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ドイツの苦悩―移民の失敗、繰り返さない

2012-02-16 | 問題!!
 スウェーデンと並び、欧州の中でも移民が多いことで知られるドイツ。1960年代、労働力不足を補うために、トルコなどから移民を受け入れた。しかし、40年後の今、当時の移民政策の失敗が残した後遺症に苦悩している。当初、期間限定で受け入れたはずの外国人労働者の多くがドイツに定住し、社会に溶け込めないまま、失業率の上昇など社会問題を引き起こしているのだ。

 一方、情報技術(IT)技術者など高度な技能を持つ人材は不足しており、高度技能人材の受け入れは拡大しなければならない。ドイツ内務省政務次官のオーレ・シュレーダー氏に聞いた。

(聞き手は大竹剛=日経ビジネス・ロンドン支局特派員)
 ―― まず、ドイツの移民政策の基本戦略を教えてください。


ドイツ内務省政務次官のオーレ・シュレーダー氏
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 シュレーダー そもそもドイツは、東西ドイツが一緒になった統合国家です。そのため、移民政策は、(移民を社会に溶け込ませる)統合政策と切り離して考えることはできません。

 こうした背景から、ドイツの移民政策は、社会が移民を受け入れられる限界を念頭に置きつつ、いかに移民を受け入れていくかに主眼を置いています。もちろん、不法移民の封じ込めも移民政策の狙いの1つです。

 ドイツでは、労働目的の移民の受け入れを、移民が持つ資格や技能に基づいて実施しています。一方、人道的な観点から、政治的な理由などから保護を求める難民の受け入れも実施しています。

 移民政策を注意深く実施すれば、人口減少による労働力不足、特に、高い技能を持つ労働者の不足に起因する悪影響を緩和できると考えています。

 経済と社会にプラス効果をもたらす移民を、いかに引き付けるか。そうした観点から、高度な技能を持つ人材にはドイツに移住することのインセンティブを作ることが狙いです。

資格や技能に基づき受け入れの可否を判断

 ―― 高度技能人材を引き付けるには、何が必要でしょうか。

 シュレーダー それには前提として、この国に魅力的な生活環境がなければなりません。

 例えば、技術者やほかの専門家がドイツで働きたいと思うような、優れたキャリアや高収入を得られる機会が必要でしょう。また、充実した医療・社会保障制度や良い学校、安心して暮らせる環境も重要です。

 そして、もう1つの要素が移民政策です。先ほど申し上げたように、ドイツでは移民が持つ資格や技能に基づいて受け入れの可否を判断する制度を導入しています。

 具体的には、移民が持つスキル、例えば、情報技術(IT)の専門家や教師、ドイツの大学を卒業した外国人、プロのスポーツ選手、そして特別な分野のシェフなどが、一時的な滞在許可証を取得できます。

 この滞在許可証は延長可能で、滞在期間が5年を過ぎると、永住許可証を取得できます。

高度技能労働者には、永住許可証も

 シュレーダー さらに、より高度な技能を持つ労働者、例えば、特別な技術的知識を持つ科学者や、地位の高い教授、他にも特別な専門職に従事した経験がある専門家や企業幹部などは、条件を満たせばドイツに入国した直後から永住許可証を取得できます。

 条件としては、具体的な就職先を確保としていることや、年収が6万4800ユーロ(約900万円、2009年1月から8万4600ユーロから引き下げられた)以上あることが必要です。

 ―― 政府が必要な人材の条件を定め、経済と社会にプラス効果のある移民だけを受け入れることが本当に可能でしょうか。

シュレーダー そのような移民だけを受け入れる有効な手段があれば、ほとんどの国が似たような移民政策を実施していることでしょう。しかし、現実にはそうなっていません。すべての国が、自国のニーズを満たすにはどのような方法がよいか、探し出そうとしているのです。

 ―― ドイツは1960年代、労働力不足を補うためにトルコなどから期間限定で移民を受け入れようとしました。しかし、結果的には、移民の流入を制御できなくなったという苦い経験があります。

 シュレーダー 1960年代の移民政策は、期間限定で労働者を受け入れようとしました。一定期間働いたら祖国に帰し、その代わりに他の労働者を採用するという、いわゆる“ローテーション原則”と呼ばれるものです。

 しかし、結果的に、非常に多数の外国人労働者がドイツに定住することになった。これには、労働者側と企業側の両方に理由がありました。

祖国に帰る代わりに家族をドイツに呼び寄せた

 シュレーダー 企業側は、経験を積んだ労働者を手放したくなかった。一方、外国人労働者は次第にドイツを“祖国”と考えるようになり、祖国より生活インフラが整い給料も高いというドイツでの生活を享受し続けたいと思ったのです。

 この制度は1973年に終了しましたが、それが逆に、多くの外国人労働者にドイツに残ることを選ばせることになったのでしょう。一度祖国に帰ってしまうと、もうドイツに戻ってくることができなくなるからです。

 その結果、多くの外国人労働者が、本人が祖国に帰る代わりに家族をドイツに呼び寄せたわけです。

 私たちは、当時の移民政策には、移民を社会に統合するという観点で欠点があったと認識しています。一時的に労働者を輸入するという当時の統合政策は、場当たり主義と言ってもよいものでした。

2世、3世がドイツ社会に溶け込めず

 シュレーダー 当時の移民政策が限定的な成功しか納めなかったということは、現在、特定の地域で、例えば移民2世や移民3世がドイツ社会に十分に統合されていないという事実に如実に表れています。

 この教訓を踏まえ、連邦政府は現在、移民がドイツ語を学べるコースを提供しているほか、(移民の中で多くを占めるイスラム教徒との相互理解を深めることを目的とした)「ドイツ・イスラム会議」を立ち上げるなど、国を挙げて統合政策を推進しています。

 これは、移民がドイツ社会に参加することを手助けし、自らをドイツ社会の一員だと認識してもらうための重要な取り組みです。

 ―― 既に、ドイツ人と移民の間では、失業率などで大きな格差が生まれています。こうした格差を、統合政策によってどのように埋めていくのですか。

 シュレーダー 移民の統合は、連邦政府の政策における優先課題の1つです。

 2007年夏、連邦政府は400以上の具体的な対策を盛り込んだ「国民統合計画」を採択しました。

統合政策の目的は、異なる文化、宗教、言語を持ってドイツに移住してくる人たちが、ドイツ社会の中で居場所を見つけることを手助けするものです。

 その中で、ドイツ語の習得は最も重要です。連邦政府が提供する統合コースは、長期的にドイツに住む可能性のあるすべての移民に、十分なドイツ語を話す能力を獲得し、ドイツでの生活に慣れる機会を提供します。

 同時に、既にドイツに居住している(2世などを含む)移民の語学力を向上させる必要もあります。

外国人の失業率はドイツ人の約2倍ある

 シュレーダー このコースへの参加は、新たに入国してくるほとんどの移民に義務付けられています。社会保障手当を受けている人も、基本的に同様にこのコースに参加することが求められます。社会保障手当を受給している人は、職業訓練を利用することもできます。これは、参加者を労働市場に再統合することを狙っています。

 多くの移民は、学校で、大学で、職場で、上手く社会に馴染んでいます。しかし、その一方で、社会で居場所を見つけるのに苦労している人もいる。特に、トルコ系移民の2世や3世にこうした傾向が強い。実際、こうした状況は統計数字にも表れています。例えば、外国人の失業率はドイツ人の約2倍もあります。

 移民が抱えている社会的な背景は、しばしば失業率の高さや教育レベルの低さなどの原因になります。それは、特にトルコ系移民に見られる特徴です。

 一方、教育レベルや文化的な要素が、社会に上手く溶け込めるかどうかに影響してくる。例えば、東ドイツ時代に期間労働者としてやってきたベトナムからの移民は、一般的に教育レベルは低いですが、子供の5割はギムナジウム(日本の中高一貫校に相当)に通っており、その割合はドイツ人より高い。

 こうした事情があるため、ドイツにおいて統合政策は将来に渡り、中心的な課題であり続けるでしょう。連邦政府としては、統合政策を充実させることで、移民を労働市場に送り出し、教育機会を改善することに力を注ぎ、現在、私たちが抱えている社会の亀裂を埋めていきます。

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