設定として
団長は魔神族と女神族のハーフ
エリザベスは女神族と人間のハーフでドルイドの始祖→転生繰り返す→∞→リズ→エリザベス・リオネス
捏造甚だしいですね…(;´_ゝ`)
団長と始祖エリザベスは幼なじみみたいな感じ。14巻の120ページ2コマ目はそういう伏線じゃないかと信じて!←
団長が謎だらけなのが悪い!気になるじゃんよー!!
女神族は何となく幽白の氷女のようなイメージしてます。女だらけの集団。
よろしければお進み下さいm(__)m
====
朝を知らせる鳥の声が新緑の枝の奥から聞こえてくる。木の根元に寝転がっているのは金色の髪をしたまだ年端もいかない少年だった。目を閉じて耳を澄ませ彼女の軽い足音が近づいてくるのを待っている。
「メリオダス?起きてる?」
予想通りの柔らかい声音が優しく耳朶に触れる。彼女がそっと隣に座ったのが気配で分かった。
「もう!狸寝入りでしょ」
細く柔らかい金の髪に指を絡める彼女が少しだけ怒ったような、拗ねたような声を出すので自然と口角が上がってしまった。ゆっくりと瞼を押し開くときらきら光る銀色の髪が目の前に揺れている。
「おはよ。エリザベス」
ふわり、と優しく笑ったメリオダスにエリザベスは少し頬を赤らめた。色彩の異なる左右の瞳を少年から逸らすと、その隙にちゃっかり膝の上に頭を乗せてくる。手を伸ばしてエリザベスの頬を包み込み、顔を覗き込む翡翠の瞳。魔神族は皆、漆黒の瞳をしているが彼だけは違う。それが彼の母から譲り受けたものであることは周知の事実だった。
「綺麗な瞳だ」
エリザベスの思考をなぞったように少年は笑った。エリザベスは自身の目があまり好きではない。右目は女神の力を受け継いだ証。人間と女神の間の子であることを示している。
「右目は夕焼けの色、左目は晴れた空の色だな」
幼い顔立ちで大人びた表情をするメリオダスに心臓の鼓動が高鳴る。昔は同じくらいの背丈だったのに、今のエリザベスは頭1つ分くらい彼よりも大きい。年を取らないのは魔神族の血によるものだろうか。いや、女神も魔神族も寿命は同じくらいだ。すると成長の差は自分に流れる人間の血によるものか。女としては自分だけ年を取るのは面白くない。そしてその果てに待つのは……。
ぶるりと身を震わせたエリザベスにメリオダスは身を起こして首を傾けた。外套をエリザベスの肩に掛ける。 お互い半端者同士、いつの間にか気を許せる唯一の相手になっていた。こうして二人でのんびり出来る機会は残り少ないことは口に出さなくてもわかる。
戦争が近い。女神にも魔神族にも疎まれているメリオダスはどうするのか、聞きたいけど怖い。エリザベスは何度も言葉を飲み込んだ。
「メリオダス…」
「ん?」
翡翠の瞳に映る自分の目は不安に満ちていた。それを汲み取ったかのように小さな唇がエリザベスの額に優しく触れる。
このまま時が止まってしまえばいいのに
エリザベスはそう思わずにはいられなかった。
封印のレリーフの前にメリオダスは呆然と立ちすくんでいた。魔神族の気配も女神族の気配もしない。愛しい人の気配も。
震える手でレリーフに触れる。何故自分は封印を免れたのだろうか。この身に流れる女神の血のせいだろうか。だがメリオダスは女神から疎まれている存在であり、彼女達が見逃すとは思えなかった。女神の力は基本的に女性しか使えない。自分には禍々しい魔力以外の力はなく封印に抗う力はないように思えた。レリーフに額を寄せるとまるで生きているかのような鼓動が聞こえる。そしてこの温かな力は…
翡翠の瞳に涙が浮かぶ。
「エリザベス…」
封印の人柱となったエリザベスの力がメリオダスを助けた。それ意外に考えられなかった。
膝の力が抜けてその場に踞る。守れなかった。自分とは、戦争とは関係の無い場所で暮らしていて欲しかった。
彼女が戦いに身を投じたのはきっと家族の為なのだろう。風の噂で人間の男性と結婚し子供にも恵まれたと聞いていた。胸が締め付けられるような思いだったが、彼女とは時の流れが違う。最後に別れを告げた時の泣き顔が鮮明に思い出される。オッドアイが涙に濡れて美しいと思った。彼女に出会わなければ出来損ないの魔神族の一人として、殺戮を繰り返していたかもしれない。愛しくて愛しくて、だから遠ざけた。
それなのに彼女に流れる女神の血が戦いから逃れることを許さなかった。人柱となったエリザベスは転生を繰り返し、その身は封印を解く為の鍵となる。未来永劫、封印を解こうとする輩に狙われ続けるだろう。ならば…
爪が掌に突き刺ささるくらい強く拳を握りしめる。翡翠の瞳に決意の光が灯った。
(俺の命が尽きるまで、お前を守り続ける)
深い森の奥にはドルイドと呼ばれる人々が暮らす集落があった。彼らは余所者を恐れ、外部との接触を極端に嫌がる、女神を崇める一族。始祖は女神と人間の混血児だったが二千年もの月日は女神の血を薄れさせており、「巫女」と呼ばれる少女以外はほぼ普通の人間と同じだった。
そのドルイドの森に一番近い村にメリオダスは住んでいた。
「今度の生も大丈夫そうだな」
二千年エリザベスの魂を見守り続け、ばらばらに崩したレリーフの一部である常闇の棺を肌身離さず持ち歩く。全ては魔神族を蘇らせない為、彼女の想いを受け継ぐ為だった。基本的にメリオダスはエリザベスと会うことはない。転生した彼女には彼女の生を歩んで欲しい。わざわざ平和な暮らしをしているエリザベスの生活に水を差す必要も無いだろう。エリザベスがすくすく成長して、大人になって、結婚して、子供を生んで、孫に囲まれて死ぬ。その姿を何度も何度も見てきた。時には病で早世することもあったが、それは自然な出来事として手を出すことはしなかった。メリオダスが手を出すのはエリザベスの生が不自然に歪められそうになった時だけ。魔神族を蘇らせようと企む不届き者は二千年の中で皆無というわけにはいかなかった。
「しかし、我ながら魂のストーカーだなぁ」
フライパンにある肉が美味しそうな音を立てて焦げ目を付けていく。それをさっと味付けして皿に乗せた。
「何ぶつぶつ言ってんだ?メリオダス」
ぴょこん、と耳を立てて薄茶色のウサギが顔を出す。罠に捕まって泣き叫んでいるところを助けたら、そのままこの家に住み着いてしまった。背中には白くクローバーのような形の模様がある、お喋りなウサギだった。
「よく肉なんて食えるな。人参くれ」
「はいはい」
収穫したばかりで葉のついた人参を押し掛け相棒の茶碗に乗せてやる。自身は焼いたばかりの肉にかぶり付いた。
「うーん、まずい」
「焼くだけなのに何でまずいんだよ」
呆れたような突っ込みをするウサギは人参を葉っぱまで食べ終えると、ぴょんと窓の外を覗き込んだ。先程からゴウゴウと音がする。
「すげぇ雨だな」
バケツをひっくり返したという形容がぴったりなほどのどしゃ降り。メリオダスが窓の外に目を向けた瞬間、突然地響きを立てて建物が大きく揺れた。咄嗟に相棒の首を掴んでテーブルの下に潜り込む。がしゃん、と食器が壊れる音がした。数分もすれば揺れは収まったが胸騒ぎがする。
「ここにいろ!」
ペタンと耳を倒したウサギにそう告げて、メリオダスは大雨の中を駆け出した。
****
悪い予感ほど当たるものはない。ドルイドの村にたどり着いた時、集落の半分は土砂に押し流されて、見るも無惨な様子だった。慎重に神経を研ぎ澄まし忘れることの無いエリザベスの魔力を探るが見つからない。泥だらけの人々を助けながら、巫女の行方を確認するとちょうど土砂に埋もれた場所、神殿にいたはずだ、と教えてくれた。
「おい、あんたあっちは危険だ!」
ドルイドの人達が叫ぶ。この大雨では二次災害の危険があった。だがメリオダスはエリザベスを探さずにいられない。この土砂崩れは自然現象なのだから天命なのだ、と割りきることが出来なかった。
…数日後に彼女は結婚する予定だった。幸せの絶頂にいたはずだ。
神殿から土砂の流れた方向を祈るような気持ちで探すと、ほんの僅かエリザベスの魔力が凪いだ水面に落ちる水滴のような形で感じる。その源の元へ飛び出しそうな心臓を抑えて向かった。
「エリザベス!」
エリザベスは放り出されたような形で木の上に引っ掛かっていた。木の板に乗って土砂に流されたのか体はあまり汚れていない。メリオダスはエリザベスを抱えて、近くの洞窟へ避難した。
****
大雨のせいで体が冷えきっていた。洞窟の中で少しでも乾いている枝を探し火を付ける。 エリザベスの顔は蒼白だった。外傷はなさそうだが、何処かを打ったのかもしれない。息が浅く今にも止まりそうだ。
「エリザベス」
濃厚な死の香りがした。メリオダスは優しくエリザベスの冷たい頬に触れる。金茶の髪が濡れて張り付いておりいつもは髪に隠れてる右目が露だった。メリオダスから伝わる僅かな温もりにエリザベスは朦朧としながらも意識を取り戻した。
「泣かないで…」
メリオダスは耳に馴染む柔らかい声音を久し振りに聞いた。エリザベスは瞼を開けたが視線は定まらず茫洋としている。橙と空色の瞳。髪の色は違うが瞳の色は変わらない。死の淵にいて尚、他人を思いやることが出来る心も。
「何で泣いているって思うんだ?」
恐らくエリザベスの目はもう見えていないだろう。俯いたメリオダスの姿を見てはいない。仮に見えていても自分のことがわかるはずがなかった。
エリザベスは質問には答えず独白のように語り掛ける。
「ずっと誰かを待っているような気がしていました。やっと会えた…」
喘ぐような呼吸の中で必死に言葉を紡ぐ。
「ずっと、あなたに会いたかった」
堪えきれない感情が溢れてメリオダスはエリザベスを抱き締めた。土砂をかき分けた時に出来た細かな擦り傷がみるみる癒えていく。どうしてその力を自分に使わないのか、メリオダスは唇を噛み締めた。口腔内にじんわりと広がる鉄の味がエリザベスの魔力が弱まっていることを教える。力の抜けていく体にどうすることも出来ない。
そのままエリザベスは二度と瞳を開けることはなかった。
千年前、目の前でエリザベスを看取ってからメリオダスはエリザベスの魂を追いかけるのを止めた。その代わり各地を騎士として点々と旅をし、少しでも魔神族に繋がりそうなことがあれば片っ端から潰していった。そうして今は何の因果か、ダナフォールの聖騎士長に収まっている。
「団長、敵国の女騎士を捕らえたそうですよ」
「へー」
興味無さそうに紅茶を飲んでいるメリオダスを他所に、部下達は気ままに話し続ける。
「凄い美人だって噂」
「見てみたいなぁ」
「俺は凄い男勝りだって聞いたぞ」
「やっぱり処刑されるのかな」
「確か名前は……」
「エリザベス」
メリオダスが紅茶にムセて咳き込む。
「なんだって…?」
珍しい団長の姿に騎士達の視線が集まった。
****
「どうせ私の体が目的なんだろ!?近づくな!」
まるで猫の子のように毛を逆立てて威嚇するリズをメリオダスは軽く往なしてセクハラしつつ食事を勧めた。散々ストーキングしたツケなのか、彼女とは切っても切れない繋がりがあるのだと実感し、こっそり溜め息をつく。
「溜め息ついたな!?溜め息つきたいのはこっちのほうだ!!」
目敏くメリオダスの仕草を指摘するリズに笑いが込み上げる。そうしてますます血を昇らせるリズが可愛くてしょうがない。
(また随分毛色が変わったもんだな)
短く揃えた赤毛と同じくらい顔を赤らめてるリズ。どうやら今世はドルイド生まれじゃなさそうだ。もしくはドルイドの巫女が行方不明になったとか?しばらくエリザベスの魂から離れていたメリオダスには見当もつかない。
「まぁまぁ飯食おうぜ」
席に座るよう促すと嫌々ながらも着いて食事に手を伸ばす。口にした瞬間、彼女の顔がみるみる青ざめた。
「うーん、やっぱりまずいか」
その日から料理の一切はリズが取り仕切るようになった。
エリザベスの魂とここまで深く交わったのは初めてだった。リズと暮らしていて自然と懐かしさや愛しさが込み上げてきた。表面的には違うように見えても根っこの部分は変わらない。魂に深く刻まれた想いというのはあるのだろうか。
「リズ…」
真っ赤な血が雨と共に流れていく。すでに生気を無くした瞳をそっと指で閉じる。
どうして守れなかった?守ると誓ったのに。側にいたのに。
リズの最期の言葉がずっと頭の中に響いていた。
「メリオダス、それが俺の名前だ」
にかっと笑うメリオダスの前には空色の瞳から大粒の涙を溢すエリザベスがいた。
幼少の頃から見守っていた小さなエリザベスは国を憂いて再び自分を見つけた。今度は偶然ではない、エリザベスの意思で。誰かを思いやる優しい心根が変わらないことが嬉しかった。
(エリザベスに出会ったあの日からずっと、俺のやるべきことは決まっている)
今度こそエリザベスの想いを、魂を守る。
『三千年前から愛してる』
団長は魔神族と女神族のハーフ
エリザベスは女神族と人間のハーフでドルイドの始祖→転生繰り返す→∞→リズ→エリザベス・リオネス
捏造甚だしいですね…(;´_ゝ`)
団長と始祖エリザベスは幼なじみみたいな感じ。14巻の120ページ2コマ目はそういう伏線じゃないかと信じて!←
団長が謎だらけなのが悪い!気になるじゃんよー!!
女神族は何となく幽白の氷女のようなイメージしてます。女だらけの集団。
よろしければお進み下さいm(__)m
====
朝を知らせる鳥の声が新緑の枝の奥から聞こえてくる。木の根元に寝転がっているのは金色の髪をしたまだ年端もいかない少年だった。目を閉じて耳を澄ませ彼女の軽い足音が近づいてくるのを待っている。
「メリオダス?起きてる?」
予想通りの柔らかい声音が優しく耳朶に触れる。彼女がそっと隣に座ったのが気配で分かった。
「もう!狸寝入りでしょ」
細く柔らかい金の髪に指を絡める彼女が少しだけ怒ったような、拗ねたような声を出すので自然と口角が上がってしまった。ゆっくりと瞼を押し開くときらきら光る銀色の髪が目の前に揺れている。
「おはよ。エリザベス」
ふわり、と優しく笑ったメリオダスにエリザベスは少し頬を赤らめた。色彩の異なる左右の瞳を少年から逸らすと、その隙にちゃっかり膝の上に頭を乗せてくる。手を伸ばしてエリザベスの頬を包み込み、顔を覗き込む翡翠の瞳。魔神族は皆、漆黒の瞳をしているが彼だけは違う。それが彼の母から譲り受けたものであることは周知の事実だった。
「綺麗な瞳だ」
エリザベスの思考をなぞったように少年は笑った。エリザベスは自身の目があまり好きではない。右目は女神の力を受け継いだ証。人間と女神の間の子であることを示している。
「右目は夕焼けの色、左目は晴れた空の色だな」
幼い顔立ちで大人びた表情をするメリオダスに心臓の鼓動が高鳴る。昔は同じくらいの背丈だったのに、今のエリザベスは頭1つ分くらい彼よりも大きい。年を取らないのは魔神族の血によるものだろうか。いや、女神も魔神族も寿命は同じくらいだ。すると成長の差は自分に流れる人間の血によるものか。女としては自分だけ年を取るのは面白くない。そしてその果てに待つのは……。
ぶるりと身を震わせたエリザベスにメリオダスは身を起こして首を傾けた。外套をエリザベスの肩に掛ける。 お互い半端者同士、いつの間にか気を許せる唯一の相手になっていた。こうして二人でのんびり出来る機会は残り少ないことは口に出さなくてもわかる。
戦争が近い。女神にも魔神族にも疎まれているメリオダスはどうするのか、聞きたいけど怖い。エリザベスは何度も言葉を飲み込んだ。
「メリオダス…」
「ん?」
翡翠の瞳に映る自分の目は不安に満ちていた。それを汲み取ったかのように小さな唇がエリザベスの額に優しく触れる。
このまま時が止まってしまえばいいのに
エリザベスはそう思わずにはいられなかった。
封印のレリーフの前にメリオダスは呆然と立ちすくんでいた。魔神族の気配も女神族の気配もしない。愛しい人の気配も。
震える手でレリーフに触れる。何故自分は封印を免れたのだろうか。この身に流れる女神の血のせいだろうか。だがメリオダスは女神から疎まれている存在であり、彼女達が見逃すとは思えなかった。女神の力は基本的に女性しか使えない。自分には禍々しい魔力以外の力はなく封印に抗う力はないように思えた。レリーフに額を寄せるとまるで生きているかのような鼓動が聞こえる。そしてこの温かな力は…
翡翠の瞳に涙が浮かぶ。
「エリザベス…」
封印の人柱となったエリザベスの力がメリオダスを助けた。それ意外に考えられなかった。
膝の力が抜けてその場に踞る。守れなかった。自分とは、戦争とは関係の無い場所で暮らしていて欲しかった。
彼女が戦いに身を投じたのはきっと家族の為なのだろう。風の噂で人間の男性と結婚し子供にも恵まれたと聞いていた。胸が締め付けられるような思いだったが、彼女とは時の流れが違う。最後に別れを告げた時の泣き顔が鮮明に思い出される。オッドアイが涙に濡れて美しいと思った。彼女に出会わなければ出来損ないの魔神族の一人として、殺戮を繰り返していたかもしれない。愛しくて愛しくて、だから遠ざけた。
それなのに彼女に流れる女神の血が戦いから逃れることを許さなかった。人柱となったエリザベスは転生を繰り返し、その身は封印を解く為の鍵となる。未来永劫、封印を解こうとする輩に狙われ続けるだろう。ならば…
爪が掌に突き刺ささるくらい強く拳を握りしめる。翡翠の瞳に決意の光が灯った。
(俺の命が尽きるまで、お前を守り続ける)
深い森の奥にはドルイドと呼ばれる人々が暮らす集落があった。彼らは余所者を恐れ、外部との接触を極端に嫌がる、女神を崇める一族。始祖は女神と人間の混血児だったが二千年もの月日は女神の血を薄れさせており、「巫女」と呼ばれる少女以外はほぼ普通の人間と同じだった。
そのドルイドの森に一番近い村にメリオダスは住んでいた。
「今度の生も大丈夫そうだな」
二千年エリザベスの魂を見守り続け、ばらばらに崩したレリーフの一部である常闇の棺を肌身離さず持ち歩く。全ては魔神族を蘇らせない為、彼女の想いを受け継ぐ為だった。基本的にメリオダスはエリザベスと会うことはない。転生した彼女には彼女の生を歩んで欲しい。わざわざ平和な暮らしをしているエリザベスの生活に水を差す必要も無いだろう。エリザベスがすくすく成長して、大人になって、結婚して、子供を生んで、孫に囲まれて死ぬ。その姿を何度も何度も見てきた。時には病で早世することもあったが、それは自然な出来事として手を出すことはしなかった。メリオダスが手を出すのはエリザベスの生が不自然に歪められそうになった時だけ。魔神族を蘇らせようと企む不届き者は二千年の中で皆無というわけにはいかなかった。
「しかし、我ながら魂のストーカーだなぁ」
フライパンにある肉が美味しそうな音を立てて焦げ目を付けていく。それをさっと味付けして皿に乗せた。
「何ぶつぶつ言ってんだ?メリオダス」
ぴょこん、と耳を立てて薄茶色のウサギが顔を出す。罠に捕まって泣き叫んでいるところを助けたら、そのままこの家に住み着いてしまった。背中には白くクローバーのような形の模様がある、お喋りなウサギだった。
「よく肉なんて食えるな。人参くれ」
「はいはい」
収穫したばかりで葉のついた人参を押し掛け相棒の茶碗に乗せてやる。自身は焼いたばかりの肉にかぶり付いた。
「うーん、まずい」
「焼くだけなのに何でまずいんだよ」
呆れたような突っ込みをするウサギは人参を葉っぱまで食べ終えると、ぴょんと窓の外を覗き込んだ。先程からゴウゴウと音がする。
「すげぇ雨だな」
バケツをひっくり返したという形容がぴったりなほどのどしゃ降り。メリオダスが窓の外に目を向けた瞬間、突然地響きを立てて建物が大きく揺れた。咄嗟に相棒の首を掴んでテーブルの下に潜り込む。がしゃん、と食器が壊れる音がした。数分もすれば揺れは収まったが胸騒ぎがする。
「ここにいろ!」
ペタンと耳を倒したウサギにそう告げて、メリオダスは大雨の中を駆け出した。
****
悪い予感ほど当たるものはない。ドルイドの村にたどり着いた時、集落の半分は土砂に押し流されて、見るも無惨な様子だった。慎重に神経を研ぎ澄まし忘れることの無いエリザベスの魔力を探るが見つからない。泥だらけの人々を助けながら、巫女の行方を確認するとちょうど土砂に埋もれた場所、神殿にいたはずだ、と教えてくれた。
「おい、あんたあっちは危険だ!」
ドルイドの人達が叫ぶ。この大雨では二次災害の危険があった。だがメリオダスはエリザベスを探さずにいられない。この土砂崩れは自然現象なのだから天命なのだ、と割りきることが出来なかった。
…数日後に彼女は結婚する予定だった。幸せの絶頂にいたはずだ。
神殿から土砂の流れた方向を祈るような気持ちで探すと、ほんの僅かエリザベスの魔力が凪いだ水面に落ちる水滴のような形で感じる。その源の元へ飛び出しそうな心臓を抑えて向かった。
「エリザベス!」
エリザベスは放り出されたような形で木の上に引っ掛かっていた。木の板に乗って土砂に流されたのか体はあまり汚れていない。メリオダスはエリザベスを抱えて、近くの洞窟へ避難した。
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大雨のせいで体が冷えきっていた。洞窟の中で少しでも乾いている枝を探し火を付ける。 エリザベスの顔は蒼白だった。外傷はなさそうだが、何処かを打ったのかもしれない。息が浅く今にも止まりそうだ。
「エリザベス」
濃厚な死の香りがした。メリオダスは優しくエリザベスの冷たい頬に触れる。金茶の髪が濡れて張り付いておりいつもは髪に隠れてる右目が露だった。メリオダスから伝わる僅かな温もりにエリザベスは朦朧としながらも意識を取り戻した。
「泣かないで…」
メリオダスは耳に馴染む柔らかい声音を久し振りに聞いた。エリザベスは瞼を開けたが視線は定まらず茫洋としている。橙と空色の瞳。髪の色は違うが瞳の色は変わらない。死の淵にいて尚、他人を思いやることが出来る心も。
「何で泣いているって思うんだ?」
恐らくエリザベスの目はもう見えていないだろう。俯いたメリオダスの姿を見てはいない。仮に見えていても自分のことがわかるはずがなかった。
エリザベスは質問には答えず独白のように語り掛ける。
「ずっと誰かを待っているような気がしていました。やっと会えた…」
喘ぐような呼吸の中で必死に言葉を紡ぐ。
「ずっと、あなたに会いたかった」
堪えきれない感情が溢れてメリオダスはエリザベスを抱き締めた。土砂をかき分けた時に出来た細かな擦り傷がみるみる癒えていく。どうしてその力を自分に使わないのか、メリオダスは唇を噛み締めた。口腔内にじんわりと広がる鉄の味がエリザベスの魔力が弱まっていることを教える。力の抜けていく体にどうすることも出来ない。
そのままエリザベスは二度と瞳を開けることはなかった。
千年前、目の前でエリザベスを看取ってからメリオダスはエリザベスの魂を追いかけるのを止めた。その代わり各地を騎士として点々と旅をし、少しでも魔神族に繋がりそうなことがあれば片っ端から潰していった。そうして今は何の因果か、ダナフォールの聖騎士長に収まっている。
「団長、敵国の女騎士を捕らえたそうですよ」
「へー」
興味無さそうに紅茶を飲んでいるメリオダスを他所に、部下達は気ままに話し続ける。
「凄い美人だって噂」
「見てみたいなぁ」
「俺は凄い男勝りだって聞いたぞ」
「やっぱり処刑されるのかな」
「確か名前は……」
「エリザベス」
メリオダスが紅茶にムセて咳き込む。
「なんだって…?」
珍しい団長の姿に騎士達の視線が集まった。
****
「どうせ私の体が目的なんだろ!?近づくな!」
まるで猫の子のように毛を逆立てて威嚇するリズをメリオダスは軽く往なしてセクハラしつつ食事を勧めた。散々ストーキングしたツケなのか、彼女とは切っても切れない繋がりがあるのだと実感し、こっそり溜め息をつく。
「溜め息ついたな!?溜め息つきたいのはこっちのほうだ!!」
目敏くメリオダスの仕草を指摘するリズに笑いが込み上げる。そうしてますます血を昇らせるリズが可愛くてしょうがない。
(また随分毛色が変わったもんだな)
短く揃えた赤毛と同じくらい顔を赤らめてるリズ。どうやら今世はドルイド生まれじゃなさそうだ。もしくはドルイドの巫女が行方不明になったとか?しばらくエリザベスの魂から離れていたメリオダスには見当もつかない。
「まぁまぁ飯食おうぜ」
席に座るよう促すと嫌々ながらも着いて食事に手を伸ばす。口にした瞬間、彼女の顔がみるみる青ざめた。
「うーん、やっぱりまずいか」
その日から料理の一切はリズが取り仕切るようになった。
エリザベスの魂とここまで深く交わったのは初めてだった。リズと暮らしていて自然と懐かしさや愛しさが込み上げてきた。表面的には違うように見えても根っこの部分は変わらない。魂に深く刻まれた想いというのはあるのだろうか。
「リズ…」
真っ赤な血が雨と共に流れていく。すでに生気を無くした瞳をそっと指で閉じる。
どうして守れなかった?守ると誓ったのに。側にいたのに。
リズの最期の言葉がずっと頭の中に響いていた。
「メリオダス、それが俺の名前だ」
にかっと笑うメリオダスの前には空色の瞳から大粒の涙を溢すエリザベスがいた。
幼少の頃から見守っていた小さなエリザベスは国を憂いて再び自分を見つけた。今度は偶然ではない、エリザベスの意思で。誰かを思いやる優しい心根が変わらないことが嬉しかった。
(エリザベスに出会ったあの日からずっと、俺のやるべきことは決まっている)
今度こそエリザベスの想いを、魂を守る。
『三千年前から愛してる』