現地とは連絡が取れないらしい。とんだ初陣だな、クラウス」
 スティーブンは笑おうとして失敗する。街の名前は知りすぎるくらい知っていた。自分の中の数少ない優しい記憶はそこで育まれたものだ。何故あんな田舎町が。本部からの報告は最悪の想像を掻き立てた。アクセルを踏む足に知らず力が入る。
 街の手前まで来たところでスティーブンは車を下りた。空を見上げると毎日眺めていた青空に映える教会の十字架が見えた。あの別れの日からスティーブンは一度もここに訪れてはいない。自分は変わってしまった。それを兄弟達には見られたくなかった。
 牙狩りの仕事を始めてからは、稼ぎの殆どを教会へ匿名で寄付した。自分のことはスターフェイズ家が惜しみ無く援助をくれる。待望の牙狩りが漸く家から出せたのだ。それも充分な実力を伴って。そのくらいは許されるだろう。
 貧しかった孤児院が少しでも潤いますように、皆が平穏に暮らせていますように、それがスティーブンのささやかな願いだった。
「クラウス、君はここに残って後から来る部隊に合流しろ。僕は一足先に偵察に行ってくるよ」
 血界の眷属と戦ったことは何度もある。だが今ほど恐怖を覚えたことはない。声は震えていないだろうか。彼に心配をかけてはいけない。
「スティーブン、私の目を見て言ってほしい」
 はっとして顔を挙げる。エメラルドの瞳には不安げな顔をした自分が写っていた。クラウスは真っ直ぐにスティーブンの目を見て告げる。
「潜行チームは全滅したのだろう。ここで二手に別れるなど危険だ。私も行こう」「…!!」
 本当は二人でここに残り仲間を待つのがベストだ。二人だけではエルダークラスには太刀打ち出来ない。滅獄の血を持つクラウスがいても諱名が分かっているわけでもない。彼は牙狩りとしては新人でまだ子供だ。平素の自分なら迷わず待機しただろう。だが家族を目の前にして立ち止まることはスティーブンには出来そうになかった。
 クラウスもスティーブンが“らしくない”のは分かっているのだろう。はぁ、と溜め息をついてスティーブンは覚悟を決める。
「この街には僕の家族がいるんだ。僕は養子でね。10歳までこの街で暮らした」
 クラウスは少し驚いたように目を見張る。だが直ぐにその目は強い光を取り戻した。スティーブンは苦笑する。
「ならば急がねば」
「そう言うと思ったよ」
 理由を話せばますます一人では行かせてくれないだろう。短時間しか一緒にいなかったがクラウスの人となりが何故か良く分かってしまった。巻き込むなら理由を説明しなければフェアじゃない。
「生きて帰れないかもしれないぞ?」
「やってみなければ分からない」
「すまないな、クラウス」
「ワイン、奢ってくれるのだろう」
 エメラルドの瞳がきらきらと光った気がした。敵わないな、とスティーブンがスペイン語で呟いた。

拝啓 愛しい親友へ (ハイキュー)

2015年12月19日 23時01分11秒 | その他妄想文。
死にネタ注意。岩及。


====


拝啓 岩ちゃんへ

 
 桜の美しい季節になりました。桜を見ると切なくなるのは日本人の性なのかな。岩ちゃんと見た桜のこと、昨日のことのように思い出せます。
 俺達の高校には校舎裏に大きくて古い桜の木があったよね。及川さんにとってはよく呼び出しをくらう場所でもありました。(呼び出しは勿論女の子からのだよ!)4月、みんなバラバラの大学へ進学する前に少し早咲きのこの桜の下で宴会したね。お弁当を持ち寄ってのお花見。本当に楽しかったなぁ。国見ちゃんはいつもより饒舌で金田一は目を潤ませてた。次こそ全国へ行くって言う後輩達は頼もしかったなぁ。岩ちゃん、あの時ほんとはもらい泣きしそうだったでしょ~!及川さんの目は誤魔化せないよ。青城でバレーが出来て良かった。心からそう思うよ。
 大学では岩ちゃんのいない生活にぽっかりと胸に穴が空いたようだったよ。いつも側に居てくれた岩ちゃんの存在の大きさを実感しました。
 勿論バレーは続けた!あっ聞いてよ!何とウシワカちゃんと一緒の大学だったんだよ!?知らなかった…及川徹一生の不覚。昨日の敵が今日の友とはね…。それでも同郷だから、それなりに仲良くしたよ。たまには地元の方言も聞きたいじゃない。決して東京での独り暮らしが寂しかった訳じゃないよ。ウシワカちゃんは愛想ないけど天然なのかな。今時珍しい人種だったわ。及川さんとは正反対な感じ。六年苦しめられた天敵なのに俺のトスであのスパイクが決まると気持ちいいね。ゾクゾクする。
 あーっと…怒らないでね、岩ちゃん。時々お母ちゃんみたいな岩ちゃんの小言が脳内で聞こえることがあって(笑)夜更かしは程々に、バランスの良い食事を心がけて、練習もオーバーワークにならないよう気を付けました。その甲斐あってバレーはかなり良いとこまで行けました♪
 大学卒業後は実業団に入ることが出来たよ!やっぱりレベルが違う。ここでも不本意なことにウシワカちゃんと一緒ですっかり宮城コンビの愛称までついてしまったよ。うーん不本意(大事なことなのでry)
 パンパカパーン!!あっ、引かないで!なんと東京オリンピックの代表に選ばれたよ!!素直に嬉しい!!(*^▽^*)世界のアスリート達の祭典!わくわくしたね~!
 結果は残念ながら銀メダルだったけどね。でも今までは2位ばかりに甘んじてるという悔しい気持ちが多かったけど、こんなに全力を出しきって清々しい2位は初めてかも。ウシワカちゃんが泣いてるの初めて見たよ。次の日の新聞はウシワカちゃんがトップ記事で泣いてるから思わず切り抜いてしまった。勿論及川さんは凛々しく写ってます。
 四年後のオリンピックも目指したかったけど、膝やっちゃってね。引退を決めました。最後の試合は今でも思い出す。何だか凄くスローモーションに見えてね。俺の上げたトスでスパイクが決まって終了。決めたのはウシワカちゃん。も~なんの因縁なんだろうね。岩ちゃん妬けるでしょ?(^o^)金メダルはウシワカちゃんに託すことにしました。あのトビオちゃんがセッターとして入ってきたから、まぁ大丈夫でしょ。高校時代は考えられなかったよね。
 バレーを辞めたら少し俺は放心状態になっちゃった。燃え尽き症候群ってやつ?岩ちゃんのいない穴をバレーに打ち込むことで埋めていたのにまた穴が出来ちゃった。及川さん、繊細だからさ~。
 色々考えて、また一から勉強し直すことにしました。まだ一応アラサーだし若い若い!大学受験、今度は医学部。
 岩ちゃん、俺医者になったんだよ。専門は整形外科。そうスポーツ医。
 やっぱりどこかで関わっていたかったんだろうね。故障に悩まされた俺になら患者の気持ちが少しは分かると思って。思い上がりかな?…でもそう思ったんだ。
 お陰様で今や引く手あまたの名医及川先生です。自分で言うなって?バレーに限らず、野球やらテニスやら、スポーツでキラキラしている若者の相談にのって治療をしてきた自負はあります。おこりんぼの岩ちゃんもこれなら誉めてくれるでしょ。
 

 岩ちゃん、岩ちゃん、岩ちゃん。
 

 岩ちゃんのことを考えない日は無かったよ。あのお花見のあと、線路に倒れていたお年寄りを助けて、俺の前から姿を消した岩ちゃん。かっこよくて岩ちゃんらしくて涙が出ちゃうよ。どうしてあの日に限って一緒に帰らなかったんだろう。俺の用事なんて些細なものだった。一緒にいればそれこそ阿吽の呼吸で助けられたんじゃない?その事ばかりぐるぐるぐるぐる考えてしまう。
 岩ちゃんはいつだって俺に道を指し示してくれた。姿が見えなくなっても、いつも俺の中で語りかける岩ちゃんの声が聞こえた。ボケ及川クソ及川って叱咤激励してくれる。
 その感謝を伝えたくて慣れない筆をとりました。やっぱり面と向かっては照れちゃうからね。
 次に会った時にこの手紙を渡します。
 待っててね、岩ちゃん。
    


 超絶信頼関係で唯一無二の相棒 及川徹より






 陽光に満たされたテラスで手紙を書いていた手が動かなくなった。シワだらけのその手はかつてボールを操り、メスを握って、数多くの人の人生に影響を与えてきた。年季の入った万年筆が転がり落ちて、それに気付いたふわふわの茶色い髪をした男の子が老人の顔を覗き込む。
「おじいちゃん寝てるの?」
 老人のお気に入りのテラスは庭の桜の木が目の前に見える。ひらひらと薄桃色の花弁が青空に舞う様をリクライニングチェアーに座り眺めるのが、この季節の祖父の楽しみだった。少年はいつもの居眠りかと思い、ゆっくりその場を離れた。
 
 天才ではない、と言われたその人は二度と瞳に桜を写すことはなかった。

歳月。(白い影)

2012年03月12日 02時47分04秒 | その他妄想文。
NN病再発しましたww
中居くんが新しいドラマやるって聞いて・・うっかり白い影を見直したのが運のつき。
直江先生うつくしすぎる・・。
今でも大好きなドラマです。

で思いついた駄文。
タイトルは思いつかず・・適当です(^^;
直江先生の死後のお話。
二人の息子を捏造していますので苦手な方はリターン推奨ですよ!



====


こんこん、と医局の扉を叩く音が響いた。
外来を終えて小橋は疲れた体を革張りのソファに沈めた所だった。
黒々とした髪は白いものが混じり目尻には人の良さそうな笑い皺が刻まれている。
何となくあの子が来ることは予測がついていたので扉に向かって「どうぞ」と声をかけた。
カラカラと遠慮がちに扉を開きアーモンド型の瞳を覗かせる。
「忙しい所、ごめんなさい」
まだ声変わりしていない鈴のような澄んだ声音。
この病院の職員である志村倫子の一人息子、そして今は亡き同僚の忘れ形見でもある。
母について本来は立入禁止の医局にも度々顔を出しており、ここまで来るのに顔パスとなるほど馴染み深くなってしまった。
医者が忙しい時間帯をきっちり理解して避けて来るあたり場の空気が読める子だった。
「いや、大丈夫。もう終わったから。陽介くん、久しぶりだね」
もうすぐ中学に進学する ということを倫子から聞いていた。
顔の線に甘さを残したふっくらとした頬はまだまだ幼い顔立ちだが彼の父親の面影がしっかり刻まれている。
大きくなるにつれてそれは顕著になり、忘れていた胸の痛みを小橋に思い出させた。
「大きくなったなぁ」
「もうすぐ中学生ですから」
にこりと笑った顔は母親に酷似していた。
彼が愛した彼女の笑顔だ。
「今日はどうしたの?」
「祖母のお見舞いに来ました」
「ああ…」
やっぱり、という言葉は飲み込む。
先日自転車で転び骨折して運び込まれていたことを思い出した。
打ち所が悪く手術が必要と判断され術前の検査で進行した末期の癌が見つかった。
整形は階が違うので自分が顔を出すことはないが今後は内科病棟に移るだろうとベッド調整会議で言っていたことを思い出す。
家族は娘と孫しかいない。
すでに家族には告知しているが本人にはまだ話していないという。
「告知…すべきでしょうか」
いつもは明るい瞳に陰りが見える。
そうするとますます彼の父親の面影がちらつき心が波打つ。
「………」
小橋は基本的には告知に賛成派だ。
やり残したことも残したい言葉もあるだろう。
だが中にはどうしても受け入れられない患者もいる。
意気消沈し、そのまま弱っていくこともある。
受け止められるかどうか それは長年連れ添ってきた家族にしか分からない。
決断するのは家族だ。
「確かお祖母さんは看護師だったよね?」
「はい」
母と娘、二代に渡って看護師というのは珍しい話ではない。
だがどちらも母子家庭というのは何の因果だろうか。
倫子は籍を入れていない。
父親は彼女の妊娠を知らずに旅立ってしまった。
「ベテランの看護師ならきっと自分の体の症状から気付いてしまうと思う」
それを知っていて嘘を付き続けるのは容易なことではない。
残された時間を嘘で塗り固めてしまうことは辛い。
だがそれが時と場合により必ずしも悪いことではないと教えてくれた人もいる。
「父ならどうしたのでしょうか」
ぽつりと口から零れた言葉は思っていたことを言い当てられたようだった。
「小橋先生は父と働いていたのでしょう?父はどんな医者でしたか?」
「お母さんから聞いていないの?」
「母はのろけたことしか言いません」
拗ねたように唇を尖らせ眉をハの字にする。
小橋は困ったような微笑を浮かべて頭をかいた。
「外科医としては最高だったよ。彼のオペは流れるようだった。患者に対しては厳しかったな」
「患者さんに?」
「そう。患者にも回りのスタッフにも、何より自分に厳しい人だった」
自殺を謀った患者を殴って謹慎になったこともあった。
いつもの冷静な彼からは考えられないくらい声を荒げて。
今思えば…簡単に命を捨てようとする患者が許せなかったのだと思う。
彼の病を知ってから様々な不可解だった言動にもようやく合点がいった。
「それと嘘つきだな」
「ええ!?」
陽介は困惑した表情で小橋を仰ぎ見る。
悪戯っぽく微笑んで安心させるように頭をぽんぽんと叩いた。
「でも厳しいけどそれと同じくらい優しかった」
「厳しいけど優しい…?」
陽介は軽く首を傾げる。
「厳しいことも嘘も患者のための言葉だということ」
「それなら何となく分かります」
ふわりと笑う陽介は確かにあの母の育てた子だな と小橋は思う。
「父の話を聞けて嬉しいです。何となく…話してはいけない話題のような気がして」
確かに亡くなった直後はタブーのように話題にすることを避けていたが倫子が陽介を時々連れてくるようになってからはその雰囲気は和らいだ。
しかし子供は敏感だ。
父親の死に様も普通ではないこともあり、聞きにくかったのだろう。
「僕でよければいつでも話してあげるよ」
ぱあっと光が射すような笑顔につられて笑みが零れる。
「お母さんは元気?」
病棟が違うと顔を合わせる機会は少ない。
母親が末期癌だということはかなりのダメージを彼女に与えているだろう。
彼も末期癌だったので少なからず思い出してしまうに違いない。
倫子の場合は最期まで病名を知らされずに過ごし、のちに後悔を残してしまった。
もしもっと早く分かっていれば…彼の自殺は防げたかもしれない。
痛みを取り、家族に囲まれ穏やかに最期を過ごすことも可能だったかもしれない。
そう思うと同時に「何よりも前に医者だから」と言った彼を思い出す。
医者として働けなくなる直前に命を断ったのは、生きている限り医者でいたかったからか。
文字通り医学に身を捧げていた。
自分ですらそう思うのだから倫子はもっと葛藤し絶望しただろう。
彼女を絶望から救ったのは彼が残した言葉と小さな命だった。
小橋は目の前の子供をしげしげと眺める。
「祖母の前では明るく振る舞っていますが家では考え込むことが多い…と思います」
「そうか…」
抱え込み過ぎないで欲しいと思う。
「あっあの!また相談に来ても良いですか?」
「もちろん。君達家族が納得できるように最大限のサポートはさせてもらうよ」
それが医者の勤め。
陽介は嬉しそうに父親によく似た涼しげな目を細めた。
風貌は父親似だがくるくる変わる表情は正しく母のもの。
倫子が溺愛するのもわかる気がする。
病院の職員からも可愛がられており、無論自分も例外ではない。
「すっかり長居しちゃいました。母に叱られます」
「そう?…おや、噂をすればだ」
パタパタと忙しない足音。
ノックのあと間をおかずに扉が開かれる。
「陽介!」
「お母さん」
想像通りの登場だ。
「~~もう!また医局に入り浸って!小橋先生、お疲れの所すみません」
「良いですよ。陽介くんに僕も会いたかったし」
小橋はひらひらと手を振る。
子供が緊張を解いた声で母親を見上げた。
「お母さん、小橋先生にお父さんのこと聞いていたんだよ」
「直江先生の…?」
倫子の頬にさっと赤みが増した。
彼女は今だに“直江先生”と呼ぶ。
それ以上の呼び名に発展しなかったことは彼の時が永遠に止まってしまったことの証のような気がした。
「うん。僕、お父さんの話がもっと聞きたい」
「そうね…小橋先生から見た直江先生の話、ぜひ私も聞きたいです」
にっこり笑った顔には憂いは見当たらなかった。
小橋にとっては何かと衝突することが多かったので良い話と言えるエピソードは少ない。
それでも生き方に魅せられた。
彼が残したデータを生かすため大学病院で血液内科を学び直し再び行田病院に戻り、血液内科を設立したこと…影響を受けていないとは言えない。
治験薬だったフロノスは認可され、今やMM…多発性骨髄腫の治療に大いに役立っている。
「じゃあ今度妻を連れてお邪魔させて頂きます」
「ぜひ」
花が綻ぶような笑顔と息子に向けた慈愛の表情に今は亡き同僚を想う。
彼女の笑顔が消えることを何よりも恐れていた彼。
その為に誰に告げることなく一人で湖に消えた彼を。
「今年も支笏湖に?」
退出しかけた横顔に思わず声をかける。
「今は母の調子も悪いですし…陽介も学校がありますから。でも春になったら…三人で行きたいですね」
母親を連れて行く最期の旅行になる、それが分かっている寂しげな、だが決意を秘めた微笑みだった。
ならば自分は医者としてやるべきことは決まっている。
「志村くん、大丈夫だ。必ず行ける」
彼女は少し目を見張った後に頷いた。
春の木漏れ日のような笑顔で。




====


陽介君は父親似だけど明るい子だといいな・・なんてね。

受胎告知。(天禁)

2011年05月31日 01時30分26秒 | その他妄想文。
天使禁猟区という漫画の小話。
サンダルフォン→ライラという超マイナー・・自覚はしてます(^^;
OKな方はどぞ!暗いよ!


====


誰もが僕の姿を同情と蔑み、好奇の視線で見た。
巨大な肉塊に数多の瞳、胴体手足は無く人の形すら為していない。
天使というより悪魔という方が相応しいと誰もが囁く。
こんな醜い姿が僕だって…?
信じられないし信じたくない。
神たる父は僕こそが天上を統べる至高の存在だと、そう言ったではないか。
巨大な水槽に浸かりながら答えが出る筈のない問答を永遠と繰り返す。
それは醒めることの無い悪夢に似ていた。

「あら、起きていたの?」

柔らかな優しい女の人の声がしてゆっくり瞼を持ち上げると人工羊水を通して浮かぶのは青みがかった黒髪に雪のような白い肌、赤い唇、薄い水色の瞳の大好きな彼女。

“私は完璧な肉体とお力を持った御子を創り出してみせる”

彼女は僕を蘇らせる研究チームの一人。
誰もが嫌悪の目で見る僕を君だけは優しく微笑みかけてくれた。
誰よりも厳しい戒律を自身に課し研究に余念のない君は時々こうして僕の所にふらりと寄ってくれる。
そして美しい声で子守唄を歌うのだ。

“神の御前で歌えるのは男性だけよ。だから私はこの子の為だけに歌うことにしたの”

嬉しかった。
彼女と僕だけの秘密。
僕の為だけの子守唄。
彼女の唄を聞くと悪夢を見ずに眠れる。
君が好き。好きだよ。
だから君を傷つけるすべてのものから君を守ってあげる。




“お前が本当に全能の力を持つのなら…私を助けて。世界を綺麗にするために。だから一番汚いものも消さなくちゃ。…だから私も消さなくちゃね”

最後に彼女がこの部屋を訪れた時に言った言葉。
美しかった声は掠れ、白い肌にいくつもの痣、乱れた黒髪、理知的だった瞳には狂気の色が見える。
乱れた服、下肢をつたう緋色。
いいよ、大好きな君の願いなら叶えてあげる。

…だってそう仕向けたのは僕なんだから。

君が自分の心を乱すあの男達に揺れ動いていたのは知っている。
そんなの駄目、だめだよ。君が本当に大切なのは僕だけでしょう?
本当は消えて欲しいと思っていたでしょう?
僕には君しかいないんだ。
君を妬む同僚にちょっと悪夢を見せただけで思い通りに動いてくれた。
君はあの男を刺して僕の元に来た。
僕だけを頼って。
君の歌が聞けなくなってしまったことはとても残念だったけど…君は僕のものになった。

そのまま気を失った君は警備兵に拘束された。
たとえ合意がなくとも禁を犯した女はリリスの烙印を捺され下層へと落とされる運命。
天界裁判を終えて、あの男達の翼が切り落とされた後、僕はようやく君に会いに行った。
もちろん他人の体を借りたので君は僕が分からなかったみたいだけど。
美しかった黒髪はすっかり白く変わり左の頬には「魔王の妻」の刻印、絶望を宿した虚ろな瞳に仮の姿の僕が映る。

“君の存在を消しに来たよ。君に望みの力をあげる。新たに生まれ変わればいい。一緒に世界を綺麗にしよう?”

僕が用意した名前と与えた力を使って彼女はめきめきと頭角を表した。
白い天使の異名をもつ冷酷で残忍な独裁者へと。
一点の曇りもない白い世界。
完璧な天使のみが織り成す美しい至高天。
彼女は自分の理想に取り付かれたようだった。



でも僕は知ってる。
独裁者の仮面がほんの少しだけ外れる瞬間。
悪夢に脅える幼子が眠りに落ちるまで、以前のような子守唄は聞かれないけども優しく髪を梳く温かい手。
それは僕の双子の兄…メタトロンに対して注がれていた。

どうして?どうして僕じゃないの?
僕に体が無いから?
だから僕を忘れてしまうの?
君を助けたのは僕なのに、僕の力を恐れた君は僕を揺り篭に封印した。
酷いよ。
こんなにも君が好きなのに。
体さえ、体さえあれば…。

ロシエル…あの狂天使が現れてから保身に走る彼女の隙をついて僕は復活した。
ねぇメタトロン。
君はジブリールが好きなんでしょ?
君にはジブリールをあげる。
だから僕には彼女を頂戴?
あの白い鳥を。
僕らは双子の兄弟だもの、仲良く二人で分けようね…。

もうすぐ君の元へ行くよ。
待ってて、僕を産んでくれる美しい人。


僕は僕なりに君を愛しているんだよ、ライラ。




====


マイナーもマイナー、どマイナーですね←
昔から天禁の中ではセヴィーが好きでして。(色んな意味で酷いキャラですけど)
サンダルフォンはめちゃくちゃ歪んでますが彼女に母性と好意を感じてたんじゃないかなーと思うわけです。
裏切られた って想いもあったでしょうね・・。
無理矢理、事に応じたのは報復の意味合いも兼ねてたのかな。。
沙羅の時は悪夢を見せて抵抗されなかったわけですし。
無邪気な子供の残酷さも感じますけどね。

あぁ全く需要がなさそうな感じ(笑

待てば海路の日和あり。(ワンピース)

2008年12月26日 00時11分57秒 | その他妄想文。
熱帯の生暖かい風も二日酔いでぐるぐると世界が回っている感覚も少しも不快にならない。
自分でも面白いくらいワクワクしているのが分かる。
10年。
長いようで短くて・・やっぱり長かった。
首を長くして待っていたのだ。
黒刀の死神が持ってきた知らせは凶報ではなく朗報で、シャンクスは今にもこのジャングルに雪が降るのではないかと思った。
手配書の中の少年は流石に大きくなってはいたが楽しそうな笑顔は少しも変わってはいない。
よく笑いよく泣きよく怒る。
くるくると変わる表情が面白くて何度もからかったものだ。
きっとあの時のまま成長したのだろう。
自分が預けた麦わら帽子もきちんと被っている。

「麦わらのルフィ か」

海軍や民衆が勝手に付ける二つ名。
ひねりも何も無いが、まるで自分が名付け親にでもなったようでくつくつと笑いが零れる。
別れ際に被せた時はまだ大きすぎる帽子が顔の半分以上を覆ってその下の泣き顔を隠していた。

「早く返しにこい。立派な海賊になってな」

その日は決して遠い未来では無い。
あの時と同じ言葉は仲間達の宴の騒がしさで誰の耳にも届くことは無かった。




====


ルフィの笑顔は3億ベリー。(何
ニコニコのワンピ動画にムラムラしてやった。
SMAPの歌のやつは感動したし鋼EDパロはD兄弟の手合わせにはぁはぁ(´Д`*
最近のワンピの動向が気になります。
エースー!

はぐれ桜。(風光る)

2008年12月03日 04時57分57秒 | その他妄想文。
カラカラと下駄の音が秋空にこだまする。
ゆっくり時間をかけて歩く背中を見つめながら何故この時期に桜を見ようと言ったのか、彼の人の考えが全く読めない。
飄々とした表情の下には様々な思いを押し隠している筈なのに、それを察する事の出来ない自分の未熟さが歯痒くて堪らなかった。

「もうすぐですよ。神谷さん」

妙連寺の御会式桜。
秋から春にかけて花をつける不思議な桜。
話には聞いたことがあったが見たことは今まで一度も無かった。
一見すると葉は枯れ落ち、冬仕度を済ませたかのように裸の身を空っ風に晒している。

「そんなところにいないでもう少し近づいて見ると良いですよ」

沖田先生が手招きをする。
言われた通り先生の横に並べば目に映るのは青空に映える薄紅の花。

「うっわぁ・・!この時期に桜が見られるなんて・・!」

遠くから通り過ぎた者には分からない、近くで立ち止まった者だけが気付く控えめな花と蕾。
満足げな顔で沖田先生が頷く。

「綺麗ですよねぇ・・。神谷さんと一緒に見に来たかったんです」
「えっ」

その言葉に深い意味は無いであろう打算も欲も無い天真爛漫な笑み。
分かっているのに深読みしてしまう乙女心に我ながら悲しくなる。

「他の花とははぐれてこの時期にポツンと咲く桜。ただそれだけでこんなにも愛しく美しく見えるのは何故なんでしょう」

沖田先生は花を見ているのか空を見ているのか分からないぼんやりとした瞳で呟く。
こんなに物思いに耽る先生も珍しい。

「頑固な桜・・なんですね」

暖かな春ではなくわざわざこんな寒空に咲くことを選んだ桜は儚さよりも凛とした強さを感じさせた。

「ああ・・そう言われれば貴女にもそっくりだ」

私にも? ・・・って

「どういう意味ですか!?」
「そのまんまの意味ですよ♪」

そう言うとケラケラ笑いながら元来た道を戻っていく。

「・・もう!」

頑固なのは父親譲りだと自覚している。
おなごの身でしつこく新選組に留まり続けることを示唆したのだろう。
花に似ていると言われて悪い気はしないが何を言われようとも新選組以外で生きていく気は毛頭無い。

此処の桜は散った花弁を持ち帰ると恋が成就するという。
この恋が実ることを望みはしないが、少しでも沖田先生の力になれたら・・それが私にとって恋が叶うことに等しい。
地面に落ちた真新しい花びらをそっと拾って懐紙の間に挟める。

「神谷さーん!行きますよ~!」

命をかけて守りたい人がすぐ傍で笑っていてくれる。
幸福を噛みしめながら手を振る愛しい人の姿に駆け寄った。




====


京都旅行で見たときから、これ芹沢さんよりもセイちゃんっぽいとか思っていたのでした。
総ちゃんは何を思っていたのか・・それを想像しながら読んで頂けると嬉しい(^^*

観月。(ぬら孫)

2008年10月09日 00時53分17秒 | その他妄想文。
冴え冴えとした青白い月の光が満ちている。
探し人は縁側に座り足をぶらぶらさせていた。

「若」
「つららか。どうしたの?」
「いえ・・若のお姿が見えなかったものですから」

奥の間から妖怪達の喧噪が聞こえる。
その事が逆に静けさを強調させているように感じた。
若はいつもと同じ黒い着流しに紺の羽織を羽織っている。
雪女である自分には何ともないが若にはこの季節、寒さが身に堪えるのではないだろうか。
そう思い訪ねるが「寒くはないんだ」とどこか複雑そうな笑みで返された。

「月を見てらしたのですか?」
「うん」

白い満月は若にとてもよく似合う。
夜の姿でも昼の姿でもそれは変わらない。
夜を生きる妖怪にとって太陽よりも月のほうがずっと身近で尊いものだ。
真っ暗な闇の中に浮かぶ月は若。
月の周りにある星々が私たち。

秋の風が庭の木々を揺らす。

「お茶でもお持ちしますね」
「いや、いいよ。ここにいて」
「若・・?」

月が高くなるにつれ若の纏う空気が変わる。
冷たく澄んだ妖気が高まり、辺りを包む。
若の妖気が心地良いと感じるようになったのはいつの頃だったか。


“ここにいて”


もちろん。
雪女はいつまでも若のお側におります。
必ずお守り致します。
若は闇に浮かぶ我らの道標ですから。




====



2巻の雪女が可愛すぎて。
昼若が男前すぎて。
初ぬら孫でしたー。

カオス。

2008年09月04日 05時41分42秒 | その他妄想文。
銀「はーい静粛に~。これから書いてる奴が好きキャラ並ばせて喋らせたいって言うからやってみることにした。司会は我らが主役、銀さんでーす」

ア「ちょっと待って下さい。なんであなたが司会なんですか?もっと相応しい人がいるでしょう?(狂とか狂とか狂とか・・以下エンドレス)」

銀「俺だって好きでやってんじゃねーよ。書いてる奴・・あぁもう面倒くせえ、以下Jな。・・Jだと格好良すぎるか。Aにすっか。良いだろA型だし」

ア「何ですかこの適当な司会者!」

銀「ったく自己紹介前から喋んじゃねーよ。見に来てくれてる方がサッパリサッパリじゃねーか」

高「はっ!閲覧者なんていんのかよ?」

銀「いるんじゃねぇ?眉間のシワくらいの数は」

手「・・そろそろ始めた方が良いと思うんだが・・」

銀「あー・・そうだな。じゃあ初っぱなからピーピーうるさかった君から時計回りな。まず名前、年齢、所属で」

ア「(ピーピーって・・!)ゴホン。名前はアキラ。名字はありません。年齢は18か19くらいです。所属・・というのかは微妙ですが四聖天です」

天「へぇ~!俺と同い年くらいだ!でも何で年齢はっきりしないの?」

ア「孤児ですから」

天「えっ、ごめん;;でもやっぱり俺と同じだね」

ア「別に気にしてませんよ。最高の戦友(と書いて“とも”と読む)に出会えましたから」

天「あっ俺も!蛮ちゃんっていうねぇ、超かっこいい・・」

銀「オイオイマガジン同士で盛り上がってんじゃねーよ。じゃ次君ね」

天「天野銀次!18歳!所属はGetBackersでっす!あなたの街の奪還屋、成功率ほぼ100%!今なら5%オフ!」

銀「宣伝すんな。でもまぁ銀次か。いい名前だな」

天「そうですか!?わー嬉しいv」

銀「おおよ。銀て字はいい男に付くって相場が決まってんだ」

高「馬鹿に付くの間違いじゃねぇか」

ア「それは言えてますね」

銀「キミタチね・・」

高「いいからサクサク進めろ。さっさと帰りてェんだよ、俺ァ」

銀「・・・じゃ、さっきからだんまりな君。つーかもしかして寝てる?」

白「起きている。朽木白哉。年齢はとうに忘れた。所属は六番隊、隊長だ」

天「年齢忘れたんですか?」

白「死神にはあまり関係のないことだ。しかし卿らの中では一番年上だろうな」

銀「じゃ次、そこの眼鏡君」

手「手塚国光。14歳。青春学園中等部三年テニス部部長だ」

銀・高・ア・天「14歳・・?(年上かと思ってた・・!!)」

銀「あー・・えっと・・凄いよね手塚ゾーン!」

ア「・・・まるで狂の白虎のようです!」

手「ありがとう」

銀・ア(素直だ・・!)

天「手塚さん(年下だけどさん付)と白哉さんって声そっくりだね」

白「声優が同じだからな」

銀(言っちゃった・・!)

天「口調も似てる」

手「そうか」

ア「・・・」

銀「(話続かねぇ・・!!)えーと一通り自己紹介は済んだな。次は・・」

高「オイ」

銀「何?」

高「何じゃねーよ。一人忘れてねぇか?」

銀「高杉は何て言うか・・今更じゃん?いちいち聞かなくても分かるっつーか」

高「帰る」

銀「待て待て待て、Aがお前を出せってうるせえんだよ。じゃあ俺が簡単に紹介するから」

高「あァ?何でてめーが・・」

銀「銀魂仲間ってことで。えー高杉晋助。20代。獣の呻きが止まらない★エロテロリストでっす♪」

高「よっぽど斬られたいらしいな・・・」

ア「そういえば刀を使うキャラが4人もいるじゃないですか。面白そうです。私も参加しますよ」

天「ちょっ・・!待って!喧嘩はいけません!」

手「ん・・?何か聞こえないか?」


♪操られた君は僕と永遠のサンバ~♪


六「クフフ・・遅くなりました。舞い戻って来ましたよ、輪廻の果てより」

銀「(また一人増えた・・・)銀さん、ストレスで白髪になっちゃう・・」

ア「すでに白髪じゃないですか」

銀「・・・敬語キャラ二人いると分かりにくいな。お前退場したら?」

ア「嫌ですよ!何で私が!」

白「また話が脱線している」

銀「じゃ自己紹介どーぞ」

六「六道骸。今は黒曜中の中学生です。身長177センチ、趣味は幻想散歩、6月9日生まれの15歳です」

銀「聞いてないところまでありがとう」

手「同年代だな。よろしく」(手を差し出す)

銀「ちょ・・!手塚君!やめといた方が良いと思うよ!?」

六「心外ですね」

天「わー!変わった髪型だね!触っても良い?」

銀(ここにも空気読めない奴がいた・・!)

六「クフフ・・六番隊隊長さんには適いませんよ」

銀(いやどっこいどっこいだって!)

高「オィ、もう増えねぇだろうな?」

銀「多分。本当はサスケ(ナルト)やルフィ(ワンピ)やネウロも出したかったらしいけどさすがに収拾つかないから」

六「夢は世界大戦・・なんてベタすぎますかね?」

銀(聞いてないし!ベタベタすぎ・・!)

高「ほォ気が合うじゃねぇか。どーだい、一緒に世界をぶっ壊しに行かねーか」

六「良いですね」

ア「面白そうだ。私も行きますよ」

天「あわわ・・どうしよう;;えーとえーと拝啓蛮ちゃん。俺はもう生きては帰れないかもしれません。みんな目が恐いのです。最期に蛮ちゃんに会いたいです。愛の戦士銀次より」

銀(アレ?他の2人どこ行った?)

白「茶柱・・」

手「それは縁起が良いですね」

銀(勝手にお茶会してるぅうう!!?何このマイペース人間達・・!)

高「銀時ィ。てめーも行くかァ?」

銀(もうやだ・・!銀さん帰りたい・・!)




====


手塚ゾーンは知っているのに年齢は知らない銀さん★
えー・・・。
すいませんでしたァア!!