ビュゥゥゥ ―――
カタタ ・・・
バチッ パチン
炎がゆれる・・・
レンガの暖炉の中で薪が燃えている。
大きな家だけど、2人しか住んでいない様。
家の外にいた高齢の婦人と、家事の手伝いをする住込みのおばあさん。
「・・・・」
暖炉の前のソファに座ったおばあさんが泣いていて、話は中断している。
婦人はその横で、背中をなでている。
私は窓の側のテーブルに向かう。
あたたかい紅茶をいれてくれたので、そこに置いて飲んでいる。
2人の女性の向かいのソファには、ポールさんとハットさんが座ってる。
おばあさんが落ち着くのを待っている。
ポールさんは最初に、私たちの事情を正確に伝えた。
彼がこの国の警官でないことも、先に訪ねてきたと言うヘテロ達だと思われる3人が今朝事件を起こした事も。
おどろいたおばあさんは、興奮してこれまでの事を話してくれた。
だけど徐々に感情が高ぶった様で、泣いている。
バチチ ――
パン
斧さんはたき火の薪を見てる。
昼間、この家にはもう一人お手伝いさんが来る。
男性で、薪は彼が用意してくれる。
だけど普段は、あまり使うことはないらしい。
フサフサした白い犬もいて、丸まってる。
黒猫はその耳やシッポを叩いているけど、相手にされてない。
広い部屋で、家具は古いものが多い。
長年大事に使っている様で、ニスの風合いがいい。
カチャ
紅茶を飲む。
カタ ・・・
―― ゥゥゥゥ ・・・・
風で、窓がゆれる。
コト
コップを置いて、写真を見る。
おばあさんが持って来てくれたもので、高齢の紳士と夫人と、少女の3人が写っている。
2枚あって、もう一枚にはパレットとブラシを持って、キャンバスに何か描いている途中の女性がカメラを向いて写っている。
この少女と絵を描いている女性が、黒ブローカの妹。
以前、この家に住んでいた。
その頃から、おばあさんはこの家でお手伝いをしていた。
1枚目の写真は、おばあさんがまだ住込みではなかった頃に撮ったものらしい。
2枚の写真に写る黒ブローカの妹は、どちらも髪にりぼんの様な飾りを付けている。
ポールさんとおばあさんの会話からすると、バレッタというらしい。
おばあさんは、少女が養子に来た日の事もおぼえていた。
亡くなった母に買ってもらったもので、とても大切にしていた様。
どうやら、バレッタさんを誘拐した連中は警官などを装って、彼女にも両親は事故で亡くなったと信じ込ませていたらしい。
1枚目の写真に写っている夫婦は、おだやかな表情。
子供には恵まれなかった様で、バレッタさんを家に迎えてとても喜んでいたらしい。
彼女が寂しい思いをいないように、いろんな所に連れて行った様。
この夫婦も、バレッタさんが事故で両親を失ったと7年間は信じていたみたいである。
夫婦は経済的に裕福だったので、人身売買をしていた連中は7年間待った。
3人が家族としての絆を深めた頃、夫婦の前に突然現れて、バレッタさんが誘拐した子供だったことを告げた。
そのことをばらされたくなければ、金を払えと脅したのである。
バチ ・・・
パチチン ・・・
私には分からない。
どういう事情であれ、その時に警察に保護を求めるべきだったろう。
だけど夫婦は、要求を受け入れたらしい。
バレッタさんが真実を知って悲しまないようにと、思ったのかもしれない。
彼女を守ろうと、必死だったのだろう。
けど、一度でそれが終わることはなかった。
おそらく、再びバレッタさんを誘拐することもできるとか、脅していたのだろうと思われる。
何度目かの脅迫のとき、おばあさんもその事を知った。
夫婦からは、内緒にしていてほしいと頼まれたという。
カチャ ――
数年後、払うお金もなくなった夫婦は、家を売る。
今の主である婦人が、その時購入した。
夫婦は、その時におばあさんがこれまで通りこの家に住み込みで働けるようお願いしてくれた。
おばあさんと別れることになって、バレッタさんは悲しんだ様。
行先は告げなかった様だし、事情を知っているおばあさんも聞かなかったみたいである。
もう脅迫されることが無い様、遠くに引っ越したんだろう。
でも半年後に手紙が届いた。
バレッタさんからおばあさんに宛てたもので、依頼主の住所はなかった。
その後も何通か手紙は届いた様。
元気に暮らしている事とかを、知らせているらしい。
2枚目の写真は、その中に入っていたもの。
どこで撮ったものかは分からない。
おばあさんは、誰にもこのことを言えなくて抱えていた。
それが今日、2度もそのことを聞きに人が訪ねてきて、驚いている。
ほぼ同様の事は、ヘテロ達にも話したみたいである。
だけどバレッタさんの実の両親が殺害されたことは、ポールさんに聞いて初めて知った。
そして、最初に訪ねてきた3人のひとりが、彼女の実の兄だった事も。
喜んでいるのか悲しんでいるのか、その両方なのか、おばあさんは話の途中で泣きはじめてしまった。
コト ・・・
ガタタ ――
ソファの前のテーブルには、バレッタさんから送られてきた手紙などが置いてある。
黒ブローカ達が、バレッタさんを探すために危険な事をしている事も、ポールさんは話した。
彼女を探す手がかりになればと、すべてポールさんに見せてくれている。
「すこし落ち着いたかしら?」
「ええ・・・」
ポールさんはまだいくつか質問があるようだけど、大まかな話は分かった。
窓の外を見る。
暗い。
「?」
何か動いたような気がしたけど、暗いから分からない。
戻ってくるのが遅いから、タクシーの運転手が様子を見に来ていたのかもしれない。
「・・・ちょっと外に出てきます」
「ああ・・・はい」
「・・・?」
「・・・」
斧さんを見ると、彼も立ち上がった。
誰もいないと思うけど、一応見て来よう。
「ニャー」
黒猫も来た。
バサ
コートを着る。
ズボンの下には防寒スパッツを履いているけど、動きにくい。
船に戻ったら、別のを考えよう。
―― トン
私の肩にのった黒猫は、すぐに斧さんの上にのった。
フードの中が暖かいんだろう・・・
トコ ・・・
バチチン ――
ゥゥゥゥ ―――