神
知的障害の息子を一人で育てている母親は、手遅れの乳がんだった。
「この子がおるやろ。そやから死ねんのよ。先生、助けて」
患者は彼にすがりついた。
しかし、がんはすでに肺に転移していて、救いようがなかった。
彼女は半年後に亡くなり、息子は施設に引き取られた。
夫のために尽くし、舅と姑を介護して、自分のことはいつも後まわしにしてきた女性は、胃がんだった。
手術をしたが、再発した。女性は力なく笑った。
「やっとこれから、ゆっくりできると思ってたのに」
21歳の青年は、肛門がんの末期で肺、脊椎、肝臓に転移し、あまりの激痛にモルヒネも効かず、麻酔薬さえ痛みのせいで効かなかった。
病室に呼吸のたびに呻き声が響く。
「痛い、苦しい、つらい、死なせて」
まじめに一生懸命生きている人が、何の落ち度もないのに、がんで死ぬ。
やっぱり神はいない、と彼は思った。(久坂部羊 「芥川症」より)
はたして、仏はどこにいるのか?
それとも、やっぱり神も仏もいないのか?
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