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春夏秋冬。

その時々で思いついた妄想文をつらつらと。
二次創作中心。カテゴリのはじめにからどうぞ。

三千年前から愛してる

2015年12月19日 23時12分51秒 | 七つの大罪妄想文。
設定として
団長は魔神族と女神族のハーフ
エリザベスは女神族と人間のハーフでドルイドの始祖→転生繰り返す→∞→リズ→エリザベス・リオネス 
捏造甚だしいですね…(;´_ゝ`)
団長と始祖エリザベスは幼なじみみたいな感じ。14巻の120ページ2コマ目はそういう伏線じゃないかと信じて!←
団長が謎だらけなのが悪い!気になるじゃんよー!!
女神族は何となく幽白の氷女のようなイメージしてます。女だらけの集団。
よろしければお進み下さいm(__)m



====


 朝を知らせる鳥の声が新緑の枝の奥から聞こえてくる。木の根元に寝転がっているのは金色の髪をしたまだ年端もいかない少年だった。目を閉じて耳を澄ませ彼女の軽い足音が近づいてくるのを待っている。
「メリオダス?起きてる?」
 予想通りの柔らかい声音が優しく耳朶に触れる。彼女がそっと隣に座ったのが気配で分かった。
「もう!狸寝入りでしょ」
 細く柔らかい金の髪に指を絡める彼女が少しだけ怒ったような、拗ねたような声を出すので自然と口角が上がってしまった。ゆっくりと瞼を押し開くときらきら光る銀色の髪が目の前に揺れている。
「おはよ。エリザベス」
 ふわり、と優しく笑ったメリオダスにエリザベスは少し頬を赤らめた。色彩の異なる左右の瞳を少年から逸らすと、その隙にちゃっかり膝の上に頭を乗せてくる。手を伸ばしてエリザベスの頬を包み込み、顔を覗き込む翡翠の瞳。魔神族は皆、漆黒の瞳をしているが彼だけは違う。それが彼の母から譲り受けたものであることは周知の事実だった。
「綺麗な瞳だ」
 エリザベスの思考をなぞったように少年は笑った。エリザベスは自身の目があまり好きではない。右目は女神の力を受け継いだ証。人間と女神の間の子であることを示している。
「右目は夕焼けの色、左目は晴れた空の色だな」
 幼い顔立ちで大人びた表情をするメリオダスに心臓の鼓動が高鳴る。昔は同じくらいの背丈だったのに、今のエリザベスは頭1つ分くらい彼よりも大きい。年を取らないのは魔神族の血によるものだろうか。いや、女神も魔神族も寿命は同じくらいだ。すると成長の差は自分に流れる人間の血によるものか。女としては自分だけ年を取るのは面白くない。そしてその果てに待つのは……。
 ぶるりと身を震わせたエリザベスにメリオダスは身を起こして首を傾けた。外套をエリザベスの肩に掛ける。 お互い半端者同士、いつの間にか気を許せる唯一の相手になっていた。こうして二人でのんびり出来る機会は残り少ないことは口に出さなくてもわかる。
 戦争が近い。女神にも魔神族にも疎まれているメリオダスはどうするのか、聞きたいけど怖い。エリザベスは何度も言葉を飲み込んだ。
「メリオダス…」
「ん?」
 翡翠の瞳に映る自分の目は不安に満ちていた。それを汲み取ったかのように小さな唇がエリザベスの額に優しく触れる。
 このまま時が止まってしまえばいいのに  
 エリザベスはそう思わずにはいられなかった。





 封印のレリーフの前にメリオダスは呆然と立ちすくんでいた。魔神族の気配も女神族の気配もしない。愛しい人の気配も。
 震える手でレリーフに触れる。何故自分は封印を免れたのだろうか。この身に流れる女神の血のせいだろうか。だがメリオダスは女神から疎まれている存在であり、彼女達が見逃すとは思えなかった。女神の力は基本的に女性しか使えない。自分には禍々しい魔力以外の力はなく封印に抗う力はないように思えた。レリーフに額を寄せるとまるで生きているかのような鼓動が聞こえる。そしてこの温かな力は…
 翡翠の瞳に涙が浮かぶ。
「エリザベス…」
 封印の人柱となったエリザベスの力がメリオダスを助けた。それ意外に考えられなかった。
 膝の力が抜けてその場に踞る。守れなかった。自分とは、戦争とは関係の無い場所で暮らしていて欲しかった。
 彼女が戦いに身を投じたのはきっと家族の為なのだろう。風の噂で人間の男性と結婚し子供にも恵まれたと聞いていた。胸が締め付けられるような思いだったが、彼女とは時の流れが違う。最後に別れを告げた時の泣き顔が鮮明に思い出される。オッドアイが涙に濡れて美しいと思った。彼女に出会わなければ出来損ないの魔神族の一人として、殺戮を繰り返していたかもしれない。愛しくて愛しくて、だから遠ざけた。
 それなのに彼女に流れる女神の血が戦いから逃れることを許さなかった。人柱となったエリザベスは転生を繰り返し、その身は封印を解く為の鍵となる。未来永劫、封印を解こうとする輩に狙われ続けるだろう。ならば…
 爪が掌に突き刺ささるくらい強く拳を握りしめる。翡翠の瞳に決意の光が灯った。
(俺の命が尽きるまで、お前を守り続ける)





 深い森の奥にはドルイドと呼ばれる人々が暮らす集落があった。彼らは余所者を恐れ、外部との接触を極端に嫌がる、女神を崇める一族。始祖は女神と人間の混血児だったが二千年もの月日は女神の血を薄れさせており、「巫女」と呼ばれる少女以外はほぼ普通の人間と同じだった。
 そのドルイドの森に一番近い村にメリオダスは住んでいた。
「今度の生も大丈夫そうだな」
 二千年エリザベスの魂を見守り続け、ばらばらに崩したレリーフの一部である常闇の棺を肌身離さず持ち歩く。全ては魔神族を蘇らせない為、彼女の想いを受け継ぐ為だった。基本的にメリオダスはエリザベスと会うことはない。転生した彼女には彼女の生を歩んで欲しい。わざわざ平和な暮らしをしているエリザベスの生活に水を差す必要も無いだろう。エリザベスがすくすく成長して、大人になって、結婚して、子供を生んで、孫に囲まれて死ぬ。その姿を何度も何度も見てきた。時には病で早世することもあったが、それは自然な出来事として手を出すことはしなかった。メリオダスが手を出すのはエリザベスの生が不自然に歪められそうになった時だけ。魔神族を蘇らせようと企む不届き者は二千年の中で皆無というわけにはいかなかった。
「しかし、我ながら魂のストーカーだなぁ」
 フライパンにある肉が美味しそうな音を立てて焦げ目を付けていく。それをさっと味付けして皿に乗せた。
「何ぶつぶつ言ってんだ?メリオダス」
 ぴょこん、と耳を立てて薄茶色のウサギが顔を出す。罠に捕まって泣き叫んでいるところを助けたら、そのままこの家に住み着いてしまった。背中には白くクローバーのような形の模様がある、お喋りなウサギだった。
「よく肉なんて食えるな。人参くれ」
「はいはい」
 収穫したばかりで葉のついた人参を押し掛け相棒の茶碗に乗せてやる。自身は焼いたばかりの肉にかぶり付いた。
「うーん、まずい」
「焼くだけなのに何でまずいんだよ」
 呆れたような突っ込みをするウサギは人参を葉っぱまで食べ終えると、ぴょんと窓の外を覗き込んだ。先程からゴウゴウと音がする。
「すげぇ雨だな」
 バケツをひっくり返したという形容がぴったりなほどのどしゃ降り。メリオダスが窓の外に目を向けた瞬間、突然地響きを立てて建物が大きく揺れた。咄嗟に相棒の首を掴んでテーブルの下に潜り込む。がしゃん、と食器が壊れる音がした。数分もすれば揺れは収まったが胸騒ぎがする。
「ここにいろ!」
 ペタンと耳を倒したウサギにそう告げて、メリオダスは大雨の中を駆け出した。

****

 悪い予感ほど当たるものはない。ドルイドの村にたどり着いた時、集落の半分は土砂に押し流されて、見るも無惨な様子だった。慎重に神経を研ぎ澄まし忘れることの無いエリザベスの魔力を探るが見つからない。泥だらけの人々を助けながら、巫女の行方を確認するとちょうど土砂に埋もれた場所、神殿にいたはずだ、と教えてくれた。
「おい、あんたあっちは危険だ!」
 ドルイドの人達が叫ぶ。この大雨では二次災害の危険があった。だがメリオダスはエリザベスを探さずにいられない。この土砂崩れは自然現象なのだから天命なのだ、と割りきることが出来なかった。
 …数日後に彼女は結婚する予定だった。幸せの絶頂にいたはずだ。
 神殿から土砂の流れた方向を祈るような気持ちで探すと、ほんの僅かエリザベスの魔力が凪いだ水面に落ちる水滴のような形で感じる。その源の元へ飛び出しそうな心臓を抑えて向かった。
「エリザベス!」
 エリザベスは放り出されたような形で木の上に引っ掛かっていた。木の板に乗って土砂に流されたのか体はあまり汚れていない。メリオダスはエリザベスを抱えて、近くの洞窟へ避難した。

****

 大雨のせいで体が冷えきっていた。洞窟の中で少しでも乾いている枝を探し火を付ける。 エリザベスの顔は蒼白だった。外傷はなさそうだが、何処かを打ったのかもしれない。息が浅く今にも止まりそうだ。
「エリザベス」
 濃厚な死の香りがした。メリオダスは優しくエリザベスの冷たい頬に触れる。金茶の髪が濡れて張り付いておりいつもは髪に隠れてる右目が露だった。メリオダスから伝わる僅かな温もりにエリザベスは朦朧としながらも意識を取り戻した。
「泣かないで…」
 メリオダスは耳に馴染む柔らかい声音を久し振りに聞いた。エリザベスは瞼を開けたが視線は定まらず茫洋としている。橙と空色の瞳。髪の色は違うが瞳の色は変わらない。死の淵にいて尚、他人を思いやることが出来る心も。
「何で泣いているって思うんだ?」
 恐らくエリザベスの目はもう見えていないだろう。俯いたメリオダスの姿を見てはいない。仮に見えていても自分のことがわかるはずがなかった。
 エリザベスは質問には答えず独白のように語り掛ける。
「ずっと誰かを待っているような気がしていました。やっと会えた…」
 喘ぐような呼吸の中で必死に言葉を紡ぐ。
「ずっと、あなたに会いたかった」
 堪えきれない感情が溢れてメリオダスはエリザベスを抱き締めた。土砂をかき分けた時に出来た細かな擦り傷がみるみる癒えていく。どうしてその力を自分に使わないのか、メリオダスは唇を噛み締めた。口腔内にじんわりと広がる鉄の味がエリザベスの魔力が弱まっていることを教える。力の抜けていく体にどうすることも出来ない。
 そのままエリザベスは二度と瞳を開けることはなかった。





 千年前、目の前でエリザベスを看取ってからメリオダスはエリザベスの魂を追いかけるのを止めた。その代わり各地を騎士として点々と旅をし、少しでも魔神族に繋がりそうなことがあれば片っ端から潰していった。そうして今は何の因果か、ダナフォールの聖騎士長に収まっている。
「団長、敵国の女騎士を捕らえたそうですよ」 
「へー」
 興味無さそうに紅茶を飲んでいるメリオダスを他所に、部下達は気ままに話し続ける。
「凄い美人だって噂」
「見てみたいなぁ」
「俺は凄い男勝りだって聞いたぞ」
「やっぱり処刑されるのかな」
「確か名前は……」
「エリザベス」
 メリオダスが紅茶にムセて咳き込む。
「なんだって…?」
 珍しい団長の姿に騎士達の視線が集まった。

****

「どうせ私の体が目的なんだろ!?近づくな!」
 まるで猫の子のように毛を逆立てて威嚇するリズをメリオダスは軽く往なしてセクハラしつつ食事を勧めた。散々ストーキングしたツケなのか、彼女とは切っても切れない繋がりがあるのだと実感し、こっそり溜め息をつく。
「溜め息ついたな!?溜め息つきたいのはこっちのほうだ!!」
 目敏くメリオダスの仕草を指摘するリズに笑いが込み上げる。そうしてますます血を昇らせるリズが可愛くてしょうがない。
(また随分毛色が変わったもんだな) 
 短く揃えた赤毛と同じくらい顔を赤らめてるリズ。どうやら今世はドルイド生まれじゃなさそうだ。もしくはドルイドの巫女が行方不明になったとか?しばらくエリザベスの魂から離れていたメリオダスには見当もつかない。
「まぁまぁ飯食おうぜ」
 席に座るよう促すと嫌々ながらも着いて食事に手を伸ばす。口にした瞬間、彼女の顔がみるみる青ざめた。
「うーん、やっぱりまずいか」
 その日から料理の一切はリズが取り仕切るようになった。





 エリザベスの魂とここまで深く交わったのは初めてだった。リズと暮らしていて自然と懐かしさや愛しさが込み上げてきた。表面的には違うように見えても根っこの部分は変わらない。魂に深く刻まれた想いというのはあるのだろうか。
「リズ…」
 真っ赤な血が雨と共に流れていく。すでに生気を無くした瞳をそっと指で閉じる。   
 どうして守れなかった?守ると誓ったのに。側にいたのに。     
 
 リズの最期の言葉がずっと頭の中に響いていた。





「メリオダス、それが俺の名前だ」

 にかっと笑うメリオダスの前には空色の瞳から大粒の涙を溢すエリザベスがいた。
 幼少の頃から見守っていた小さなエリザベスは国を憂いて再び自分を見つけた。今度は偶然ではない、エリザベスの意思で。誰かを思いやる優しい心根が変わらないことが嬉しかった。
(エリザベスに出会ったあの日からずっと、俺のやるべきことは決まっている)

 今度こそエリザベスの想いを、魂を守る。





『三千年前から愛してる』

敗北宣言

2015年12月19日 22時54分54秒 | 七つの大罪妄想文。
メリエリ、バンエレ前提のバンメリです。むしろバン→メリ?


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“いいぜ 殺せよ”

そう言って笑った団ちょにどうしようもなく泣きたくなった。
王都での戦いが終わってから団ちょは王女サマにベッタリだ。王女サマはまだ目を覚まさない。団ちょは変わらず振る舞っているが、見ていてこっちが苦しくなる。譲れないものがあると団ちょは言った。俺にとってのエレインが団ちょにとっては王女サマなんだろうかとぼんやり思う。
リオネスの紋章が入った白い扉から団ちょが出てくる。金の髪が目にかかって表情を窺い知ることが出来ない。
「団ちょ♪」
「バンか」
上げた顔はらしくなく疲れた表情をしていたがそれも一瞬だった。トンファーをくるりと回して肩にかけると苦笑いをする。
「終わったら決着をつけようと言ったのは団ちょだぜ♪」
「ああ、分かってる」
場所を変えようと団ちょは言って背を向けた。その背は小さい筈なのに大きい。唯一背を預けて安心できる相手だった。
街外れの森に着くと団ちょは振り向いて真っ直ぐ翡翠の瞳で俺を見た。揺らぎのない美しい瞳だと思う。これは浮気になるか、エレイン?
「どうした、バン」
一向にかかってこない俺をいつもの口調で呼ぶ。団ちょとの喧嘩はいつも胸が踊って熱くて楽しい。こんな重い気持ちになるのは始めてだ。
「バン?」
首を傾げた金髪に愛しい妖精の姿が重なって、もうだめだな と思った。
「エレイン…」
師匠が言ってた言葉が頭の中でリフレインする。エレインを亡くしてから抜け殻になってた自分を救い上げてくれたのは団ちょだ。エレインを生き返らせたい。だが団ちょを殺すことなんて出来ない。分かっていたから考える時間を自分に与えなかった。こうして時間が空いてしまったのは大きなミスだ。トンファーががらがらと音をたてて地面に転がる。
「おーい、バンさん?」
両手を伸ばし小さくて暖かい体を抱き締める。団ちょは殺気を消した自分の行為を抵抗せず受け入れた。そうして、いつも通りの声で名前を呼ぶから苦しくて堪らない。どくん、と心臓の鼓動を感じて生きてることを実感する。エレインは抱き締めても暖かみも心臓の音もしない。腐ることのない妖精の死体はまるで人形だった。笑う声も笑顔もない。取り戻したい気持ちに変わりはないのに。
「……」
とんとん、と優しく団ちょが背中を叩く。まるで赤ん坊をあやすように。物心つく頃から一人だった。母親なんて記憶にない。太陽を知らない孤独とエレインという存在を知って、亡くしてからの孤独は後者のほうが耐え難かった。死んで会えるなら死んでもいいと願うくらいに。
…きっと似ている。俺と団ちょは。
団ちょも大きな何かを抱えて、それでも笑っている。何故笑えるのか自分には分からないが、メリオダスという男を形作っている器。
…それにどうしようもなく惹かれるのだ自分は。
(惚れた方の負け…ってか…♪)
柔らかい金の髪を指に絡める。団ちょは何も言わずされるがままになっている。矛盾した気持ちが渦巻いて頭の中がぐちゃぐちゃだ。
…もう側にはいられない。
何年ぶりか分からない頬を伝う温かみは、まだ自分が枯れてはいないことを嫌でも教えた。

小学生の会話

2015年12月19日 22時50分28秒 | 七つの大罪妄想文。
バンメリで下ネタ注意報。


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 閉店し片付けもそこそこに終わった豚の帽子亭ではいつもの酒盛りが始まっていた。団ちょが自分の飲みたい分だけ酒瓶を持ってきて手酌する。俺はその横からちょこちょこ酒を拝借した。お、これは林檎のエールじゃねぇか。辛党の団ちょにしては珍しい。
「林檎のエールならオイラにも頂戴」
 キングがジョッキを差し出すので継いでやった。コイツは見た目通りの甘党でフルーツの酒には目がない。そういう俺もどちらかと言えば甘いほうが好きだが。
「これディアンヌも好きそう」
 女共は早々に寝てしまったので今夜は三人だけだ。酒の弱いキングはすでに顔が赤い。飲ませすぎると泣き出して絡むのでとても面倒だが団ちょがいるから別にいいか。俺も遠慮なくエールを飲む。体がぽかぽかして気持ちが陽気になる。やっぱり酒は良い。団ちょは全く顔色を変えず水でも飲むかのようだ。
「団ちょって酔っぱらったことねぇの?」
 単純な疑問。酔ったとこも泣いたとこも見たことない。良くも悪くも喜怒哀楽がはっきり分かるキングとは正反対だ。
「んー・・酔うって感覚がよく分らない」
 ザルにも程があんだろ。ザル通り越して枠か?なんだかもったいねぇ。
「んだよ、その顔」
「別に~♪」
 少し団ちょがムッとした顔をする。ああ、楽しい。
「なぁ、酔うってどんな感じだ?」
 俺を差し置いてキングに話を振る。キングはいつもより三割増しでぽやんとした面だ。
「そうだなぁ・・胸がドキドキして体が熱くなって気持ちいい感じ」「なんかエロいな、それ」
 真顔で言った団ちょにキングがエールを吐き出す。俺は盛大に吹き出した。
「確かにイク時の直前の感じに似てるか♪流石むっつりキング♪」
「違うって!!」
 キングは酒だけのせいではないだろう、耳まで真っ赤だ。笑いが止まらない。ふと、にやにやしている団ちょとキングを見て単純な疑問が頭を霞めた。躊躇わずそのままの疑問を口にする。
「なぁ、二人とも精通してんの?」
「精通?何に?」
「そっちの精通じゃなく、射精できんのかってこと♪」
 キングは再度エールを盛大に吹き出した。団ちょの顔に向かって。金の髪がぺったり頬に張り付いてぽかんとしている。よけなかったってことは団ちょも少なからずびっくりしたらしい。
「ばばばばばば、バン!!君って奴は!!」
 狼狽するキングが面白くて堪らない。だって実年齢はともかく見た目はお子様だ。疑問に思わないほうがおかしくねぇか?自分が精通したときの年齢を指を折って数える。うん、微妙な感じだ。ただキングはおっさんに変身できるからなぁ。そもそも生まれてからずっと子供の姿で過ごす妖精族の繁殖方法がよく分かんねぇ。エレインに聞いてみれば良かったかな。 団ちょに至っては妖精でもないのに子供の姿なのがよく分からん。聞いたことはあるがいつもはぐらかされる。ただこういう話が通じるあたり人間の自分と大差無いだろうと思う。キングはプリプリ怒っている。何だかんだ中身は乙女だ。これを言うと今度はシャスティフォルを戦闘体形にしそうなので黙っておく。
「まー童貞なのは確かだな」
 タオルを持ってきた団ちょがガシガシ頭を拭いてキングに向かって言う。自分のこと・・では無いな。明らかにキングのことを言っている。もしかしたらエールをぶっかけられた事を根に持っているのかもしれない。団ちょは表情が変わらないから分かりづらいんだよ。
「団長まで!ひどいや!」
「何をいう、キングさんや。童貞が悪いことなのか?否。だが千歳越えて童貞というのは魔法使いの遥か上をいくレベルだな」
「流石妖精王♪」
 キングは言葉に詰まって目がうるうるしている。図星だから怒るんだということを分かっているのかいないのか。
「おっ、オイラはディアンヌに操を立ててるんだーーーい!!!」
 肯定の言葉を残してクッション型のシャスティフォルを抱き、飛び去るキング。やっぱ乙女だな♪団ちょは何事もなく飲み直している。ジョッキではなく透明なコップに純度の高いアルコールを注いだ。上手いこと逃げたな~団ちょ。だが一度思った疑問は解消しないとスッキリしないタチなんだ。
「で?団ちょは~~~?」
「ふむ」
 流石に団ちょは顔色を変えることなく、言葉を区切って酒を一口飲む。考えなくても分かるだろーに。
「試してみるか?」
 頬杖をついて笑った姿にゾクゾクした。濡れた髪が艷めいて見えて、どうもかなり酔っているようだと自覚する。幼い容姿に似合わない笑みで躊躇いなく唇を合わせる。柔らかい感触を楽しもうとした瞬間刺すような痛みと強烈な焦熱感があり、それが過ぎると仄かな甘味が舌に転がった。
「スピリタスだよ、バン」
 ゴクリと嚥下してから、体がカッと熱くなり同時にぐらりと視界が歪む。嬉しくないことにそのまま床とお友達だ。最後に見たのはおやすみと手を振る団ちょの姿だった。


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スピリタス;世界最強のお酒。

ユーベルブラット風七つの大罪(解説)

2015年12月19日 22時46分41秒 | 七つの大罪妄想文。
ちょっとした解説。ユーベルブラット未読の方は注意。

<七つの大罪>女神と共に魔神族を封印した七人。死に物狂いで戦って帰還すると逃げた筈の七人がいて不意討ちを受けて殺された。(と思われる)

<七英雄>魔神族との戦いで怖じ気付いて逃げ出した七人。使命を果たしぼろぼろになって帰ってきた七つの大罪を殺して手柄を横取りした。七つの大罪に裏切り者の汚名を着せ、英雄として凱旋。それぞれ広大な土地を与えられ治める。七英雄の治める地以外は辺境と呼ばれ治安が悪い。

<六聖人>戦いの最中、命を落とした者達。七英雄の従者扱いされている。

メリオダス
七つの大罪の一人。種族バラバラな二十人の騎士団を率いた団長。この頃は人間であるにも関わらず妖精族、巨人族にも好かれ、懐の広い人物だった。容姿は三十半ばの中年男性。(手配書の団長の姿)リオネス王国最強の剣士と呼ばれ刀匠(ブラットマイスター)の称号を持つ。元リオネス王バルトラとは旧知の仲。六聖人のリズとは恋人同士。魔神族との戦いの後、大怪我を負い、更に七英雄の裏切りにあって殺されたと思われていたが、魔神族と融合して生き延びた。融合後は子供の姿になり成長が止まる。魔神族の特徴であった黒い煉獄の炎を使う。

エリザベス
七英雄が治める土地の王女だったが、父親が七英雄と対立し難癖をつけられて辺境へ追いやられた。辺境で細々と暮らしていたが姉のマーガレットが七英雄との交渉に出掛けたきり帰ってこず、それを探しに行ったベロニカまで行方不明となる。姉達を探すため城を出た16歳の少女。辺境での戦いのあとは七英雄の真実を見極めるためにメリオダスに同行する。

バン
七つの大罪の一人。人間。六聖人のエレインがバンに不死の力を授けていたため死なずに生き残った。

エレイン
六聖人の一人。妖精族。魔神族との戦いで死んだと思われているが、実は七英雄の一人が不死の泉の杯を狙ってエレインを殺した。今際の際でバンに杯を託し亡くなる。

リズ
六聖人の一人でメリオダスの恋人。実は女神族だったが正体を隠して騎士団に潜り込んだ。戦いの最中に行方不明、死んだと思われている。

さらに蛇足(七つの大罪単行本未収録ネタバレあり)

ユーベルブラットを読んだ方ならご存じですが…辺境でのバンは実は七つの大罪の名を語った偽物です。本物は七つの大罪とは知られずに別の罪かなんかで投獄されてる…のかも?
ケインツェルの立場に団長を追い込んでみたかったんですが復讐に燃える団長というのが何とも想像出来ない。と言うかエリザベス関連以外で怒ってる団長が想像出来ない!←汚名を着せられてもそれで平和なら、まぁいいか ってなりそうな団長…。仲間の敵討ち…というのもしっくり来ないなー。結局は誰かの為に戦う人なんですよね。真顔で淡々と復讐する団長も怖いですけど。その場合エリザベスには復讐する姿は見せたくないと思ってそうですね。あと自分が率いる騎士団の中で裏切り者が出たので、自分で始末をつけるとも思ってそう。
七英雄が結構クズ揃いなので七つの大罪で当て嵌めれるキャラが中々いない。取り合えずヘンドリクセンとドレファスは決まりかなぁ。
エリザベスはエルーニュとアトが混ざりあった立場だったり。アトも何だかんだ王女ですからね…。死にかけのエリザベスに団長が力をあげて(ユーベルブラットのこのシーン実に悶えます)秘めていた治癒の力に目覚めたりしたら良いですね!!エリザベスとリズは多分何処かで関係あるんでしょうが…団長が本編で言ってた「ずっと一緒に戦ってきたあいつの為にも」のあいつって誰なんでしょう。
結局はメリエリで冒頭のあのシーンがやりたかったことが大きい(笑)

ユーベルブラット風七つの大罪

2015年12月19日 22時24分48秒 | 七つの大罪妄想文。
豊穣の地ブリタニア。かつてこの地は神の一族が治めていた。神と言っても他の三種族、妖精族・巨人族・人間よりも魔力が強く優れているというだけで寿命も感情もあり万能ではなかった。三千年前、神の一族の首領、ブリタニアの王とも言える者が狂気に染まり暗黒の時代を迎えた。他の種族は永遠とも思われる永き時間を抑圧されて過ごす。そんな中、神の一族の中でクーデターが起きる。率いたのは若く美しい女神だった。真っ二つに分かれた神の一族をいつしか人々は自分達から見て悪を魔神族、正義を女神族と呼ぶようになった。戦いは拮抗し千年にも及ぶ。勝敗を分けたのは他種族の存在。抑圧された妖精族・巨人族・人間が女神族に力を貸したことが大きな分かれ道となった。三種族の中でも特に勇敢な二十人の騎士達、彼らは彼らの王に神器と使命を与えられ直接魔神族の討伐へ向かう。だが強大な魔神族の力を恐れ、また魅せられて七人が裏切った。死闘の末六人が死んだ。魔神族は多大なる犠牲の果てに封印され、力を使い果たした女神族は永き眠りにつく。裏切り者の七人は討たれ<七つの大罪>と呼ばれた。生き残った七人はブリタニアに平和をもたらしたとして<七英雄>と崇められた。
そうして三種族と七英雄による栄光の時代が始まる。





穏やかな陽光に緑豊かな森の木々がさわさわと揺れる。気持ちのよい木陰を歩きながら、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。よい午後だ。近くには川があるのかゴウゴウとした音が聞こえる。音からして流れが速そうなので、もしかしたら滝でもあるのかもしれない。少し汗をかいたので水浴びでもするか、そう思ったメリオダスは川の方へ足の向きを変えた。しばらくすると谷間が見え、少し古いが頑丈そうなつり橋が架かっている。つり橋に向かって道なりに歩いていると橋の前には美しい森に似合わない武骨な鎧に身を包んだ騎士らしき者が二人、仁王立ちしていた。何だか面倒なことになりそうだな…と思いつつ進路を変えることはしない。
「おい、そこのガキ」
「何?」
メリオダスは足を止めて騎士を見上げた。本当はガキではないのだがそんなことがこの騎士達に分かる筈もない。無遠慮にじろじろと人の顔を見る男を特に気にした様子もなくとぼけた顔をする。
「金髪に碧の目だな…」
「ちょっと来い!!」
メリオダスの腕を引っ張り森の中へ連れ込む。涼しげな日陰で先程の二人よりは高価そうな黒い鎧を纏った男が木の箱で作った即席の椅子に座っている。鎧の胸には狐の紋章。見る人が見ればわかる、<七つの大罪>強欲の罪バンの紋章だ。
「アリオーニさん!こいつどうですか!?」
「ふん…」
メリオダスを引っ張りだし跪かせるとアリオーニと呼ばれた男は血走った目で顎を掴み顔を向けさせた。蛇が這うような視線でメリオダスを見たあと、溜め息をつく。
「確かに金髪碧眼だが…まだ子供じゃないか」
そう言うとメリオダスを突き飛ばした。軽く尻餅を着いたが、気にした様子もなく平然と立ち上がりコートの土を払うメリオダスにアリオーニの眉がピクリと動いた。
「おい、ガキ。その剣を見せてみろ」
メリオダスの背にはドラゴンの形の柄をした剣があった。何も言わずに剣を鞘から引き抜く。後ろの二人がゴクリと唾を飲み込んだが、すぐにその剣を見て嘲笑を浮かべた。
「刃折れの剣じゃねーか」
「なんだ、見かけだけかよ」
メリオダスはチラリと後ろを見て剣を鞘にしまった。
「護身用だからな。柄だけでもあればそれなりに見えるだろ」
子供らしく無邪気に笑う。
「…百人隊を潰したのは黒い剣だと聞いている。こいつは違うだろう」
「もう行っていいか?」
ひらひらと手を振るメリオダスを見てアリオーニの額に青筋が浮かんだ。
「…お前、気に入らないな。その余裕ぶった態度。一応殺しておこう」
スラリと剣を抜くと鏡のように磨かれた刀身にぱちくりした碧の目が映った。
「おいおい、一応で殺すなよ」
ここまで脅しても怯えない子供にアリオーニは迷いなく剣を降り下ろす。間違いなく刃は脳天をカチ割る筈だったが、次の瞬間メリオダスの姿が消えて剣は地面を抉っていた。上にも下にもいない。数メートル先にメリオダスは立っている。
「…?」
「逃げるが勝ちっ」
唇に人差し指を当て、にしし、と笑う子供。アリオーニは限界まで目を見開く。
「あのガキを捕まえろ!!」
静かだった森に怒声が響き、小鳥達が一斉に羽ばたく。指示された二人が走り出した時、メリオダスはすでにつり橋を渡ろうとしていた。アリオーニは怒りのまま風の魔力を放つとその中の一つがつり橋のロープに当たり、ぐらりとメリオダスの視界か反転する。
「ん?」
小さな体はまっ逆さまに川へ落ちていった。






エリザベスは川の流れの緩やかな所で水浴びをしていた。流れるような銀の髪がしっとりと濡れて光を反射する。ここはエリザベスのお気に入りの場所だった。今日は特に緑と木漏れ日が綺麗だ。小鳥の囀りに耳を傾けて目を細める。腰までの川の水はとても澄んでいて冷たくて気持ちがいい。手で水をすくって顔にかける。もう一度同じ動作をしようとして、ふと水が濁っていることに気付いた。何だか赤いような…?背後からぱしゃんと音がして振り向くと突然川の中から少年が現れた。全身ずぶ濡れで金の髪がペッタリと頬に張り付いている。キョロキョロと辺りを見回してから、青い瞳と碧の瞳が交差した。
「ふむ」
ジーッとエリザベスの裸体を眺める少年にようやく驚愕よりも羞恥が上回り、エリザベスは小さく悲鳴を上げて川の中へ身を隠す。改めて少年を見ると肩がざっくりと割れて血が流れていた。少年の周囲の水は濁って夥しい出血だと気付く。
「あっ、あの…!大丈夫ですか?」
「んー?大丈夫大丈夫」
大して痛そうな表情も無く真顔で、かえってエリザベスが戸惑ってしまう。少年はぐるりと頭を巡らせてから、ざばざば音を立てて岸へ上がると突然糸が切れたようにばったりと倒れた。



エリザベスはそっと少年の目にかかる髪を払った。眠る横顔はあどけなく、まだ大人の庇護を必要とする年齢に見える。ぐっしょり濡れた体は出血も相まってかなり冷えており、エリザベスは暖炉に薪をくべて部屋を暖め、ありったけの毛布を少年に巻き付けた。この村の唯一の医者であるダナ医師に傷を見てもらい薬も貰ったので、あとは少年が目を覚ませば飲ませてやりたい。エリザベスが飲み物でも用意しようと側を離れると微かに少年の呻きが聞こえた。慌ててまだ幼い顔を覗き込むと金色の睫毛が震えて、宝石のような碧の瞳が現れる。
「…リ…?」
乾いた唇が動くがエリザベスには聞き取れなかった。精彩を欠く少年の目に徐々に確かな光が戻ってくる。
「大丈夫ですか?」
「ここは?」
「私の家です。辺境領ゴルムバルクにある村の中の」
「あんたが助けてくれたのか?」
はい、とエリザベスは答えようとして飛び出してきた影に遮られる。
「そーだ!このホーク様が運んだんだぞ!」
「…喋る豚肉?」
「ブ・タだ!!」
ピンク色の大きな豚がエリザベスを庇うように立ちはだかる。
「チビのくせに重かったぞ!」
「そっか、ありがとなポーク」
「ホークだっ!!人に名乗らせておいて自分は名乗らんとは…エリザベスちゃんもトンだ拾い物をしたものだぜ」
「エリザベス?」
少年の目がエリザベスに向けられる。一人と一匹のやり取りを聞いてクスクスと笑っていたエリザベスは居ずまいを正して少年に向き直った。
「エリザベスです。よろしくお願いいたします」
「俺はメリオダスだ。ありがとな。お陰で助かった」
「メリオダスって…」
エリザベスが青い目を見開く。
「おい!あの<七つの大罪>と同じ名前じゃねーか!」
「まぁな」
「悪いことは言わねー。この辺じゃその名前は名乗らない方がいいぜ」
「何で?」
首を傾げるメリオダスにホークは鼻息を荒くする。<七つの大罪>メリオダスは三種族連合騎士団を率いる団長にも関わらず魔神族につき人間を裏切り<七英雄>に粛清された、と言うのが世間一般の知識だ。だが二十年前の話であり、ここにいるメリオダスは生まれてすらいないだろう。エリザベスもホークも疑うこと無くそう思った。
「だだの同名にしても誰もが知る大罪人の名前なんて縁起が良くない…が、この辺境じゃもっと良くない理由がある」
エリザベスの表情が翳る。
「<七つの大罪>不老不死のバンのことは知っているな?二十年前討たれた筈の奴が生きていて、この辺境でまるで王様のように振る舞ってやがる。女、子供をさらって略奪の限りを尽くす。だから皆<七つの大罪>の名を聞くだけで震え上がってしまうのさ」
「ふーん」
メリオダスはホークの話を聞きながらベッドから下りて俯いてしまったエリザベスの顔を覗き込む。青い目からは涙が零れ落ちそうになっていたが、メリオダスに気付いたエリザベスは慌てて涙を拭った。
「お、お茶でも入れますね!!」
そそくさと背を向けて暖炉の上のケトルを持ちキッチンへ飛び込んだ。摘み立てのハーブと輪切りにしたオレンジをポットに入れて湯を注ぎ茶器を整える。エリザベスは胸に手をあてて小さく深呼吸を繰り返した。あの澄んだ翡翠の瞳に見つめられると何故か心臓が苦しくなる。病気だろうか…あとでダナ先生に相談してみよう…。蒸らし時間を確認してトレーに茶器を乗せ隣室へ運んだ。メリオダスとホークはここ最近の辺境のことなど話しているようだった。
「どうぞ」
「サンキュ。温かいな」
大人びた笑顔でメリオダスは器を受け取った。エリザベスはホークにも水を用意してやる。
「あ、お前勘違いするなよ!そういう意味じゃねーからな!」
ガブガブ水を飲んでいたホークが突然メリオダスに向かってプゴッと鼻を鳴らした。水滴が一緒に跳ねるが器用に避けてハーブのお茶に口をつける。
「何の話?」
「この村では女の器を借りた奴は夜這いに行かないと腰抜け呼ばわりされるんだぜ!」
「ほほう?」
メリオダスの目が輝いたように見えた。エリザベスが慌てて真っ赤な顔でホークの尻を押す。
「ホークちゃん!!お仕事は!?」
「あ、そうだ。そろそろ残飯の時間だ!」
ホークはとんとこスキップでもするように器用にドアを開けて出ていった。顔面紅潮したエリザベスはメリオダスの顔を直視出来ず固まる。…夜這い?そう言えばこの村に来てすぐにそんな注意を聞いたような気がした。不自然な沈黙が苦しくてエリザベスは無理矢理話題を変えようと笑顔を作る。
「ホ、ホークちゃんは近くの酒場で残飯処理の仕事をしていて…」
不意に手を取られて気がつくとベッドに体が沈み込んでいた。声を発する間もなく唇に温かいものが触れる。驚いて開いた唇にぬるりとした感触、甘いオレンジの香りがしてエリザベスは頭の中が真っ白になった。するりと服の下を這う手に肌が粟立つ。上手く息が出来ない。まるで自分が自分で無くなるような感覚に目眩がした。エリザベスが酸欠になる一歩手前でどちらのものかわからない唾液が糸を引いて、ようやく唇が解放された。
「気が付かなくてごめんな、エリザベス」
酸欠ぎみのエリザベスの頭には中々メリオダスの言う意味が伝わらない。ただ押し倒されているのに恐怖を感じていない自分が不思議だった。どうやらこの目に弱いらしい。どこか懐かしさを感じる碧…。
「続きをしたいけど…どうやら客らしいぜ」
ちゅ、とリップ音が額から聞こえてエリザベスの意識はようやく浮上した。いつの間にか服のボタンが外れて豊満な胸が零れ落ちそうになっている。顔が熱いなんてものじゃない。慌てて服の前をかき合せてベッドから起き上がるとコンコンとドアを叩く音がしてエリザベスは跳び跳ねた。
「エリザベスちゃん。いる?」
「セネットさん?」
服を整えて扉を開けると眼鏡をかけた禁欲的な美女が籠いっぱいの林檎を持っていた。ダナ医師の一人娘で何かとエリザベスを気にかけてくれているセネットだった。
「父さんが持っていけって。あと怪我人にこれを」
軟膏のようなものと一緒に新しい包帯を渡す。
「傷に縫ってから包帯を新しいものにしてね。明日また見に来るって父さんが。熱が出るかもしれないから一応熱冷ましもね」
「何から何までありがとうございます。上がって行きませんか?」
「もう暗いから遠慮しとく。林檎早めに食べてね」
そう言うとセネットはフードを被って来た道を戻る。エリザベスはセネットの姿が見えなくなるまで見送った。この小さな村の人々は本当に暖かさに満ちている。本来なら余所者である筈の自分を助けて受け入れてくれた。林檎が入った籠を抱えて嬉しさと切なさが滲んだ表情で部屋に戻る。パイにしようか、たくさんあるからジャムも良いかもしれない…パチパチとはぜる暖炉を横切り、林檎をキッチンへ、薬と包帯は寝室へ。入口からベッドが見えた瞬間、数分前の出来事が蘇り体が硬直した。一瞬でも忘れていた自分を恨みながら、そっと寝室に足を踏み入れるが何も反応がない。ベッドを覗くとすやすや寝息を立てた少年の姿にエリザベスは脱力する。じっと顔を見ても可愛らしい寝顔の子供にしか見えない。先程までの青ざめた顔には赤みがさしており、そう言えば熱が出るかもしれないとセネットが言っていたことを思い出す。少し迷いつつ、メリオダスの頬に手を当てる。ふっくらとした子供の柔らかさと体温。エリザベスには経験のないあの大人顔負けの濃厚な口付けは夢だったのかという気がしてくる。だとしたら、初めてなのにどれだけ自分は欲求不満なんだろう…。エリザベスの百面相を見ている者は誰もいなかった。





メリオダスがこの村に来て五日がたった。ホークに言わせればセクハラ三昧らしいが、あれから口付けをされることはなくエリザベスにとっては何事もなく日常が過ぎていった。メリオダスの傷も順調に回復しており、エリザベスは止めるのだが「働かざる者食うべからず」と言って薪割りや水汲みなどを手伝ってくれた。メリオダスは不思議な少年だった。外見からして年下の筈なのに、大人びた言動や態度でエリザベスを翻弄する。怪我をしているメリオダスにベッドを譲ってソファで寝る筈が、いつの間にか言いくるめられて同じベッドで寝ていたり、エールの種類に詳しかったり、辺境の人間は殆ど行くことが出来ない<七英雄>の地について詳しかったり…。だが自分のことについてはあまり語らなかった。
「エリザベス。終わったぞー」
薪割りが終わってひょっこりとドアから顔を出す。エリザベスはバスケットにサンドイッチと紅茶、林檎を入れて外へ出た。穏やかな風が長い銀の髪を揺らす。
「天気が良いので外で食べませんか?丘の上に見せたいものがあるんです」



エリザベスは村が見渡せる小高い丘にメリオダスを案内した。ちょうど木陰になる真っ白な木の側に敷物を引いてバスケットを置く。長い枝には緑の葉が生い茂り、差し込む陽光にメリオダスは思わず目を細める。両手を広げても、とても届かない大きな幹には十字に傷が刻まれていた。
「これは?」
溝をなぞりながら訪ねる。ほんの微かに魔力を感じた。
「二十年以上前に魔物と戦った<七英雄>の一人が刻んだ傷だと言われています。夜になるとぼんやり光るんですよ。この木があるお陰で村には<七英雄>の加護がある、と言われています」
エリザベスの表情は硬い。村の人間ならば加護があることを喜ぶのではないだろうか。メリオダスはバスケットから林檎を貰って一口かじる。程よい酸味と甘味が口の中に広がった。咀嚼と嚥下を繰り返して林檎が芯だけになると、世間話でもするような軽い口調で問うた。
「エリザベスは何処から来たんだ?」
「え?」
「この村の人間じゃないだろ?」
青い目が大きく見開かれて零れ落ちそうだった。
「どうして…」
「キスした時の反応だな。誘っているのかと思いきや、反応がウブなんだよな」
白い肌がみるみる赤みを帯びていくのをメリオダスはにんまり眺める。
「あとは、そのイヤリング。見たことある紋章だ。確かリオネス王家のものだな」「…!」
太陽と月と星を描いた王家の紋章を身に付けられる者は限られる。それをつけているということはエリザベスの身の上が国王の直系であることを意味していた。
「リオネスの紋章が分かる人がまだいるなんて…驚きました。お察しの通り、私はこの村に来てまだ1年にもなりません」
「出身はリオネス?」
「はい。今は亡き王国です」
リオネスは二十年以上前はブリタニアでも屈指の大国だった。だが当時の国王バルトラが<七つの大罪>の一人を送り出したとして責任を問われ、その地位を追われた。<七つの大罪>を擁護したことも周囲には理解されず追放に拍車をかけた。四年間もの争いののち、今では辺境の領主の一人として一族細々と暮らしている。リオネス王国はその名を変えて今では<七英雄>の一人ヘンドリクセンが治めていた。
「私が生まれた時、国は荒れていました。姉から聞いた話ですが、父は魔神族からようやく自由を勝ちとったのに何故また争わなければならないのか…苦悩していました」
エリザベスは左耳のイヤリングに触れる。一瞬迷うように瞳が揺れたが覚悟を決めたのか真っ直ぐメリオダスを見つめた。
「メリオダス様は<七英雄>について、どうお考えですか?」
<七英雄>はブリタニアの救世主であり、その存在は疑い無きもの。少しでも批判するようなことを口にすれば異端の目で見られる。エリザベスが投げかけた問いは危険なものだった。
「<七英雄>か…」
大樹を見上げる碧の明るい瞳が翳ったように見えた。
「はっきり言えるのは俺には<七英雄>の加護なんて無いってことだな」
青い目を見て淡々と答えるメリオダスの表情からは何も読み取れなかった。エリザベスは小さく息を飲み込んだ。
「何故この村に?」
「姉を探しているんです」
エリザベスが物心つく頃には辺境で父と姉と共に暮らしていた。バルトラは領主として領地の安寧に力を注ぎ、他の辺境に比べて格段に治安も良くささやかだが豊かさがあった。だが一年前、死んだ筈の<七つの大罪>の一人バンが山賊の類いを集めてゴルムバルク周辺で挙兵、領民を略奪と暴力によって苦しめ、その影響は辺境の中で確実に広がっている。
「ゴルムバルクは父の治める領地と隣接しており、ゴルムバルクの領主に援軍を送りましたが、ことごとく捕らえられ……。姉は<七英雄>に援軍を求める為に出かけたきり帰って来ません。その姉を探しに出た二番目の姉も行方不明です」
使者を何度送ったか分からない。<七英雄>からの返事は「王女など来ていない」ということだった。そもそも<七英雄>に国を追われた王女が<七英雄>に援軍を求めることは、屈辱を伴うことの筈だ。それでもバルトラは民を守ることを第一としたのだろう。だが王女は帰らず<七英雄>からの援軍も未だに来ない。辺境の民は見捨てられたのかと思い始めている。エリザベスは膝の上においた手を強く握った。
「途中で賊に捕まっている可能性もあります。私は居ても立ってもいられずこの村で情報を集めていたのですが…」
エリザベスが話終える前に耳をつんざくような爆発音が響いた。同時に大きく揺れる大地に耐えきれず体を伏せる。村の方角から火の手が上がるのが見えた。
「あれは…!」
「フォックスシンだ」
メリオダスが言い終わらないうちにエリザベスは村へ駆け出した。




黒煙が天高く舞い上がる。逃げ惑う人々の悲鳴に、つい先程まで静閑だった村は地獄絵図と化していた。
「金髪碧眼、黒い剣の男を探せ」
狐の紋章を掲げた男達が村の家々を壊して金目の物を漁る。小さな村の診療所も例外ではなかった。患者を庇おうとした壮年の医師が血塗れで横たわり、その娘が傍らで茫然と蹲っている。
「ヘェ、上玉じゃねーか」
セネットに気付いた男達がその顔を見るなり下卑た声を上げた。父親にすがる娘を無理矢理羽交い締めにして彼らの首領の元へ連れていく。
「アリオーニさん!この女どうですか!?」
アリオーニはそう言った部下の顔を鼻が曲がるまで殴り付けた。鮮血が飛び散り、セネットは怯えた表情で顔を背ける。
「金髪碧眼の男だと言っただろう…だが、これは中々良い」
セネットの顎を掴み顔を向けさせる。潤んだ瞳と紅い唇が扇情的だった。
「父さん…」
アリオーニは大粒の涙をこぼす娘を抱き寄せて、無表情にその頬に舌を這わせる。
「喜べ、今日の俺の伴侶にしてやろう」
命令に慣れた傲慢な口調。男の手がセネットの衣服にかかった時、目の前に銀髪の少女が躍り出た。
「セネットさんを…離しなさい!」
途中で転んだのか衣服が泥だらけで息の整わないエリザベスを周りの男達はニヤニヤと眺める。アリオーニの眉がピクリと不快げに持ち上がった。エリザベスに勝算などない。だが世話になった人々を見殺しにして逃げるという選択肢は頭にはなかった。
「やれ」
アリオーニの一声でエリザベスに群がる男達。とんだカモだな、これだけの別嬪なら高く売れる、その前に頂いちまおう、傷物にするなよ、といった声がエリザベスの耳に飛び込む。服を引き裂いて伸びてくる手と欲情した濁った目に鳥肌がたった。
「おいおーい。エリザベスの初めては予約済みなんだが?」
場を壊すような少年の声がして、気が付くとエリザベスはメリオダスの腕の中にいた。エリザベスにのし掛かっていた男達は苦悶の表情を浮かべて蹲っている。
「貴様…あの時のガキ」
アリオーニはセネットを突き飛ばしてスラリと剣を抜く。
「よく生きていたな。今度こそ殺してやろう。目障りだ」
言い終わるやいなや鋭利な風の刃がメリオダスに向かっていく。エリザベスを抱えて横に逸れると地面が大きくえぐれた。人一人の重さなど感じさせない動きでレンガ造りの家の影に来るとメリオダスはエリザベスを離して、自身のコートをふわりとかけた。
「無事か?エリザベス」
「は、はい」
よしよしと頭を撫でる手に、ようやく恐怖が襲ってきて目に涙が浮かぶが、エリザベスは頭を振って感情を振り払おうとする。
「逃げて下さい!あなたを巻き込めません!」
「いや、あいつらは俺を探しているんだ」
「え?」
堪えきれなかった涙が湖水のような瞳から溢れる。それを拭って少年は安心させるように笑う。
「ここに隠れてな。エリザベス」
青い目が驚愕に見開かれる。剣を抜いた左腕に輪になったドラゴンの紋章があった。
アリオーニは手当たり次第カマイタチを放って村を破壊していた。自身の魔力の破壊力に酔ったかのように恍惚の表情を浮かべている。
「あんまり壊すなよ。片付けが大変だ」
「ん~~?」
背後から聞こえた子供の声にアリオーニは血走った目を向けた
「貴様、一度ならず二度までも!何故生きている!!」
「避けたのかどうかも分からねぇなんてな」
メリオダスは折れた剣を構え魔力を込める。刀身が黒く燃え上がった。
「く、黒い剣だと…!!」
小さな子供の外見からは考えられないくらいのプレッシャーを感じ、後退りをする。
「百人隊を潰したのはお前か!!」
「ご名答」
魔力が膨れ上がる。黒々とした煉獄の炎は人ならざる力。少しでも力のある者なら分かる圧倒的な魔力にアリオーニは身震いする。
「何故俺達を狙う!」
「俺が分からねぇか?バンの配下なんだろ?」
メリオダスが軽く剣を振るとアリオーニの体が吹き飛んだ。マントに黒い炎が燃え移り奇声を上げる。叩いても転げ回っても炎は消えない。無表情で見下ろすメリオダスに耐えようのない恐怖が込み上げる。
「貴様一体…!」
口元だけ笑みの形を作ったメリオダスは小さく耳打ちする。アリオーニの表情は驚愕と恐怖に染まった。
「嘘だ。何故そんな姿で…。頼む助け…」
後退りしながら命乞いをするアリオーニに小さなはずの影が大きく膨れ上がるように見えた。
「ままごとは終わりだ」
アリオーニの伸びた手がぱたりと地面に落ちた。黒い炎が収まった後は煤けた地面以外何も残ってはいなかった。

手配書の英雄

2014年11月09日 23時20分51秒 | 七つの大罪妄想文。
ギルサンダーは団長が大好きです。


====


「<七つの大罪>を指名手配するだと!!」

リオネス王国、謁見の間では国王の怒号が響いた。普段は穏やかな国王バルトラの剣幕に周囲の者たちは青ざめ首を竦める。水を打ったように静まり返る中、国王の正面にはザラトラスの死によって整騎士長になった二人の男のうちの一人、ヘンドリクセンが立っていた。国王の怒りが届いているのか分からないくらいの涼しい顔で静寂を打ち破る。

「そうです。陛下」
「<七つの大罪>…メリオダスがザラトラスを殺すなど有り得ん!!」
「彼らが重要参考人であることは間違いありません。先ずは行方を見つけることが先決。その為には指名手配という方法も仕方がないかと」

声を粗げる国王とは正反対の淡々とした声に周囲の人間は冷や汗をかく。ヘンドリクセンの以前とは違う冷たさに国王は得体の知れなさを感じた。今まで同じ国を守る騎士の仲間として<七つの大罪>に助けられてきた筈だ。

「一体どうしたのだ…ヘンドリクセン」
「私は一刻も早くザラトラスを殺害した犯人を捕まえたいだけです」
「……」

国王の鋭い眼光にもたじろぐ様子を見せない。確かに<七つの大罪>を見つける必要があるのは国王にも理解出来た。このままでは疑いを晴らすことも出来ない。

「分かった。ただし、集まった情報は必ず儂に集中するように」
「御意」

ヘンドリクセンが一礼しマントを翻す。だが国王の元に情報が伝わることはなかった。



****



<七つの大罪>が指名手配されてから七年の月日が立っていた。この間に強欲の罪バンが捕らえられバステ監獄に厳重幽閉されている。だが他のメンバーに至っては殆ど情報が集まらなかった。月日は人々の想像を駆り立て、様々な憶測が流れる。すでに死んだのではないかという噂もあったが、ギルサンダーには信じられなかった。あのメリオダスが死ぬはずがない。
今日は特別にヘンドリクセンから呼び出しを受けた。大体の要件は分かっている。手配書の更新だろう。<七つの大罪>と懇意だったものが呼ばれることが多い。ギルサンダーはメリオダスの教えを受けていたので親しい者の中に含まれていたが、この七年で周囲の評価は変わった。ギルサンダーはあの日から父を殺した<七つの大罪>を憎むという役割を演じている。真実を知っているにも関わらず、それを明らかにすることが出来ない悔しさは年々強くなっていた。もうあの頃のような子供では無いのに…。
呼び出された元マーリンの館に着くと躊躇いもなくドアを開けた。赤い絨毯の廊下を抜けると開けっ放しの扉の向こうに、この館の管理を任された眼帯の老騎士が佇んでいる。

「遅かったねぇ」

大して気にしているようには見えない軽い口調にギルサンダーの眉間の皺が深くなる。部屋にはギルサンダーとヘルブラム以外誰もいない。

「何故誰もいない?」
「んー、実は殆ど終わっちゃったんだよね~♪」
「そうか、ならば失礼する」
「ああっちょっと待ってっ!」

踵を返し背を向けたギルサンダーのマントを慌てたように掴むヘルブラム。ギルサンダーは心底嫌そうな顔で振り払う。ヘルブラムは後ろ手で扉を閉めてテーブルへ向かった。

「酷いなぁ」
「さっさと要件を言え」

ギルサンダーはこの胡散臭い老人が嫌いだった。いつからかヘンドリクセンの側にいて、影で暗躍している。この館にもヘルブラムの魔力が満ちていて不快だ。館がマーリンのものだった頃は子供の好奇心と冒険心を駆り立てる館であったというのに思い出まで汚されそうで気分が悪い。

「分かってるしょ?手配書についてだよ」

丸く背の高いテーブルの上には<七つの大罪>の手配書が並べられている。

「一番難しいのが残っちゃってね」

トントンと人差し指の爪で色褪せた
手配書の人物の顔を叩く。

「バンはもう捕まってるから良し。キングとエスカノール、マーリンはそこそこ似てると皆が言う。ゴウセルは誰も素顔を知らないので仕方なく鎧姿。ディアンヌは七年経てばこんなもん?問題はメリオダスなんだよねぇ」

七年前は十代前半と思われる少年の姿だった。だとすれば今は二十歳前後の筈だ。そうヘルブラムは言うが手配書の人物は明らかに三十歳以上に見えた。ギルサンダーからみれば似てるのは髪型くらいだ。

「もっと年齢を若くしたらどうだ?」

いくらメリオダスの成長した姿を想像してもこうにはならない。誰が始めに描いたのかは分からないが、手配書の人物は渋すぎる。

「でもダナフォールにいた って噂もあるしなぁ。そうすると三十路近くない?」
「……」

記憶の中のメリオダスは自分とあまり変わらぬ年齢に見えたが、内面が子供ではなかった。彼の剣技に敵うものはいなかったし、王国最強の騎士団を率いる姿はギルサンダーにとって憧れでもあった。父に頼み込み無理を言ってメリオダスから剣の指南を受けた。剣以外にも騎士としての心を教えてもらった。メリオダスの言葉が今の自分を支えていると言っても過言ではない。

「ではこのままで良いだろう」
「ん~ギルサンダー君やる気ないなぁ~」

にんまり笑って顎に手を当てるヘルブラム。

「こんな要件で呼び出されて迷惑しているからな」

聖騎士となった今、こんなことに煩わされる立場では無くなっている。

「だって~俺っちはメリオダスの顔知らないもん。ほんとに七年前は子供だったの?ほんとに人間なの?」

手配書を摘まんで面白がるヘルブラムを睨み付けるが、全く気にした様子は見せない。

「外見は確かに子供だったが…確かあまり成長してなかった気がするな」

メリオダスは少なくとも五年以上は騎士としてリオネス王に遣えていた。自分の一番古い記憶を探ってもその姿は変わらない。

「まぁただの子供が国王直属の騎士団の団長を勤められるわけがないだろう」
「ふぅん…ずっと子供のままなんて妖精みたいじゃない」

ヘルブラムは笑みを消して目を細める。メリオダスが妖精だなんて聞いたことない。羽も無ければ空を飛んだところも見たことはない。目の前の老人が何か呟いたが、よく聞き取れなかった。

「もう良いだろう。俺は忙しい」

踵を返しヘルブラムに背を向ける。ドアノブを掴んだところで年の割りに張りのある声が響いた。

「もしかしてチミはメリオダスが捕まって欲しくないのかな?」

ゆっくり振り向くと顔は笑っているがピリピリと刺すような魔力が肌を刺した。何時だってこの老騎士はふざけているように見えて、目の奥が笑っていないのだ。最初からギルサンダーを、人間を信用していない。

「ああ、そうだ。俺以外の人間に捕まって欲しくはないな」

そう言い捨てると今度は振り返らずに扉をくぐり抜ける。知らず拳を強く握りしめていた。
七年間、信頼を得て懐に潜り込むことが先決だと信じて、非人道的なことにも必要であれば手を染めた。偽りの日々を送るうちに嘘が上手くなり、いつの間にか本当の自分は何を考えていたのか分からなくなることがあった。

「…俺は<七つの大罪>より強い」

そんな時はあの人を思い出して呪いを唱える。瞳を閉じるとお前のやるべきことはなんだ?と美しい翡翠の瞳が語りかける。

…マーガレットを守る。

館を出るギルサンダーの瞳に迷いは見られなかった。

真夜中の恋愛相談

2014年11月09日 23時18分51秒 | 七つの大罪妄想文。
8巻までのネタバレあり。メリエリ。


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月が西に傾き始めた頃、エリザベスは何度目か分からない寝返りをうった。コチコチと響く時計の音が妙に耳に残ってしまう。
…眠れない。
悶々と考えているうちにすっかり目が冴えてしまった。隣で寝ている人を起こさないよう、ソロリソロリと身を起こす。窓からは月の光が差し込み灯りをつけなくても室内が見渡せた。視線を落とすと金色の髪がシーツの上に散らばっている。手を伸ばし触れようとして、思い止まった。規則正しく上下する肩に起こしてはいないようだと安堵する。大きな怪我がなくて本当に良かった。
…今日一日で色々なことがあった。ケインの来訪、聖騎士が怪物に成り果てたこと、ゴウセルが見つかったこと。疲れている筈なのに思考を止めることが出来ない。エリザベスは小さく溜め息をつくとネグリジェの裾を押さえながらベッドから抜け出した。冷たい床板が足の先から熱を奪っていく。

「どした?」

突然背後から話しかけられ心臓が跳び跳ねる。声は寝起きとは思えない明瞭さだ。大人になりきっていない変声期途中の少年の声はこの場には一人しかいない。

「…メリオダス様。すみません、起こしてしまいましたか?」
「眠れないのか?」

エリザベスの質問には答えず逆に問う。出口からは逆光になっており、メリオダスの表情を伺い知ることは出来ない。

「ええ、昼間寝過ぎたみたいです。少し水を頂いてきます」
「早めに戻れよ」
「はい」

風邪で寝込んでいたエリザベスを労るような声音だった。冷えた足とは裏腹に上気する頬を両手で押さえて階段を下る。一階からは仄かに灯りが漏れていた。まだ誰か起きているらしい。階段を下りきるとホークの感高い鼾のなか小さなランプの灯りでゴウセルがカウンターに座って本を読んでいた。

「ゴウセル様」
「その声は王女か」
「はい。どうされたんですか?」

確か寝る前は上に上がっていった筈だった。

「ランプの油を取りに来てそのままここで本を読んでいた」

ゴウセルが持っている本のタイトルを見るとリオネスでは有名なラブロマンスだった。
“王女は団長が好きなのか?”
昼間ゴウセルに言われたことを思い出し、顔にボンと火が灯る。

「脈が早い。顔も赤いが…どうした王女?」

ゴウセルが本を置いて首を傾げる。サラリと赤髪が流れる姿は女性に見紛う程美しい。ぽんぽんと隣の椅子を叩いて座るよう促す。促されるままエリザベスはカウンター席に腰を下ろした。

「私…メリオダス様のことが好きなんでしょうか?」
「……」

琥珀色の目を瞬かせてすぐに返事をしないゴウセルに唐突過ぎたかな、とエリザベスは思う。初対面ではない、とゴウセルは言ったがエリザベスには記憶がなくゴウセルがどの様な人物かは分からなかった。それでも父が聞かせてくれた<七つの大罪>の一人だ。子供の頃から<七つの大罪>の活躍をまるでお伽噺のように父から聞いて育った。悪い人の筈がない。根底には父とそしてメリオダスに対しての信頼があった。何の情報もないままたった一人で城を出て探し始めた<七つの大罪>。不安と孤独でいっぱいだった心に一緒に行くだろ?と笑いかけて言ってくれた。本当に嬉しかったのだ。好きか嫌いかと言われたら好きに決まっている。でもそれが「恋愛の好き」なのかはよく分からない。ずっと引っ掛かっていた言葉を吐き出すようにエリザベスは話始めた。

「…メリオダス様の昔のご友人がいらして、言ってたんです。私が亡くなったメリオダス様の恋人に似ているって」
「それは初耳だな」
「ゴウセル様はメリオダス様とは…」
「悪いが<七つの大罪>結成以前の団長については殆ど知らない」
「そうなんですか…」

恋人と聞いて少なからずショックを受けた。リズに似ているとケインは言っていたがメリオダスは恋人に似ていたから自分を助けてくれたのだろうか。仲間にはしない、と言っていた過剰なまでのスキンシップも?仮にそうだとしても、自分は何があっても彼を信じると決めたはずだ。どうしてこんなに胸が苦しくて揺らいでいるのだろう。ぽつりぽつりと溢すエリザベスの言葉をゴウセルは表情を変えずに聞いていた。

「人間の感情は複雑怪奇だ」
「え?」
「だから面白い」

真顔で言われて一瞬呆けてしまう。

「外見が似ていても、それは王女とは違う」

淡々とした口調だが慰めてくれようとしているのだろうか。

「団長が剣を受け取ったのは王女の言葉があったからだ。エリザベス王女、あなたには団長の心を動かす力がある。それは姿形の問題ではない。と、俺は思う」
「……」

じんわりとゴウセルの言葉が胸の中に染み渡る。緩みそうになる涙腺を叱咤してはにかむように笑う。

「ゴウセル様は優しいですね」
「よく分からない」
「ありがとうございます。何だか話をしたらすっきりしました」

胸の中の鉛が溶けていくように感じた。エリザベスの表情が緩んだのを見て、ゴウセルの目がキラリと光る。眼鏡を押し上げて、普段よりも芝居がかった口調で話す。

「さて最初の質問に答えよう。王女は団長のことが好きか否か。答えは…」



****



ドアの音が響かないよう、足音がしないよう慎重に部屋のベッドまで戻る。ベッド上には小さな山がひとつ。すっぽりと毛布にくるまって全く姿が見えない。早く戻れと言われたがすっかり話し込んでしまった。それでもゴウセルと話せて良かった。大事なことを思い出せたから。
…私は私。自分に出来ることを精一杯する。
優しい人に剣を持たせた、罪を一緒に背負うと言った。国を救うために<七つの大罪>に助けを求めたのは自分、その為に流れる血は自分の罪だ。だがその罪はどう償えばよいのか。メリオダスに何を返すことが出来るだろう…。考えながらベッドに腰かけるとスプリングがギシギシ音をたてヒヤリとする。そっと布団に潜り込んで、メリオダスに背を向けた。ほっとしたのも束の間背後から手が伸びてエリザベスの細い腰に巻き付く。

「…メリオダス様…!」
「直ぐに戻って来なかったお仕置き」

ホークが縛った縄は解いたらしい。そもそも普通の縄で拘束出来るような人ではない。あれはエリザベスを安心させるためのポーズのようなものだ。

「エリザベスが出てったから体が冷えた」

そう言うメリオダスの体は暖かく、寧ろ布団から出ていたエリザベスの体が冷えている。熱が伝わるのを感じて心臓が破裂しそうだ。

「あの…メリオダス様…」
「何?」
「体冷えますよ?」
「うんにゃ…気持ち良いよ」

柔らかくて、とからかいと眠気が混じったような声で笑う。首筋に見た目よりも柔らかい金の髪があたってくすぐったい。子供のような高い体温に包まれて、まるで親鳥に守られる雛のようだと思った。少しずつ動悸が収まると、その温もりは寧ろ心地好い。何時だって彼に与えられている。

「メリオダス様」
「んー?」
「私に…何が出来ますか?」
「…この状況でそれを言うか?」

脈絡なく話すエリザベスに苦笑しているようだった。

「昼間お前が言ってたろ。俺も同じだよ」

…同じ?

今日一日のメリオダスとの会話を一つ一つ反芻しているうちに、背後からは寝息が聞こえた。どうやら正解は教えて貰えないらしい。エリザベスが考えているうちに少しずつ空が白んでいった。






“お前が生きていてくれればそれでいい”

王女の休日

2014年11月09日 23時15分48秒 | 七つの大罪妄想文。
またまた捏造メリエリ。


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雲ひとつない晴れた空と秋の日差しが心地よい。王都は今正に収穫祭の真っ只中にあった。秋の実りを天の神に感謝し来年の豊穣を祈る、昔から行われている恒例行事だ。神殿に供物を捧げるだけのささやかな祭りであった筈だが、近年はどんどん規模が大きくなり異国からの商売人が珍しいものを売りに来たり、大通りに屋台が立ち並ぶようになった。金色の麦の穂で作ったリースがあちらこちらで飾られ、陽気な音楽が街に響く。人々の表情も明るく一年に一度の祭りを楽しむ様子が伺えた。

…ただひとつ城の中を除いて。



「王女様が迷子?」

リオネス王国、最強の騎士団である<七つの大罪>団長のメリオダスは表情を変えることなく報告を聞いていた。大量の汗をかいた使者が述べたのは第三王女のエリザベスが昼食後から姿が見えないという話だった。収穫祭に興味津々だった様子で城を抜け出した可能性がある。王は自ら探しに行くと言っているが何とか押し留めている、と涙ながらに語る。見た目によらず行動的で活発な王女だ。先日も庭の木に登って、それを助けようとした王が木から落ちるという護衛の騎士達が真っ青になる出来事があった。この上王女が迷子になるなど騎士の名折れだ。

「お付きを撒いたのか?」
「おーやるねぇ♪王女サマ♪」
「でも誘拐のセンだって捨てきれないよ。今は祭りを理由に色んな人間が城に入る」

話を聞いていた仲間達が口を挟む。誘拐と聞いた使者は今にも卒倒しそうだ。

「エリザベスはいくつになったんだっけ?」
「確か6歳になったばかりのはずだ」

<七つの大罪>の中で知識量の多いゴウセルが機械的に答える。

「将来有望だねぇ♪」
「で、俺たちに探すのを手伝えと」

使者は恐縮したように俯く。国王の信頼厚い<七つの大罪>が王女を捜索してくれれば王も少しは安心して城で待っていてくれるだろうと…。

「いいぜ」

にやりと笑ってメリオダスは承諾した。



****



しゃらしゃらと鈴の音が響き、浅黒い肌の異国の踊り子が舞う。見たことのない踊りと楽器、聞いたことのない音楽にエリザベスの目は釘付けだった。時々こっそりとベロニカやギルサンダーに連れられて街を歩いたことはあるが祭りの只中に行くのは初めてだった。踊りが終わると拍手が巻き起こり、次のパフォーマンスが始まる。見るものすべてが珍しくエリザベスは目を輝かせた。まだ見ていたかったが小さな体は人の流れに逆らえず、広場から遠ざかる。キョロキョロしながら歩いていると少し人の少ない路地があり、エリザベスは人混みを抜けて躍り出た。混雑によって髪の毛がボサボサだ。手櫛で撫で付ける。ドレスを着てこなくて正解だった。城を抜け出す時にこっそり給仕の少年の服を借りて、食糧庫を出入りする大量の荷物に紛れ込んだのだった。活発な姉のベロニカが教えてくれた知恵だ。白いシャツに黒のベストとズボン、帽子はどこかに落としてしまったらしい。隠せずに現れた豊かな長い銀の髪はとてもその辺の子供には見えなかった。

「お嬢ちゃん、珍しい南国の果物だよ。良かったらどうだい?」

優しそうな年配の女性が話しかけてくる。見上げると果物を売る屋台の様だった。城の中で食べたことのあるものもあったが、いつも食べやすくカットされているので収穫仕立ての皮付きはエリザベスにとって珍しかった。他にも見たことのないカラフルな果物が溢れてエリザベスは歓声を上げた。鮮やかなオレンジ色の果物を手にとって見ると甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「滋養のある果物だよ」
「じよう?」
「元気が出る果物さ」

エリザベスの顔がパッと明るくなる。

「下さい!!」
「はいな。銀貨三枚だよ」
「ぎんか?」
「…お金、ないのかい?」

女性の顔が曇る。エリザベスは生まれてこの方買い物などしたことが無かった。女性の言っている意味が分からず戸惑いを隠せない。和やかだった女性の雰囲気が変わってエリザベスは縮こまる。父に怒られる前の空気によく似ていると思った。

「銀貨三枚だな」

突然目の前にエリザベスよりも少し年上の少年が現れてお金を差し出した。

「わりぃな、おばちゃん。妹は世間知らずでね」

素早く会計を済ませてエリザベスの手を引く。正直何が何やら分からなかったが少年が自分を助けてくれたのだということは分かった。黒いノースリーブのシャツを着て背中には不思議な形の剣を背負っている。金色の髪がぴょこぴょこ跳ねて触ってみたい衝動に駆られた。

「あの、どなたか存じませんがありがとうございました」
「いえいえ」

拓けた場所に出ると少年は果物を差し出した。

「そんなに食べたかったのか?」
「父上に…」

先日怪我をさせてしまったから と小さな声で呟く。思い出してしまったのか大きな青い目に涙を溜めている。少年が頭をぽんぽんと叩いた。この収穫祭では様々な珍しい食べ物が集まる。それこそ薬草や妖精のハーブといった類いも。きっと誰かから聞いたのだろう。

「そうか。でもな、一人で来るとおとーさん心配するぞ?」
「っ…ごめんなさい…!」

とうとう大粒の涙がこぼれ出した。少年はポリポリと頬をかいてからエリザベスを抱き上げて肩車をした。突然のことに驚いて涙が引っ込む。

「まぁ折角だから祭り見てくか?」

少年が笑う。

「いいんですか?」
「子供が気遣わなくていいの!いくぞ!」
「きゃあ!」

走り出した少年の頭にしがみつく。ふわりと太陽の匂いがした。一人で城を抜け出した時よりも何倍も鼓動が早くなった。




「なぁー♪あれ、どう思う?」

バンが視線を向けた先には男装しているにも関わらず明らかに少女と分かる品のよい子供が我らが団長に担がれてあたふたしている姿があった。

「団長と王女だな」
「完全に祭りを楽しんでるね…」
「見た目は完全にお子様が遊んでいるようにしか見えないな」
「カカカ♪いんじゃね?俺はエールでも飲んでくるわ♪」
「ふむ。任務完了と言うわけか」
「バン!君はさっきからろくに探さず飲んでばかりだったじゃないか!」
「俺はマーリンとエスカノールに王女は見つかったと伝えてこよう。キングはどうする?」
「じゃ、オイラは…留守番のディアンヌにお土産でも…」
「モジモジすんな♪おっさんキモい」
「何だと!」
「じゃ♪解散~♪」



****



異国の珍しい食べ物、大道芸人が火を吹く様、飾りつけられた街並み、陽気な音楽、そのすべてを堪能してエリザベスは胸がいっぱいになった。少年はこの街を熟知しているようで、人混みを避けつつエリザベスが行きたいところへ連れていってくれた。今は中央広場を上から見下ろす建物の上。アコーディオンの音楽が流れ、親しげな男女がワルツを踊っている。赤や黄色に染まった街路樹からハラハラと木の葉が落ち、太陽が街を橙に染める様は夢のようだった。

「ほら」

少年が温かなミルクを差し出す。天気がよいとはいえ、夕刻にもなれば冷える。ミルクに口をつけるとほんのり甘く蜂蜜の香りがした。

「ありがとうございました。とても楽しかった!」
「そりゃ良かった」

にこりと笑った顔は年相応の子供の顔だった。少年はジョッキで泡の乗った飲み物を飲んでいる。

「どうして一人で来たんだ?」
「……」

首を傾げる少年にエリザベスは上手く答えることが出来ない。祭りを見たいといえば連れて行って貰えないわけではないだろう。護衛は付くし今日みたいに自由ではないが、王女という立場上仕方のないことでもある。
エリザベスは今の国王夫妻の実子ではない。勿論国王は他の子供達と分け隔てなく愛情を注いでいる。気にしすぎているのは当のエリザベスだった。養女だからこそ、リオネスの王女として相応しくしなければという思いと父親の関心を引きたい子供らしい感情がせめぎあっている。自分は暖かな家族に囲まれて幸せだ。寂しいなんて思ってはいけない。それなのに時々寂しくなってしまう。その事がエリザベスに罪悪感を抱かせた。城の中にいると様々な感情が渦巻くのを止められない。

「そろそろ帰らなきゃ…」

城のことを考えると父も姉も心配しているだろうと思った。先程の表情とは正反対のシュンとした顔に少年は笑って頭を撫でた。ワルツの音楽が変わる。聞いたことのある明るい曲調に頭を巡らせた。

「王女様。一曲踊って頂けますか?」
「えっ?」

少年が恭しく手を差し出した。ダンスはたしなみとして習ってはいるが得意ではない。エリザベスは戸惑いながらもその手をとった。見た目によらず少年の手はゴツゴツとして硬かった。顔に血が上って熱くなり“王女”と呼ばれたことにも気が付かなかった。



****



城に戻ったエリザベスは姉のベロニカに叱られ、心配した父に抱き締められ、マーガレットの取りなしによって漸く解放され、自室のベッドに潜り込む所だった。父は果物を喜び明日になったら一緒に食べようと大きな掌でエリザベスの髪を撫でた。あの少年はエリザベスを城に送り届けて、いつの間にかいなくなっていた。お礼をしたいと思ったが名前を聞くのを忘れておりどこの誰か分からない。剣を背負っていたから、もしかしたらどこかの騎士団に所属しているかもしれない。朝になったらザラトラスに聞いてみよう。素晴らしい一日だった。子犬がじゃれつくような優雅さとはかけ離れたダンスだったが繋いだ手の温もりを思い出して、顔を枕に埋め足をパタパタさせた。恥ずかしいのは分かったが、何故そんな感情になるのか幼いエリザベスには分からない。

「また会えますよね…」

夢のような出来事を反芻しながら疲れた体はあっという間にエリザベスを本物の夢の中へ誘った。

希望の光

2014年11月09日 23時12分21秒 | 七つの大罪妄想文。
ピクシブに載っけたもの。メリエリで団長の過去を捏造しています注意!


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メリオダスが意識を取り戻した時、王国は黒い炎に包まれた後だった。地上に本来存在しない筈の炎は三日三晩、町と人々を焼き、跡形もなく王国は消え失せた。大通りから城へ向かう道のりはいつもなら多くの商店が立ち並び、異国の行商人が行き交い活気溢れる。たが今は焼け焦げた柱が数本見えるだけ。死体すらない。黒い炎は骨すら残さず燃やしつくす。粉塵が舞って昼間にも関わらず辺りは真っ暗だ。

…守れなかった。

呆然とした頭で分かったのはそれだけだ。足は自然と城の方へ向いた。城門があった場所は瓦礫の山となり、すぐ右手には聖騎士達が詰める為の塔があった筈だが面影は全く無くなってしまった。崩れた石垣の間に赤い布がはためいており、引っ張りだすとダナフォールの紋章が描かれた国旗だった。魔術師が魔力を籠めて織った旗は燃え尽きずに残ったらしい。噴水の美しい中庭は今の季節なら色とりどりの薔薇の園が広がっている。目を瞑るとありありと浮かぶその光景、王女がドレスの裾を翻して鈴を転がすような声で笑う、王子は王女のやんちゃをたしなめつつ、剣の扱い方を自分に請うた。それを優しい眼差しで見つめる国王夫妻、護衛の聖騎士達…。そこには自分が守るべきものがあった。

「…みんな」

掠れた自分の声以外何も聞こえない。国王一家の安否を確かめなければいけない。絶望的な状況だがそれを確かめずしてここを去ることは考えられなかった。メリオダスは自分以外の魔力がどこかに存在しないか全神経を集中させた。

……澄んだ水。

そんなイメージの魔力を微かに感じる。だが今にも消えそうな弱々しい波動。方角を探り瓦礫を避けていくと城の地下へ進む階段が現れた。今にも崩れそうな石の階段、これは確か王族のみが入ることの出来る祭殿…。城の地図を頭に描きながら、光の届かない暗闇を慎重に進む。暫くすると道が広くなり、強固な石垣に変わった。ここまで来れば頭上から崩れることは無いだろう。知らず足は早くなる。石にはメリオダスには読むことの出来ない文字が刻まれていたが、気にする余裕など無かった。紋章が刻まれた大きな扉が現れ押し開くと、暗闇に慣れた目には強烈な光が飛び込んでくる。魔力の気配は明らかにこの場所からであった。何度も瞬きを繰り返し、目を慣らすと巨大な女神像があるのが分かった。光は女神の頭上から降り注いでいる。

「この光は…」

人間の魔力とは別の種類の力。半永久的にこの女神像を照らし続けるもの。こんなものが城の地下にあるなんて知らなかった。光のお蔭か、先ほどまでひんやりしていた空気が暖かい。女神像との距離を詰めると足元に何かあることに気付く。

「…!」

薄い水のような膜に包まれた赤ん坊がそこにいた。この暖かな魔力は…

「…ああ、王妃さんか」

赤ん坊を包む愛しさに満ちたこの魔力は王妃のもの。彼女が子供を身籠っていることは聞いていた。最期の力で我が子を守ったのか。赤ん坊は王妃と同じ湖のような青い瞳でメリオダスを見上げにこりと笑った。まるで抱き上げて欲しいとでも言うように、両手を広げる。優しく包む水の膜に触れるとふわりとその魔力は消えてしまった。赤ん坊を抱き上げる。独特の甘い香り、柔らかな肌…三日間ここで一人で過ごしたとは思えない汚れなど一切ない愛らしい姫だった。さらさらの銀色の髪が薔薇色の頬にかかってくすぐったそうに笑う。小さな手が見えない何かを掴むように動いた。
地獄のような世界に一筋の光が現れたように感じた。














「私をリオネスの父に預けて、その騎士様はどこかへ行ってしまわれたそうです…」

湖水の瞳を少し寂しそうに細めて、エリザベスは笑った。まだ幼い頃父が教えてくれた話。寝物語に自分の知る生い立ちを、少年のような容姿をした最も信頼する人に告げる。

「そっか」
「ええ…いつか私はその騎士様に会って言いたいことがあるんです」
「…どんな?」

新緑のような瞳でエリザベスの瞳をじっと見つめる。何故か胸が高鳴った。彼が何を考えているのかは分からないが、暖かさに満ちているのは分かる。

「私に素晴らしい家族を与えてくれてありがとうございます と」









リオネス王にエリザベスを託して、メリオダスはこの国を去るつもりだった。たがリオネス王は、今度こそ守るべきだと厳しくも暖かい瞳で告げた。<七つの大罪>王直属の騎士として。王はいつか自分で真実を告げるように とエリザベスにはダナフォール出身ということ以外教えなかったらしい。
目の前で寝息を立てているエリザベスの髪を摘まんで唇を寄せる。絶望の中で自分を救ってくれた希望だ。

「必ず守る。この命にかえても」

少女は深い夢の中、メリオダスの呟きだけが闇に溶け込んでいった。