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原発不稼働の危機に、メタンハイドレートは救世主になりうるか

2012-02-19 | 資源・エネルギー
 2月9日、自民党に資源確保戦略プロジェクトチームが立ち上がり、私が座長を務めることになった。

 プロジェクトチームが立ち上がったそもそものきっかけは、民主党が東日本大震災の復興財源を確保するため、エネルギー特別会計が保有する、国際石油開発帝石と、石油資源開発という2つの上場会社の株を売却対象に挙げたことにある。
 旧石油公団の民営化で、石油公団の事業は国際石油開発と石油資源開発に移管、石油資源開発は2003年、国際石油開発は翌2004年に上場している。
 国際石油開発の方はその後帝国石油と合併、エネルギー特別会計が29.3%を保有している。もう1社の石油資源開発は34%をエネルギー特会、4.9%を国際石油開発帝石が保有している。

 単にこの2社の株式の放出をどうこう言うのが、プロジェクトチーム発足の目的ではもちろんない。一向に明確なエネルギー戦略の青写真を描けない民主党に代わり、自民党としての考え方を打ち出そうというのがその目的である。

 国内で稼働中の原子力発電所は、1月末時点で3基。この3基も今年4月末までに全て止まると見られる。天然ガスは震災前までは、エネルギーの国内供給量の2割弱を担う存在だったが、原発の停止でその比重は急速に高まっている。

 その中で、資源国から液化天然ガスを購入せざるを得ない我が国にとって、日本近海に多く埋蔵しているメタンハイドレートの開発、実用化は前倒しで進めるべき状況にある。

世界初の商業実験に辿り着いたメタンハイドレート

 メタンハイドレートは化石燃料の一種だが、二酸化炭素排出量は石油、石炭の半分と言われる。超低温、超高圧の条件下で安定している氷状の物質で、液体ではない。基本的に海底に分布し、地上では永久凍土の中に希に存在する。
 水分子でできたカゴの真ん中にメタン分子が入っているような物質で、燃やして分解するとメタンガスが出るので、これを有効利用できないか、というわけだ。


出所:JOGMEC

出所:JOGMEC
 日本は石油資源には恵まれなかったが、メタンハイドレートに関しては、日本近海は世界有数の埋蔵地域だ。

 東海沖から熊野灘にかけての東部南海トラフは最も調査が進んでいる場所で、経済産業省はここをモデルケースとして調査、研究を進めてきた。
 この東部南海トラフのうち、全体の6分の1にあたる調査対象海域だけでも約1.1兆立方メートルのメタンガスに相当するメタンハイドレートが埋まっていることが分かっている。この量は2005年時点での日本の年間ガス消費量の約13.5年分に相当する。


メタンハイドレートの可能性については、2001年度の小泉政権下でその東海沖~熊野灘で3D物理探査と基礎ボーリングが行われており、2005年5月にプロジェクトの中間評価報告が行われた。当時、私は国会議員になったばかりで、経済産業省の政務官を仰せつかった直後だった。
 そして、翌2006年に第3次小泉内閣が打ち出した新国家エネルギー戦略策定に、私は二階俊樹経済産業大臣(当時)のもとで参画をしている。それだけに、私はこのテーマに対する強い思い入れがあるのだ。

 この2006年の新国家エネルギー戦略では、石油・天然ガスの自主開発比率を4割に引き上げることを掲げている。日本は歴史的に資源国に外交交渉のカードを握られてきた。日本近海に多く埋蔵するメタンハイドレートは、エネルギーの自主開発比率向上のカギになる。

 メタンハイドレートの開発は、2001年度から進められてきたフェーズ1で分布状況と埋蔵量の調査が行われ、2009年度からはフェーズ2に移行し、メタンハイドレートを天然ガスとして取り出す技術の開発が進められてきた。
 そしていよいよ、実際に井戸を掘って、海洋でメタンハイドレートから天然ガスを産出する、商業化に向けた実証実験が、世界で初めて行われることになったのだ。

世界最高水準の能力誇る「ちきゅう」

 この海洋産出試験の事業主体は経済産業省。実際に実施主体となるのは経産省管轄の独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(略称JOGMEC)。オペレーターを務めるのは、今まさに政府から経産省保有の株を売られそうになっている石油資源開発(略称JAPEX)。井戸を掘る作業に使われるのは、独立行政法人地球深部探査センター(略称JAMSTEC)所有の地球探査船「ちきゅう」である。


写真:地球深部探査船「ちきゅう」パンフレットより
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 2月12日の清水港出港に先立つ2月10日、私は「ちきゅう」を視察させてもらう機会をいただいた。民主党からは牧野聖修経済産業省副大臣が参加し、自民党からは私である。


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 間近で見ると、「ちきゅう」はとにかく巨大な船だ。全長は210メートルと新幹線8両分。横幅は38メートルあり、これはフットサルコートなみ。船体中央にそびえ立つ、櫓状の建造物が採掘に使う掘削機器で、一番上のデッキの高さは実に海面120メートル。船底からの高さはトータル130メートルにもなる。30階建てのビルに相当し、イージス艦より高い。

 世界で唯一、地表から1万メートルの地中にある地球内マントルを掘れる能力を持ち、船内にはCTスキャン付きの研究室もあるので、掘り出した物質をCTで解析できる。探査船としては世界最高水準の船を我が国は持っているのである。

 今回掘るのは渥美半島沖70キロメートル地点。海底の深さ自体が1000メートルとかなり深い。2月12日に出発し、40日間で4本の井戸を掘る。

 最初に着手するのは、図3の右から2本目の井戸。モニタリング用に掘る。メタンハイドレートが大量に埋まっている層を「濃集帯」と呼ぶのだが、この「濃集帯」は、海底面から概ね260~330メートルの地点にある。右から2本めの井戸はこの濃集帯の下まで貫通させ、海底面から370メートルくらい下まで到達する。

 次は図3の一番右の井戸で、これが実際に試験生産するためのものだ。既に濃集帯のすぐ上のところまでは、昨年までに掘ってあるので、今回は濃集帯の中まで掘り下げる。あくまでメタンハイドレートを取り出すことが目的だから、濃集帯の下まで貫通させることはない。

 その次に図3で左から2本目、最後に一番左の井戸を掘る。この2本はモニタリング用だ。この2本を含む、3本のモニタリング用の井戸を使い、温度、圧力、音波速度などを測定する。

 ここでの検証結果をもとに、実際の生産に挑むのは来年の1月からになる。


右から恩田裕治「ちきゅう」船長、私、ちきゅうの乗組員、鈴木孔・JOGMEC理事、平朝彦・海洋研究開発機構理事
課題はコストと輸送手段

 1時間ほど船内を見学させてもらったあと、資源エネルギー庁の課長、ちきゅうの恩田船長、JAPEX、JAMSTECの幹部とディスカッションした。

 やはり最大の課題はコストだ。現在の日本の液化天然ガスの輸入価格は100万BTUあたり16ドル。BTUというのは液化天然ガスのエネルギー量を表現する際、国際標準で使用されている単位で、1BTUが大体252~253カロリーである。今後、この液化天然ガスの価格は上昇が見込まれるのは間違いない。
 とは言え、数年前にベストのシナリオを前提にして試算した、国産のメタンハイドレートの生産コストは、100万BTUあたりおよそ40ドルにもなり、まだ差は開いている。


 また、井戸からのパイプラインをどうするかも課題の1つ。この近辺には静岡ガス、中部ガス、中部電力が東海地区にパイプラインを持っており、陸上はこれらを活用することができる見込みだ。ただし、近隣には、焼津港をはじめとする漁港がある。沖合の井戸から岸までは70キロメートルなので、パイプラインを新設することが考えられるが、実際に敷設するためには漁業関係者との調整は不可欠だ。

 JAPEXは1990年以降、新潟県の磐舟で、新潟港まで海底から1メートル下に埋める形でパイプラインを引いている。このように海底埋設にするにしても漁業関係者との調整が必要となる。

 ところで、他のプロジェクトの探査中の話ではあるが、「ちきゅう」は興味深い微生物を発見している。

 「アーケア」という微生物の1種で、海底600メートル、水温100~120度という、極限環境で生育している。酸素のかわりに硫黄を使って呼吸するそうだ。炭酸化水素を食べて、メタンを生成するので、海底ガス田採掘跡でこうしたアーケアを培養したりできないか、などといった夢も膨らむ。

 話をメタンハイドレートに戻そう。まだ東部南海トラフほど調査研究は進んでいないが、メタンハイドレートは日本海側の方が高純度のものが埋まっているとの説もある。

 いずれにしても、他国にエネルギーという交渉カードを握られることなく、日本が自立するためには、資源確保は喫緊の課題であることは間違いない。メタンハイドレートはその課題解決の突破口になる可能性を十分に持っているのである。

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