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移民の経済効果はマイナスにもなる 単純労働者の増加が低収益産業を延命させてしまう

2012-02-16 | 問題!!
 生産性の低い産業で安易に外国人を労働力として受け入れると、経済全体へのマイナス効果が大きくなる――。

 三菱総合研究所が2003年に、外国人受け入れの日本経済に対する効果をシミュレーションしたところ、このような結果が出た。受け入れる外国人の教育水準や滞在期間などによっても影響の度合いは異なるという。

 治安、教育、社会保障、文化と様々な側面を持つ移民問題だが、経済効果の観点での検証は日本ではまだほとんどない。調査内容とともに、調査を行った同社の経営コンサルティング本部労働政策分析担当の木村文勝研究部長の意見を紹介する。
 調査は厚生労働省からの委託を受けて、三菱総合研究所が2003年に行った。

 まず、2000年時点の男女の労働力率実績を元に、資本配分を変えずに、2025年までの潜在成長率を試算。下記の基本パターンを出した。

■産業全体の成長率
 ・ 2005~2010年 ―― 0.65%
 ・ 2010~2015年 ―― 0.69%
 ・ 2015~2020年 ―― 0.76%
 ・ 2020~2025年 ―― 0.71%
高度人材受け入れは女性・高齢者活用に次ぐ効果

 さらに産業を生産性の高低、貿易財・非貿易財の観点で4つに区分して成長率を見てみた。(調査の詳細を記事の最後に掲載)。

・ 産業(1)生産性高・非貿易財: 金融、通信、教育、医療など

・ 産業(2)生産性高・貿易財: 自動車、電機など

・ 産業(3)生産性低・貿易財: 農林水産業、繊維工業、食品加工など

・ 産業(4)生産性低・非貿易財: 運輸、小売、外食、介護などのサービス、電気・ガスなど
 先に記した基本パターンに対して、仮に女性や高齢者などの労働参加を進めた場合や雇用の流動化・労働の質向上を進めた場合と、外国人の受け入れを進めた場合についての成長率を算出し、2020~25年の基本パターンとの差を比較した。

 その結果、最もマクロ成長率の改善が見られたのは、女性や高齢者などの活用を促すパターンだった。マクロで最大0.17ポイントのプラス効果が見込める。

 これに対して、外国人を受け入れた場合では、大学を卒業している35歳未満の外国人を、日本人と同じ処遇で受け入れるパターンでは、マクロ成長率は0.06ポイントと、女性や高齢者活用に迫る良い結果が出た。

 一方で、最も悪い結果が出たのは、35歳未満の外国人(学歴不問)をいわゆる単純労働者として、産業(3)と産業(4)だけに500万人受け入れたパターンで、マクロ成長率は0.87ポイント悪化した。

(以下、聞き手は小瀧 麻理子=日経ビジネス記者)

女性、高齢者の活用は経済にプラス

 ―― 調査実施の経緯を教えてください。


三菱総合研究所経営コンサルティング本部の木村文勝・研究部長
 木村 少子高齢化による労働力供給の減少、経済成長の制約の対策として外国人を受け入れるという意見があります。

 しかし、その経済効果の観点での判断基準がこれまでほとんど提供されてこなかった。様々な側面はありますが、日本の経済成長制約に対して外国人の受け入れが本当に効果があるのか、ということを検証したかったのです。

 受け入れのパターンとして、中卒の生産工程従事者(いわゆる単純労働者を想定)、高卒の生産工程従事者、高卒の専門・事務・管理従事者、大卒の専門・事務・管理従事者に分け、定住型、一時的といった12の外国人受け入れパターンを組み合わせました。

 それらと、高齢者や女性の労働力率が向上する5パターンを比較しました。ちなみに、外国人を受け入れる上での社会コストは調査には含めておりません。

 ―― 調査結果からどのようなことが言えるのでしょうか。

 木村 女性や高齢者の活用を進めると、いずれの産業においても潜在成長力が高まることが改めて分かりました。これは政府もこの方向で施策を打っており、全体においても女性や高齢者の労働環境を改善するべきとの合意はなされつつあると思います。

 では、意見が割れる外国人労働者の受け入れの効果についてです。

安易な安い労働力の受け入れは産業構造の転換を阻害する

 木村 こちらについては、どのような属性の外国人を、どのように、どれだけ、受け入れるかで、かなり効果が変化するという結果が出ました。

 効果的な受け入れ方法を取った場合には、国内での施策を取ったよりも効率的に成長率を高められる反面、受け入れ方法によっては成長率を高める効果が期待できず、基本パターンのマクロ成長率すら確保できない場合もありえます。

 ―― 単純労働者を産業(3)と(4)で2025年時点で500万人受け入れているパターンが、基本パターンに対するマクロ成長率のマイナス幅が最も大きいですね。

 木村 産業(3)と産業(4)は、現時点では生産性が低く、国際競争力の低いとされる産業分野とも言えます。こうした分野で外国人労働者を受け入れた場合には、その産業の成長力は高まります。

 しかし、一方で高生産性産業への労働力の移動が進まず、必要な産業構造の転換が進まない恐れがあるということを表しています。マクロで見た経済成長力はそれほど引き上げられず、場合によっては低下する懸念すらある。

縫製業の全行程を日本で続けるのか?

 木村 例えば、産業(3)に分類される業種の1つに縫製業があります。

 日本の縫製の現場は今ほとんど研修生や実務研修生を中心とした、短期の外国人労働力が欠かせなくなっているのが実態だと思います。食品加工や自営の農業など、高齢化が進み、人手不足で悩む産業も、多かれ少なかれ外国人に頼っています。

 ただ、縫製業の全工程をいつまでも先進国の日本で続けるのかという疑問も当然あるでしょう。人材が不足していく国としてそれが最適な資源配分なのか。例えば日本国内ではデザインだけをして、生産は海外に移転するというやり方もあるかもしれない。

 また、雇用情勢が逼迫していれば、雇用条件の改善が進みますが、安易に安い労働力として外国人を受け入れてしまえば、雇用条件の改善は起きません。外国人の単純労働者を安易に受け入れれば、こうした構造転換の芽をつぶしてしまう可能性があります。

 ―― 高い教育を受けた若い人材を、高生産産業で受け入れるパターンでは、高い成長率が出ました。

 木村 はい。高いスキルを持った国際人材を受け入れることで、成長分野の開花が促進される。構造転換が加速され、マクロの成長率も上昇することが期待できるということだと思います。

 受け入れ期間でも、研修生制度などの1~3年の短期間よりも、10年以上や永住を目的とした長期間の方が、より経済への効果も大きいという傾向が出ました。

高度な人材、日本を後回しにする傾向

 ―― 単純労働者は受け入れず、高度人材だけを受け入れるのがもっとも望ましいのですか。

 木村 そう簡単に結論を出せるものかは分かりません。

 経済への高い貢献度が期待できる高度人材は日本にはなかなか来てくれなくなっているという現実があります。

 IT(情報技術)技術者や、最先端科学の研究者などは世界的な人材争奪となっており、外国人全般に対して受け入れのハードルが高い日本はどうしても、選択肢の中では後回しになっています。

 一方で、高度ではない単純労働者は全く要らないのかといえば、それも違うかもしれません。

 例えば、外食、物流、介護などが分類される産業(4)のような、内需サービス産業です。経済的な要因だけでは純粋に語れない部分もあるでしょう。

 いわゆる3Kといわれる介護のような職業でも、例え労働条件が目に見えて改善しても、日本人が就きたがらなかったり、人手が足りないような場合も十分に考えられます。介護などは生活の根幹に関わるサービスです。

 これまで、研修生・技能実習生や日系人などの事実上の単純労働力に頼ってきたという現実もあります。

 ―― 調査をやってみて、どのように外国人を受け入れるのが良いと思いましたか。

 木村 最も重要だと思ったのは、日本が目指す産業構造とのバランスです。

日本が何をつくり、何を残すかの議論を

 木村 日本はこれから何を作って、何を国内に残すのか。どの産業を強化するのか。どうしても海外に移転できない産業は何か。そのベースの議論がまず、しっかりとなされなければなりません。

 その上で、現実として日本人がしたくない仕事、日本人だけでは回らない仕事というのも出てくるかもしれない。一方で、欲しい高度人材が来てくれるようになるための施策も必要です。長期的な産業構造の展望の元に、受け入れ方法を慎重に議論するべきでしょう。

 受け入れるならば、日本人と同じように扱われる人を増やすべきです。人件費などのコストは上昇しますが、もし外国人を受け入れるならば様々な産業でそれをやる必要があるでしょう。

 決して高い成長が見込めず、高い賃金で日本人を雇えないから、安い外国人を雇いたいという産業分野もあると思います。

 しかし、例えば、過疎化に悩む北海道のある町では、ホタテの水産加工品を料亭など向けに付加価値を高めた製品にして収益力を高め、雇っている外国人に対しても日本人と同様の賃金を払うことで、産業の維持と労働力の確保を進めています。

中・低成長の産業でも、ブランド化を進めるなど、高付加価値化を進めることで、日本人と同じ処遇で外国人を雇うこともできる。最初から低賃金労働者としての外国人活用に目を向けるのではなく、まずはこうした視点が重要になってくるのではないでしょうか。

若い人材が増えるということの魅力も

 木村 今回の結果では、受け入れ期間が長いほど、日本経済にとってもプラスの結果が生まれるという傾向が出たほかに、より若年層での受け入れのほうが比較的良い結果も出ました。50歳未満の外国人を受け入れた場合よりも、35歳未満を受け入れた場合のほうが、マクロの成長率も高かったのです。

 日本の問題は人口減だけでなく、その高齢化にもあります。若いということは、何人であろうと、大きな可能性になりうるということも議論するべきかもしれません。

 いずれにせよ、滞在期間が長くなれば受け入れ後の社会的なコストの検討も必要になる。幅広い観点からの検証がもっと行われ、その情報が国全体で共有されていくべきと感じました。




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 調査によると、2020~25年の基本パターンに対して高い成長率の改善が見られたのは、女性や高齢者などの活用を促すパターンで、マクロで0.09ポイントのプラス効果がある。産業(3)以外は基本パターンと比べて全産業分野でプラスの効果が出た。

 さらに、高齢者や女性の活用が進み、かつパートや非正規の賃金がフルタイム賃金に近づく労働環境が整えられると、改善幅は0.17ポイントと最も高くなる。

 また、雇用の流動化を進めるパターンでも一定の改善効果が見られる。転職しやすい環境など雇用の流動化を進めるパターンでは、マクロで0.06ポイントの改善が見られた。

 これに対して、外国人を受け入れた場合は、受け入れる産業分野、滞在期間などで、数値は大きく変わっている。

 女性や高齢者などの活用を促した場合に迫る近い良い結果が出たのは、大学を卒業している35歳未満の外国人を、日本人と同じ処遇で受け入れるパターンだ。外国人は永住など長期滞在を視野に入れている場合とする。マクロ成長率は0.06ポイント改善し、国内で雇用の流動化を進めるのと同じ効果が出る。

 一方で最も悪い結果が出たのは、35歳未満の外国人(学歴不問)をいわゆる単純労働者として、産業(3)と産業(4)だけに500万人受け入れたパターンだ。基本パターンに比べて、産業全体の成長率は0.87ポイント悪化する。産業(3)と産業(4)では17パターン中、最大級の改善幅が見られる一方で、高生産の産業(1)や(2)ではマイナス幅大きくなるという特徴が出た。

 なお、区分けはあくまでも2003年時点のもので、区分けそのものも適時、見直しが必要であると木村氏は指摘している。

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