教会史における「新しい歌」 ー賛美と礼拝の歴史神学的考察ー

「新しい歌」がどのように生み出され、受け継がれ、また新たな歌を必要とする状況を生み出したかを歴史的に検証します。

本論② 新約時代における「新しい歌」 とルカの福音書の預言的賛美 <3>

2005-04-11 07:03:03 | 講義
3. ルカのイエスの誕生にまつわる四つの「新しい歌」の特質

◆新しい歌は、神の救済史的展開の中で新しく開かれる神の啓示や真理の新しい側面をその内容とする。ルカのイエスの誕生にまつわる四つの「新しい歌」もそうした内容を持っている。

(1) 神のあわれみという基調

①低い者が高くされ、貧しい者が豊かにされるという救い。それはイエスの公的活動開始における最初の宣言(4章18~19節)で再度強調される。他にも、16章19~31節、12章16~21節。また15章の三つのたとえは、失われた者に対する神の憐れみを示す、優れた事例と言える。単なる社会的次元にとどまらず、むしろ罪のもとにある人間をその悲惨から解放することを究極的な本質としている。
②女性に対する評価も神のあわれみに基づくものである。男性を中心とした当時の社会状況を考慮するならば異例とも思えるこうしたルカの執筆姿勢はすばらしい。

(2) 預言的賛美

①マリヤ、ザカリヤ、そしてシメオンの賛美には預言的特質がみられる。これから神がなされようとしておられる計画が歌われている。この預言的賛美は聖霊に導かれ、聖霊によって与えられたものである。
②万民、神のイスラエルのみならず、異邦人も含めた普遍的救いが預言される。

(3) 頌栄的賛美―御父、御子、御霊をたたえる歌―

①父なる神、御子(幼子)、そして聖霊なる神による新しい啓示が記されている。特にシメオンの賛美においては顕著である。後の三位一体なる神としての「父、御子、御霊」というまとまった形での賛美(頌栄)ではないが、間接的に、三位一体の神によって与えられた賛美といえる。ユダヤ教の神にはこうした三位一体の神としては信じられていない。従って、頌栄はキリスト教礼拝においてきわめて重要な賛美といえる。
②ルカは今始まろうとするイエスの生涯を、聖霊による新しい創造、神が約束したあがないの成就として提示する。そのためルカは、特に公的活動開始前のイエスと聖霊の関係を強調し(誕生、洗礼、試み)、イエスの活動の源を明らかにする。その活動を完成する十字架において、イエスが自らの霊を父に委ねるとき、それは聖霊の働きのもとで誕生したイエスの生涯を完結するのみでなく、その霊が再び父のもとから送られる新しい霊の時代を開始する。

(4) 語る賛美

①ルカ福音書に記されている新しい賛美は「歌った」という表現はなく、いずれも「言った」と記されている。
②キリストにある「神のストーリー」を語る賛美。新約聖書には他にもそうした賛歌の断片が多く見られる。

4. 新約聖書に散在する「新しい歌」の断片

(1) 神に対する賛美
 
①使徒の働き 4章24節~26節
②ローマ人への手紙 11章33節~36節
③コリント人への手紙第二 1章3節~4節
④エペソ人への手紙 1章3節
⑤コロサイ人への手紙 1章13節~14節
⑥ペテロの第一の手紙 1章3節~5節
⑦ヨハネの黙示録 4章 8節、11節

(2) キリストに対する賛美

①ピリピ人への手紙 2章6節~11節
②エペソ人への手紙 5章14節
③コロサイ人への手紙 1章15節~20節
④ヘブル人への手紙 1章3節
⑤テモテへの手紙第一 3章16節
⑥ヨハネの黙示録 5章10節

◆これらの「新しい歌」の断片を分析することによって、新しい啓示の内容がなんであるかを知ることができる。それは新しい時代に、神の真理の新しい啓示が、しばしば、歌の中にコンデンスされているからである。上記の聖句を手掛かりとして、新約聖書に見られる「新しい歌」の断片が、きわめてはっきりとした焦点をもっていることに気づかされる。確認してみよう !

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