ヒュルルル・・・・・・
ザァァァ ・・・ ン
――― ・・・・
船は北へ進路を変えていて、熱帯地域よりも平均気温の低い地域へと向かっている・・・
太陽は西の空にあって、屋上通路のビーチチェアで寝てる私を、ポカポカ照らしてくれる。
早朝から行われていた飾りつけは終わったようで、今日の日没後からキラキラ光るようである。
朝から作業のため、屋上でプールを使ったり出来なかったから、作業が終わった今も、屋上にはいつもほど人がいない。
黒猫たちは、屋上を散歩しているようである・・・
ザァァァ ・・・・ ン
ザァァァ ・・・・ ン
太陽に照らされて大気がこんなに暖かいのは、温室効果ガス…GHGがあるからである。
現在の地球の平気温度は15℃より少し低いくらいで、GHGがなければ-19℃くらいになると考えられている――月がこれに近い平均温度。
温度は、それを構成する粒子が乱雑に動く並進運動エネルギーの平均――個々の粒子は猛スピードで移動するものも、ゆっくり動いているものもある。
温かいものに冷たいものを触れさせると、温かいものの表面の粒子が冷たいものの粒子を押して、運動エネルギーが伝わる――このエネルギーの移動の事を熱と呼ぶけど、日常的には温度そのものの意味でも熱と言う。
平均エネルギーそのものを温度と呼べばいいのだけど、現在はケルビン…Kと言う温度目盛との間に換算項を置くことになっていて、その比例定数kは1.38×10-23J/Kである――分子ひとつあたりの平均運動エネルギーを定数kで割れば、ケルビン温度になる。
摂氏の温度目盛りは、ケルビンの目盛の273.16が0になっている。
水や酸素などの分子は並進運動の他に回転したり、分子を構成する原子が互いの距離を変化させることで振動する。
こうした分子にエネルギーを与えると、並進運動と回転運動と振動にそのエネルギーが振り分けられる――室温だと、原子間の振動は通常ほぼ寄与しないので、無視しても構わない。
ヘリウムやアルゴンは分子を形成しないので、並進運動しかしない。
酸素や水の分子のように3つの運動をしている場合、並進運動しかしない場合よりも温度を上げるのによりエネルギーがいる――液体の水は互いに水素結合で繋がっていて、その結合がゆれたり切れたりするので、さらに温度を上げるためのエネルギーが必要になる。
光は電磁波で、ラジオの電波やX線などと一緒。
電磁波の中で約350~780nmの波長のものを可視光と呼び、私たちの目で見ることができる――nmはナノメートルで、1nmは0.000000001m。
物質は、その電子の配置によって固有の電磁波の吸収効率を持っている。
赤い光を吸収する物体の場合、当てた光が白色光なら反射してくる光は緑色になる。
色相環を見て、ある色の直径方向に反対側にある色を補色という――色相環は画像検索すれば出てくる。
太陽光のような白色光からある色を取り除いて出来る色は、補色になる。
金属はあらゆる可視光を効率よく反射する――銅は赤い光の反射がより効率が高いため、少し赤みがかかった色に見え、鉛はX線を吸収する。
太陽の表面は約6000℃で、その放射する光の多くは可視光。
緑色の光が一番強いけど、それ以外の光も強いので全体として白く見える。
地球はその光の一部を吸収することによって、暖められている――地球は内部でも熱を発生させているけど、地球表面の温度は主に太陽の影響。
この太陽の光は、同じ6000℃の熱を持つ物となら区別が付かなくなるけど、地球はそんなに熱くないので太陽の光を使って物を見ることが出来る。
よい電磁波の吸収体は、よい発光体でもある。
太陽によって温められている地球がそれほど熱くならないのは、地球も電磁波を放射しているからである――あらゆるものが放射している。
太陽の光によって地球に運ばれたエネルギーは、最終的に宇宙に出て行く――より温度が低いから。
もし太陽から運ばれるより地球から出て行くエネルギーが少なかったら、地球は徐々に熱くなって溶けてしまう。
地球から放射されるのは赤外線…赤い光よりも大きな波長域で、人間には見ることが出来ない。
温室効果ガス…GHGと呼ばれているものは、この赤外領域に対してよい吸収体の事を指す。
簡単なイメージだと、太陽からの光は晴れていればまっすぐ地球に届く。
だけど地球が放射する赤外光は、GHGによって吸収される――赤外線にとっては、GHGは不透明なのである。
それらの気体もすぐに再放射する。
再放射された赤外光は、再び吸収されたりしながら最終的に宇宙に出て行く。
まっすぐな太陽からの光に対して、地球からの放射はジグザグしながら外に広がっていくイメージである。
こうしてGHGが地球からの放射を遅らせている間も、太陽からの放射は続くので地表の平均温度が上がる。
それによって、地表の放射エネルギーは増える。
この増加分がGHGによって生じた放射の遅れを相殺するまで…太陽からの入射と釣り合うまで、温度が上昇する事になる。
この温度上昇の事を温室効果と呼び、温室が外よりも温かい理由と同じだと思われていたためにそう呼ばれる。
実際には、本当の温室では赤外線の吸収の効果よりも、温かい温室内の空気が外部の空気と混じるのを妨げているために温かい。
このことが確かめられたのは温室効果という言葉が使われ始めた後で、そんなに昔の事ではない。
今の地球の温室効果は、主に水蒸気と二酸化炭素…CO2で支えられている。
特に水蒸気の効果は大きく、約67%を占めている。
気候が温暖になれば、主に海から水が蒸発して水蒸気はさらに増える。
しかし気温が一定であった場合蒸発できる水の量に限度…飽和量があり、蒸発した水蒸気は降雨として取り除かれ、だいたい一定の値をとる。
他のGHGはそうはならず、これらが増えて気候が温暖になると水蒸気の飽和量が増える。
つまり、水蒸気は気温によって量が増減するけど、水蒸気が先に増減することによって気候を変動させない。
その他のGHGは、その増減が先行することで気候を変動させる可能性がある。
でも地球の気候は、主に地球の軌道の変化や太陽活動の変化など、外部由来の気温変化が先行することで変化すると考えられている――少し気温が変化すると水蒸気などの量に変化が出て、さらに気温の変化が進むという正のフィードバックが働く。
けれど過去に幾度か例外的な気候変化があったと考えられていて、その極端な例として、地球が氷に包まれていたと思われる時代がある。
トッ ・・・ トトト ・・
ヒュルルル ・・・・
太陽から地球に届くエネルギーはおよそ342W/m2で、これは日の当たっていない場所も含めた平均――太陽光が垂直に入ってきた場合はおよそ1367W/m2で、これは太陽定数という。
地球に届く太陽エネルギーはすべてが吸収されるわけではなく、一部は直接宇宙に反射しており、この反射能のことをアルベドという。
気候変動に関する政府間パネル…IPCCによると、地球に届く太陽エネルギーを100とした場合、雲や微粒子や空気分子によって22、地表面で9を直接宇宙に反射しいる――合わせて31で、アルベドが0.31ということである。
残り69のうち大気が20、地表面が49を吸収する。
地表から顕熱として7、蒸発熱として23が大気に戻り、GHGが閉じ込めていたエネルギーから95が地表に戻る。
49-7-23+95=114で、114が地表面から放射される赤外線になる――この114…約390W/m2が、現在の平均気温。
114のうち12が、大気の窓と呼ばれる波長域の放射で直接宇宙に出る――オゾンなど、この波長域のよい吸収体が少ないため。
残り102は大気に移り、大気は20+7+23+102=152のうち95を地表に、9が大気の窓を通して宇宙へ出る。
残った48が大気から宇宙に放射される量で、大気の窓を通して出る12と9と合わせて、69が地球から宇宙に出る。
直接反射される31とあわせると、入射量の100と等しくなる。
―――地球に届く342W/m2のうち地球が吸収するのは69%なので、約236W/m2になる。
T=(W/σ)1/4で温度が求められる――Tはケルビン温度で、σは定数で5.67×10-8W/m2。
(236/(5.67×10-8))1/4は約254Kで、273を引くと-19℃。
温室効果を入れると約390W/m2で、(390/5.67/10-8)1/4は約288K。
273を引くと15℃で、もう少し正確には14.8℃―――
ヒュルル ―――
GHGが極端に多い場合、金星みたいになる。
金星は地球よりも太陽に近く、入射量が191になる――地球を100として。
金星のアルベドは0.78なので、191×(1-0.78)=42.02で、吸収されるのは42で地球よりも低い。
それでも90気圧の大気のほとんどがCO2なので温室効果が強く、金星の平均温度は400℃にもなる。
太陽系が誕生した46億年前には、太陽の出すエネルギーは現在の72%程度だったと考えられている。
今の地球の大気組成だと寒すぎるけど、その頃の地球のCO2濃度は、現在の大気圧としての濃度で少なくとも400倍近かったと大雑把に計算されている――これは液体の水を維持できるとしての計算で、それより高い予想もある。
地球の生命にとって液体の水が重要なので、その後も、変動はあっても大部分の期間は水が液体でいられる温度…0~40℃を保っていたと思われる。
これは、太陽活動が億年単位で徐々に強くなるにしたがって、主に海によるCO2の吸収で釣り合っていたためと推定される。
水によるCO2の吸収は水温が低いほど多く、水温が一定なら、大気中のCO2が多いほどよく溶ける。
人の産業活動が活発になるにつれて海に溶け込むCO2の量が増えていて、海の酸性化が進んで海洋生物に影響を与えている。
海に溶けたCO2は水深600mあたりから60気圧の水圧で液化し、2400m位から安定して沈み始め、3500m辺りでは海水より重く、浮かび上がってくる可能性は低くなる。
以前、水深1380mの海底、300℃の熱水が噴出する場所のすぐ近くでCO2のプールが見つかった。
CO2と微量のメタンが液体の状態で満たされており、個体の硫黄が蓋をしていて、その中には硫黄やメタンをエサにしてCO2を分解する微生物が住んでた――そこで人為的にこの様なプールを作ってCO2を埋め立てる研究も行われている。
そして原始の地球に海が出来ると、岩石の浸食によってイオン化したカルシウムやマグネシウムが大量に海へ供給される。
CO2はこれらの金属イオンと結合して炭酸塩の岩石…カーボネートを生成し、それは海底に堆積する。
そのほとんどは方解石…炭酸カルシウムを成分とする炭酸塩鉱物で、海に溶け込んでいるCO2とカルシウムから形成されるので、CO2貯蔵庫として働く――方解石は石灰岩の主成分鉱物で、鉱石として扱われる場合は石灰石と呼ばれる。
貝殻もそうで、貝は同時に取り込む不純物よって着色される――主に鉄イオン。
原始地球の大気にあった大量のCO2は、このような炭酸塩の岩石として私たちの足の下にある。
金星ではこのような沈積が起こっておらず、火星ではそれが起こっていても不十分で大気に残っている。
計算では、地球の炭酸塩鉱物の質量と大気と海中にあるCO2の合計は、今の金星にあるCO2の質量とほぼ同じである。
地球の軌道が今より太陽に1000万km近かったら地表面の温度が高すぎて海が出来ずに、金星のような星になっていたと考えられている。
ザァァァ ・・・・ ン
ザァァ ・・・・・ ン
植物は光合成によってCO2を吸収して酸素を放出する――水を太陽光で水素と酸素に分解し、水素とCO2を結合させて酸素は捨てる。
植物が死んで微生物による分解が始まると、その植物が一生をかけて放出したのと同じ量の酸素を消費し、CO2は大気に戻っていく――植物が呼吸したりその植物を食べる動物が呼吸したり、死んで分解されても同じ。
しかしすべてが分解されるわけではなく、いくらかは堆積していく。
それらの堆積物…化石燃料があるおかげで、大気中に酸素がある。
酸素自体は地球の半分近くを占める地球で最も多い元素だけど、大気や海中に遊離酸素…O2があるのは化石燃料があるから。
大気中の酸素濃度の変化は測定が難しいけど、現在のCO2濃度の増加によって予想される酸素濃度の低下は、確認されている。
したがって化石燃料を燃やし尽くすと私たちが呼吸する酸素がなくなるけど、現時点でその心配はまったくない――大量の炭素が埋まっている。
熱帯雨林は堆積物の分解が速いので、大気中に大量のCO2が戻っていく。
気候の温暖化が進むと、熱帯地域以外の森林でも堆積物の分解が速くなると思われる。
そうなると、地球全体の森林によるCO2の吸収と放出のバランスがより0に近づく。
人間が化石燃料を燃やすことで放出したCO2の半分は、海と森林が吸収していると思われる。
気候の温暖化によって堆積物の分解が速まると、この効果が薄れて正のフィードバックとして働く――地球の軌道変化や太陽活動によって、僅かに気温が上昇しても同様の影響を与えると思われる。
フィードバックは、結果が原因に戻ってくるようなシステム――結果が原因を促進する場合は正のフィードバック、逆を負のフィードバックという。
気候は、フィードバックによって大きく変動する。
例えば大気のCO2濃度が上がると、その肥料効果で植物の光合成速度が上がる。
するとCO2濃度が下がるので、気温が下がる。
気温が下がると植物の活動は弱まり、CO2濃度の減少も緩やかになる――これは負のフィードバック。
負のフィードバックは原因の増加が結果にブレーキをかけ、原因が低下すると結果は加速されるので、うまく働けば結果を一定に保つ。
地球の気候は、様々な正負のフィードバックが影響しあって複雑に変化する。
ザァァァ ・・・・ ン
ザァァァ ・・・・ ン
地球全体が氷に包まれた状態を、全地球凍結とかスノーボールアースという――これは主流の考え方だけど、全地球ではなく、一部は凍らなかったとする意見もある。
全地球凍結は24億年前と7億年前に起きたと考えられていて、ここでは7億年前の方を考える。
地球が凍り始める前、今から10億年ほど前に、ほとんどの陸地は1ヶ所に集まって巨大な一つの大陸を形成していたと考えられている。
地球の陸地はプレートの運動に伴って移動しており、過去に何度も陸が一つに集まった超大陸を形成したと考えられている――2億年後にも超大陸を形成すると予想される。
10億年前に形成された超大陸は、ロディニアと呼ばれる。
このころ陸地の総面積が大幅に増えたと思われ、それによる岩石の浸食の増加によって、イオン化したカルシウムやマグネシウムが大量に海へ供給された。
それによるカーボネートの生成で、大気中のCO2が急速に減少しはじめる。
ロディニアは赤道付近にあった。
陸地は海よりもアルベドが高く、赤道近くにあればそれだけ効率的に太陽エネルギーの吸収を妨げる。
高緯度に陸地があった場合、高緯度であるため地表が氷に覆われ、氷床はアルベドが高いのでエネルギーの吸収を妨げる。
でも、凍結しているため岩石の浸食による金属イオンの海への供給が減少し、CO2の海への吸収が抑制されるため負のフィードバックとして働く。
この頃の太陽は、現在の90%程度の照射量だった。
太陽照射が今より弱かったこと、陸地面積の増大と赤道への集中によるアルベドの上昇という、寒冷化しやすい条件がそろっていた。
そしてロディニアは分裂を始める。
それによって太平洋が出来て浅海域が拡大し、当時の光合成生物であるストロマトライトが大量発生した――ストロマトライトはシアノバクテリア…藍藻類が浅海に進出したことで、その死骸と泥粒などによって作られる、層状の構造をもつ石。
彼らの光合成により酸素が大気へ沢山供給され、同時期に地殻運動が活発化して土砂が大量に海へ流入し、その死骸を埋没させた。
そのせいで、生物が死んだ後の分解による炭素の大気への循環が抑制され、大気のCO2濃度は極端に減っていく。
CO2濃度が十数%から0.01%程まで下がったと推定されている――現在は0.038%程度。
温室効果が弱まったことで地球全体の寒冷化が始まり、極地から次第に氷床が発達していく。
氷床はアルベドが高いため一層の寒冷化を招き、それによってさらに氷床が拡大していく――この正のフィードバックは強く、負のフィードバックで止まることはなかった。
寒冷化は加速しながら進行し、約3000mにも及ぶ氷床が赤道まで全地球を覆ったと思われる。
このような状態の地球は極めて高いアルベドを持つため温まることはなく、この状態が1億年近く続いたと考えられている。
ヒュルルル ・・・・・・
・・・・・ ―――
この破滅的な気候変化は、生命の存亡にかかわる危機となる。
けど、水は3.98℃で密度が最大になるという、一般的な物質とは違う性質を持っている――チタンやケイ素も、固体になると密度が下がる。
3.98℃から温度が下がって0℃に近づくと密度がだんだん小さくなり、0℃以下で固体の氷になると、密度は一段と小さくなる。
これは、氷がダイヤモンドのような形の結晶構造をつくるため、液体の水よりもかえって分子間のすき間が大きくなるためである。
水が通常の物質のように固体の密度が大きく固体が液体に沈むとすると、凍った水から海の底に沈んでしまい、次の水面がまた凍って沈む。
これが繰り返されれば、海は完全に凍ってしまう。
けど実際は、水の密度が一番大きいのは3.98℃であるため、冷却の過程で3.98℃になった水が底に沈む。
このため氷結中の表面と底の間は密度の差が出来て、水温は0~3.98℃となる――逆列成層という。
それで、深海底は凍結せずに液体の水が残る。
凍結中も火山活動は起きており、海底火山の熱や、やはり凍結していなかったと思われる地中深部で生命は生き延びたと考えられる。
そして火山活動は、CO2を大気に供給する。
液体の海があった場合、CO2を吸収するため濃度の増加を邪魔するけど、海は凍結していたためCO2の吸収は起きなかった。
また、地表が凍結しているため侵食が起きず、金属イオンの供給も止まっていたから、カーボネートの生成による海底へのCO2の堆積も起こらなかった。
つまりCO2濃度の上昇を抑制する負のフィードバックがほとんど働かなかったので、大気中のCO2濃度が高まっていった。
CO2濃度が0.1%程度に達した頃、気温の上昇によって氷床が融解しだす。
氷が溶けるとアルベドの低い地面や海が露出し、熱の吸収が高まる。
地表面部分がわずかに暖まると雪氷面の融解が進み、更に地表面が増えるのでより多くの氷を溶かすという正のフィードバックが起きる――氷-アルベドフィードバックと言い、このフィードバックは現在進行していると思われ、赤道付近で1℃気温が上昇すると、極地付近では3℃以上気温が上昇することになると予想される。
融解開始から、早ければ数百年で極地以外の氷床が消滅したと推定されていて、これは非常に急激な温暖化だった。
凍りはじめに0.01%まで下がったCO2濃度は約10%まで上昇し、平均気温は約40℃まで上昇したと考えられている。
そして温暖化した気候の影響により、大規模な嵐や台風が頻発し、岩石の侵食が促進されて大量の金属イオンが海に供給される。
大気中のCO2は海中に溶け込み、一部は金属イオンと結合して大量のカーボネートを海底に沈殿させる――氷河堆積物から確認されている。
そして海の沈殿物が嵐により海の表層部に舞い上り、大量の沈殿物が光合成生物に利用されて光合成を激しく促し、物凄い速度で大量の遊離酸素が蓄積していく。
そして一部の生物が海中の高濃度の余剰酸素を利用し、コラーゲンを産生することに成功し、大型の多細胞生物が出現するようになる。
このエディアカラ紀…6.2~5.5億年前には、エディアカラ生物群と呼ばれる大型生物が出現し、次のカンブリア紀…5.4~5億年前には多様な生物群が生まれる――カンブリア爆発と呼ばれている。
ただ、DNAの突然変異がこの時期に特別多く発生したわけではなく、それまでに起きていた突然変異が組み合わさって作用するという複雑さを得ることで、一気に多様な生物群を進化させたと思われる。
カンブリア紀の地球はほとんど海に覆われており、極地にも氷河はなかったと推定されている。
氷河期ではない時期で、現在のように極地に氷河がある時期を氷河期と言う――氷河期の中でも特に寒い時期を氷期と呼び、現在はそうではない間氷期。
全地球凍結という破滅的な環境の変化が、逆に生命に多様性を与えるきっかけになった――他にも隕石の衝突などの大規模な大量絶滅が、多様な生命を進化させるきっかけになったと思われる。
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―――今は温暖化しているけど、もう少し長い時間で見れば、地球が寒冷化することもあるだろう。
そして、太陽は徐々に熱くなってくるので、10億年後には海が蒸発すると思われる。
その頃まで今の人類がいるかどうか分からないけど、一応人間は、文明がいつまでも続くように頑張るだろう。
全地球凍結のような例外もあるけど、多くの場合、地球の軌道の変化や太陽の活動の変化などによって、気候変化のフィードバックが始まると考えられている。
そういう気候変化に対して人類が上手くやっていくには、平均気温をあるレベルに保てる程度には気候の操作が必要になる――10億年もあれば、別の場所に住むなどの方法を取るかもしれないけど。
前世紀の100年で地球の平均気温は0.74℃上昇したけど、今から70年前から40年前までの30年間で、0.4℃も平均気温が下がる寒冷化が起きた――当時は地球寒冷化ということで騒がれたらしい。
これは、この期間の間に数百回の大気圏核実験が行われ、その影響で成層圏に窒素酸化物が舞い上がり、太陽からの入射量を減衰させたためだと考えられる――火山の噴火が多かったのも、影響したかもしれない。
だけど、48年前の部分的核実験禁止条約の発効によって、大気圏内と宇宙空間及び水中での核実験は、禁止となる――核兵器による気候の寒冷化は、隕石の衝突による地球寒冷化を指す衝突の冬から、核の冬という言葉を生み、科学者が警鐘を鳴らすことになった。
それで、その後は再び温暖化が始まる――ちなみに火山の大噴火は、舞い上がった灰によって一時的に寒冷化の効果があるけど、より長期的にはCO2を出すことによって温暖化の効果がある。
地球の平均気温を一定レベルに保つための気候操作として、微粒子を撒き散らして入射量を減らしたり、温室効果ガスを大量に放出して温室効果を上げたりすることが考えられる。
この研究も行われているけど、これは失敗するとかなり危険である。
より根本的には、宇宙に鏡などを浮かべるのが一番だろう。
地球と太陽の間で、相対的に位置を変えずに回り続けられる場所がある――ラグランジュポイントといい、別の場所を入れると5つあり、地球と月などのような、他の天体同士でもある。
そこに鏡を置いて、入射量を増やしたり減らしたりする。
海が蒸発するようなレベルの太陽活動になっても、対応できるだろう。
どのような方法であっても、過去の気候変化の知識はとても重要になる――現在の温暖化の研究自体もそうである。
また、火星を地球のような環境にしようと言うテラフォーミングの研究も行われていて、その試みも多くの知見を与えてくれるだろう――特に、微粒子や温室効果ガスを大気中に撒く場合などは。
過去の気候の変化の研究は、現在の温暖化の対応にも重要である。
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ずっと昔の気候を調べる方法として、その当時の地層中に保存されている、動物と植物とその花粉などの化石を調べるやりかたがある。
昔いた動植物が暖かい所に住んでいるはずのものだったり、寒い場所に生息するはずのものだったりする事で、ある程度推察できる。
より古い時代の気候は、酸素安定同位体比によって調べる事が出来る。
同位体とは同じ元素の中で、中性子の数が違うだけの元素。
元素の化学的な性質は、電子の配置によって決まる。
それで、電荷を持たない中性子が増えても電子の数に変化がなくて、重さが違うけど化学的な性質はほぼ変わらない――陽子は+の電荷を持っており、同じ数だけ-の電荷をもつ電子を持つことで、電気的に中性になる。
安定同位体は、同位体の中で放射性を持たない長期間安定しているものである。
酸素…Oには安定して存在できる同位体が3つあり、一番多いのは陽子8個と中性子8個の16Oで、天然の存在比は99.763%である――左上の16は原子量で、電子は軽いので無視して、中性子と陽子の数になる。
他は、中性子がそれぞれ1個と2個多い、17Oが0.037%で、18Oが0.200%である。
この内17Oは存在比がとても少ないので無視して、16Oと18Oの比率だけに注目する――16Oは軽い酸素、18Oは重い酸素という事である。
水…H2Oは水素…Hが2個とOが1個で出来ているので、重い18Oでできた水と、軽い16Oでできた水がある。
水が蒸発するときには、重い水よりも軽い水の方が蒸発しやすい。
それで、海には重い18Oで出来た水が比較的多めに残ることになるけど、海から蒸発した水は雨となって海や陸地へ降る。
陸の上に降った雨が海に戻れば、最終的に海の酸素と水素の同位体組成に変化はない――水素にも安定同位体があり、同じ方法で調べられる。
でも地球上の気候が寒冷化してくると、極地域など寒冷な所では雨や雪は氷床として陸の上に残る。
これが繰り返されると、海の水は徐々に18Oの比率が高まる。
この16Oと18Oの比率を調べることで、過去の気候を間接的に調べることができる。
この比率は16Oに対する18Oの割合で表され、標準平均海水…SMOWが標準試料として一般的に用いられる――SMOWは現在の平均的な海水の値を標準としたもので、18O/16O=2.005×10-3。
昔の酸素安定同位体比を調べるには、海に住んでいる、有孔虫という炭酸カルシウムの殻でできた微生物を分析する――主に1mm以下の小さな生き物で、サンゴ礁の形成にも関わっている。
有孔虫が炭酸カルシウムの殻を作るとき、海の酸素を使う――このとき、16Oと18Oのどちらも使う。
なので、気候が寒冷化して海に18Oが多いときには、その時期に生きていた有孔虫の殻には18Oが多くなる。
ということで、地層中に残っている有孔虫化石の殻にある酸素を調べることによって、過去の気候変化を間接的に調べることが出来る――炭酸カルシウムでできた鉱物を調べることでも、同じ様に調べれる。
ヒュルル ・・・・
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他にも調べる方法はあって、そうして調べられた過去の大雑把な気候変化として、4回の氷河期が推定されている。
氷河期という言葉は氷床がある時期を意味するので、南極やグリーンランドに氷床がある現在も氷河期である。
氷河期の中でも寒い時期は氷期、それより比較的暖かい時期が間氷期と呼ばれる――約1万年前に氷期が終わっていて、現在は間氷期。
現在の氷河期は4500万年前に始まっており、過去数百万年では、氷期と間氷期が4~10万年の周期で訪れている。
その前、古生代の3.5億~2.5億年前と、同じく古生代の4.6億~4.3億年前にも氷河期があった。
それに、原生代末期の全地球凍結がある。
この4回の前、27億~23億年前の原生代初期に、最も古い氷河期があったのではないかと考えられている。
この頃、二酸化炭素…CO2と水を使って炭水化物を作る、現在と同じタイプの光合成生物が現れる――廃棄物として、当時の生物には毒となる酸素を出す。
また、地球の磁場が強くなって太陽からやってくる太陽風…主に陽子と電子が、地磁気に遮られるようになる――生物にとっては盾になる。
これによって海面への生物の進出が始まり、ストロマトライトが沢山できた――生物が集めた炭素は、土砂に埋まるとかで完全には大気に還元されないので、温室効果を持つCO2が減る。
そしてこの時期に、大陸が赤道付近に集まっていたと推察されている――海より陸の方が太陽光を反射するので、赤道に大陸があると太陽からのエネルギーの吸収が弱まる。
全地球凍結の証拠としては、南極以外の世界各地でこの時代の氷河堆積物が見つかっていて、その中には古地磁気分析で当時赤道周辺であったと推定される場所も含まれてる。
そして、そのすぐ上に厚い炭酸塩岩層…キャップカーボネートが良く見つかる――この大陸の南部では、カーボネートが非常に急速に沈殿したことが分かっている。
これは、寒冷化の終結と同時にCO2の固定化…カーボネートの沈殿が開始したことを意味する――氷が融けて、大陸の侵食が始まるので。
また、氷河堆積物中から縞状鉄鉱床も見つかっている。
縞状鉄鉱床は、約22億年前の無酸素状態の海中に溶解していた鉄イオンが、その頃現れた酸素を出す光合成生物による遊離酸素と反応し、酸化鉄となって大量に沈殿した鉄鉱床である。
この鉱床の形成は、酸素が十分に増えた約19億年前まで続く――現在私たちが利用している鉄は、多くがこの時期に出来たものである。
これによって黒かった海が、青くなったと思われる。
この縞状鉄鉱床が、世界各国の7億年前の氷河堆積物中からも見つかっている。
これは、当時の海が厚い氷床に覆われて大気と分断された為に、大気とのガス交換が遮断された事を示唆している。
そのせいで光合成生物の活動が低下した結果、海水の酸素が減って、20億年前と同じような貧酸素環境になる。
それで海には鉄イオンやマンガンイオンが蓄積され、全地球凍結が終わって酸素が供給され始めると、これが鉄鉱床の形成をもたらしたと考えられるのである。
ザァァ ・・・・ ン
ザザァァァ ・・・・・ ン
現在の温暖化は、CO2やメタンの大気中濃度の上昇が主な原因となっているけど、似たような例が過去の温暖化にも見られる。
約2.5億年前の古生代ペルム紀の終わり頃、大陸の移動によってパンゲアという超大陸が出現する――パンゲアはすべての陸地という意味。
パンゲアは現在の6つの大陸が形成される前の最後の超大陸で、この頃火成活動が激化し、環境が激変したと考えられている――火成活動とはマグマの発生や移動を伴う現象全般のことで、火山活動は火成活動の一部である。
この影響で、シベリアにはシベリア洪水玄武岩と呼ばれる火山岩が広い範囲に残されており、これが当時の火山活動の痕跡と考えられている。
火山活動で発生した大量のCO2は気温の上昇を引き起こし、これによって深海のメタンハイドレートが大量に融解し、さらに温暖化に拍車をかけたと考えられる――メタンと酸素が化学反応を起こすと、CO2と水になる。
大気中に放出されたメタンと酸素の化学反応で、陸上から深海底まで酸素濃度が著しく低下し、酸欠状態になる。
このため生命は、大量絶滅を経験する――大絶滅の原因としては、隕石の衝突なども調べられている。
種の95%前後が絶滅するすさまじいもので、この時期が古生代最後のペルム紀なので、次の中生代最初の三畳紀…Triassicとの頭文字を取って、P-T境界と呼ばれる。
そしてパンゲアは、三畳紀の1.8億年前頃から、ローラシア大陸とゴンドワナ大陸に分裂を始めたと推定されている。
大陸は長い時間をかけて分裂していき、 恐竜が絶滅したK-T境界の少し前から、ヒマラヤ山脈が出来始める――この山脈が生まれたことで海流が変化し、気候に大きな影響を与える。
新生代…6500万年前~現代になって、現在のような大陸の配置に近づく。
この時期地球は暖かく、5500万年前にすさまじい温暖化が起きた――この時期は暁新世と始新世の間なので、暁新世/始新世境界温暖極大…PETMと呼ばれる。
大山脈が形成される過程では火成活動が活発で、他のプレートの活動にも影響を与えたと思われる。
この活発なプレートの運動で、海底のメタンハイドレートが気化する――メタンは大気中でCO2へと変化するし、水中でも生物の影響でCO2になる。
気候変動に関する政府間パネル…IPCCによれば、メタンの大気中での滞留期間は約12年で、気候変化のスケールで見ればあっという間だといえる。
けど、この時はメタンの供給量が多すぎて化学反応が追いつかず、大量のメタンが大気中に留まったという説もある。
メタンはCO2の21倍くらいの温室効果を持っているので、どちらにせよ激しい温暖化が起きる。
数千年で5℃近く平均気温が上がったと見積もられていて、これは氷期のサイクルが数万年に2~4℃の気温変化であることを考えると、非常なスピードであることが分かる。
PETMでは大気中の温室効果ガス濃度の増加が急激であったので、現在の気候変動とよく似ていると考えられている。
この急激な温暖化は、250万年ほどの間に5回あった可能性がある。
後の4回は最初ほどの規模ではなかったようで、メタンハイドレートが枯渇するにつれて、温室効果ガスの放出も少なくなったと考えられる。
そして約4500万年前から、気温が下がっていく―――
ザァァァ ・・・・ ン
―― ・・・
CO2の濃度の上昇は、別の影響もある。
450ppm程度を境目に、C4植物の成長力が高まる。
私たちの周りにある植物はほとんどC3植物で、これは900ppm程度まで光合成速度が増加する性質を持っている。
C4植物は、CO2濃度の低い大気条件に適応していて、高温で乾燥した気候でも高い光合成能力を発揮する。
そのため、草原にはC4植物が多く分布していると考えられている。
光合成生物が光合成で生み出す有機物の事を、純一次生産という――生態系を支えている。
草原はその気候の割りに、純一次生産量が多い。
C4植物のおかげと考えられている――作物としては、トウモロコシやサトウキビがある。
ほかに、高温で乾燥する地域に適応したCAM植物もある――CAM植物の作物としては、パイナップルやウチワサボテンがある。
CO2濃度が450ppm以下だと、C4植物の光合成速度の方がC3植物を上回っている。
このまま濃度が上昇して450ppmを超えれば、C4植物の優位性は失われる。
C4植物の減少は、畜産に影響を及ぼすと思われる。
C3植物の活性化によって炭水化物の生産量が増え、相対的にタンパク質の含有量が減るため、飼料の栄養価が低下する。
同様に、草原の家畜飼養能力も低下する――なお地球の温暖化は、家畜の熱中症のリスクを高めるため、畜産に影響を与えると思われる。
またほとんどの耕地において、C4雑草の競争力が低下しC3雑草は生長が早まる。
特にトウモロコシなどのC4作物では、C3雑草の競合によって雑草防除の手間は大変なものになると予想される。
CO2濃度の上昇による地球の純一次生産への影響は、当面はプラスに働くと思われる――660ppm程度を想定した実験では作物の収穫量も増えた。
ただ、肥料や水分が十分にある場合で、水不足とリン肥料の不足が予想される。
また、気候の変化や降雨量の変化、生態系の変化に伴って、新たな防除法の開発が必要になると思われる。
ザァァァ ・・・・ ン
―― ザザァァ ン
全地球凍結では、始まる時も終わるときも外部由来…太陽活動や地球軌道の温度変化によらない、CO2濃度の変化が先行する形で気候変化が起きたと思われる。
現在も、CO2濃度の変化が先行する形で気候温暖化が起きていると考えられている。
フィードバックの影響は時間差があるため、すでに今後しばらくの温暖化は避けられないと思われる。
気候の温暖化は人間にとって、多くの事柄でメリットをデメリットが上回ると予想されていて、なるべくその規模を小さく、変化の勢いを弱めたほうがいいと思われている。
そのためには、文明の効率を上げる必要がある――伝統的な、牧歌的な生活と言うのは効率が非常に悪く、現在の人口でそれを行えば、人にとって環境は最悪の状態になるだろう。
これは温暖化だけではなく、世界人口の増加に対する対策にもなる――深刻さの度合いはこっちの方が高い。
たとえばガソリンは、100のエネルギーを生産するのに119のエネルギーを消費しており、ガソリンエンジンはその2~3割程度しか利用できない。
もっとエネルギーを効率よく使うために、当面は人工光合成を効率よく行なうための研究が期待される――これは太陽光で水を酸素と水素に分解するだけのもので、植物のように有機物まで合成する人工光合成も研究されている。
ザァァァ ・・・・ ン
ザザァァァ ・・・・ ン
ト ト ・・・
・・・気配を感じて見ると、隣のビーチチェアに黒猫とチワワとリスがいる。
散歩は終わったのかな。
トン トン
タ タ タ ・・・
リスが、仰向けに寝てる私のお腹の上に来た。
「キキ」
私の来ている服の生地を、さわってる・・・・・
ザァァァ ・・・・ ン
ザザザァァァ ・・・・ ン
ヒュルルル ・・・・・・・