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永江朗のオハヨー!日本語 ~広辞苑の中の花鳥風月

短期集中web連載! 手だれの文章家・永江朗が広辞苑を読んで見つけた自然を表す言葉の数々をエッセイに綴ります。

うさぎなみをはしる【兎波を走る】

2012年09月22日 | あ行
(1)さざなみの立つ水面に月が映っているさまのたとえ。(2)仏教で、悟りが低い段階に留まっている人のたとえ。


 水面に映る月を白い兎にたとえたところがすばらしい。きらきらと光って、まるで兎が波と戯れながら走っているように見えたのだろう。

 兎が波と遊ぶさまを絵にした「波兎」という古典的な絵柄がある。かわいらしいし、兎は多産なので豊饒を意味し、縁起がいいといわれる。「竹生島文様」とも呼ばれ、謡曲「竹生島」に由来する。琵琶湖にうかぶ竹生島を舞台にした物語だ。兎が走っている波は、海の波ではなく琵琶湖の波か。

 もっとも、波を走る兎から、『古事記』に出てくる因幡の白兎のエピソードを連想する人もいる。沖の島(隠岐島か?)に渡りたくなった兎が、わに(鮫か?)を騙して、その上をぴょんぴょん跳ねていった。ところが島にわたる寸前に嘘がばれて、皮をはがれてしまったというお話。出雲大社の灯籠には波兎のレリーフが掘られている。

 なぜ波兎が悟りの浅い人なのか。それは、兎が水に入ることを嫌うかららしい。水の中を泳ごうとせず、あくまで水面を走るだけ。どっぷり浸からなきゃ、わからないよ、という意味なのだろうか。