教会史における「新しい歌」 ー賛美と礼拝の歴史神学的考察ー

「新しい歌」がどのように生み出され、受け継がれ、また新たな歌を必要とする状況を生み出したかを歴史的に検証します。

本論⑦ グレゴリオ聖歌と教会旋法 <2>

2005-04-22 13:51:58 | 講義
2. 教会旋法とその特色

◆教会旋法とはグレゴリオ聖歌の音階のことである。すなわち、根音に対してどんな音程関係にある音を旋律の音として用いているかという相対的な構造を指す。バロック以後の音楽の旋法には 長音階(ドレミファソラシド)と 短音階(ラシドレミファソラ)しかないが、グレゴリオ聖歌ではこの2つとは違う旋法が用いられていた。以下ドレミで階名、C,D,E,で音名をあらわすものとする)その旋法とは、以下の四つである。

① ドリア旋法(レミファソラシドレ)

◆「いわゆる短調(近代短旋法)に類似した旋法であるが、 導音のないことがその相違を明確にしている。」「これは、厳粛、優雅、つつましやか、控えめであるが、常に平穏、静寂の旋法である。観想の旋法、ともいわれるが、 とりわけ平安の旋法、という評言にふさわしいものである。」 (水嶋良雄著「グレゴリオ聖歌」)
◆教会旋法の中で最もスタンダードといえる旋法で、 落ち着いた安定感のある旋律を作る。「平安の旋法」 という表現はまさに的確といえるだろう。 その反面とりわけ際立った特徴もなく、やや平凡な 印象を受けることもある旋法である。

② フリギア旋法(ミファソラシドレミ)
  
◆「近代調性からもとも遠く隔てられた旋法ということが できよう。この旋法は和声学者をもっとも難渋せしめている。というのはほとんどの旋法がその終止音を『いわゆる主音』のごとく考えているのにもかかわらず、この旋法だけは そのように考えられないからである。」 「『天と地の間に浮かびながら停止する旋法』という(中略) 評言はそこからでている。」 「これは、甘美、神聖、恍惚、永遠の旋法である。」 (水嶋良雄著「グレゴリオ聖歌」より)
◆近代調性に最も結び付けにくいために、逆に最もグレゴリオ聖歌らしい印象を受ける旋法である。 終始フワフワしたような独特の甘美な旋律を生み出す。「ファ->ミ」という上方からの解決を特徴として持っており、この終止はバロック以降も「フリギア終止」としてその面影を残すことになる。

③ リディア旋法(ファソラシドレミファ)

◆「『諸音程の配列具合』および『基音の下が半音』という ことから、しばしば近代長調(長旋法)をしのばせる旋法である。 とはいえ、黄金時代のかつての作曲家たちは、 きわめて卓越した諸作品をこの中から作り出している。」 「本旋法による我々の古曲は、流麗、端然、確固たる特徴が あるとともに、軽妙敏速、快活さをあわせ持っている。 爽快、新鮮、すがすがしさを感じさせることもある。」 「各種の多様な感情表現に不足することのない旋法と いうことができよう。」 (水嶋良雄著「グレゴリオ聖歌」より)
◆引用にある通り、リディア旋法はグレゴリオ聖歌そのもの にとっては重要な旋法のひとつである。しかしルネサンス期の 音楽の中では、旋律的・和声的理由のために 大抵「シ」が「シ-フラット」に変化してしまったために 近代長音階(イオニア旋法)と全く同一になり、その個性は失われていくことになる。

④ ミクソリディア旋法(ソラシドレミファソ)

◆「充分な響きの旋法、大きくひろげられた音程の旋法、そして特にブールゴオル・デュクードレが評した<超長旋法>である。」「明快・熱烈・感動を表現する旋法、喜悦にみちた飛翔、熱狂的な飛躍、凱歌にふさわしい躍動的なものを表現しうる旋法であるが、Lauda Sion の旋法ということは以上の諸特徴のよき象徴である。」「またとりわけ低い諸音符においては、確信、荘厳にして断固たる確信を示すものであり、完全で申し分のない喜びの旋法、 要するに、充満、充全の旋法である。」(水嶋良雄著「グレゴリオ聖歌」)
◆基音の「ソ」に対し、その下の「ファ」および その上の「ラ-シ」がすべて全音の間隔で並んでいるために、非常に明るい開放的な旋律を生み出す。「超長旋法」とは名言といえよう。


◆1525年になって、この4つの旋法に エオリア旋法(現在の短音階)とイオニア旋法(現在の長音階) が加えられて全部で6つの教会旋法ができることになる。

⑤ エオリア旋法(ラシドレミファソラ)

 
⑥ イオニア旋法(ドレミファソラシド)

 

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