ザァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ゴォン・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・ァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
激しい雨音が、窓のガラス越しに聞こえる・・・・
・・・・・物は、温度や圧力の変化によって、固体、液体、気体・・・と、状態を変える。
ガラスは、そういった分類ではうまくおさまらない、変わった相の一つである。
凝固温度以下に冷やしても、固体にならなかった液体を、過冷却液体という。
それを更に冷やしていくと、その分子は液体のまま・・・つまり、無秩序な構造のまま凍りつき、ガラスになる。
これは固体だけど、構成粒子の配置には、秩序が無い。
固体とは違い、整った構造を持たない点で液体に似ており、実際に、ガラスはとてもゆっくりだけど、流動性を持っている。
・・・・結晶と液体の中間のような構造をしているのが液晶で、これも変わった相の一つである。
ガタ―― ・・・・・・・
物音がしたので後ろを見ると、積み上げられたトランクの上に、黒猫がいる。
・・・・・バスの一番後ろの席には、エレガントさんとノロマさんに、チーフさんが寝ている。
その空間と、私たちのいる中前列のスペースは、あのトランクの山で隔離されている。
なので、女性3人が、寝ているのか起きているのか分からないが、話し声もしないし、黒猫が自由になっているし、寝たんだろう・・・・
ザァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・ ァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・
カバンに付いている、ネコ時計を見る・・・・・
・・・・ネコレースの優勝商品である。
・・・・・・・夜の12時を過ぎている。
私は、数時間眠っていたようだ。
車内を見渡すと、ガードさんと斧さんは、起きている様子である。
・・・・・・運転席でも、物音がする。
私は、左の列の、前から2つ目の席にいる。
前後の席には、誰もいない。
カタ――
私は立ち上がって、物音のする運転席の方へ・・・・
ザァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・ ァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・雨音で、あまり聞こえなかったけど、ガイドさんが、何とかエンジンをかけようと努力しているようである。
・・・・・この国の基準では、普通は運転席は左側にあるべきだが、このバスは右側にある。
斧さんが、その運転席のすぐ後ろの席にやって来て、私と一緒に様子を見ている。
「ニャー」
ゆっくり前に歩いて来た黒猫が、鳴いた。
ガイドさんのため息が、聞こえる・・・・
斧さんが修理を試みたが、特に異常は無かったようである。
もう、エンジンがダメになったのかな・・・・
・・・・・まあ、どうしても動かなければ、歩いて帰ればいい。
明日一日かければ、町まで戻れる。
途中で別の観光客の車を見かけたら、女の人だけでも乗せてもらえば、ペースも速まる。
・・・・・・・・雨音が、響く。
どうやら、ガイドさんはあきらめた様である。
ああ無情・・・・
・・・・・私はそっと、足元を見る。
黒猫が、ブルブルしている。
「・・・・・・このポンコツめ!」
ガン――
・・・・ああ!
ガイドさんがやけくそになって、バスを叩いた。
ふふん・・・・・
叩いたって直るもんでもないさ・・・・・
・・・・・・ブロロロロン・・・・・・ ・・・・・・・・ロロロロロロロロロ・・・・・・・
ゴォン・・・・・・・ ゴロロロロロロロロロ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・ァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「アゥ」
・・・・・・エンジンが、かかった。
叩いたら動くなんて、まるで古いテレビだな・・・・・
「マロックさん、今出れば朝までには帰れますよ・・・」
まともに走れば、町までは、そんなにかからない距離である。
でも夜だし、雨で路面も悪い。
ゆっくり走って、帰るのだろう。
「・・・・・・眠くないですか」
「大丈夫です」
ブロロン・・・・・・・・・ ブロロロロロロロロロ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
バスが、動き出した・・・・
道路はデコボコしていて、車体が揺れる・・・・
・・・・・斧さんはそのまま、運転席のすぐ後ろの席で、窓の外を見ている。
私は、自分の席に戻る・・・・
ナルゲンボトルに、スポーツドリンクを入れてある。
それを、飲む。
ザァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・ ァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ゆっくり走っているから、エンジンの音が、朝よりうるさくない。
窓の外を見る・・・・・
雷光が、時折、バオバブの先端の影を、不気味に照らし出す。
この巨大な島には固有の動植物が多いが、鳥も半分が固有種である。
・・・・・昔、エピオルニスという巨大な走鳥類もいた。
もしかしたら数世紀前まで生きていたかもしれないが、恐らく1000年ほど前には、絶滅した。
エピオルニスは、体高3m、体重は約500kgに達する、これまでで最も重い鳥であった。
・・・・高さでは、やはり絶滅した、モア類の数種の方が大きい。
それらは体高が3.5mあり、最も大きな鳥だったが、これらは首をまっすぐに立てて骨格を組み立てた場合である。
生きている時は、頭は普通、背中より少し高い位置に保たれていたと思われる。
走鳥類は、飛べない。
捕食者がいないため、飛ぶ必要が無くなった鳥の末裔である。
そのため一部の走鳥類は、後からやって来た人間によって絶滅させられた。
自然淘汰による進化は、未来を予測することは無く、常に現在の成功を支持する。
飛ぶ必要が無いなら、翼を作るためのエネルギーを、子孫を残すために使ったほうがいい。
どういうケースでも、子孫を残すことに成功した遺伝子しか、受け継がれない。
・・・・・この島から東にある、比較的近い諸島に住んでいたドードーは、飛べないという点で走鳥類と同じである。
ドードーは、およそ500年前に、自分達の島にやって来た船乗り達に撲殺された、悲しい鳥である。
それまで数千年にわたって捕食者に出会ったことの無いドードーは、自分から船乗り達の所にやって来た。
ドードーという名前は、最初にやって来た船乗り達の言葉でバカという意味に由来する。
・・・・しかしドードーの肉はまずいと思われおり、必要に迫られて殺したのではなく、おそらく気晴らしに殺された。
したがって人間が上陸して2世紀も経ずにドードーが絶滅したのは、人間による殺戮だけの影響ではなかった。
人間がこの島に持ち込んだ、イヌ、ブタ、ネズミ。
これらが、地上に巣を作るドードーの卵を食べた。
そして宗教的な難民達がサトウキビを植え、生息環境を破壊した。
こういった理由が重なったことで、絶滅したと考えられている。
自然保護は極近代的な概念で、当時の人たちにはそんな考えは無かったのだ。
ザァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・ ァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・ドードーの居た諸島より、さらに、かなりずっと東の島には、モアが住んでいた。
およそ750年前に、マオリ族が上陸し、モアは絶滅した。
モアは、やはり絶滅した史上最大のワシ、ハーストワシを除いて、何千万年も捕食者を知らなかった。
したがって、おそらくドードーと同じように、何の警戒もしていなかったであろうモアを人が狩るのは、簡単だったろう。
マオリ族はモアのおいしい所だけを食べ、残りは捨てた。
・・・・・この島にいたエピオルニスも、絶滅した。
その理由の一つは、エピオルニスの卵を人々が盗んだことである。
エピオルニスの卵は最大周囲が1mにも達し、ニワトリの卵200個分の食料になったと思われる。
・・・・・注意が必要なのは、最大周囲が1mであって、直径ではない。
なので数字のイメージほど、巨大なタマゴではなかった。
ザァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・ ァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドードーの住んでいた諸島はこの島の東で、比較的近い。
そしてこれらの島が出来たのは、地質学的な基準で見れば最近で、700万年より古い島は無い。
なので証拠が無ければ、ドードーは西から・・・・この島や、すぐ西の大陸からやって来たと推定されていたかもしれない。
しかし分子的な証拠は、ドードーと、その近縁のロドリゲスドードーは、おそらく東からやってきたことを示している。
そして、ハトが変形したものであることも分かっている。
ドードーに最も近縁なのは、ロドリゲスドードーである。
そして一部のハト類は、それ以外の飛べるハト類より、この2種のドードーに近縁である。
2種のドードーと、それ以外の飛べるハト類が、最も離れている・・・という、一見した所の予想とは、違う。
ザァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ゴォォォォ・・・・・・・
・・・・・・・・・・・ァァァァァァァァ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・
モアやエピオルニスは、ダチョウやヒクイドリと同じ、走鳥類に分類される。
ダチョウ目ともいう。
走鳥類は、とても古いグループになる。
現在の鳥を、大きく2つのグループに分けると、その一つが走鳥類と、シギダチョウ目である。
シギダチョウ目は、飛べる。
もう一つのグループは、それ以外の鳥である。
・・・・今から約1.5億年前、世界の大陸は、北のローラシア大陸と、南のゴンドワナ大陸の2つに集まっていて、その間をテチス海が隔てていた。
そしてこの頃、ゴンドワナ大陸は分裂を始めていた。
退化した翼の痕跡があることから、さらにずっと昔は飛んでいたであろう走鳥類の共通の祖先は、この時期には、自由にゴンドワナ大陸を移動できた。
陸が、繋がっていたためである。
後に南極になる陸塊も、一緒だった。
この頃の南極は、今より少し北にあるだけだが、海岸線の形から、暖流が北から流れてきていたため、今よりずっと温暖な気候だった。
やがて、ゴンドワナ大陸はバラバラになっていく。
それぞれの陸塊に、走鳥類を乗せて。
それらが長い時間をかけて、モアやエピオルニス、ダチョウなどになった。
ガタン―― ガタガタガタタ・・・・・・・・ ロロロロロロロ・・・・・・・・・・・・
やがて、後にこの島になる陸が分裂し、片方が北に上がって、ヒマラヤ山脈を作ることになる。
その陸塊に乗っていたのが、ダチョウの祖先だと思われる。
その後、大陸を旅して、この島の西の大陸に来た。
ダチョウは、最初からそこにいた走鳥類の末裔ではなく、大陸移動によって遠回りをして戻ってきた、走鳥類だと思われる。
・・・・分子的な証拠は、以上のことを支持しているが、これらはあくまで最も確率の高いと思われる推測である。
ゴォォォ・・・・・・・・ン ・・・・・・・・・・・・・・・・・ァァァァァァ・・・・・・・・
・・・・・ ザァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
雷の音が、聞こえる・・・・
・・・・たぶん、斧さんも起きているようだ。
あんまり眠くないので、もう少し、窓の外を見ていよう・・・・・
・・・・・・・・・ァァァァァァァ・・・・・・・・ ザァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・
・・・・ ゴトン―― ガタタタタ・・・・・ ブロロロロロロ・・・・・・・・
・・・・・・・・ザァァァァァァァ・・・・・・・・・ ァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・