市井の立場から政策を考える、タナカ(仮称)です。
海のものとも山のものともつかない提言と大好評の「やちよプロジェクト」、今回は海のお話です。海にお花畑を作りたいです。お花でなくてもいいです。微生物でもいいです。
なんのことでしょうか。近未来の食糧のお話です。
第1回にこんな図表を掲載しました。再掲します。
これは、食糧の増産が進んだ結果、世界の耕地は開発され尽くし、アマゾンでも耕地化しない限り、極端な作付面積増は期待できなかろうということを示唆します。逆に、アマゾンを耕地化してしまったらCO2(二酸化炭素)収支が大変なことになります。生物多様性も脅かされます。これは深刻なトレードオフです。
温暖化による耕作適地のシフトなども考えると、状況は一層厳しいです。
石油頼みの農業が終焉したら・・・
そして、人口はこれからもまだ増え続けるそうです。これも再掲データで恐縮です。
画像のクリックで拡大表示
よく温暖化対策目標で使われる2050年には90億人超と、今の5割増しの人口が想定されています。
ヒト1人が食べる量は、そうそう違いませんので、世界の食糧需要は今より5割増えると考えられます。
需給は明らかに崩壊します。どれだけ不足するでしょう。
詰めが甘いと好評の、ざっくりとした計算をまた行ってみましょう。
まず現状で一応、穀物生産は足りていると仮定します(本当は食糧が偏在することで、飽食と飢餓が並存していますが)。
世界の穀物生産量は20億トンくらい(出所:国際連合食糧農業機関=FAOSTAT)。
ここから単純に5割需要が増えるとすると、10億トンくらいが足りなくなります。合計の必要穀物は30億トンくらいです。
最初の図をみると、農業の単位面積当たり生産性は1960年頃から比べて2.5倍くらいに向上していますが、これはトラクターを使い、化学肥料を使い、改良された種苗を使う、いわゆる「緑の革命」の成果です。しかしながら、これは石油の大量消費で成り立っている農業です。単位収量は、石油文明の終焉とともに元に戻って、今の半分以下に低下する恐れがあるのではないでしょうか。
もし、単位収量が半減し、今の耕地面積がもう増えないとすると、世界全体の穀物収穫量は10億トンくらいに減ってしまいますから、不足する量は20億トンくらいになります。必要量の3分の1しか供給できない勘定です。
さらに問題なのは、食の「高度化」です。
食うに困っていた貧困地域が、おいしい食事を腹いっぱい食べられるようになるのは、とても良いことです。しかしながら、穀物食が肉食にシフトしていくと、ムダになるカロリー量は半端じゃありません。
動物は餌を食べて育ち、我々はそれを潰して肉にします。摂取カロリーが100%吸収されるわけではなく、食べられない部分(くちばしとか羽とか)を作るのにも摂取カロリーは使われます。そのためにカロリーのロスが生じ、結局、トウモロコシ換算で、鶏肉1キログラム作るのに4キログラム、豚肉なら7キログラム、牛肉ならなんと11キログラム! の飼料が必要になるのです。
出所:農林水産省「食料の未来を描く戦略会議」資料集
豊かになると肉を食べたくなります。おいしいし。それはそれで結構ですが、現状でも穀物の約半分は飼料に当てられています。人口が5割増え、石油文明が終焉するのとセットで、食の高度化が起こったら、いったい何が起こるでしょうか。
さらなる食糧不足です。
穀物の在庫は安全水準すれすれ
ほかにも、今は下火になっていますが、石油枯渇を見越してバイオディーゼル導入論が囃された時期がありました。実際にブラジルではバイオディーゼル車がある程度普及しています。バイオディーゼル燃料はトウモロコシなどを発酵させて作ります。
バイオ燃料は原料が食糧と直接競合しますから、ますます食糧不足が加速します。
こういうことをいろいろと考えると、不足する穀物の量は20億トンでは済まないでしょう。
実際に穀物需給はタイト化しています。安全在庫水準すれすれまで低下しました。
出所:農林水産省「食料の未来を描く戦略会議」資料集
先ほどから農林水産省のデータを多く引用していますが、別に、私は農水省の回し者ではありません。某証券会社の投資信託の企画担当者です。私の本業の周辺で見ると・・・。
投資資金は既にこれらを見越してコモディティ・マーケットに流れ込んでいます。
出所:農林水産省「食料の未来を描く戦略会議」資料集
市場価格や先物価格は、必要性に対する価格シグナルとして重要で、それを見て食糧増産投資が行われれば大歓迎です。なので、こうしたファンドの活躍には期待したいところです。
ところが一方で、世界の食糧供給力が増加しないまま、単に食糧価格が値上りしていくならば、貧困地域の窮乏化が加速してしまうのではないかと懸念されます。
ここまではずっと、穀物やカロリーのことばかり言って来ましたが、実はビタミンだって重要です。私は「好き嫌いしないで、野菜も食べなさい」といつも子供に言っています。健康状態の維持のためには、バランスの取れた食生活が重要で、カロリーと合わせてほかの栄養分も増産しなければなりません。それにも畑地が必要です。
この領域は価格弾力性の低い消費ですから、きちんとした供給さえ実現できれば、相当程度の利潤も見込むことができるでしょう。投資領域としても非常に有望です。
買えなければ売れないので、本質的な新規消費者である途上国の購買力向上プランとセットで、強力に推進する必要があります。途上国の購買力向上プランは、別に考えます。例えば植林提案の時の現地スタッフとしての雇用などですが、ほかにももっといろいろと考えられます。ここでは、食糧供給の側面に絞って考えましょう。
太陽エネルギーを極限まで利用
問題を解決するための具体的な解が必要です。
以上を総合すると、90億人分の食糧のうち、3分の2かそれ以上が供給不能になりそうなので、60億人分くらいの食糧を増産する必要があるようです。そして、それができれば儲かります。
だから、これをすべて日本が供給したら如何でしょうか。現在1億3000万人、2050年には8000万人くらいになりそうな国家が60億人分の食糧を生産するとすれば、7500%の食糧自給率になります。
そこでお約束の、素っ頓狂な政策提言の出番です。
政策提言1
世界の飢餓を救うため、日本は2050年までに食糧自給率7500%を目指す!
しかしながら、ここまで山の話ばっかりで、全然海の話じゃないじゃないかとお考えですか?
ソリューションが海にあるとしたら、どうでしょう。
政策提言2
微生物大量培養技術を確立せよ
政策提言3
洋上プラント技術を確立せよ
政策提言4
南洋のラグーンに洋上微生物工場を建造・運営せよ
これ、3点セットでの提案です。
想定している微生物は藻類で、例えばクロレラ、スピルリナ、ユーグレナといったところです。食物連鎖の最下位から最上位ないしそのすぐ下を直結することで、太陽エネルギーの利用効率を極限まで高めたいということです。
小さな培養器で高単価なものを細々と生産する話ではないので、大規模化と低コスト化のための技術革新が必要です。
まず第1段階として、国内の発電所、製鉄所などに微生物培養施設を併設します。廃熱と廃CO2を利用して食用藻類を培養します。ここで食用微生物培養の基礎技術を確立します。
また、プラントのカーボンニュートラル化に貢献します。これが実現すれば、海外から高い排出権を買わなくてもよくなるでしょう。
出所:マイクロリソース
上図は培養槽型の微生物生産の概念図です。マイクロリソース(神奈川県川崎市、貞松久人代表)は、タンク内で微生物を培養する技術を研究しているベンチャー企業です。今はまだ高単価の微生物を少量生産するビジネスモデルですが、こうした技術を大量廉価生産用にブラッシュアップすることが必要です。
この辺の開発はベンチャーファンドの資金でやれればいいだろうなと思います。ただ、普通に株式会社としてやってもいいし、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)や産業革新機構のようなところが手がけたり、開発型の「やちよファンド」でやったりしても構いません。それぞれ長短あるように思うので、具体的には検討が必要です。
ほかにも、野外での食用微生物培養技術を確立している会社があります。例えばユーグレナ(東京都文京区、出雲充社長)。ここも社是からして貧困地域の栄養改善を追及しているので、今回のお話に相性が合います。
研究機関のリソースにも良いものはあるでしょうし、国策として推進していく価値のある領域だと考えています。
海上都市が世界の食糧供給の拠点
ついで、南洋の海水温で培養できるように技術や種を開発・選別したいです。
政策提言3の「洋上プラント」は、メガフロートや半潜水型浮遊式海洋構造物(アクアポリスのようなもの)で構築します。アクアポリスは20年程度しか保たなかったので、もっと長い耐用年数が必要です。低コスト化と高耐久性を目指したイノベーションが必要です。
消波機として周辺に波力発電装置を装備します。太陽光、波力、風力などの複合発電設備を備え、独立してエネルギーの供給ができるようにします。また、プラントを運営する分以上にエネルギーが余れば、これを水素の形で貯蔵し、長期的にも余るようなら出荷するといいと思います。
一連の提言の具体的なイメージ図は、以下の通りです。
全体の発想は、連載2回目の「ファンドが創る世界」と同じです。
赤道直下の日照の多い海洋上に、メガフロートで口の字型の地面を作ります。
その真ん中にタンク型の微生物培養槽を並べて浮かべ、その中で食用微生物を大量培養します。タンクは上部から太陽光を受け、夜間は人工光を使って24時間培養します。
これを世界の食糧増産の拠点とします。目標はトウモロコシ換算で20億トン分以上の食糧生産です。主目的は飼料ですが、栄養バランスの良いものなので、栄養不良状態の貧困地域にも緊急避難的には出荷します。
私の家では、食用微生物を栄養補助食品として摂取していますが、おいしいものではないので、料理には使っていません。おいしい食べ方を開発できれば、先進国でも直接消費されるでしょう。そうすれば人類社会全体のエネルギー効率はさらに高まります。食用微生物のおいしい食べ方、大募集です。
海洋上にタンクを浮かべるのは、重量のあるタンクをメガフロートの躯体に乗せないためと、タンク内の温度を、海洋の安定した温度に維持するためです。内部にスクリュー状の羽を着ければ、波で揺れるごとにタンク内の攪拌効果も期待できます。このため、外縁に置く消波器は、凪すぎる時には停止させます。
また、個別に切り分け密閉したタンクで培養するので、コンタミネーション(汚染)のリスクが軽減されます。塩水で死滅する微生物に限って培養し、流出時の汚染リスクも抑えます。
エネルギーは、太陽光と波力の組み合わせで賄い、風力発電を補助用に置きます。台風の時には太陽光が見込めないので、その補助用です。このため、強風対応型の風車を置きます。
下図を見ると、風力発電では、夏と冬の両方で安定した発電量が期待できる適地が少ないですね。南洋はむしろ風が余りない地域のようです。
出所:NASA(アメリカ航空宇宙局)
夜は水素の形で保蔵したエネルギーを炊いて、24時間体制で生産を行います。
海没国家の危機を救う
設置場所は南洋の環礁内です。環礁内は波が多少は穏やかでしょう。洋上プラントの躯体にダメージを与えにくいと思います。でも、外洋型が可能ならば本来はその方がいいです。なぜならこのプラントは日光を遮ってしまうため、環礁内の海洋生態系にダメージを与えるからです。
ならばなぜ、そういう場所に設置することを考えているかというと、海没のリスクがある島嶼国家群の方々にこのプラント上に移住していただき、地元を離れることなく就業していただくためです。CO2対策が実って海水面が下がり、再び土地が戻ってくれば、すぐに目の先の故郷に帰れるようにするのです。なので、外洋型ができても、そう遠くない場所に設置するのが望ましいです。
これを擬似的に海没国家の国土とします。領海もそれを根拠に確保するべきです。
また、海上で暮らすのが困難な子供、高齢者などは移民として日本が受け入れればいいと思います。コミュニティや伝統文化を尊重した受け入れ態勢の整備が重要です。
この洋上プラントは「やちよファンド」化して運営することを考えています。
海没国家の環境難民対策も兼ねていますので、例えばメガフロートの建造費をODA(政府開発援助)に負担してもらえば、ファンドの収益性が上がり、建造しやすくなります。
これが、海の話です。
やったから「環境先進国」になった
さて、お前の提言は、なぜ日本ばかり視野に置いているのだ、という批判があります。なぜ国際協調でやらないんだ、と。また、本当に有望なものならなぜ外国が既にやっていないんだと。
スウェーデンが環境先進国と呼ばれているのは、いち早くそうしたことをしようと決めたからです。決める前から環境先進国だったわけではありません。
また、国際協調して環境先進国になることを決めたわけではありません。自分で決めて、勝手にやり、後から世界が評価したのです。国際協調を前提に始めたら、錯綜する利害の中で何がどうなったか分からない間に埋没してしまっていたのではないでしょうか。
誰もやっていなければ、自分がやればいいのです。日本がまず手を挙げてやれば、日本が環境先進国と呼ばれることでしょう(別に環境先進国と呼んでほしいから手がけるわけではありませんが)。
それを行うことが不可能な低ポテンシャルの国家であればまだしも、日本には技術も資本も、とりわけ人材があります。
始める前から「意思」で負けてしまってはいけません。
心に巨大なビジョンを描くことは自由です。
理想に向かい、距離を測るために、まずは玉を投げてみましょう。
傷が浅い程度に手掛けてみて、徐々にかつ大胆に規模を拡張していけばよいのです。
その過程で、必要な技術が洗い出され、経費の実情が洗い出され、コストダウンの到達目標が設定され、そして実現していくのです。
始めから万全の回答が与えられないと不満ですか?
そんなものはありません。
やってダメなら別の解を探しましょう。実際、藻類の大量培養は、バイオ燃料の原料として手掛け始めている向きもあります。特許の囲い込みなどで遅れを取ったら致命的です。さっさと手を着けないと。
様々な立場から走り始めている人がいます。せめて、その方々に拍手を送る勇気を持ちましょう。それは、未来の日本を豊かにするはずです。
次回は、政策提言というよりも、日本企業の問題点について妄言を吐いてみようと思います。国富倍増と言っても、実際に稼いで国富を形成するのは企業であり個人であって、国家ではありませんから。そこが伸びないと、私の給料も伸びません。それでは困ってしまいます。私利私欲の政策提言という観点からは看過できないのです。
海のものとも山のものともつかない提言と大好評の「やちよプロジェクト」、今回は海のお話です。海にお花畑を作りたいです。お花でなくてもいいです。微生物でもいいです。
なんのことでしょうか。近未来の食糧のお話です。
第1回にこんな図表を掲載しました。再掲します。
これは、食糧の増産が進んだ結果、世界の耕地は開発され尽くし、アマゾンでも耕地化しない限り、極端な作付面積増は期待できなかろうということを示唆します。逆に、アマゾンを耕地化してしまったらCO2(二酸化炭素)収支が大変なことになります。生物多様性も脅かされます。これは深刻なトレードオフです。
温暖化による耕作適地のシフトなども考えると、状況は一層厳しいです。
石油頼みの農業が終焉したら・・・
そして、人口はこれからもまだ増え続けるそうです。これも再掲データで恐縮です。
画像のクリックで拡大表示
よく温暖化対策目標で使われる2050年には90億人超と、今の5割増しの人口が想定されています。
ヒト1人が食べる量は、そうそう違いませんので、世界の食糧需要は今より5割増えると考えられます。
需給は明らかに崩壊します。どれだけ不足するでしょう。
詰めが甘いと好評の、ざっくりとした計算をまた行ってみましょう。
まず現状で一応、穀物生産は足りていると仮定します(本当は食糧が偏在することで、飽食と飢餓が並存していますが)。
世界の穀物生産量は20億トンくらい(出所:国際連合食糧農業機関=FAOSTAT)。
ここから単純に5割需要が増えるとすると、10億トンくらいが足りなくなります。合計の必要穀物は30億トンくらいです。
最初の図をみると、農業の単位面積当たり生産性は1960年頃から比べて2.5倍くらいに向上していますが、これはトラクターを使い、化学肥料を使い、改良された種苗を使う、いわゆる「緑の革命」の成果です。しかしながら、これは石油の大量消費で成り立っている農業です。単位収量は、石油文明の終焉とともに元に戻って、今の半分以下に低下する恐れがあるのではないでしょうか。
もし、単位収量が半減し、今の耕地面積がもう増えないとすると、世界全体の穀物収穫量は10億トンくらいに減ってしまいますから、不足する量は20億トンくらいになります。必要量の3分の1しか供給できない勘定です。
さらに問題なのは、食の「高度化」です。
食うに困っていた貧困地域が、おいしい食事を腹いっぱい食べられるようになるのは、とても良いことです。しかしながら、穀物食が肉食にシフトしていくと、ムダになるカロリー量は半端じゃありません。
動物は餌を食べて育ち、我々はそれを潰して肉にします。摂取カロリーが100%吸収されるわけではなく、食べられない部分(くちばしとか羽とか)を作るのにも摂取カロリーは使われます。そのためにカロリーのロスが生じ、結局、トウモロコシ換算で、鶏肉1キログラム作るのに4キログラム、豚肉なら7キログラム、牛肉ならなんと11キログラム! の飼料が必要になるのです。
出所:農林水産省「食料の未来を描く戦略会議」資料集
豊かになると肉を食べたくなります。おいしいし。それはそれで結構ですが、現状でも穀物の約半分は飼料に当てられています。人口が5割増え、石油文明が終焉するのとセットで、食の高度化が起こったら、いったい何が起こるでしょうか。
さらなる食糧不足です。
穀物の在庫は安全水準すれすれ
ほかにも、今は下火になっていますが、石油枯渇を見越してバイオディーゼル導入論が囃された時期がありました。実際にブラジルではバイオディーゼル車がある程度普及しています。バイオディーゼル燃料はトウモロコシなどを発酵させて作ります。
バイオ燃料は原料が食糧と直接競合しますから、ますます食糧不足が加速します。
こういうことをいろいろと考えると、不足する穀物の量は20億トンでは済まないでしょう。
実際に穀物需給はタイト化しています。安全在庫水準すれすれまで低下しました。
出所:農林水産省「食料の未来を描く戦略会議」資料集
先ほどから農林水産省のデータを多く引用していますが、別に、私は農水省の回し者ではありません。某証券会社の投資信託の企画担当者です。私の本業の周辺で見ると・・・。
投資資金は既にこれらを見越してコモディティ・マーケットに流れ込んでいます。
出所:農林水産省「食料の未来を描く戦略会議」資料集
市場価格や先物価格は、必要性に対する価格シグナルとして重要で、それを見て食糧増産投資が行われれば大歓迎です。なので、こうしたファンドの活躍には期待したいところです。
ところが一方で、世界の食糧供給力が増加しないまま、単に食糧価格が値上りしていくならば、貧困地域の窮乏化が加速してしまうのではないかと懸念されます。
ここまではずっと、穀物やカロリーのことばかり言って来ましたが、実はビタミンだって重要です。私は「好き嫌いしないで、野菜も食べなさい」といつも子供に言っています。健康状態の維持のためには、バランスの取れた食生活が重要で、カロリーと合わせてほかの栄養分も増産しなければなりません。それにも畑地が必要です。
この領域は価格弾力性の低い消費ですから、きちんとした供給さえ実現できれば、相当程度の利潤も見込むことができるでしょう。投資領域としても非常に有望です。
買えなければ売れないので、本質的な新規消費者である途上国の購買力向上プランとセットで、強力に推進する必要があります。途上国の購買力向上プランは、別に考えます。例えば植林提案の時の現地スタッフとしての雇用などですが、ほかにももっといろいろと考えられます。ここでは、食糧供給の側面に絞って考えましょう。
太陽エネルギーを極限まで利用
問題を解決するための具体的な解が必要です。
以上を総合すると、90億人分の食糧のうち、3分の2かそれ以上が供給不能になりそうなので、60億人分くらいの食糧を増産する必要があるようです。そして、それができれば儲かります。
だから、これをすべて日本が供給したら如何でしょうか。現在1億3000万人、2050年には8000万人くらいになりそうな国家が60億人分の食糧を生産するとすれば、7500%の食糧自給率になります。
そこでお約束の、素っ頓狂な政策提言の出番です。
政策提言1
世界の飢餓を救うため、日本は2050年までに食糧自給率7500%を目指す!
しかしながら、ここまで山の話ばっかりで、全然海の話じゃないじゃないかとお考えですか?
ソリューションが海にあるとしたら、どうでしょう。
政策提言2
微生物大量培養技術を確立せよ
政策提言3
洋上プラント技術を確立せよ
政策提言4
南洋のラグーンに洋上微生物工場を建造・運営せよ
これ、3点セットでの提案です。
想定している微生物は藻類で、例えばクロレラ、スピルリナ、ユーグレナといったところです。食物連鎖の最下位から最上位ないしそのすぐ下を直結することで、太陽エネルギーの利用効率を極限まで高めたいということです。
小さな培養器で高単価なものを細々と生産する話ではないので、大規模化と低コスト化のための技術革新が必要です。
まず第1段階として、国内の発電所、製鉄所などに微生物培養施設を併設します。廃熱と廃CO2を利用して食用藻類を培養します。ここで食用微生物培養の基礎技術を確立します。
また、プラントのカーボンニュートラル化に貢献します。これが実現すれば、海外から高い排出権を買わなくてもよくなるでしょう。
出所:マイクロリソース
上図は培養槽型の微生物生産の概念図です。マイクロリソース(神奈川県川崎市、貞松久人代表)は、タンク内で微生物を培養する技術を研究しているベンチャー企業です。今はまだ高単価の微生物を少量生産するビジネスモデルですが、こうした技術を大量廉価生産用にブラッシュアップすることが必要です。
この辺の開発はベンチャーファンドの資金でやれればいいだろうなと思います。ただ、普通に株式会社としてやってもいいし、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)や産業革新機構のようなところが手がけたり、開発型の「やちよファンド」でやったりしても構いません。それぞれ長短あるように思うので、具体的には検討が必要です。
ほかにも、野外での食用微生物培養技術を確立している会社があります。例えばユーグレナ(東京都文京区、出雲充社長)。ここも社是からして貧困地域の栄養改善を追及しているので、今回のお話に相性が合います。
研究機関のリソースにも良いものはあるでしょうし、国策として推進していく価値のある領域だと考えています。
海上都市が世界の食糧供給の拠点
ついで、南洋の海水温で培養できるように技術や種を開発・選別したいです。
政策提言3の「洋上プラント」は、メガフロートや半潜水型浮遊式海洋構造物(アクアポリスのようなもの)で構築します。アクアポリスは20年程度しか保たなかったので、もっと長い耐用年数が必要です。低コスト化と高耐久性を目指したイノベーションが必要です。
消波機として周辺に波力発電装置を装備します。太陽光、波力、風力などの複合発電設備を備え、独立してエネルギーの供給ができるようにします。また、プラントを運営する分以上にエネルギーが余れば、これを水素の形で貯蔵し、長期的にも余るようなら出荷するといいと思います。
一連の提言の具体的なイメージ図は、以下の通りです。
全体の発想は、連載2回目の「ファンドが創る世界」と同じです。
赤道直下の日照の多い海洋上に、メガフロートで口の字型の地面を作ります。
その真ん中にタンク型の微生物培養槽を並べて浮かべ、その中で食用微生物を大量培養します。タンクは上部から太陽光を受け、夜間は人工光を使って24時間培養します。
これを世界の食糧増産の拠点とします。目標はトウモロコシ換算で20億トン分以上の食糧生産です。主目的は飼料ですが、栄養バランスの良いものなので、栄養不良状態の貧困地域にも緊急避難的には出荷します。
私の家では、食用微生物を栄養補助食品として摂取していますが、おいしいものではないので、料理には使っていません。おいしい食べ方を開発できれば、先進国でも直接消費されるでしょう。そうすれば人類社会全体のエネルギー効率はさらに高まります。食用微生物のおいしい食べ方、大募集です。
海洋上にタンクを浮かべるのは、重量のあるタンクをメガフロートの躯体に乗せないためと、タンク内の温度を、海洋の安定した温度に維持するためです。内部にスクリュー状の羽を着ければ、波で揺れるごとにタンク内の攪拌効果も期待できます。このため、外縁に置く消波器は、凪すぎる時には停止させます。
また、個別に切り分け密閉したタンクで培養するので、コンタミネーション(汚染)のリスクが軽減されます。塩水で死滅する微生物に限って培養し、流出時の汚染リスクも抑えます。
エネルギーは、太陽光と波力の組み合わせで賄い、風力発電を補助用に置きます。台風の時には太陽光が見込めないので、その補助用です。このため、強風対応型の風車を置きます。
下図を見ると、風力発電では、夏と冬の両方で安定した発電量が期待できる適地が少ないですね。南洋はむしろ風が余りない地域のようです。
出所:NASA(アメリカ航空宇宙局)
夜は水素の形で保蔵したエネルギーを炊いて、24時間体制で生産を行います。
海没国家の危機を救う
設置場所は南洋の環礁内です。環礁内は波が多少は穏やかでしょう。洋上プラントの躯体にダメージを与えにくいと思います。でも、外洋型が可能ならば本来はその方がいいです。なぜならこのプラントは日光を遮ってしまうため、環礁内の海洋生態系にダメージを与えるからです。
ならばなぜ、そういう場所に設置することを考えているかというと、海没のリスクがある島嶼国家群の方々にこのプラント上に移住していただき、地元を離れることなく就業していただくためです。CO2対策が実って海水面が下がり、再び土地が戻ってくれば、すぐに目の先の故郷に帰れるようにするのです。なので、外洋型ができても、そう遠くない場所に設置するのが望ましいです。
これを擬似的に海没国家の国土とします。領海もそれを根拠に確保するべきです。
また、海上で暮らすのが困難な子供、高齢者などは移民として日本が受け入れればいいと思います。コミュニティや伝統文化を尊重した受け入れ態勢の整備が重要です。
この洋上プラントは「やちよファンド」化して運営することを考えています。
海没国家の環境難民対策も兼ねていますので、例えばメガフロートの建造費をODA(政府開発援助)に負担してもらえば、ファンドの収益性が上がり、建造しやすくなります。
これが、海の話です。
やったから「環境先進国」になった
さて、お前の提言は、なぜ日本ばかり視野に置いているのだ、という批判があります。なぜ国際協調でやらないんだ、と。また、本当に有望なものならなぜ外国が既にやっていないんだと。
スウェーデンが環境先進国と呼ばれているのは、いち早くそうしたことをしようと決めたからです。決める前から環境先進国だったわけではありません。
また、国際協調して環境先進国になることを決めたわけではありません。自分で決めて、勝手にやり、後から世界が評価したのです。国際協調を前提に始めたら、錯綜する利害の中で何がどうなったか分からない間に埋没してしまっていたのではないでしょうか。
誰もやっていなければ、自分がやればいいのです。日本がまず手を挙げてやれば、日本が環境先進国と呼ばれることでしょう(別に環境先進国と呼んでほしいから手がけるわけではありませんが)。
それを行うことが不可能な低ポテンシャルの国家であればまだしも、日本には技術も資本も、とりわけ人材があります。
始める前から「意思」で負けてしまってはいけません。
心に巨大なビジョンを描くことは自由です。
理想に向かい、距離を測るために、まずは玉を投げてみましょう。
傷が浅い程度に手掛けてみて、徐々にかつ大胆に規模を拡張していけばよいのです。
その過程で、必要な技術が洗い出され、経費の実情が洗い出され、コストダウンの到達目標が設定され、そして実現していくのです。
始めから万全の回答が与えられないと不満ですか?
そんなものはありません。
やってダメなら別の解を探しましょう。実際、藻類の大量培養は、バイオ燃料の原料として手掛け始めている向きもあります。特許の囲い込みなどで遅れを取ったら致命的です。さっさと手を着けないと。
様々な立場から走り始めている人がいます。せめて、その方々に拍手を送る勇気を持ちましょう。それは、未来の日本を豊かにするはずです。
次回は、政策提言というよりも、日本企業の問題点について妄言を吐いてみようと思います。国富倍増と言っても、実際に稼いで国富を形成するのは企業であり個人であって、国家ではありませんから。そこが伸びないと、私の給料も伸びません。それでは困ってしまいます。私利私欲の政策提言という観点からは看過できないのです。