・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ォォォォォォ・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・ォォォォォォォ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・
・・・・ チャプチャプ・・・・・・ ・・・・・・・・・
洞窟の中にある、巨大な地底湖に出た・・・・・
・・・・・ここに戻る前に、ここよりも低い位置にある池の前を通る。
「クゥー・・・」
チワワが、鳴いた・・・・
地底湖の周りに沿って道があり、右側に進むと、焚き火跡のある場所に戻る。
左側には、行ってない。
ここでチワワが、正しい方向へ誘導してくれたからだ。
・・・・黒猫が、匂いをつけていたのかもしれない。
「こっち行こ・・・・・」
テムが、左側に歩き出した。
カールさんが続き、最後に私が続く・・・・
テムは、チワワのカッパについてるひもを持っていて、チワワは自分で歩いてる。
チーフさんは、ひとりで留守番。
・・・・一応誘ったけど、来なかった。
テムが洞窟内を探検したがっていたので、少し歩くことにしたのである。
正確な場所は分からないけど、この湖の上あたりが、川だと思う。
テムはチーフさんのクリップライトを借りていて、それで足元を照らしてる。
私の傘も、テムが持ってる。
カールさんと私はカバンを持って来たけど、テムのは置いてきた。
カールさんの衛星電話も、置いてきてる。
・・・ライトで先の方を照らすけど、しばらくは湖の周りを進むだけの様。
チャプ・・・ ポワン ―――
ジャリ ・・・・ タタッ・・・
チワワなどペットにされるイエイヌは、オオカミから進化した。
イエイヌは何百種もいて、大きさや色など様々な特徴を持っている。
人間が好みの特徴を選んで繁殖させて、これほどの種類を作り上げた。
新たな品種と認定された犬は、ブリーダー…育種家によって、血統を守るために人の管理下で繁殖させる。
自然淘汰の発見者のひとりであるチャールズ・ダーウィンは、当時ほとんどの人がそう考えていたように、イエイヌの祖先はオオカミだけではなく、ジャッカルなどから進化した種もいるだろうと考えていた。
現在では分子生物学によって、すべてのイエイヌはオオカミが家畜化されたものだと分かっている――ただ、世界中の幾つかの場所で独立に起こっているかもしれない。
オオカミから進化したという言い方は、一番近縁な種であるということと、進化の基準からすると比較的最近枝分かれしてるので、オオカミとイエイヌの共通の祖先は現在のオオカミによく似た動物だったろうと予想されるからである。
イエイヌとオオカミの共通の祖先から、現在のオオカミも、イエイヌと同じ時間だけ進化している。
家畜は野生に戻された場合、数世代でもとの祖先種によく似た特徴を取り戻すことが多い。
なのでイエイヌは、野生に戻ればオオカミに似てくると予想できる。
けれど野生化した野良犬は、世代を重ねても野良犬のままである。
だからイエイヌの祖先は、自然淘汰によってオオカミとの共通の祖先から進化した、野良犬の様な動物だったと想像する事が出来る。
クゥ ・・・
野生の動物は、ご飯を食べている際に近づくことで逃走距離を知ることができる――どのくらいまで近づけば逃げるかの距離で、どの動物にも周りの環境に対する最適の逃走距離がある。
たとえばアンテロープが草原で草を食べていてライオンが来た場合、あまりに早く逃げるのではまともに食事が出来ない。
けど、かなりライオンが接近するまで食べ続けていると、ライオンに食べられてしまうリスクが高まる。
最適の逃走距離は常に変化するだろうけど、それに合うような変化が自然淘汰によって選択される。
オオカミはその距離が長い。
人間のゴミ捨て場は、野生の動物には食料庫である。
それは比較的新しく現れた食料源で、それまでのオオカミの逃走距離では、人のゴミ捨て場を漁るには臆病すぎる。
だけど遺伝子の突然変異によって、少し逃走距離の短い個体が現れたとする。
そのオオカミはゴミ捨て場で食事をしている時に人の姿が見えても、より長く食べ続けるので、他のオオカミより少し有利になる。
したがって繁殖に成功する可能性が少し高まり、その遺伝子がその集団内で広がる可能性も高くなる。
世代を重ねるにつれて、その中からさらに短い逃走距離の個体が利益を得るようになり、その傾向は徐々に、人間が攻撃してくるギリギリの距離まで縮まっていく。
―――有性生殖する生物の場合、同じ特徴に影響を与える様々な遺伝子が集団内に散らばっていて、遺伝子プールと呼ばれる。
これは個体差をうむもので、生殖時に組み合わせが変わるので子供は親とは同じにならない。
オオカミの逃走距離に関する遺伝子も、最適値よりも少し短いものから少し長いものまで、幾らかの範囲で散らばっている。
このような遺伝子の変化は過去に起こった突然変異によるもので、極端に長いものや短いものは淘汰されるだろうけど、最適値から少ししか離れてない遺伝子は極端に不利ではなくそれなりに繁殖に成功するので、遺伝子プール内に残る。
したがって実際のところ、有性生殖をする生物はほとんどの場合で、新たな環境に対応する突然変異を待つ必要はない。
すでにある遺伝子プール内から、新しい環境…どちらかに少しずれた最適値に適したものが利益を得るので、その遺伝子を持った個体が平均的に子孫を残すことに成功し、集団内での数を増やしていく。
今のオオカミの話の場合、人のゴミ捨て場の出現と言う環境の変化によって、逃走距離の平均的な傾向が短くなっていく―――
・・・・・ォォォォォォォォ・・・・・・・
カツン ―― チャプ ・・・
半世紀ほど前に、アカギツネの色変わりの変種である、ギンギツネを選抜育種した実験が行われた――当時ギンギツネの皮は高かったので、家畜化の研究が試みられたのである。
遺伝学者のドミトリー・ベリヤエフによるもので、彼の死後も研究は続けられ、約40年におよぶ実験となった。
実験の方法は作物やペットの品種改良と同じで、偶然現れた、理想に近い特徴を持った個体を選んで交配させる。
選抜の基準としては、見た目やしぐさの可愛らしさと言ったものではなく、逃走距離に似たものが用いられた。
子ギツネが対象で、研究者が手でエサを与えようとして、そのとき体を撫でたり触れたりすることを試みる――成長したキツネでは、人がエサをくれることを覚えてしまうので。
その際の様子で、カテゴリーを3つに分けた。
最初のグループは、人から逃げるキツネ。
次のグループは、逃げはしないけど積極的に人に関わる素振りは見せないキツネ。
そして最後は、積極的に人に懐いて、シッポを振ったり鳴いたりするキツネ。
研究者は、最後のグループのキツネだけを選んで繁殖させた。
これを6世代続けた後、もうひとつの新たなグループが出来る。
予想以上に、人に懐く個体が現れ始めたからである――人の注意を引きたがり、クンクン鳴いて近寄り、なめようとする個体が出てきた。
この最後のグループは、最初はまったくいなかった。
それが10世代後には18%、20世代後には35%、30世代以降は70~80%になった。
研究者の予想以上に結果が出るのが早かったけど、犬や野菜の品種改良の経験から、この結果自体は驚くものではなかった。
それとは別に、研究者の予想外の結果が出た。
選抜育種によって犬のように振る舞うキツネになったけど、それと一緒に、見た目まで犬に似てきたのである。
キツネらしい毛は失われ、白と黒のまだらになった――このため、高価なギンギツネの家畜化という当初の目標は達成されなかった。
下を向いていた尾は犬の様に巻き上がり、雌ギツネの発情期が年1回から、雌犬と同じ半年ごとになった――犬のような声も出したらしい。
この犬のような特徴は、研究者が意図して選抜育種したものではない。
選んでいたのは人に対しての慣れやすさだけであり、したがってそれに関連する遺伝子の変異だけである。
ジャリ・・・ ジャリ・・・
―― ポツン
ひとつの遺伝子が、一見関係無さそうな特徴2つ以上に効果を持つ場合があって、これは多面発現と呼ばれる――この関係を明らかにするのは難しく、胚発生の過程の理解に伴って、徐々に知見が得られている。
垂れ耳やまだら模様といった、ある種の犬やベリヤエフの実験キツネの外見は、慣れやすさの遺伝子が多面発現的に関連していると思われる。
これは一般的には、ある特徴を進化させた推進力を考える際、その特徴自体が自然淘汰によって選ばれたものでは無い可能性があるということである。
それは遺伝子の多面発現によって引きずられただけで、実際には関連する別の特徴が選択されたのかもしれないのである。
ベリヤエフの実験から、キツネやイヌの逃走距離に関連する遺伝子は、おそらく見た目のイヌらしさにも関わっている。
したがって逃走距離を徐々に縮めてきた野生のオオカミは、その時点で、おそらく見た目も野良犬の様になっていたという予想を支持するものになる――そこから人為淘汰…選抜育種によって、現在のような品種に枝分かれした。
チャプチャプ・・・・・ チャプチャプ・・・・・
・・・・・分かれ道だ・・・・・・
まっすぐ湖の周りを進む道は、細く、足場が悪くなっている。
左側に進むのが、よさそうである。
・・・・カールさんはテムと話しながら、先を進む・・・・・
私は、カバンに付けてあるネコ時計を見る。
・・・・・もう少しいいか・・・・・
おや。
割れた石がある。
ゴリ・・・・ ――――ゴン ・・・・・・・
割れた石同士を、ぶつけてみた。
ライトを外すと、少し光ってるのが分かる。
鉱物に混じった不純物が、摩擦で励起されて光ってるのだ。
何の石かな・・・・
紫外線ランプがあれば、この洞窟は夜空の様になるかもしれない。
クゥー・・・・・
・・・・少し、チワワたちから離れてしまった。
ジャリ・・・・
私は立ち上がって、追いかける。
・・・・・・ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ォォォォォォォォォォォ・・・・・・・・・・・・・
・・・ジャリッ・・・・・ トトトトト・・・・・・・・・
ザッ・・・・ ザッ・・・・