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藤沢周平さんの世界

2007-07-24 | 文化のこと
藤沢周平さんには、沢山の素晴らしい作品がある。

特に短編。

特に剣術もの。

特に隠し剣シリーズ。

何度、あの世界を訪ねたことだろう。

何度、あの世界に遊んだことだろう。

名作、傑作の宝庫だが、特にシリーズを象徴するような作品が「女人剣さざ波」。

なぜシリーズを象徴するかというと、この作品の剣士は主人公ではない。

ヒロインでもない。


浮気者(?)の主人公の妻が、剣士である。

主人公は果し合いを求められる。

腰抜け男なのだが、藩の命令で人の秘密を探り、恨み(怒り)を買ったのだ。


その代わりに果たし合いに赴くのが、この妻である。

打ち捨てられた妻である。

夫である主人公に疎まれた妻である。


美しいとは言えない女性、という設定だ。


悲しい。

でも夫の命を助けるために、代わりに果し合いに赴く。

剣には自信があるのだ。

相手はそれ以上に恐ろしい相手だが、それでも夫の命を助けようとするのは、彼女の意地でもある。


哀れな決意である。

悲しい決意である。


藤沢周平さんの叙述は淡々としている。


彼女は秘術を尽くして戦う。


たった一言を言うために。


彼女は愛していたからだ。


例え疎まれていても。


その心が藤沢周平の世界だ。

脇役の心。

ヒーローではない。


あっさりと清々しい心。


捨てている。


何かを。


でも汚れていない。

それが人生の意味だから。



だから美しい。

魅了されるのだ。


これが日本の文化だから。



誰も見ていない所で倒れる木は、音を立てるのか?


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