万年筆が開発されたのは、1809年イギリスでのことだそれから75年経って日本に輸入され、「万年筆」と命名されるに至った。「万年筆」と名づけた理由は未だ諸説あって定かではないが、少なくとも自分はタイトルのように「1万年経っても、文字が残りますように」という思いが込められて名づけられたのでないかと、勝手に思っている。そっちの方が浪漫があるじゃないか。そんな万年筆、今、静かなブームを起こしているそうな。
万年筆が静かなブーム IT時代も女性のステータス
デジタル一辺倒の時代に、万年筆が売り上げを伸ばしているらしい。
実情を知るため東京・日本橋の丸善を訪ねた。日本における万年筆販売の草分けであり、「ファウンテンペン」を「万年筆」と訳したのが丸善-といわれるほど万年筆と縁の深い会社である。
うわさは本当だった。
「万年筆の売り上げは5年前に比べ5割増になっています」と、日本橋店文具売り場長の山田明治さん。
輸入品ならモンブラン・マイスターシュティック145(5万3550円)、ペリカン・スーベレーンM600(3万9900円)、国産品なら3万円ほどのセーラーのプロフィットシリーズ(長刀研ぎ)とパイロットのカスタムシリーズといった「定番」が同店の売れ筋という。
「客層は以前は40歳以上のシニアの男性が中心でしたが、最近は20代の女性の方もよくお見えになります。若い女性にはパーカーやウォーターマンの2万円前後の商品がよく出ますね」
ブームの背景を山田さんに尋ねるとこんな答えが返ってきた。
「若い人たちはパソコンやケータイのメールの画一性に飽きてきたのでは? もっと自分の個性や気持ちを伝えたいと思った人たちが万年筆を《発見》したのではないでしょうか。また、よい万年筆を持つことは一種のステータスと感じるようです。ヴィトンのバッグを買うように、高級品を求める若い女性も少なくないですね」
ちなみに同店でもっとも多く出るのはペリカンという。ペリカン日本に問い合わせてみると、「ここ5年の売上高は毎年、前年比2けた以上の伸び率を記録しています。一番人気はスーベレーンM400(3万1500円)です」とのこと。
万年筆は本当に売れているのである。
◇
こうしたブームの中で、万年筆マニアが集結して編まれた万年筆写真文集「ペン!ペン!ペン! ファウンテンペン!」(南雲堂フェニックス・3150円)が登場し、売れ行きも上々という。
マニア58人が自分の愛する万年筆を語る「私が選んだ1本の万年筆」と題された第1章は圧巻。愛する万年筆とそれで書いた原稿の美しい写真が雄弁にその魅力を伝えている。
編者の足沢公彦さんはこう話す。「最近のブームは女性がつくっているところがあります。それは男性より女性の方が伝えたい気持ちを持っているからではないでしょうか。《気持ちを伝えるのなら万年筆》という意識が確かに醸成されつつあります。それに加えて、万年筆で書いた字には品格があると感じる女性が増えてきたように思います」
「国家の品格」「女性の品格」といった近年の「品格」ブームが、万年筆を発見させたといえるかもしれない。
万年筆を愛してやまない足沢さんはさらに風呂敷を広げる。「万年筆で手紙を書くときは、パソコンやボールペンに比べ、はるかに相手の気持ちをおもんばかって書いてしまうものです。さらには時候のあいさつが気になったり、インクの色が象徴する意味を意識したりと、日本のもてなしの文化をおのずと意識するようになりますね。極論ですが、日本を《美しい国》にしたいのなら、みながこぞって万年筆を使うべきでしょう」(桑原聡)
自分も一つ、大切な万年筆を持っている。両親が成人式の時に買ってくれたもので銀張りに細かい細工が入ってるものだ。値段は知らないが、まあ安いものではないだろう。一応銀だし。
その万年筆は、今でもプライベートで、職場で使っている。
大切な書類にサインするときに使ったり、大切な友達に手紙を書くときに使ったりする。
書類へのサインはともかく、未だに「手紙かよ」と同僚や部下に笑われることもあるが、本当に大切な友達と近況を知らせあったりする際には、やっぱり手紙の方が良いと俺は思っている。
メールだと、自分まで機械化したようで余り良い気持ちがしないし、何より手紙というのは、結構色々細工を利かせられるから面白いし、また相手に「形」として残せる方法だし。
自分は金木犀の香りが大好きなのだが、大切な友人に手紙を送るときは、手紙に金木犀のお香を炊き込めて送る。結構強めに炊き込めれば、1ヶ月くらいは香りが残るものなのだ。
また、遊び要素で炙り出しを書いたりもする。
とまあ手紙の話になってしまったが、そんな手紙の根幹を成すのが、「文字」なわけだ。白紙の手紙が来たって、首を傾げるだけだわな。
で、その文字を書くのに万年筆を使うわけだが・・・。
俺は破壊的に字が汚い。恐らく根性と性格が捻じ曲がっているのが字に表れるのだろう。学生時代、何度か綺麗な字を書こうと努力したが、結局無駄だった。
そんな字を持つ俺が、一度書いたら消すことの出来ない万年筆で、手紙を書く・・・。
勿論、相当に神経を使うし、相手に良い気持ちで読んで貰えるように優しく字を書く。
おざなりにメールを打つのではない、消すことの出来る鉛筆で書くのでもない、一字一字に気持ちを込めて書かなければならない万年筆。
自分の万年筆は銀製の所為か、手垢が付きやすいし、力を込めて握れば少しずつ変形する。今では、自分以外の人間にはどうも違和感がある持ち難さになっている。勿論、自分にとってはこの上なく持ちやすい。
決して安い買い物ではない万年筆。しかし、一生付き合える文房具という意味では、さして高い買い物でもない万年筆。
そんな万年筆が静かなブームになっているということは、他人事じゃない気がして自分も嬉しい。
デジタルで合理化された社会も悪くないのかもしれない。でも、アナクロで非合理的な物品で、人の心にゆとりをもたらせるのは必要なことだと思う。
万年筆が静かなブーム IT時代も女性のステータス
デジタル一辺倒の時代に、万年筆が売り上げを伸ばしているらしい。
実情を知るため東京・日本橋の丸善を訪ねた。日本における万年筆販売の草分けであり、「ファウンテンペン」を「万年筆」と訳したのが丸善-といわれるほど万年筆と縁の深い会社である。
うわさは本当だった。
「万年筆の売り上げは5年前に比べ5割増になっています」と、日本橋店文具売り場長の山田明治さん。
輸入品ならモンブラン・マイスターシュティック145(5万3550円)、ペリカン・スーベレーンM600(3万9900円)、国産品なら3万円ほどのセーラーのプロフィットシリーズ(長刀研ぎ)とパイロットのカスタムシリーズといった「定番」が同店の売れ筋という。
「客層は以前は40歳以上のシニアの男性が中心でしたが、最近は20代の女性の方もよくお見えになります。若い女性にはパーカーやウォーターマンの2万円前後の商品がよく出ますね」
ブームの背景を山田さんに尋ねるとこんな答えが返ってきた。
「若い人たちはパソコンやケータイのメールの画一性に飽きてきたのでは? もっと自分の個性や気持ちを伝えたいと思った人たちが万年筆を《発見》したのではないでしょうか。また、よい万年筆を持つことは一種のステータスと感じるようです。ヴィトンのバッグを買うように、高級品を求める若い女性も少なくないですね」
ちなみに同店でもっとも多く出るのはペリカンという。ペリカン日本に問い合わせてみると、「ここ5年の売上高は毎年、前年比2けた以上の伸び率を記録しています。一番人気はスーベレーンM400(3万1500円)です」とのこと。
万年筆は本当に売れているのである。
◇
こうしたブームの中で、万年筆マニアが集結して編まれた万年筆写真文集「ペン!ペン!ペン! ファウンテンペン!」(南雲堂フェニックス・3150円)が登場し、売れ行きも上々という。
マニア58人が自分の愛する万年筆を語る「私が選んだ1本の万年筆」と題された第1章は圧巻。愛する万年筆とそれで書いた原稿の美しい写真が雄弁にその魅力を伝えている。
編者の足沢公彦さんはこう話す。「最近のブームは女性がつくっているところがあります。それは男性より女性の方が伝えたい気持ちを持っているからではないでしょうか。《気持ちを伝えるのなら万年筆》という意識が確かに醸成されつつあります。それに加えて、万年筆で書いた字には品格があると感じる女性が増えてきたように思います」
「国家の品格」「女性の品格」といった近年の「品格」ブームが、万年筆を発見させたといえるかもしれない。
万年筆を愛してやまない足沢さんはさらに風呂敷を広げる。「万年筆で手紙を書くときは、パソコンやボールペンに比べ、はるかに相手の気持ちをおもんばかって書いてしまうものです。さらには時候のあいさつが気になったり、インクの色が象徴する意味を意識したりと、日本のもてなしの文化をおのずと意識するようになりますね。極論ですが、日本を《美しい国》にしたいのなら、みながこぞって万年筆を使うべきでしょう」(桑原聡)
自分も一つ、大切な万年筆を持っている。両親が成人式の時に買ってくれたもので銀張りに細かい細工が入ってるものだ。値段は知らないが、まあ安いものではないだろう。一応銀だし。
その万年筆は、今でもプライベートで、職場で使っている。
大切な書類にサインするときに使ったり、大切な友達に手紙を書くときに使ったりする。
書類へのサインはともかく、未だに「手紙かよ」と同僚や部下に笑われることもあるが、本当に大切な友達と近況を知らせあったりする際には、やっぱり手紙の方が良いと俺は思っている。
メールだと、自分まで機械化したようで余り良い気持ちがしないし、何より手紙というのは、結構色々細工を利かせられるから面白いし、また相手に「形」として残せる方法だし。
自分は金木犀の香りが大好きなのだが、大切な友人に手紙を送るときは、手紙に金木犀のお香を炊き込めて送る。結構強めに炊き込めれば、1ヶ月くらいは香りが残るものなのだ。
また、遊び要素で炙り出しを書いたりもする。
とまあ手紙の話になってしまったが、そんな手紙の根幹を成すのが、「文字」なわけだ。白紙の手紙が来たって、首を傾げるだけだわな。
で、その文字を書くのに万年筆を使うわけだが・・・。
俺は破壊的に字が汚い。恐らく根性と性格が捻じ曲がっているのが字に表れるのだろう。学生時代、何度か綺麗な字を書こうと努力したが、結局無駄だった。
そんな字を持つ俺が、一度書いたら消すことの出来ない万年筆で、手紙を書く・・・。
勿論、相当に神経を使うし、相手に良い気持ちで読んで貰えるように優しく字を書く。
おざなりにメールを打つのではない、消すことの出来る鉛筆で書くのでもない、一字一字に気持ちを込めて書かなければならない万年筆。
自分の万年筆は銀製の所為か、手垢が付きやすいし、力を込めて握れば少しずつ変形する。今では、自分以外の人間にはどうも違和感がある持ち難さになっている。勿論、自分にとってはこの上なく持ちやすい。
決して安い買い物ではない万年筆。しかし、一生付き合える文房具という意味では、さして高い買い物でもない万年筆。
そんな万年筆が静かなブームになっているということは、他人事じゃない気がして自分も嬉しい。
デジタルで合理化された社会も悪くないのかもしれない。でも、アナクロで非合理的な物品で、人の心にゆとりをもたらせるのは必要なことだと思う。