折れない

2016年03月30日 13時33分44秒 | マーロックの日記

                                                ゴロロロ  ・・・・・

                      ザヮザヮヮ  ――――

    ジャリ ・・・

雷の音・・・

遠い。

          パキッ

風で森がゆれてる。

雨は弱まっているようだけど、葉っぱから水粒がたくさん飛んでくる。

傘は畳んだ。

                  ガサ  ・・・

ニャッティラもいる。

水路の下の空洞から外に出る場所があるなら、メタボネコたちがこの辺にいるかもしれない。

それで、レトリバーとニャッティラも一緒に探してる。

あの2匹が、水路の下に落ちたのならだけど。

まだ、ネコの誘拐犯がいる可能性も無くなった訳ではないし、ガードさんは別荘に残っている。

レトリバーの鼻は信用しているけど、シャープネコがあの水路に入ったのを誰かが確認したわけではない。

ただ、黒猫が出て行った穴は別荘の裏庭につながっていた。

メタボネコが散歩していてそこから落ちたのは、十分に考えられる。

       ジャリ  ・・・

「・・・・」

耳を澄ませる。

                                        ザヮヮヮヮ  ・・・・・・

水の流れる音を探しているけど、木がざわざわする音が大きい。

水路から水が流れ込んでいるし、どこからか外に出ているかもしれない。

               ジャリ  ・・・・

コテージからは、だいぶ下った。

あの水路は別荘よりも下にあって、空洞はその下。

出入りできる場所があったとしても、海に近い場所だろうと思う。

意外と高い場所にあるかもしれないから、ノッポさんたちは山の中腹を探している。

斧さんとハットさんは私と一緒で、50mくらい離れて下っている。

私は真ん中。

はぐれないように、両方の光とペースを合わせている。

「ミャ~ゥ」

少し先を歩いているニャッティラが、こっち見た。

             ザッ

光が届かない・・・

                             ザァァァ       ン

                                                ザザァァ      ン

「・・・・」

海だ。

                 ―――

下を照らすと、少し崩れた土が落ちていく。

崖のぎりぎりまで木がある。

「ミャゥ」

ニャッティラも海を見てる。

           ――  サク

手で下がるように合図すると、指示に従った。

うっかり落ちるようなネコではないと思うけど、一応。

おや。

ライトの光が増えた。

ハットさんも崖に気付いて、辺りをみている様。

海は荒れてる。

この山は海に突き出た岬の先端。

・・・雨がしとしと降ってる。

まだ止んでない。

          ジャリ  ・・・

森の中をみると、光が近づいてくる。

斧さんがこっちに来る。

    カサ

コンパスをみる。

北西をもう少し探してみよう。

          ザク  ・・・

ハットさんのいる方に、向かう。

「ミャ~ゥ」

ニャッティラも来る。

お腹空いているだろうけど、手伝ってくれる。

木の根っこを踏む。

枝と違って折れない。

おなかすいた。

ごはんなにかな・・・・

              ジャリ  ・・・

                                    ザヮヮヮヮヮヮ    ・・・・・・・・

     ザク


とげ

2016年03月29日 13時06分02秒 | 黒猫のひとりごと

                                               ァァァァァァァ   ・・・・・・・

                        ――――

    ――  クゥ ♪

明るくなった・・・

天井のライトが点いたのである。

「広いね」

「うん」

         パタ

エレガントさん達が進む。

                        ――   トン

僕はリュックの上からおりる。

山の中に、小屋があった。

中は雨や風が来ないから、つめたくない。

                ・・・・

広い。

「ピィ♪」

ニャ

ノロマさんのリュックの横から、メジロが頭を出した。

「?」

コッソリ入り込んでいたみたい。

「キキ」

リスは、チワワのフードの中にいる。

男は斧さん達と一緒に、小屋に荷物を置いてすぐ出て行った。

メタボネコを探しに行ったよう。

レトリバーも一緒に行ったけど、チワワは小屋の中。

シャープさんも探しに行ったけど、シャープネコがいなかった。

              ギィィ  ・・・

後ろのドアが開く。

「点いた?」

「うん」

チーフさんが中みてる。

玄関で靴を脱ぐ小屋である。

「薪をもってくるよ」

「うん」

                                ・・・   パタン

中に入らずに、チーフさんは去った。

     ドサ

「・・・重たい」

                  ズズズ   ・・・

マッチョさんが置いていった大きなリュックを、バレッタさんが引きずってる。

     ト  ト  ・・・

僕も手伝うのだ。

               グィ

「ありがと」

「ニャ~」

押す。

              ズル ズル   ・・・・

     グィ

ニャ

止まった。

「開けよう」

「うん」

冷蔵庫まで運ばないみたい。

                     ――  トン

しゃがんだノロマさんの背中にのる。

                                 ジィィィ

大きなリュックが開く。

「・・・」

どきどき。

         ゴソ

中から袋。

野菜が入っている様。

「ニャ~」

僕は、大きなリュックに大きなマグロが入っていると思っていたのだ。

       ペチ

シッポでたたく。

「おなかすいた?」

「ニャ~」

斧さんが置いて行った方に、入っているのかな。

同じくらいの大きなリュックである。

                トン

床におりる。

バレッタさんたちは、食事を作るみたい。

              ――

      パチ

「♪」

バレッタさんが後ろから僕の背中をなでたから、シッポをあてる。

前足をみる。

ほこり。

「ニャ~」

床を掃除した方がいいよ。

                         

チワワが木のテーブルの足のにおいを確認してる。

         ――

浮かせた前足を動かす。

                      タ タ タ

リスがフードから出て、のぼる。

古い木のテーブル。

                     ――   ・・・・

ノロマさん達が、リュックから食べ物をテーブルの上に移動させている。

リスはその確認に行ったのだと思う。

         ト  ト

窓に行く。

ここは天井が高くて、2階の手すりもみえる。

きっと、2階は寝る部屋。

                      スルリ

窓枠にのる。

広さがあって、のりやすい。

   ――

「・・・」

小さな鉢に小さなサボテンがいる。

細長くて、窓の横。

窓をみる。

僕が映っている。

ガラスに近づくと、外が少しみえる。

     ――

鼻があたった。

「・・・」

つめたい・・・・

         ・・・ ♪    ――

                              ピィ ♪

                                               ザァァァァ   ―――


枝が短くなる

2016年03月28日 00時51分26秒 | マーロックの雑記

                        ゥゥゥゥゥゥ    ・・・・・・

                                                  ゴロロ  ・・・・

     ―――

森の奥がみえた・・・

空が光ったから。

            パキ

地面の小枝が折れた。

別荘の裏の山にいる。

上る途中にあるコテージに向かっている。

メタボネコたちが水路から落ちたかどうかはわからないけど、探す。

水路下の空洞がどうなっているのかわからないけど、あそこに通じる洞窟があるかもしれない。

なので3つに分かれて探す。

フワリさん達は別荘に残る。

私たちは山を探す。

マッチョさんたちは別荘近くを探し、雨が止めば水路の中からもう一度空洞を見に行く。

     ジャリ  ・・・

                                        ザァァァァァ  ・・・・・・

コテージまで食料を運ぶために、とりあえずマッチョさんは一緒に上ってる。

先頭のマッチョさんの後ろに、エレガントさんがいる。

レトリバーのひもを持っていて、一緒に歩いてる。

私は一番後ろにいる。

別荘にあったカバンを借りている。

       パキッ

また、枝が折れた。

ライトで照らすと、近くと遠くに光があたる。

                  ジャリ   ・・・

                                                      ――――

私たちの目は、毛様体筋で水晶体というレンズの厚みを変化させて焦点を調整する。

目に届く光は、まず角膜という透明の被膜を通る。

角膜は中央部が膨らむように曲がっているので、光は曲がって内側に集まる。

その光が動向を通って水晶体に向かう。

水晶体は瞳孔の内側にある透明な円盤で、中央が膨らむ凸レンズの形をしている。

ここでさらに光は曲がり、目の奥にある網膜に届く。

水晶体は細かな繊維で瞳孔の内側に吊られていて、その繊維が絶えず引っ張っているので中央のふくらみが平らになる。

この状態だと光はあまり曲がらなくて、遠くから来る光を網膜に集める。

水晶体を吊る繊維は、毛様体筋という環状の小さな筋肉につながっている。

毛様体筋が収縮すると、繊維がゆるんで水晶体のふくらみが大きくなる。

光がより曲がり、近くのものに焦点が合う。

画面などをみているときは、毛様体筋が収縮している。

眼球の前後の長さが少し増すと、毛様体筋を緩めても遠くからの光が網膜よりも手前に集まるようになる。

そうなると遠くのものがかすんで見えるようになる。

こうした近視の人は、世界的に増えている――近視には他の原因もあるけど、ほとんどはこのタイプ。

近視の人は、緑内障や白内障、網膜剥離や網膜変性などを発症するリスクが増す。

遺伝子を原因とする場合もあるけど、この数百年ではそれほど変化するわけではない。

なので、近年の近視の広まりは環境的な変化によるものだと思われる。

近くのものを見続けて作業する事は、近代化によって増えているだろう。

世界中の研究から、現在でも狩猟採集民や自給自足で過ごす農民には、あまり近視の人はいない――3%以下。

子供を対象にした調査では、週に2冊以上本を読む場合、そうでない子供の3倍近視になりやすい。

かつては、よく本を読む上流階級以外には、近視の人はほとんどいなかった。

近視になる仕組みは、まだわかっていない。

仮説として、例えば本を読むと長時間、毛様体筋が連続的に収縮している。

さらに別の筋肉が、眼球を内向きに回転させている――輻輳という。

これらの筋肉は眼球の外壁である強膜につながっているので、近くに焦点を合わせている間、眼球を押しつぶしていることになる。

この状態では内腔の圧力が増して、前後に長くなる。

マカクザルの眼球の奥にセンサーを埋め込んだ実験では、近くのものをみるときに空洞内の圧力が増すことは確認されている。

眼球の外壁がまだ固まっていない成長期の子供の方が、この影響は大きいと思われる。

大人になっても、極端に近くに焦点を合わせていると同じ事が起こる可能性はある――顕微鏡を何時間もみている人は、近視が進行する場合がある。

この仮説は古いものだけど、これでは説明できない場合もある――人で直接検証されたこともない。

別の研究では、読書量に関係なく、野外で過ごす時間が少ないほど近視になりやすいという結果だった――読書のメリットは非常に大きいので、近視を予防するなら読書量を減らすのではなく屋外で過ごす時間を長くする方がいいだろう。

読書など近くに焦点を合わせる時間の長さも関係はあるけど、それよりも多様な視覚刺激を受けない場合の方が影響が大きいのかもしれない。

サルの脳での視覚情報の処理を調べていた研究者達が、まぶたを閉じて開けなくする実験を行った。

この状態のサルは、眼球の前後径が長くなっていた――通常の21%も長くなっていた。

別の動物実験では、人為的に視界をぼやけさせると近視を引き起こす可能性があることが確認されている――理由はわからない。

様々な強度の光や多様な色の刺激が、正常な眼球の成長に必要なのかもしれない。

まだ研究されている段階で因果関係はわからないけど、偏った食生活や青年期の急激な成長なども原因として考えられている。

割合はずっと少なかったかもしれないけど、何千年も前から近視の人はいた。

現在はメガネやコンタクトレンズがあるので、近視の人も遠くに焦点を合わせることはできる。

近視の子供の方が、正視の子供よりもIQが高い可能性が高い。

様々な仮説があるけど、おそらく近視の子供はよく本を読んでいる場合が多いと思われる――遠くが見えにくいので、結果的に屋内で過ごす時間が長くなるのかもしれない。

ほとんどのIQ検査は読書量が多い方が高得点がとりやすいようにできているので、これは当然の結果かもしれない。

                                        ゥゥゥゥ    ・・・・・

私たち脊椎動物とタコなどの軟体動物、虫などの節足動物は、光で周囲を認識する目を持っている。

植物界に属するものの中でも、極僅かに光を感じる能力をもつものもある。

いずれも、光を感じるのにレチナール…C20H28Oという分子を使っている――好塩性細菌には、レチナールを使ってATPを作るものもいる。

レチナールは炭素の六員環から炭化水素の鎖が伸びた形で、鎖部分の炭素は単結合と二重結合が交互に連なっている。

このため鎖は自由に丸まることができず、六員環に尾のようにくっ付いている――炭素と炭素の二重結合…C=C結合は、強く結びついていてねじれる事が出来ない。

また、鎖の中の電子もゆるく拘束されるだけなので動きやすい――そのため、光があたるとエネルギーを吸収して配置を変え、そのエネルギーを留める。

レチナールの炭化水素鎖の端っこには、アルデヒド基…-CHO基が付いている――CHO基は、炭素に水素と、二重結合の酸素。

二重結合はねじれないので、C=Cの一方が違う向きで結合した分子は、その先の形が違う――こういった形の違う異性体は、幾何異性体と呼ぶ。

それぞれ、シス異性体とトランス異性体と呼ばれる――シスは同じ側、トランスは向こう側という言葉に由来する。

レチナールは、安定した状態ではシス-レチナールである。

              パキ

目には桿体と錐体がある。

-CHO基は反応性が高いので、レチナールは近くにいる分子と結合することができる。

桿体では、レチナールはオプシンというタンパクと結合してロドプシンとなる。

錐体では、レチナールは少し違う3種のオプシンと結合し、吸収する光の波長を変える――青、緑、赤で、青が最も感度が高く、次が緑、赤で、緑と赤は差はあまりなく、感度の波長もかなり重なっている。

レチナールは紫外光も吸収するけど、通常は角膜にある黄色の色素に邪魔されるため、私たちは紫外光を見ることはできない――白内障の治療者には、紫外光で見れる人もいる。

分子が光を吸収すると、電子の状態が変わる。

シス-レチナールの場合、炭素鎖の折れた部分の二重結合のうち、一つの電子対が離れる――つまり単結合になる。

すると、その先の部分が自由に動けるようになり鎖が回転してまっすぐになる。

離れていた電子はすぐに戻ってきて再び二重結合を作り、そのまま固定してしまう。

この状態はトランス-レチナールで、六員環に付いた尾がまっすぐ伸びた形――シス-レチナールは、尾の先が曲がってる。

このシスからトランスへの変化がレチナールに結合しているオプシンに影響を与え、神経細胞が電気信号を脳に送る。

トランス-レチナールはオプシンにぴったり合わないため、オプシンから離れる。

そのうちシス-レチナールに戻り、また近くのオプシンと結合する。

シス形は安定しているので、暗いところではトランス形になりにくい。

このため誤った信号をだしにくいので、目の目的には都合がいい。

視細胞の中で光に反応するのは、光の入ってくる方とは反対側の端にある平面状に折りたたまれた膜。

この折りたたまれて平行に並んだ膜に、ロドプシンがある。

レチナールの構造は植物の葉緑体に含まれるクロロフィルや血など、光を強く吸収する有機物に共通の特質になる。

この構造を持った物質を人は細胞の中で作ることが出来ない。

それで、よく似た構造のビタミンAを摂取する必要がある――イソプレン単位で構成された分子で、ビタミンAの端のOH基が-CHO基に置き換わったものがレチナール。

ビタミンA類のレチナールは、β-カロテンが2つに切れてできる――体内でビタミンに変わるものをプロビタミンという。

レチナールがアルコールデヒドロゲナーゼでレチノール…ビタミンA1に還元される――カロテンのトランス構造はそのまま残るので、レチナール、レチノールともにトランス型。

植物は、α、β、γ-カロテンやクリプトキサンチンを合成するけど、動物はしない――これらはカロテノイドで、体内でレチノールになる。

レチノールのプロビタミン源としては、緑黄色野菜がすぐれている――カロテンは疎水性で、脂肪を含む部分にも多い。

淡水魚の肝油には、3-デヒドロレチノール…ビタミンA2がある。

レチノールが欠乏すると上皮細胞がケラチン化し、目でこれが起こると眼球乾燥症…ドライアイになる――ケラチンは機械的耐久性の大きい化学反応しにくいタンパクで、外皮や角質では、細胞タンパクの85%を占める。

人と動物実験では、まず夜盲症がおこる――幼い動物では骨に異常が起き、成長が遅れる。

レチノールを過剰に摂取した場合、動物は余分な分を排泄できず、脂肪組織にたまる。

過剰な状態が長期間続くと、骨がもろくなり、嘔吐、衰弱、皮膚炎などが起きる。

―――錐体が色を感じるのだけど、3種類ある。

男性の約8%、女性の約0.5%の人が、色盲とか色覚異常と呼ばれる特徴を持っている。

このような人の多くは、3つの錐態の感度が違うだけで、ものを見るのに3色を使う。

少数だけど、2つの色だけで世界を認識している人もいる――錐体を持たない人もいる。

そのような人は、平均的な人が見分けられるある種の色を区別するのが困難になる。

鳥などは4種類あって、私たちよりも識別する能力が高い――5種類のもいるらしい。

そして、人にも4種類の錐体を持つ人がいる。

少なくとも女性の15%が、そのような遺伝子変異を持っている様――割合は専門家によって意見が違う。

4種類の人は、3種類で見る人が同じ色にみえるものを区別しているだろう―――

     ジャリ  ・・・

目はよく出来ていて、僅かな光でも情報を得れるようになっている。

その形はおおまかに楕円で、光は眼球を覆う角膜から入ってくる。

それから水晶体というレンズを通って、透明なゼリーであるガラス体を通り抜けて、光を感じる視細胞のある網膜に届く――水晶体と角膜の間には、透明な液体がある。

網膜はすべてが同じではなく、視野の中心に黄斑という部分があって、私たちが何かを注意して見るときそこが使われる。

黄班には錐体が集まっている。

その周りにも錐体は多いけど、桿体も少しある。

錐体と桿体の割合は黄班から離れるにしたがって逆転し、網膜の周囲では桿体が多くなる。

網膜内の細胞は大きく4種類あり、直接視細胞と結合するものもあるけど、水平に細胞同士が結合するものもある。

脳と目を結ぶ繊維は、胚発生の段階で脳の一部が飛び出して作られる――そのため脳に似ていて、得た情報を直接能には送らず、網膜である程度情報を要約する。

錐体は明るい場所でものを見るときによく働き、桿体は暗い場所でよく働く。

明るい所では桿体の感度は非常に低いけど、暗いところでは時間の経過にしたがって感度が上がる――暗さに目が慣れるのは、錐体と桿体が機能している状態から桿体だけでものを見る状態に移行する結果である。

非常に暗い場所ではものに色が無いけど、桿体でものを見ているから――視野の周辺には桿体が多いから、明るい場所でも視野の周辺でものを見ると色が判らない。

錐体は深い赤色…波長の長い光まで見る事が出来るけど、桿体はその波長域には反応しない。

しかし桿体は、錐体よりも青のスペクトル…短い波長の光によく反応する。

桿体は緑の光…約500nmへの感度が最も高く、錐体はそれより黄色側…約560nmにピークがある。

暗いところで色の付いた雑誌を眺めて、明るく見える所と暗く見える所を覚えておいてから、明るい所に雑誌を持っていく。

すると、明るい所と暗いところが逆転する。

そして暗いところでは桿体でものを見るから、まっすぐものを見ようとすると横で見るよりはっきりしない――黄班には桿体が無いから。

また網膜の周辺は動きに敏感に反応する――視野の端は普段ほとんど意識してないけど、そこに動く虫でもいれば、すぐに気付くことが出来る。

              パキ

視細胞は約1.25億あり、その情報は約300万の軸索に集められる。

軸索とは1本1本が絶縁されたケーブルで、神経ならどれでも同じようになっている。

この300万本の軸索は、網膜のひとつの細胞に集まってそこから脳に向かう――この束が視神経。

目に異常がなくても、脳の方に問題があると盲視と呼ばれる状態になる。

視細胞は光の入ってくる方とは逆を向いていて、軸索が光の来る表面を向いている。

これは脊椎動物の目に共通である。

軸索は脳に情報を送らないといけないから、網膜の表面を伝って、盲点と呼ばれる網膜上にあいた穴から裏側に潜る――盲点は、網膜上でも光を感じることが出来ない。

そこで視神経に合流して脳に繋がる。

タコの目は、人と同じような構造だけど視細胞が逆になってない――ちゃんと光の来る方に視細胞が向いていて、軸索は裏側にある。

タコの目の方がよくできている様に見えるけど、ニューロンの配線は無色なのでそれほど邪魔にはならない――光が受容体に真上からあたるように誘導する場合もある。

そしてロドプシンが、網膜色素上皮細胞に直接埋め込まれている。

血液が十分に供給されているので、高い代謝率に対応できる。

脳は体の2%ほどの重さだけど、酸素消費量は20%に達する。

網膜は1g辺りの酸素消費量が脳より多く、私たちの体で最も代謝率が高い。

タコの目では、この様な高い代謝率は維持できないと思わる――光の少ない海の中だから、その必要がないのだと思われる。

それ以外はよく似ていて、自然選択が別々に似た構造のものを進化させたことになる――収斂進化という。

―――むき出しの網膜は感度が非常に高い。

ただ、意味のある像は得られない。

像を結ぶためには、網膜に届く光を制限しなければいけない。

最も簡単な構造は、小さな穴をつくること――この様なピンホール眼は、オウムガイなどが持ってる。

小さな穴を通った光だけになるので、感度は下がる――長時間同じものを見ていればある程度の強度になり、そのようにしてほとんど暗闇でも視力を得るのもいる。

穴を大きくすれば多くの光が届くけど、色んな場所で反射した光が届くので像がぼやける――そのかわり、像は明るくなる。

私たちの目では、穴…瞳孔を広げたり狭くすることで光の量を調整できるようになっている――暗ければ広げ、明るければ狭める。

瞳孔の前にはレンズ…角膜があって、光を集める。

瞳孔の後ろにもレンズ…水晶体があって、さらに光を集める――焦点を結ぶのは角膜がほぼ行い、水晶体は遠近調節のための微調整を行う。

このため穴を大きくして多くの光を集めながら、小さな範囲に光を集めることができる――同じ大きさの目でレンズがあると、100倍の解像度と400倍の感度を得られる。

カメラや望遠鏡も同じ構造で、遠くを見る望遠鏡は僅かな光を集めるために大きくする必要がある――解像度は光の波長をレンズか穴の直径で割って、物体までの距離をかけると得られる。

光の回折…拡散による解像度の限界はあるけど、人の目はそこまで細かな識別はできない。

視細胞の間隔による制限があるためで、人の場合は視力1.0がほぼこれに相当する。

視細胞の間隔がもっと小さければ解像度は上がるけど、ワシなどは視細胞をたくさん詰めることでそれを達成している。

私たち人の目は昆虫よりも80倍の解像度を持っているけど、ワシはその4倍の解像度を持つ―――

             ジャリ

視細胞が反対を向いているため、神経を束にして盲点から網膜の裏に通し脳に送っている。

片目で下の●を見ると、盲点を確認できる。

右目で見るなら赤いを、左目で見るなら黄色いを見て、画面との距離を近づけたり遠ざけたりすると、どこかで反対側の●が見えない場所がある。

 

                                           

 

このようにすると盲点が分かるけど、普段は気にならない――もう片方の目が上手く補う。

片目で見ても盲点には気づかない。

脳が、盲点がないかのように情報を処理するから。

実際にそこにないものでも、脳の中で信号が出れば何かがあるように見える。

見えないものが見えるのは幻視という――幻覚のひとつ。

ある眼科医が、自分が手術した患者の継続調査をした。

患者への質問は、母国語の違う国から来ていた助手が行った。

その中に「像がゆがむか」という質問があったのだけど、助手が翻訳を間違えて「幻覚が見えるか」という質問になった。

助手のこの間違いが、結果として様々な幻覚証言を集めることになった。

その幻覚の多くは、何か不思議なものを見るというのではなくて日常的な風景である。

ある男性は、部屋を移動するたびに奥さんを見る――ただ、幻の奥さんは近づくと消える。

何もないところに巨大な建物が見えたり、人の群れが見えたりする人もいる。

ある女性は、冬、窓の外に見える草地を見ていた。

そこにはたくさんの牛がいて、女性はお昼過ぎからずっとそれを見ていた。

夜になっても牛がいるので、友人に「飼い主はひどいわね」と言った――夜になっても牛を外に出しているので。

けど友人は、1日中そこに牛はいなかったと言っている。

幻覚を見ている人は、多くは馬鹿にされるのがいやで隠している。

そういうものを見るのは目の手術のせいだと思っていたから、助手がそのことを聞いてくれてほっとした。

幻覚は視力障害の人が良く見るのだけど、彼らの視覚系は正常に働いている――なので普通の視力の人でも、幻覚を見ることはある。

脳は、直接外の様子を知ることはできない。

感覚器官からの情報をもとに、脳の中で再構築する。

その情報を読み間違えたり、自分で生み出した刺激を外からの情報だと勘違いすると幻覚を見る。

手足を切断した人が、まだそこに切断したはずの手足を感じる幻肢も幻覚である――手死を切断した6割の人が、幻肢を経験する。

事故にあって変に曲がった腕の感覚が、ずっと残る人もいる――鏡を使ったミラーハンド療法というのが、幻肢の解消に有効なようである。

          ジャリ

のどかな町並みや部屋の様子などをしばらく詳細に観察してから目を閉じて、今見た景色を思い浮かべてみる。

最初は強い印象を感じたものが見えるけど、細部に焦点を向けようとするとぼやけてあいまいになるはずである。

普通の人ならそうなる。

でも、中には写真を見るよに詳細に記憶する人がいる。

後から本棚の本の文字を読んだり、ビルにいくつ窓があったかを数えることができる。

このような鮮明なイメージ記憶は、幼いころはみんな持っている様――5歳の時点でも、半数くらいはその能力を持っているという研究もある。

直観像記憶というこの能力を、大人になって残している人がわずかだけどいる。

ある女性は、虐待する父親がいつも見える。

目を覚ますと父親が見ていて、居間に行けば自分のお気に入りのイスに座っている。

赤ん坊の顔に、父親の顔が重なったこともあるという――まだ父親は生きていたから、それが幽霊じゃないことは分かった。

またその女性は、部屋に一人でいると誰かの存在を感じる。

その誰かは自分に死んでほしいと思っていて、だから身の危険を感じる。

精神科医のモートン・シャッツマンは、彼女の前に電球を置いて脳の反応を調べた。

まず、普通に電球を点けると予想通りの反応を示した。

次に、女性に電球と自分の間に誰かがいることを想像してもらってから電球を点けた。

すると反応がなかった。

女性が想像した誰かが視界を遮ったらしい――自身の生み出す鮮明なイメージが、外界からの情報を切断したのである。

この実験で、女性は自分を脅かす誰かも、望まないのに現れる父親も、自分が生み出したイメージだと悟った。

それ以降、幻覚に苦しむことはなくなった様である。

幻覚を見ている時や頭の中で何かを想像している時と、本当に目で見ている時は、脳は同じ状態である――も。

それで推理するしかない――ありえそうもないような幻覚なら分かりやすいだろうけど。

普通は外からの刺激の方が活発になるニューロンが多い。

けれど自分で生み出した感覚が非常に強力であれば、幻覚を見る――外からの刺激と同じくらいたくさんニューロンが反応をすれば。

直観像記憶を持つ人は、簡単にその様な状態になる。

小さな子供が親には見えない誰かと遊んでいたら、それは本人にははっきり見えている友達なのだろう。

―――外からではない刺激が聴覚野に届くと、幻聴になる。

幻聴でよく起きるのが、人の声を聴くもの。

これは、自分の声であることが多い。

脳のどこかが発した言葉を、聴覚野が情報として処理すると聞こえる。

正常な状態なら、発話する部分を脳が監視しているから、自分の声と他人の声を混同することはない。

統合失調症の人はよく幻聴を経験する。

正常な脳でも、強いストレスや興奮状態にあるとそれを聞くことがある――死者の声や神のお告げは、幻聴だろうと思われる。

味やにおいにも幻覚はある。

体感の幻覚もある――腕に何かを感じたので見ると、何もないと言うような状態―――

                                           ザァァァァァ  ・・・・・・

            パキ

後頭葉にある視覚連合野には身体地図がある。

ここが混乱すると、自分の分身であるドッペルゲンガーを見ることがある――頭頂や感覚野の周辺を損傷しても。

昔から、自分の分身を見ると死の前兆だとして恐れられてきた――けど実際にそれを経験した人は冷静である場合が多い。

学校の先生を退職したある女性は、夫の葬儀の後に分身を見た。

寝室の扉を開けると、ぼんやりと女性が見えた――最初は、それが自分の分身だとは思わなかった。

こっちを見ていて、女性が右手で照明のスイッチに手を伸ばすと相手は左手をスイッチに伸ばした。

手と手が触れた場所から血液が吸い取られる様だったといい、自分の手はとても冷たくなったと感じた。

けど、驚きはしたけど怖くはなかったらしい。

見たことのない人が寝室に侵入しているのに、女性は帽子とコートを脱いだ。

すると、相手も同じ行動をとる。

この侵入者が自分の分身だとそこで気づき、血の気が引いて、急に疲れてベッドで横になった。

目を閉じると分身は消えて、体温と活力が戻ってきた――分身が自分の中に戻った様だったという。

その後も、分身は毎日あらわれた。

見えるだけじゃなくて、感覚も生まれた。

普通は2つの腕と2つの足を意識するけど、彼女はそれぞれ4本意識していた――自分自身が分かれた様な状態になった。

30代の男性エンジニアも、分身を見る。

彼の場合、目の前に顔だけの分身が現れて表情をまねる。

自分の分身だとは分かっているけど、頭に来るのでその男性は分身を殴る――分身は顔だけなので、殴り返してこないのである。

                                                   ゴロロ  ・・・・

進化的に古い脳である脳幹に、被蓋と言う部分がある。

そこに損傷を受けると奇妙な幻覚を見る――覚せい剤などもここが刺激される。

見る幻覚は様々だけど、大きさがでたらめな様――手のひらの上に人が乗ったりする。

この様な幻覚は、感情にはあまり影響を与えない――子供も、見えない友達にはそっけないらしい。

いつも幽霊を見ている人は、それが危害を加えないことを知っているので恐れない――皮質が幻覚を生み出すけど、恐怖などを生み出す大脳辺縁系はその影響を受けないため。

無意識の脳は幻覚が脅威でないことを知っており、幻覚だと認識していてもいなくても、あまり心を乱さない。

偏頭痛やてんかん、治療目的の薬などでも幻覚が生じる事がある。

幽霊を見るのは夜が多いけど、これは通常の感覚刺激が少なくなるから。

対抗する感覚刺激が減れば、脳の中で生み出された感覚が相対的に優位になる――このため、視覚や聴覚を損傷あるいは完全に失った人は、幻覚を経験する人が多い。

これは、脳が常に警戒態勢を維持するように進化したためだと思われる――捕捉者の危険を察知したり、獲物を狩るチャンスを逃さないために。

警戒しているのに外界からの刺激が急に減ると、脳がその代わりを探す。

かすかに聞こえた音や見えたものを、意味のあるものに作り上げるのである。

―――幻覚のパターンは、ある程度分かってきた。

目と1次視覚野…V1の何らかの障害で視力の一部を失うと、15%が幻覚を経験する――視覚野は後頭葉にあり、V1は全体像、V2は立体視、V3は深さと距離、V4は色、V5は運動、V6は位置を決める。

現実評価の左前頭葉を損傷すると、外からの刺激と自分で作った刺激を区別できなくなる。

頭頂葉の後ろの方を損傷すると、刺激失認にになる――2つのものを同時に見れなくなり、対象が現れたり消えたりする。

てんかん発作や薬物で側頭葉が刺激されると、強烈なフラッシュバックや実在感が起き、奇妙なものを見たりそれが変形したりする――大脳辺縁系を刺激すると、快感や神様などの宗教的なものを見る。

聴覚野と言語野を刺激すると、幻聴――聴覚野の上の方を刺激すると衝撃音やクリック音が聞こえるけど、これを意味のある音と捉えることもあり、ここが活発だと耳鳴りがする。

右半球の視覚野にある形態認知の部分が刺激されると、幽霊みたいなシルエットを見たりする。

V1の少し前側にある相貌認識の部分が過剰に活動すると、顔のイメージが消えなくなる―――

          ガリ  ――

27年前にある国の町で、10代の少女達が聖母の像が動いたと言った。

他に大きなニュースもなかったから、多くの新聞が取り上げて話題になった。

すると1日で、似たような目撃情報が多数寄せられた。

聖母像の奇跡は、結局ひと夏で100万人が見たらしい――救世主の再臨は近いと言われた。

それ以降も、似たような話はたびたび報告された。

これは特に珍しいことではなくて、それらしい状況で目を凝らすと像は動いて見える。

自動運動現象と呼ばれるもので、凝視していると目が疲れて1点を見ていられなくなるために起こる――薄暗い部屋で何か棒状のものの先端を凝視すると、たぶん経験できる。

筋肉が疲れて眼球を固定しておけないためで、それでも脳はそれを正すように筋肉に命令を送る。

この信号は普段目の筋肉を動かすときと同じものなので、この修正命令を眼球の動きと勘違いする。

それで、実際には静止しているものが逆に動いていると認識し、主に運動を捉えるV5が活発になる――動いて見えるのはそのせい。

これは錯覚で、そこにないものを見る幻覚とは違う――錯覚は知覚やその構築のミスで起きる。

点の集まりを画像と見たり、静止画の連続を動画とみたりするのも錯覚である。

そういった感覚錯覚は、日常的によく経験している――そうとは気付かないけど。

感覚器官のミスではなくて、もっと高度な脳の働きから来る認知錯覚もある――常識的な前提など。

これらは、脳があらかじめ先入観を持つために起きる。

ものがいきなり消えないとか、遠いものは小さくて近いものは大きいというのは生まれつき持っている先入観。

また長方形の凹凸のあるものに上から光が当たると、脳はそれを顔だと思おうとする――それで、焼いた食パンの焦げ目に聖母の顔を見たりする。

離れたところにお面を裏側に置いて見ると、表向きのように感じるはずである――少し薄暗い方が確実だと思う。

まわる台にお面を乗せて回しながらそれを見ると、だから奇妙な見え方をする。

下から光を当てると、そのような錯覚は起きない――太陽で上から照らされるのが普通だったから、下から照らされた顔の先入観はないのだろう。

生まれつきの先入観が起こす感覚錯覚は、あまり深刻なものはない――それをうまく使っている手品もトリックアートも、騙されても楽しい。

ただ、手品師が盲点を使うには相手の鼻のすぐ下で行わないといけない。

大勢を相手にする場合それは難しいので、注意を上手にそらして見られたくない動きを見せない。

上手な手品は、うまく注意をそらして一時的な無視状態を作り出す――非注意性盲目というもので、例えばバスケットに夢中な被験者の間をゴリラの着ぐるみを来た実験者が通っても、みんな気づかなかった。

人の体が浮いているように見せるには、アシスタントの体を金属や白い布で覆い背景を黒くする。

黒い柱で支えて上にあげると、体が浮いているように見える。

金属の光沢や白い布に目をくらまされて、本来そこにある黒い柱に気づけないのである――トリックは他にも色々あるだろう。

これはヘルマンの格子という錯覚と同じものを利用している――黒い背景に白い線が縦横に入った図で、白い線の交差する部分が灰色に見える…画像検索をすればすぐでる。

生まれた後の先入観による認知錯覚には、厄介なものもある。

常識的な判断などがそれにあたる――常識は18歳までに身に着けた偏見だと、アインシュタインは言ってたらしい。

統計を使ったトリックに引っかかりやすいのも、生まれた後の先入観のせい。

こうした先入観は普段は意識されることはなく、仮定に矛盾する情報を得た時にそれを更新する。

けど、先入観が覆るような情報に接しても、たいした情報でないとかこれは自分の考えと矛盾しないと解釈することで、なかなか先入観を捨てようとしない――先入観を支持する証拠に注意を向ける、追認バイアスもかかる。

このような時、推論を行う前頭葉は静まり感情の部分が活発になる――脳が受け取った情報に全力で対抗する。

そして先入観を捨てないという結論に達すると、報酬系が活発になる――私たちは生まれた後で身に付いた先入観を守るために必死になり、それが成功すると報われたと感じるのである。

それでも生まれつきの先入観と違い、こうした観念的な錯覚は制御することができる――思考を変える事が出来るのは、人のもつ優れた能力である。

生まれつきの錯覚は、どうやっても消すのは難しい。

―――手品をするマジシャンの中には、驚異的な記憶術を使う人がいる。

マジックの基本となるトリックは10から20くらいしかないらしい――マジシャンによって主張が違う。

沢山のトリックがあるように見えるのは、どのような流れでそれを使うのかとか、演技とか話術とか演出の仕方による。

錯覚を利用したものも多く、これはトリックを知っていてもだまされるような類のものである。

非注意性盲目を利用する場合、目の前でハンカチにみかんを隠したりしているのだけど、注意を他に向けさせられているために、目にその情報は届いているのに私たちは気づかない――例外もあるようだけど、主に曲線を描くようにゆっくりと見られたくない動作をする。

これは、子供には効果がない場合がある。

大人は子供よりも集中力が高いけど、これは集中している事柄以外を無視する能力が高いという事である。

子供は高い集中力を持たない分いろんなところを見るので、騙されない場合がある。

認知科学の発展のために、科学者の前でマジックの説明をするマジシャンたちがいる。

ある女性の神経学者は、それを見ているとき妊娠していて気分が悪かった。

それで集中力がなく、目の前でハンカチにものを隠すのを見た――なので一人だけ、今の手品は下手だったと思った。

自閉症の患者にも、このようなトリックは通用しない――自閉症の程度や治療による回復の程度を知るために、手品を使う方法を研究している人もいる。

記憶術のひとつに場所法というのがある――覚えたい対象を自分のよく知っている場所と対応させる方法。

数世紀前から知られているけど、最初に考案されたのは紀元前500年頃らしい――シモデニスという詩人。

4世紀くらい前に西洋文明の優位性を示すため、宣教師が私の祖国の西隣の大国にも伝えた――ナポレオン3世は、中東の首長たちに自分の軍隊に魔力があることを信じ込ませるため、マジシャンにその役を依頼し成功した。

場所法は、まず覚えたい事柄のリストを作ることから始める――パイナップルとマグロと黒猫など。

そして、例えば自分の自宅と覚えたいリストを混ぜた風景を想像して覚える――玄関に入ると壁からパイナップルが生えていて、リビングに行くとマグロのソファーがあって、テレビは黒猫の形にするなど。

後でそれを思い出すときは、その混ざった想像を思い出す――記憶の研究者によれば、イメージが奇抜であるほうが効果が高いらしい。

この記憶術は、サヴァンのように生まれつきの高い記憶力を持たない人にも驚異的な記憶力を発揮させる事が出来る。

世界記憶力選手権で、アンディ・ベルは3度優勝した。

彼はランダムにシャッフルした10組のトランプを順次見ていく時間内で覚えることができる――場所法を使って。

全部で520枚のカードの順番を覚えるのである――「4組目の15番目のカードは?」など、質問されたカードを正確に答える。

300桁の2進数を覚えたり、何百人もの顔と名前を20分で覚える人もいる――こうした人は最初からそのような能力があったわけではなく、記憶術を身に付けた人たちである。

マジシャンの中には、あらかじめ自分で組んだトランプの山の並び順を覚えて手品をする人もいる――カードの重ね方を工夫して、計算で知る方法もある。

こうした手品をする人は、それを自然に見せることができるまで何度も訓練している。

そして、こうした記憶術を使ってパーティーなどで占い師みたいな事をするマジシャンもいる。

あらかじめ出席者の個人的な情報を調べ上げて、すべて覚えておくのである。

このようなトリックをホット・リーディングと呼ぶ――インターネットで手軽に調べれるようになるまでは、マジシャンは図書館や新聞やスパイを使って情報を集めていた。

ホット・リーディングによって、相手はマジシャンに心を読まれているような気になる。

これを成功させるためには、沢山の人の膨大な情報を次々と公開することで、それを覚えていたとは考えられないようにすることである――その場でマジシャンが心を読んでいると思わせる。

ホット・リーディングが使えない場合は、コールド・リーディングが使われる。

これは、会話から相手の情報を引き出す方法。

例えば「気になる事がありますね」とか聞く――だいたい誰にでも、そういうことはあるので。

「健康の事の様です」と言って反応がなければ、「体の事ではなく、精神的な・・・」と次々話を進める。

コールド・リーディングを使う人は、相手の反応を見て話しを進める――人は興奮すると、知らないうちに秘密を漏らしてしまう。

ハズレが多いのだけど人はそういうことはあまり覚えていなくて、当たったことのみ覚えている。

また、よくある事についての知識も使う――ある程度高齢なら、健康上の不安は持っている可能性が高い。

コールド・リーダーは、基本的に相手が信じたいことを告げて成功させる。

服にメロンの種が付いてたら、メロンが好きであることを告げる。

ただ、当たり前のことを惑星の動きなどを使って大げさに表現する――そして相手は、やっぱり自分はメロンが好きなのだと確信する。

若い人の場合、自分がどんな人間なのかを知りたがる場合が多いので、そうした話題を振る――創造性が高いなどと相手をほめ、「でも、絵を描くというわけではなく・・・」と言う感じで話を進める。

また、よくみられる名前を出して「それは誰?」と聞いたりする――珍しい名前は、ホット・リーディングでよほど自信がない限り、言わない方が無難である。

相手にもよるけど、だいたい心当たりがあるものである――知り合いにそうした人がいなければ、前世とか未来の話にすればいい。

大きな会場でコールド・リーディングをする場合、スパイを使うことも多い――ホット・リーディングになる。

スパイは会場の観客の会話に聞き耳を立てていたり、場合によっては自分から会話して情報を聞き出す――そして控室でマジシャンにあらかじめ知らせておく。

コールド・リーディングが上手くいくのは、それが人間関係の基本だからである。

初めて会った人に丁寧に対応しようとすれば、普段の会話でも相手の望むことを知ろうとする――普段から、私たちも多少のコールド・リーディングは行っている。

私たちが良い聞き手であろうとする習性を、コールド・リーダーは利用する――失敗は進んで見逃し、当たったことだけ覚えてくれる。

占いや予言はいろいろあるけど、それの信頼性を調べた研究もある。

例えば占星術は、もとになる書物が似た様なものだろうと思われる。

占星術が間違いなのは言うまでもないけど、複数の占星術師が同じ間違いを言うくらいには、その方法が作りこまれていると思われていた。

研究では、占星術の相関係数は0.1だった。

相関係数が1.0で完全に一致、-1.0で完全に異なる――0.0はバラバラで、まったく無関係となる。

0.1はほとんどバラバラということで、手相の0.11と同じくらいだった。

比較のために、体系化されたインタビューをもとに複数の人に性格診断をしてもらっている――結果は0.8以上で、とても優秀だった。

なお、ごく少数の研究者が性格と生まれたときの星座との間に弱い統計的な相関を主張している。

理由は、多くの人が星座にまつわる話しを知っていて、自分の星座がどのような性格だと思われているかを知っているので、それに沿うような行動をとるというもの。

そんな訳で星占いはほとんど技術を必要としない。

新聞では若い記者に、その仕事が回されることが多い様である。

ある記者は、退屈だったのである星座に不幸な文章を乗せた――恐怖でパニックになった読者から電話が殺到したので解雇された。

コールド・リーディングなどで自分の気分が良くなるのならいいけど、それを超能力のように信じ込ませて、高価なものを売りつける人もいる――薬や家電機器に表示されている性能や効果が嘘だと法で罰せられるけど、占いは当たらなくてもお金を返す必要がない。

ジェイムズ・ランディは、悪質な超能力者を排除するために超能力のトリックを暴いて公開している――マジシャンとしては、ジ・アメイジング・ランディと呼ばれている。

彼が若い頃、新聞の占星術師の仕事を得た。

ランディは昔の占星術の雑誌を集めてハサミで切り取り、適当にかきまぜて12の星座にランダムに貼り付け、自身の予言として紙面に乗せた――ゾランというペンネームで。

あるとき、2人のサラリーマンがカフェで自分の占いを読んで会話しているのを聞いた――良い運勢であったことでうれしい悲鳴をあげていたらしい。

ランディが話しかけると、彼らは「ゾランは先週、本当にぴったりあてたんです」と言った――手紙での反響もすごかったらしい。

神秘の力を持っていると信じられている人物の言葉であれば、どんな内容でも人はそれを受け入れ、都合よく解釈してくれるのだとランディは知った――その時に、ランディは占いの仕事を辞めた。

ある調査では、占いは単なる楽しみで信じてはいないという人が大半だった――別の報告では、かなりの人が実際に占いの内容に沿うような行動をしているという。

ちなみに冷戦時代の一時期、合衆国のスパイはマジシャンの協力にって作られた、相手をだます方法を身に付けていたようである。

ジョン・マルホランドが書いたスパイマニュアル2冊が残っている――40年くらい前に情報局はこれらを破棄したけど、完全版が発見された。

一定の効果を発揮していたらしい―――

           ジャリ

大脳皮質は進化的に新しい脳の領域で、古い脳の領域に比べると思い込みが強い。

例えば視覚野と知識を蓄えておく領域は違うため、理解と感じ方が揃わないこともある。

月までの距離が平均38万kmだと知っていても、肉眼で見ると近くにあるように見える。

それが遠くにあるとは理解できるけど、手を伸ばせば届きそうな・・・という感じ方を変えることはできない。

皮質の大部分は感覚処理に使われていて、感覚の種類によって並び方は共通している。

視覚は後頭葉にあり、頭頂葉は視覚空間、その一部から前の隣にかけて触覚、前頭葉の下の方に嗅覚で、さらにその下に味覚、耳の側は聴覚。

特定の感覚を使い続けると、それに対応する領域が拡大する。

目からの視覚情報は、視野の反対の脳に送られる――左視野の情報は右脳に送られる。

体からの触覚情報も、体と反対側の脳に送られる――顔と上腕の近位筋は左右の脳が制御し、手の遠位筋は左右逆の半球が制御している。

耳から入った信号の大部分は、反対の聴覚野に送られる――右耳からなら、左の聴覚野へ送られる。

だけど細かな枝分かれがあり、同じ方の聴覚野にも送られる。

聴覚野の働きが左右で異なるため、どちらの耳から音が入って来たかで聞こえ方が微妙に違う。

左の聴覚野の方が言葉の理解に優れていて、右の方がリズムやメロディを捉えるのに優れている。

嗅覚は目などのように緩衝となるレセプターが存在せず、鼻の粘膜に覆われてはいるけど神経が露出している――進化的に古い感覚なのだと考えられている。

そして視床を中継せずに大脳辺縁系に直接届き、そこから前頭葉に送られる。

また、左右が入れ替わることもない。

大脳辺縁系に直接つながっているため、においは感情的な記憶を強く呼び出すことができる。

学生に特徴的なにおいと一緒に単語を覚えてもらうと、その匂いがあれば次に思い出す際の成績が2割向上した。

心地いい匂いを嗅ぐと、右脳の前頭葉にある嗅覚の領域が活発になる。

不快なにおいだと、扁桃体と側頭葉が活発になる。

右側の前頭葉を損傷すると、グルメになる。

脳を損傷した2人が、異常なほど食べ物に凝るようになったことで発見された。

その後、美食家36人の脳をスキャンすると、34人の右前頭葉に損傷が見つかった――このメカニズムはまだ分からないことが多いけど、前頭葉のセロトニンの量が影響している様。

視床下部側面のセロトニンの濃度が高まると食欲が無くなり、濃度が下がると食欲が出る。

手足の位置を知り、姿勢のバランスを保つ感覚が固有知覚で、複数の感覚刺激を使っている。

総合的な知覚なので、固有知覚が完全に失われることは少ない――脳の損傷で失う人もいる。

けど、瞑想の時に固有知覚が失われる事があって、現実感がなくなったり浮遊感を感じる。

自分が自身の体から離れた感覚は一時的に固有知覚が失われた状態だと思われ、実験で再現できる。

また、カメラと棒を使った簡単な実験で、例えば人形などに自分自身が乗り移ったような感覚にすることにも成功している――暗示にかからない人も2割くらいいる。

同じ方法で、やはり自身が体から抜け出たような感覚にすることもできる。

                                                      ――――

                               ォォォォォ   ・・・・

           ジャリ

風が吹いて、森が唸っている様。

               ―――

「・・・・」

マッチョさんのライトが、木の小屋を照らしてる。

コテージに着いた様。

ノロマさんやバレッタさんも来た。

「・・・」

黒猫もいる。

まだ夕食は食べていない。

食料などをコテージに置いたら、とりあえず近くを探してみる。

     パキ

私は小学生の時は田舎に住んでいた。

児童は全員で50人前後で、同級生は私を入れて7人だった。

毎朝、授業の前に裸足で持久走をする。

だけど4年生くらいの冬、下級生の女の子が足がつめたくて泣いてしまった。

次の日から靴を履いていいことになったけど、私を含めて男児は卒業まで裸足で走っていた。

なので舗装路も土の上も裸足で走るのは平気だったけど、山で遊ぶ時は靴を履いていた。

枝を踏んでも平気だから。

          パキ

また踏んでやる。

「ニャ~」

ノロマさんのカバンの上で、黒猫が鳴いた。

こっちみてる・・・・

        ジャリ ・・・

                              ァァァァ   ・・・・

                                                  ゴロゴロ  ――――


知っている

2016年03月26日 23時58分06秒 | 黒猫のひとりごと

                                               ゴロゴロ  ・・・・・

                           ザァァァァァ  ―――

     ――  ・・・

雷がいる・・・

「・・・」

返事してもうるさいから、僕はもう返事はしない。

「ミャ~」

子ネコは鳴いてる。

「本当にこの雨の中いくの?」

「はい」

「・・・水が増えて、怖がってるかもしれませんから」

「そう・・・」

リュックに荷物を詰めてる。

ガードさんやフワリさんは、手伝ってるだけで自分の荷物は用意してない。

「クゥ」

たぶん、メタボネコを探しに行くつもりである。

地下の古い水路に落ちたようである。

お屋敷の裏庭から、そこに入る穴があった。

人間は通れないから、男たちは別のところから出てきたみたい。

「ニャ~」

僕も探しに行くよ。

「?」

ノロマさんが僕をみた。

「おなかすいた?」

了解したようである。

      スリ  スリ

見失わないように、ノロマさんの足ににおいをつけておく。

「♪」

僕の頭をなでた。

                ――

ハットさんがキャスケットを被った。

一緒に行くみたい。

「これで十分だろう」

「うん」

マッチョさんと斧さんは、大きなリュックに食べ物を詰め込んでいる。

マグロはあるのかな。

        ――  ト

近づく。

「ニャ~」

聞いてみるのだ。

               ギュッ  ――

ひもを締めてる。

返事はない。

「・・・」

マグロがあるのだ。

僕に隠しているのだ。

「?」

僕が下からジッとみていたから、マッチョさんが僕を見下ろした。

「・・・」

             ガサ  ――

斧さんが、大きなリュックを背負った。

ここで斧さんに聞くのは、かわいそうである。

マッチョさんたちの手前、本当のことは言えないだろうし、僕にうそをつく罪悪感で板挟みなのだ。

「ニャ~」

だから斧さんには聞かないよ。

「・・・・」

男は、肩から鞄を斜めにかけてる。

あんまり厚みがなくて、お屋敷にあったのを借りたみたい。

部屋にはなかったから。

「それ貸して」

「ァゥ」

ニャ

斧さんが持っていた折り畳みの傘を、ノロマさんが奪った。

ノロマさんも行くみたい。

あの傘は、僕をのせて飛んでくれたことがある。

晴れてるとリュックの中に閉じ込められるから、かわいそう。

「ニャ~」

よかったね。

                パサ

                             ――   トン

「?」

ノロマさんの背負っている、小さなリュックにのる。

狭い肩より、ここに足をのせたほうが安定するのだ。

「一緒に行くの?」

「ニャ~」

「危ないよ」

「一緒に探してくれるかもしれないよ」

「・・・そうですね」

「ひもつける?」

「・・・そのままでいいよ」

「・・・・」

ハットさんとカールさんと男が僕を囲んだけど、手は伸びてこない。

「・・・」

僕にマグロを隠している罪悪感なのだ。

       パタ

ノロマさんの頭をシッポでたたく。

「ミュ~」

おじいさんと青ネコも一緒に行くみたい。

エレガントさんも、バレッタさんも。

             トコ  ・・・

「行こう」

「うん」

移動する・・・・

             

                        ――  ・・・   チュ

                                            ザァァァァァァ   ・・・・・


水が増えた

2016年03月24日 13時12分52秒 | マーロックの日記

                                                   ―――――

                        ザァァァァァァ   ・・・・・・

        チャッ

雨音がはっきりしてきた・・・

                                               ゴォォォオオ   ・・・・・

外から光――

                   マロックさん ―― ?

マッチョさんの声。

                  ワン

レトリバーが返事した。

先回りしたマッチョさんが、出口にいる。

「2人とも無事ですか?」

「ああ」

先にシャープさんが出た。

                     ――    バサ

       ジャリッ  ・・・

                                        ォォォォォ  ―――

空が暗くなってる。

もう太陽が沈んでるらしい。

雷が光ると、高い波がみえる。

「こっちから出てきました」

                       ――  ・・・・

マリオットさんが電話してる。

たぶん、入り口側にいるハットさん達と話してる。

「水路の下に空洞がある」

「空洞?」

「そこに落ちたのかもしれないです」

「・・・そうですか」

「クゥン」

                ええ・・・  怪我もなさそうです  ――

            バサ

傘を広げる。

水路から出ると、大きな石がゴツゴツした斜面。

天然の水路になっていて、そのすぐ横は土と草。

海の方に向かって緩やかな斜面で、そのまま海に続いてる。

                  ジャププ  ―――

水路から出てくる水の量が、増えた。

「こっちに出てきてるかも」

「クゥン」

レトリバーは、出て来た水路をみてる。

「ここは?」

「別荘の西です」

「よくここがわかりましたね」

「昔からある水路だからね」

おや。

絵描きのおじいさんもいる。

彼が案内してくれたのか。

「・・・マロックさんのネコは一緒じゃなかったんですか?」

「どこからか外に出てるはずです」

「そう・・・」

「家の近くなのかもしれないな」

「・・・うん」

メタボネコはあそこから落ちたのかもしれない。

あの大きさだと、黒猫と違って戻れないだろう。

村のネコたちも、ウロウロしていてうっかり落ちたのかもしれない。

「この水の量だと、急いで探した方がいいかもしれないですね」

「はい」

「この近くに洞窟はありますか?」

「みたことないなぁ」

「・・・・」

ライトで辺りを照らすけど、それらしいのはない。

崩れた水路から下を照らしたときは、水路と同じ方向に空洞が続いていた様に見えたけど、途中で曲がってるのかな。

「直接水中につながってるのかも」

        ガリッ  ・・・

上る。

「戻ろう」

「うん」

黒猫を探そう・・・・

                        ジャリ

       ジャボボボボ  ―――

                                        ザァァァァァァ     ・・・・・・・


崩れてる

2016年03月23日 13時42分33秒 | マーロックの日記

                                              ォォォォォ  ・・・・・

                     ゴォォォォォ  ―――

    トン

音が響く・・・

土の中の水路にいる。

シャープネコがいなくなった辺りを探していたら、この水路の前でレトリバーが吠えた。

それで中に入った。

シャープさんもいる。

畑の横の水路かた、少し高い場所にある。

雨で水位が上がった時に、排水するための水路だと思う。

エレガントさんの別荘がある辺りの下を通って、直接海までつながっているんだろう。

        トコ  ――

石で作られた古いもので、割れた石も結構ある。

そこから、土がパラパラ落ちてる。

「ニャ~」

ナイロンポリエステルのブルゾンを着て来た。

そのフードの中に、黒猫が入ってる。

                               おい  ――

おや。

シャープさんが少し前で止まってる。

     タッ

「クゥン」

レトリバーが先に追いついて、下をみてる。

              トコ

                                    オオオォォォ   ―――

穴がある。

「崩れてるのか」

「下に空洞がある」

 

「・・・」

レトリバーが覗いてクンクンしてるから、落ちないようにひもをつかむ。

人は通れないけど、ネコなら通れる。

「この辺も崩れるかもしれないな」

「うん」

かなり古い水路の様。

レトリバーを引いて、ライトで下を照らす。

「そんなに深くない」

下が見える。

水路の下に、天然の洞窟があるらしい。

・・・この水路と同じ方に続いてる。

足場になりそうな場所はないし、落ちたら戻ってこれないな。

「ここに落ちたのかもしれない」

「・・・・」

「?」

おや。

レトリバーが来た方を見てる。

「・・・・」

赤い光。

こっちに来る。

                                      ゴォォォォォ  ――

水。

「もう溢れて来たのか・・・」

「クゥン」

             ――   ト

立ち上がる。

               チャプ  チャプ

                                ポタタタ   ・・・・

     ――

大きなペットボトルの中に、赤いライト。

それにロープが結んである。

ハットさんやノッポさんが外にいるから、水位が上がったのを見計らって投げ入れてくれたんだろう。

                   ――

                                 ゴトン

穴の石がひとつ崩れた。

              ――   チャプププ

広がった穴に水が落ちていく。

     チャプ

その奥に避難した私たちの足元にも、薄っすら水が流れてくる。

石の隙間に少ししみ込んでる。

                                         ゴォォォォォォ   ・・・・・・

雨の勢いはすごいし、すぐに水位は増すだろう。

「先に行ってみよう」

              

頷いたシャープさんが、先に行く。

この穴に落ちていないかもしれない。

ロープは置いていく。

別荘に50mくらいの束がいくつかあった様だけど、全部つなげてもそろそろ長さが限界だろう。

「急ごう」

「ワン」

流れが激しくなって海に落とされたら危ない。

              ――  トッ

シャープさんを追う。

ポケットに腕ライトを一つ入れていた。

おかげで十分な明るさ。

         トッ

                         トッ

                                       タ タ

足元を照らして、走る。

デコボコしているけど、そんなに走りにくくはない。

下に洞窟があるようだし、下が崩れないか心配。

こういう場所は、小刻みに走った方が安定する。

         チャッ

――もう水が追ってきた。

                     ワン

私の少し前を走っていたレトリバーが鳴いた。

シャープさんがまた止まってる。

「ここも崩れてる」

今度は上を照らしてる。

足元には、石や土。

                      ――  チャプ

ここは上が崩れてる。

そこから雨が流れ込んでいて、足元は水たまり。

「草だ」

すぐそこが地上らしい。

「・・・」

             ――   ダッ

「――」

私の頭を踏み台に、黒猫がその穴に跳び上がった。

「おい――」

               ザク  ・・・

                          ニャ~

器用に上って、外に出た。

誰か呼んでくる気かな。

「ワン」

                 ―――――

赤い光が揺れてる。

もう、こっちには来ない。

ロープがあそこまでしか伸びなかったんだろう。

             ピチャ

水が流れてくる。

「先に行こう」

「そうだな」

「ワン」

待ってる時間がもったいない。

それに流されても、これで黒猫は安全だし。

       チャプ ――

走る――

               タッ

                                ゴォォォォォォ   ・・・・・・

                                                         ゴロロロ


石の水路

2016年03月22日 12時09分25秒 | マーロックの日記

                                             ザァァァァァ  ・・・・・・

                   ボチャ  ――

前足を伸ばす・・・

      ――

上から落ちてくる雨粒が、前足についた。

「ニャ~」

つめたい。

                  バチチ ・・・

男の傘に、雨があたる。

いい音。

男が来ている服のフードの中に、僕はいる。

お屋敷から出て、畑の近くの水路にいる。

                  ポチャチャ  ――

雨で流れが速くなっている。

「ワン」

レトリバーが鳴いた。

「・・・ここ?」

「クゥン」

「あいつがマーキングしていったのかもしれない」

「地下水路?」

「古いね」

水路の少し上に、土の中に行く石の道。

中は暗い。

「いるのか――?」

シャープさんが何か言った。

「水位が上がった時の排水路だろうね」

「・・・たぶん、海に直接流すんでしょう」

「俺が入る」

「ロープがあった方がいいんじゃないかね?」

「早い方がいい」

          ――  ト

シャープさんが傘をたたんで中に入った。

「俺も行ってきます」

「・・・うん」

「気を付けて」

                                              ゴオォォォ ―――

「この雨だし、急いだほうがいいぞ」

「うん」

                ワン

レトリバーも中に入る。

「・・・・」

ニャ

         バシ

男が僕を出そうとするから、ネコパンチで応戦する。

                  ――  バサ

    タッ

男が中に入った。

            カチ ―――

腕ライトを点けた。

先に入ったシャープさんも、同じようなのを持ってる。

            スルル   ・・・・

傘をきれいにたたんだ。

   コン コン

それで石をつついてる。

「ニャ~」

壊れそう。

          タッ ――

少し体をかがめた男が進む。

足音が響く。

雨音も。

横には影。

フードから前足を伸ばす。

     ――

天井にあたる。

ひんやりする・・・・

             タッ  ――

                                   ォォォォォォ   ・・・・・・・


小さめに

2016年03月21日 12時48分44秒 | マーロックの日記

                                                ゴロロロ  ・・・・・

                            ァァァァァ  ―――

          ポタ  ポタ

ひんやりする・・・

開いた窓から、少しつめたい空気が来る。

                     ジュゥゥ  ・・・

外が暗い。

まだ日没までは時間がある。

                                                    ―――――

「・・・・」

また空が光った。

                                            ゴォォォ      ン

「ミ~」

大きな音が怖いのか、シロネコがノロマさんのそばで丸くなってる。

「・・・・」

いい音だけどな。

          ジュゥゥ  ――

いい色。

                ――

                              ポト

ホットケーキをお皿にのせる。

「窓しめないんですか?」

「うん」

太陽がいるのに暗くなった感じは、夜の暗さと違う。

それがみえる。

           ポタ   チャプ

                                       ザァァァァァァ  ・・・・・・・・・

     ガタ

フライパンをシンクに置く。

              ―――

洗う。

「持っていきますね」

「うん」

パスタは好評だった。

それで、食後のホットケーキを焼いていた。

ノロマさんが桜餡を買っていたらしく、それを焼きたてのホットケーキの上にのせている。

       ゴシ  ゴシ

                           ポタ タ

                                                   ァァァァァァ   ――――

雨。

少し前に、急に降ってきた。

コックさんたちは、まだ外を探している。

この雨だから、どこかで雨宿りしているかもしれない。

              ガタ

  トコ

テラスの方に行く。

私もホットケーキをたべる。

バレッタさんやフワリさんのリクエストで、1枚のホットケーキは小さく焼いた。

「・・・・」

もっと大きいのも焼けたけど。

           トコ

「・・・」

ノロマさんがお皿を持って去ったから、シロネコが残ってる。

     グィ

「♪」

連れて行く。

         トコ

                                        ―――

                                                  ゴロロ   ―――

私たちがこの別荘に来る前に、村で暮らしていたネコや飼い猫が行方不明になっていた。

そして昨日、メタボネコがいなくなった。

    トコ

                       ―――   ・・・・・

テラスの屋根の端っこに、シャワーを浴びて出て来たばかりのシャープさんがたたずんでいる。

彼はシャープネコと一緒に探していた。

おそらく誘拐犯のおとりにするためだろう、シャープネコから離れて歩いていたらしい。

そしたら、シャープネコがいなくなった。

いつもシャープさんと一緒にいるネコだから、自分からどこかに去った可能性は低いんじゃないかと思う。

みんな、誘拐犯の存在を疑っている。

あのネコは運動神経が高いし、もしそうだとすればかなり素早い犯人だと思う。

「ミ~」

それとも、袋か箱でも使っておびき寄せたんだろうか。

しばらく探したシャープさんが、傘を取りに戻ってきたから、少し休むように言って屋内に留まらせている。

パスタはいらないと言ったけど、私はシャープさんの分のホットケーキも焼いた。

「――これはおいしいね」

「はい」

            ピィ ♪

ハットさんとカールさんがたべている。

ただ焼いただけのでも十分おいしいと思うけど、ノロマさんが桜色のあんこをのせた。

                                              ゴォォォ ――   ン

海に雷光。

「・・・」

「こわいの?」

「ミ~」

バレッタさんにシロネコを渡す。

「おいしいわね」

「うん」

海からの風はあたたかい。

  コト

小皿をとる。

            サク

                          パク

たべる。

              モグ  モグ

「・・・・」

おいしい。

桜餡をのせるのはいいアイデアだった。

「食べたほうがいいですよ」

エレガントさんが、シャープさんに小皿を運んでる。

「・・・・」

受け取った。

「雨が止んだら、裏の山を探してみようか」

「・・・そうですね」

      モグ  モグ

シャープさんがたべた。

                  パク

また。

「・・・・」

おいしいのだろう。

       トコ

「ニャ~」

黒猫が海をみてる。

雷をみているのかな・・・・

             モグ  モグ

                                 ザァァァァァァ   ・・・・・・

                                                          ゴロロロ


暗い雲

2016年03月20日 22時44分40秒 | 黒猫のひとりごと

                                                ザァァ     ン

                           クァ

    モグ  モグ

「♪」

       パク

お魚のお刺身をたべる。

                   モグ  モグ

おいしい。

          ――  ・・・

「これはおいしいね」

「はい」

元気のないカールさんも、パスタをたべている。

パスタの上にサラダ。

             ムシャ  ムシャ

                                               クォ ーーー

「暗くなったね・・・」

「うん」

フワリさん達が空を見た。

                                                   ザァァ     ン

空は雲で暗い。

まだお日様がいるのはわかる。

             ムシャ   ムシャ

マッチョさんやコックさんは、まだ戻ってない。

ごはんも食べずに探しているのかな。

                                     ――  タッ

後ろから足音。

「あ、おかえりなさい」

ノッポさんが戻ってきた。

走ってきたみたい。

「ニャ~」

パスタがあるよ。

「・・・またネコがいなくなったぞ」

「!」

「え?」

                 ――  

みんながノッポさんを見た。

ノッポさんは深刻な表情。

            トコ

男が来た。

「・・・・」

僕をみた男に、目で合図する。

「・・・」

ノッポさんは相当お腹がすいている様だよ。

                                        ザァァァ  ――   ン

僕は、教える・・・・

                 ミュゥ ♪

        ピィ ♪

                                ――  ・・・

                                                   ゴロロロ  ―――


パスタ

2016年03月19日 23時59分22秒 | マーロックの日記

                                                ―――   ・・・・・・

                              グッ グッ

       チュ ♪

お湯の中にパスタ・・・

「・・・・」

時計をみると、午後3時を過ぎている。

私たちは別荘に戻ってきた。

メタボネコは、まだ見つからない。

反対側の斜面に住んでいるおじいさんとおばあさんも、一緒に来た。

青ネコも。

お昼ごはんをたべずに、みんなで探しながら戻ってきた。

そして、お腹が空いたのでパスタをゆでている。

              グッ  グッ

「ニャ~」

「ミュゥ」

黒猫が、青ネコを連れてウロウロしてる。

屋内の部屋を案内している様。

                                     ピピ ♪

窓から木がみえる。

私が17歳の時に、姉からパスタの作り方を教えてもらった。

ゆでたパスタをお皿にのせて、ツナと大根おろしをかけて出来上がり。

それをみんなに作ってあげる。

だけど今回は、トマトやキャベツなどの野菜も一緒にのせる。

         グッ   グッ

「・・・・」

もうよさそう。

                ――  ポタタ  ・・・

鍋の内側にもう一つ鍋が入っていて、それを持ち上げるだけでお湯が切れる。

これなら、指にお湯があたってうっかりパスタを一緒に流すリスクがない。

「もうできました?」

「うん」

エレガントさんとノロマさんも手伝ってくれる。

サラダは、彼女たちが用意してくれた。

           コト

私が盛り付ける。

トングでクルクルまいて、お皿にのせる。

その上に、野菜と大根おろしとツナをのせるだけ。

ドレッシングは、ゆずポン酢。

スーパーで私が見つけた。

「ピィ♪」

棚の上にメジロがいる。

ささみではなくて、ツナ。

抗議しに来たわけではないらしい・・・・

      クルル  ・・・

                          ポト

                                        チュチュン  ♪

             ピィ ♪

                                                  ――  ヮヮヮ  ・・・・