かかりつけのお坊さん 奮闘編

転勤も定年もリストラもない、失うものは何もない最強な坊主が日頃の“感謝”を言葉にこめて、日常を綴ります。

無名の人たち

2014-04-13 17:59:02 | 日記
▶路上の吸い殻が多くなると、春も本番だと、父は言う。
84歳になる老父は、門前の掃除を毎朝の日課にしている。
門前といっても半端ではない。
ちょうど最寄りの交差点から目一杯、幅百メートルのアスファルトを舐めるように掃く。
繁華街が多く、あたりにも深夜営業の店が増え、朝7時前の路上は「宴の後」の状態だ。

▶たまに私も手伝う。
これだけ喫煙人口が減っているというのに、何と日本の喫煙者のマナーの悪さだろう。
ものすごい吸い殻の量。
呑み捨ての缶飲料、食べ残したコンビニ弁当、カップラーメンの汁が手にかかる。
私はイラッとするが、父は黙々と1時間の行を二十数年以上続けておるのである。

▶捨て置かれたゴミには名前がない。
半分かじったままのチキンは誰のものかわからない。
しかし、それを無言で拾って、ゴミ掃除する人もいる。
父も無名だ。
日曜の朝、いつもよりゆっくり起きた街の人々は、いつもゴミダメの交差点がきれいなことに、小さな発見をするだろう。
でも、それが誰によって整えられたのか関心は払わない。

▶私が交差点の向こう側を掃いていると、知った顔の若い僧侶がやってきた。
平服である。
近場で呑んで朝帰り、というような人物ではない。
おはようございます。
眠そうな顔で挨拶してくれた。

▶いま、いのちの電話の帰りなんです。
/自殺の相談の? たいへんだね。電話はありましたか。
/はい、今日はかなり。
以前相談のあった人からも。
/どちらも名乗らないのでしょう。
/ええ、ま、声聞いたらわかりますけど。
でもお互いそこはふれずに。
/知らないけど、知っているんだ。
そうか。知らない人に支えられているんだね。
/ありがたいって向こうの人も言ってくださいます。
相談できるのはここだけだって。
それだからやっていけるのかな。
/お疲れさま。
早く帰って、寝なさいよ。

▶はい、と眠そうな顔に笑顔を浮かべて、彼は信号の向こうへと帰っていった。
その若い僧侶がなぜこの時間、この街を歩いているのか、もちろんだれも知るところではない。

▶ゴミと電話相談を一緒にしてはいけないが、でも、世界は無名の人たちの思いやりと支えあいで成り立っている。
かくも幅広く、かくも奥深く。
その無名の人のつつましさに、敬意を忘れてはならない。
ふと、そんなことを感じたのである。

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Face Bookに投稿されていた、秋田光彦さんのエッセイを

アップさせていただきました。

世界は無名の人たちの思いやりと支えあいで成り立っている。


広島ブログ
 
きょうも来てくださって、ありがとうございます

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