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恋染紅葉

映画のこと、本のこと、日々の些細なことを綴ります。

「くちづけ」宅間孝行

2013-07-24 | 本(た~は行の作家)
これも、映画を見てから読んだもの。

こちらはどちらもよかった。
映画でのキャストが文字の上で喋るように読んでいった。

映画の中ではあったのかな?
原作中、おまわりさんが言う言葉がとてもよかった。
おまわりさんはゲイなんですが、自分もうーやんたちも神様が特別に作ってくれたとかいうところ。
人を、見た目とかいろんなことで見下したりしちゃだめですよね。
何が普通で何が普通でないか、そんなことその人の側から決めたことで、その考えが当たり前のこととは限らない。
神様だけが知ってるし、神様はみな同じに作ったんだよね。

「あん」ドリアン助川(ポプラ社)

2013-06-19 | 本(た~は行の作家)


前科者の千太朗が雇われ店長をしている「どら春」、どら焼きの小さな店だ。
すでに人生を諦めている千太朗は、毎日借金を返すためだけにどら焼きを作り続けている。
そんな「どら春」に一人のおばあさんが働きたいとやってくる。
最初は断る千太朗でしたが、彼女が作った「あん」の美味しさに、雇うことにします。
それからどや焼きの味が変わり、店も繁盛しはじめます。
ところが、彼女のまつわるある噂が耳に入り・・・。


最初は、無気力な千太朗が、このおばあさんによって生まれ変わる・・・という温かいヒューマンドラマかなと思いながら読んでいました。
ところが、このおばあさんが患っていた病気がハンセン病であったことから、病気によって過去にどれだけの差別があり、現在も知識のなさから少なからず偏見があるということが、まるでドキュメンタリーを見るように学ばされます。
昔、映画「砂の器」で初めてそんな「差別」のあった病気なんだと知りました。

彼女は、少女のときに発病し、それからすぐに隔離された施設に入れられ、一生をそこで過ごさければならない運命となりました。
やっと法改正され、外の世界に出ていけるようになって、それでやってきた「どら春」

「人が生まれてきたのは、世のため人のために役立つため」
今までいろんな小説で、これと似たような言葉をひろってきました。
でも、人はそれだけじゃなく、この世界は、私たちが観るため、聞くためにある。月や、花や、木や、それらは私たちが観て初めて輝く。だから、自分がなりたいものになれずとも、この世に生まれてきた意味はある・・・。
そんなふうな文章に出会い、私まで目からウロコがおちたような気持ちになりました。

大きなきっかけはなくとも、足元の小さな気づきで、人は少しずつ変われるんだと。

静かな風のそよぐ音とか、ハラハラ散る桜の花びらを感じられ、読後、心が穏やかになるお話でした。

「いちばん長い夜に」乃南アサ(新潮社)

2013-06-05 | 本(た~は行の作家)
NHKドラマ「いつか陽のあたる場所で」の原作。
本書は、前科持ちの女性二人を描く連作短篇シリーズの完結篇。

ドラマにはなかった出来事(東日本大震災)を盛り込んでます。
前の2作は未読なのですが、ドラマに登場してくる人たちのプロフィールとは随分変わっているように思えます。
でも、ドラマはドラマでとてもよかったです。

ただ、このシリーズを最初から読んでいたらなと後悔しました。
完結篇だけでしたが、作者の実体験をもとに書かれた「あの長い夜のこと」は本当にリアルでしたし、その後の主人公たちの心の動きなども深く残りました。
機会があれば1作目、2作目と読みたいです。



「夢を売る男」百田尚樹(太田出版)

2013-05-22 | 本(た~は行の作家)
敏腕編集者・牛河原勘治の働く丸栄社には、本の出版を夢見る人間が集まってくる。自らの輝かしい人生の記録を残したい団塊世代の男、スティーブ・ジョブズのような大物になりたいフリーター、ベストセラー作家になってママ友たちを見返してやりたい主婦…。牛河原が彼らに持ちかけるジョイント・プレス方式とは―。現代人のふくれあがった自意識といびつな欲望を鋭く切り取った問題作。

どうも胡散くさいジョイント・プレス。
でも牛河原の話術に嵌れば「自分の夢を叶えるため」と納得できてしまうから人の心とはいかに~
詐欺のように見えるのですが、彼にも彼なりのポリシーはあって、そこが「他」とは違うところ。
思わず肯いてしまう。

こうしてブログを書いている人の多くは、「匿名」ながらだいたいは「自分を主張」したい人。
主張するために、堂々と演台に立って弁論するのはちょっとムリ。
「書く」ならなんとなく出来そう。
写真も、コンテストとかに出すのはちょっとムリ。
でもブログに載せるくらいなら出来そう。
そんな「ちょっと自己主張」できるブログ・SNSって便利。
その「ちょっとゴコロ」をくすぐる自費出版。

作家(=本を出すこと)の裏事情が見えたり、今の大衆の興味をついた面白い題材でした。



「冬の旅」辻原登(集英社)

2013-05-18 | 本(た~は行の作家)
刑期を終え滋賀刑務所から出所した緒方。
彼がどんな人生を歩み、なぜ罪を犯すような運命になったのかを辿る。
ごく普通に仕事をしていた彼が、些細なことで解雇される。ハローワークで職を探していたときに見つけた新しい職場は新興宗教団体。その後、阪神淡路大震災に遭遇し、救援活動中にある女性と知り合い結婚。幸せに暮らしていたのもつかの間、彼にはその後転落の人生が待ち受けていた・・・。


読みすすめるほど心にどんよりと黒い雲が覆いかぶさってくる感じ。
自分が招いた不運でないにしろ、どうして他の方法を選ばなかったのかとはがゆい。
人間にっちもさっちもいかなくなると、理性を失ってしまうものか。
ラストの行動は全く納得できないが、それもしょうがないことなんだろうか。
舞台が関西で、実際の出来事の描写がリアルすぎてよけいに作り話とは思えなくなってしまう。