海と空

天は高く、海は深し

JR福知山線脱線事故から一ヶ月

2005年08月05日 | 宗教一般

必ずしも宗教に関する研究とは言えなくても、宗教的意識についての事実を示す論考や小論も掲載して行きたいと思います。まあ、軽い宗教的なエッセイ、評論とでも言うべき内容です。

 

最近起きた事故としては、上の写真に掲げたJR福知山線脱線事故が凄まじい。こうした事故を見聞して改めてわかることは、私たち現代人の生活が、実に危険と隣り合わせに存在しているということである。

この列車に乗車していた人たちも私たちと異なった特別の存在ではなく、違った点といえば、たまたまこの列車に乗り合わせたということだけである。事故に遭われた人が私たちに比べて特別に罪深かったとか、悪人だったためではない。平均的に見れば、私たちとまったく同じ普通の人々だったろう。あたかも市民の日常生活の一区画が突然そっくり切り取られたに等しい。

乗客たちも、まさかこの朝に、通勤や通学の途上で、自分たちの人生が断ち切られるなどとは夢にも思わなかっただろう。大学生などの若者も多く、本人も遺族もやりきれない悔しい思いをされていると思う。言葉が切れる。

現代の生活は確かに便利になった。しかし、この便利さが科学技術の上に成り立ち、現代の科学がまだ極めて未熟なものであることを、この事故は改めて再確認させる。そして、これまできわめて安全な交通機関だと思われていた鉄道が必ずしもそうではなかったこともわかった。また、被害者の方々の怒りや憎しみが、JR西日本という鉄道会社の安全管理の企業の体質や労務管理の問題に向けられ、新聞記者の鉄道会社に対する取材上での行き過ぎた感情移入や、鉄道従業員に対する嫌がらせなど民衆のバッシング騒ぎも取り沙汰されることもあった。日本国民一般の精神における理性の確立の未熟さも教えている。

 

確かに今回の事故は、鉄道会社の安全管理、労務管理上に問題に大きく影響されているようである。列車の乗務員の労務管理に関する情報をもれ聞いても、そこには何か旧大日本帝国陸軍の精神主義を彷彿させるようなものがある。企業の体質として、あるいは日本人の国民の体質としても、そうした弱点を克服して、人間性尊重と技術合理主義をいまだ確立しきれないでいるようである。先進的であるはずの現代の大企業においても、労務管理や人間関係の多くの部面で、相変わらずの旧態依然としたものが少なくないことをうかがわせる。科学技術の導入や変革に比べて、人間関係や労務管理、さらには世界観や価値観などの精神や人倫関係を規定する思想や宗教の導入や確立はそれほど容易ではないのだろう。現代企業が人間性尊重と技術合理主義を確立し定着するためにはまだ歳月が必要なのかも知れない。

 

現代の企業は、市場競争でぎりぎりの所まで追い詰められている面がある。市場の競争によって、消費者、利用者の利便が著しく向上することも確かである。旧国鉄の解体と再編は絶対的な必要として行われた。それに大きな意義のあったことは否定し得ない。しかし、その「効率化」の追求が、消費者や利用者の安全を犠牲にせざるを得ないというのであれば、本末転倒としか言いようがない。列車の運行の安全も、運転手の職人的な技術に依存する点が大きく、自動列車停止装置(ATS)などの機械装置による安全確保もまだ十分に行き届いていなかったようである。早急な改善が望まれる。

 

しかし、どんなに安全に配慮しても、神ならぬ人間には、完全を期することは永久に不可能かも知れない。私たちの世代にうちに完全な安全を期待するのは不可能であると考えたほうが合理的である。20年前の過去にも日本航空機が、群馬県多野郡上野村・御巣鷹の尾根に墜落する事故があった。そして今回も被災者の遺族、関係者が生きている間は、事故の痛みは決して風化することはない。

 

死は避けられない。それは突然やってくるかもしれない。それは運命次第、神様の思し召しひとつのところがある。だから私たちにできることは、人間としてできることには万全を尽くし、その上で、常に次のような覚悟をしておくことかも知れない。

「主人が真夜中に帰っても、夜明けに帰っても、目を覚ましているのを見られる僕たちは幸いである。このことをわきまえていなさい。家の主人は、泥棒がいつやって来るかを知っていたら、自分の家に押し入らせはしないだろう。あなた方も用意していなさい。人の子は思いがけないときに来るからである。」 (ルカ伝12章)

「何もかも物憂い。かってあったことは、これからもあり、かって起きたことは、これからも起きる。太陽の下、新しいものは何一つない。昔のことを心に留めるものはない。これから先にあることも、その後の世には誰も気にも留めない。」(伝道の書 第一章)

ニュース源

 

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