
昔から、意識の片隅に引っかかっていたことがある。
それは、何故ナチスは戦前のドイツであれほど受け入れられたのか、ということだ。
一般には、第一次世界大戦で大敗して気の遠くなるような賠償金を吹っかけられて、皆が希望を失っている時にナチスがつけこんだのだ……といった説明がされているように思う。ナチスは「ユダヤ人や外国などを敵視させることで」国を纏めたのだ、という理解も強いように思う。
実際、そういう側面もあるだろう。そこは否定しない。
ただ……本当にそれ「だけ」だったのか? ということがとても気になっていた。何しろドイツ人と言えば、極端なまでの合理主義と理性的態度で知られる民族である。ある意味これはステレオタイプな偏見ではあるのだろうが、しかし、第二次大戦前から「そういう民族」だと思われていたのは事実。
で、そんな彼らがなんでナチスをあそこまで支持したのか。何かプラスアルファがあったのではないか、とずっと思っていた。
……思っていただけで、個人的な探求の範囲からいささか外れてたこともあり、それ以上の追求も探求もせずにすっかり忘れていたのだけど。
で、この本。
祥伝社新書、武田知弘著「ヒトラーの経済政策――世界恐慌からの奇跡的な復興」。
これが実に、この問いに答えてくれるものとなっていた。
1933年から1939年までは、ドイツにとって非常に良い時代だったと言われる。
これはすなわち、ナチスが政権を取ってから、戦争を始めるまでの間。
この間にナチスは、ドン底にあったドイツの経済を見事な手腕で建て直しているのだ。この本ではその数々の政策を分かりやすく綺麗に示してくれている。
効果的な大型公共工事。税制改革。失業者対策に雇用対策。労働者の権利の拡充。経済に疎かったナチスは、非ナチス党員の高名な経済学者・シャハトに重要なポストを任せて見事に成功。数々の問題をクリアしていく。悪名高いナチスの一党独裁体制も、それらの政策を実行する上で、迅速でブレない決断や続行に繋がっていく。
多岐に渡るこれらの成功を、ほとんど前知識のない者にも分かりやすく示したあたり、実に見事。「なるほどこれなら当時のドイツはナチスを支持しただろうな」、と素直に納得できるものとなっている。
もちろん、ある意味、話を簡単にし過ぎているきらいはある。
例えば筆者はこれらのナチスの施策が今の日本経済の問題に応用できるのでは、と無邪気に考えている節があるが、流石にそこまで話は単純ではなかろう、と素人目ながらも思ったりする。
また筆者自身、分かっていて省いたことだが、ナチスの悪行の数々についてはほとんど触れていない。絶好調だったナチスはやがて転落に転じるわけだが、その「落ち始める所」で話は終わってしまっている。分量、及び話の焦点の都合上仕方のない部分だが、この辺りを知らないとかなり誤解を招く恐れがある。
しかしそれでも、この本は面白い。
異論が出ている所にはさりげなくも公正に、批判的な意見にも言及している。一言二言程度であれ、こういう書き方が出来るライターは実はあまりいない。
何より、ナチスの功罪のうち、「功」の方は圧倒的に知られていないのではないか。入りやすい入り口がなかなかない中、これは「新書」……つまり「値段・分量・文章ともに手に取りやすく読みやすい」本として、その本分をしっかり果たしている。
機会があれば、この方面からもっと深く、もっと色々と調べ直し、勉強してみたいものである。
それは、何故ナチスは戦前のドイツであれほど受け入れられたのか、ということだ。
一般には、第一次世界大戦で大敗して気の遠くなるような賠償金を吹っかけられて、皆が希望を失っている時にナチスがつけこんだのだ……といった説明がされているように思う。ナチスは「ユダヤ人や外国などを敵視させることで」国を纏めたのだ、という理解も強いように思う。
実際、そういう側面もあるだろう。そこは否定しない。
ただ……本当にそれ「だけ」だったのか? ということがとても気になっていた。何しろドイツ人と言えば、極端なまでの合理主義と理性的態度で知られる民族である。ある意味これはステレオタイプな偏見ではあるのだろうが、しかし、第二次大戦前から「そういう民族」だと思われていたのは事実。
で、そんな彼らがなんでナチスをあそこまで支持したのか。何かプラスアルファがあったのではないか、とずっと思っていた。
……思っていただけで、個人的な探求の範囲からいささか外れてたこともあり、それ以上の追求も探求もせずにすっかり忘れていたのだけど。
で、この本。
祥伝社新書、武田知弘著「ヒトラーの経済政策――世界恐慌からの奇跡的な復興」。
これが実に、この問いに答えてくれるものとなっていた。
1933年から1939年までは、ドイツにとって非常に良い時代だったと言われる。
これはすなわち、ナチスが政権を取ってから、戦争を始めるまでの間。
この間にナチスは、ドン底にあったドイツの経済を見事な手腕で建て直しているのだ。この本ではその数々の政策を分かりやすく綺麗に示してくれている。
効果的な大型公共工事。税制改革。失業者対策に雇用対策。労働者の権利の拡充。経済に疎かったナチスは、非ナチス党員の高名な経済学者・シャハトに重要なポストを任せて見事に成功。数々の問題をクリアしていく。悪名高いナチスの一党独裁体制も、それらの政策を実行する上で、迅速でブレない決断や続行に繋がっていく。
多岐に渡るこれらの成功を、ほとんど前知識のない者にも分かりやすく示したあたり、実に見事。「なるほどこれなら当時のドイツはナチスを支持しただろうな」、と素直に納得できるものとなっている。
もちろん、ある意味、話を簡単にし過ぎているきらいはある。
例えば筆者はこれらのナチスの施策が今の日本経済の問題に応用できるのでは、と無邪気に考えている節があるが、流石にそこまで話は単純ではなかろう、と素人目ながらも思ったりする。
また筆者自身、分かっていて省いたことだが、ナチスの悪行の数々についてはほとんど触れていない。絶好調だったナチスはやがて転落に転じるわけだが、その「落ち始める所」で話は終わってしまっている。分量、及び話の焦点の都合上仕方のない部分だが、この辺りを知らないとかなり誤解を招く恐れがある。
しかしそれでも、この本は面白い。
異論が出ている所にはさりげなくも公正に、批判的な意見にも言及している。一言二言程度であれ、こういう書き方が出来るライターは実はあまりいない。
何より、ナチスの功罪のうち、「功」の方は圧倒的に知られていないのではないか。入りやすい入り口がなかなかない中、これは「新書」……つまり「値段・分量・文章ともに手に取りやすく読みやすい」本として、その本分をしっかり果たしている。
機会があれば、この方面からもっと深く、もっと色々と調べ直し、勉強してみたいものである。