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遠い家への道のり (Reprise)

Bruce Springsteen & I

Keith Carradine/ Barbara Harris "It Don't Worry Me" from a movie: Nashville

2011-09-28 02:10:17 | Rock in Movies
食料価格で悩む人もいるけれど 私は気にしない
減税なんてきっと実現しないけれど 私は平気
経済はすっかり落ち込んでいるけれど 私は違う
私はとても前向きよ
私は自由でないと人は言うかもしれないけれど だから何だと言うの

私は気にしない 全然平気
私は自由でないと人は言うかもしれないけれど それが何なの

私は振り回されない 全然気にしない
私は自由でないと言われたって 何とも思わないわ

この汽車は乗せてくれないそうね だったらいいわ
誰も彼も相争っていたって 私は気に病んだりしないの
なぜって私の世界では人生は実に素敵なものだからよ
誰でも道で出会う浮浪者に聞いてみるといいわ
人生は一方通行かもしれないけれど 私はそれでも大丈夫

私は気にしない 全然平気
私は自由でないと人は言うかもしれないけれど それが何なの

私は振り回されない 全然気にしない
私は自由でないと言われたって 何とも思わないわ

ENGLISH


今日はとても久しぶりに映画のお話です。ロバート・アルトマン監督による『ナッシュビル』(1975)について書きたいと思いますが、記事の中では内容や結末についてもふれているので、これから映画をご覧になろうと思われている方は下のビデオも合わせてご注意ください。特に今日取り上げる部分は、私はこうなると全然知らないで観て、とても心を打たれたので、近いうちにご覧になられる方はぜひ、今は読まないでおいてください。

『ナッシュビル』という映画は、1975年に公開された古い作品だけれど、この夏から秋にかけて各地の劇場で少しだけ公開されています。1976年に日本で公開された時には全然人気が出なくて、すぐに打ち切りになってしまい、以降DVDなども発売されないままになっているとのことです。私はこれまでに何度かこちらでも書いたことがあるけれど、政治とエンターテイメント(或いは狭い意味での文化)が交差する時、どのようなものが見られるか、ということに興味があるので、『ナッシュビル』は1976年の大統領選挙が話の1つの軸であるということと、アメリカ音楽の聖地と言われるナッシュビルが舞台であるという2つの理由から劇場に足を運びました。私はアルトマンの映画を観るのはこれが初めてだったので、どういうものか期待も持つ術がなかったし、総勢24名の群像劇だと聞いて、顔と名前を覚えるのが大の苦手なのに私の脳容量が足りるか大いに心配だったけれど、とにかく素晴らしい圧倒される作品でした。3時間近い作品でありながら、最後の5分でそう思いました。それ以来、サウンドトラックを手に入れて、よく聴いています。曲はどれも出演した俳優達による自作自演だそうです。

今日取り上げた、"It Don't Worry Me"は劇中で、ロックバンド(と言ってもピーター・ポール&メアリーのような)のメンバーを演じたキース・キャラダインが書いたものです。サウンドトラックの1曲目は彼がこの曲を歌ったもの。でも、映画の中では、この曲は最後の5分で流れ、歌うのは、アルバカーキという名前の歌手志望の田舎娘を演じたバーバラ・ハリスでした。この場面がそれまで、淡々と続いてきた物語の流れを一手に引き受けて、救いようのないものは救いようがないままに、それでも生きる術を教えてくれる心を鷲掴みにするような本当に力強いものだったのです。映画の結末にこんなに力を与えられたのは久しぶりだというくらいに。

物語が展開する1976年というのは、先にも述べたようにアメリカ大統領選挙(現実にはニクソンの辞任で大統領になった共和党のジェラルド・フォードが再選を目指し、民主党のジミー・カーターに敗れるという結果になった選挙)の年であり、アメリカ建国200周年の年でした。本当なら愛国心が燃え上がって、国が共通の関心事を持ち、一致団結しても良いような年だったけれど、国民の態度は冷めきったものだったと言われています。そんな物憂い70年代半ばの空気をこの映画はとてもうまく描いていると思いました。1つ1つは社会全体にとってはそう大したことではないのだけれど、誰にとってもどうも物事が空回りしてばかりいる。スター歌手は故郷に着いた途端に倒れて入院してしまうし、病気の妻のためにわざわざLAから呼んだ姪は男遊びばかりしているし、本当に好きな女性は子持ちだし、黒人カントリー歌手として成功すると黒人から罵られるし、歌手デビューできる筈がストリップをさせられるし、奔走して計画した大統領候補のためのイベントは流血沙汰で水泡に帰してしまう…といった具合に。人生は理想なんていうものとは程遠く、ままならない。でもそれが人生だと言われたらそうなのかもしれない。そんな出口の無い人生を誰も彼もが抱えているのが70年代半ばだったのだ、という印象をこの映画は与えるのです。誰も大騒ぎはしないけれど、だからと言って幸せな訳じゃない。それを2時間半かけて描いているようでもあって、時々本当に退屈してしまったりもしたけれど、それだからこそ最後の5分は並々でない説得力がありました。"It Don't Worry Me"は、そうよ、人生はままならない、でもだから何だと言うの、という開き直りの歌だけれど、それがとても気持ちいい。不条理な銃撃は起こるのであり、その後にきちんとした説明なんてある訳がなく、納得なんてしようがないのだから。そして、「南部のアテネ」と呼ばれるナッシュビルのパルテノンで悲劇の後に人々を自然と合唱に巻き込むのは、ナッシュビルのいかなる名士でもなく、アルバカーキというニューメキシコ州の古い街の名前を持つ、どこからか夢を携えてやって来たまったく無名の女性なのです。それはまるで、策略や意図とは全く離れたところから、哀しみや世知辛さ、狂気に対して開き直ったり、無視するところから、進むべき道や強かさを人は見出し得ると言っているようでした。そして、物語の冒頭でナッシュビルの大御所男性カントリーシンガーが歌う白々しい建国200周年を祝う曲と対比させるように、最後に合衆国国旗が画面中央に据えられる中でアルバカーキと名も無い人々が歌う"It Don't Worry Me"は民主主義の本来の姿を思い出すことをも人にそれとなく促します。それは大物による援助だとか、形だけの伝統や愛国心だとか、保守だとかリベラルだとかいうことよりもっともっと根本的なものである筈だ、そしてそれは、このように自然な形で人々の中に息づいている筈だと。それを76年の大統領選挙の前にはっきりと伝えたという点で、この映画はとても気概があるし、良心の作品だと思います。

確かに長くて大衆受けのする作品ではないかもしれないけれど、特に私自身がこの映画を観た後だと、機会があったら観てみてください、と言うことができます。人生が2時間40分の映画だとしたら、恐らく2時間35分くらいは何ということもないまま、時々は楽しい歌が聴けたり、ちょっとしたドラマがあったり、割りと落ち込むことがあったりしてだらだらと進んでいくだけかもしれません。でも、5分くらいは胸を打たれ、目を瞠るくらいに、素晴らしいことがあるかもしれず、それは努力だとか才能だとかそんなこととも案外関係ないかもしれない。だからあんまり心配しないで、まあゆっくりしていったらどうでしょうか、という気持ちになるからです。





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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (スズ)
2011-10-05 01:04:45
ロバートアルトマンが大好きで
ナッシュビルだけがDVDもビデオも出てなくて
どうしても観たい作品で
公開されると予告編を観て
興奮したんですが
実際、時間がなくて…
未だ観てないです…。


でもこの記事を読んで
観ようと!
思ってるんですけど…

もう公開が終わってました…。

ぎゃふんです…。
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Unknown (asbury)
2011-10-06 14:11:47
スズさん
関東はもう公開が終わってしまったんですね…。場所も期間もとても限られていたから、なかなかスケジュールを合わせるのが難しかったのかなと思います。スズさんの感想がお聞きできなくて残念です。またたまには映画館でかけてくれるといいですね.。o○私も少なくとも字幕付きではもう暫く観られないんだな…と思うと寂しい気持ちです。
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Unknown (テアシ)
2016-05-11 12:10:13
この歌の日本語訳探していて、たどり着きました。参考になりました。ありがとうございます。

自分は、この歌をみんなが合唱しているときに、ベトナム帰還兵の人だけが背を向けて帰っちゃうシーンかなんかがあるのを見て、この合唱シーンは、現実的な痛みから目を反らして空疎なお祭り騒ぎでうさ晴らしする大衆を皮肉ってるのかなって考えてたので、こういうストレートな解釈もあるのだなと思いました。ベトナムでどんな悲惨で理不尽で耐え難いこと、どれほどの人が苦痛に喘いで死んでいったか、アルトマンの映画「マッシュ」で描かれたように、どれほどの手足がもぎ取られたかを想像すれば、ベトナム帰還兵の人は目の前の狂気から目を反らすことはできなかったのかなあって。 自分は、辛い事実、実際に現実にある痛みから目をそらして無関心になるのは、痛みを味わったことがなく、想像することも怒ることも面倒な幸せな人たちの欺瞞だと思いました。目の前で人が死んだのに、「気にしない」大衆に民主主義を語る資格はないと思いました。


違ったらすみません。
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Unknown (asbury)
2016-08-13 00:21:25
テアシさん
お返事が大変遅くなってしまってすみません。
この映画を観たのももうだいぶ前になってしまったので、お返事をするにはもういちど観直さなければいけないくらいですが…。私の方でもそういう解釈もあるのだな、と考えさせられました。

アルトマン監督の意図は私には全然分からないので、テアシさんのご解釈はそれでまったくもって構わないのではないでしょうか。彼がどう思ってあのシーンを描いたかはもしかすると調べるとどこかに書いてあるのかもしれません。でも、解釈に関してはテアシさんのコメントをいただいて、けっこう現実的な個人の信条と深く関わりがあるようにも思いました。テアシさんはとても真面目でまっすぐな方なんだろうなと感じます。
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