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日本歴史紀行

歴史紀行 動物編 1 - 13 南極観測隊樺太犬タロ、ジロ 13


樺太犬タロ、ジロ像
愛知県名古屋市港区ガーデン埠頭






1959年昭和34年1月14日
生存を絶望視していた犬が生きていた。


犬係の北村泰一隊員は偵察ヘリからの連絡に逸(はや)る気持ちを抑えて輸送ヘリに乗り込み宗谷を発ちました。


宗谷から昭和基地まで約140キロ。
これまで天候に散々苦しめられた第一次観測隊の経験に基づき、安全を考慮して積載重量は厳守、宗谷を発って約2時間後、北村泰一隊員の眼下にかつて樺太犬達の訓練を兼ねてソリを走らせたプリンス・オラフ海岸が広がります。
 

そして昭和基地のあるオングル島。
やがて昭和基地が姿を現しました。


オレンジ色のブロックを並べた様な建物は氷上からはハッキリと確認できます。


ヘリが着陸すると、北村隊員の100メートルほど先に黒い固まりが2つあり、駆け寄ります。


犬たちです。


北村隊員は、空腹で痩せこけた姿を想像していましたが、北村隊員の視線の先にある犬は、丸々と太り、体毛も置き去りにした当時よりも伸びて、犬というより、まるで小熊の様な姿でした。

犬たちは、ある程度まで駆け寄って来たものの、途中で2頭共に立ち止まり、頭を垂れ、警戒しているのが、よくわかります。


北村隊員は犬たちを抱きしめたい衝動を必死に抑え、なんとか警戒心を解けないか、身振り手振りをしてみても、犬の反応は鈍いまま、このまま抱きしめようとすれば、噛みつかれるのではないか、恨んでもいるだろう。それでも構わないと脳裏に過ぎった時、北村隊員の方から少しずつ近づいていきました。

犬たちは動かず、手の届く距離まで近いた北村隊員は、犬の名前を呼んでみます。

1年間、一緒に過ごした北村隊員ですら、判別がつかない程、目の前にいる2頭の犬は、見た目が変わっていました。

【おまえはクマ?】

【〜いやモク?】

北村隊員は黒い体毛だった犬の名前を呼んでみましたが、犬に反応は無く、そして…


【タロ?】

と呼んだところ、1頭がピクッと身体を動かします。

【タロ!】

今度は 尻尾をハッキリと動かしました。


すると、もう1頭はジロ。

もう1頭は招き猫の様に前足を上げます。
ジロが越冬中に見せていた愛嬌のある仕草を北村隊員に再びして見せました。

それにジロの身体の特徴である胸と足先の毛が白いことが決定的でした。

北村隊員は、それからは2頭を撫で、頰擦りし、抱き締めて雪の上を転げ回り、他の隊員が近づくまで2頭との時を過ごしました。




タロ、ジロと喜びの再会を果たした後、北村隊員は、かつて犬たちを繋いだ場所へ向かいました。


やはり…


積もった雪を取り除くと、
アカ、クロ、ゴロ、ポチ、モク、紋別のクマ

首輪から脱出出来なかった7頭の犬が横たわったまま見つかりました。





リーダー犬のリキ、
タロ、ジロの父犬の風連のクマ、
先導犬シロ、
アンコ、
ジャック、
デリー、
の6頭は首輪を抜けたまま行方不明でした。



昭和34年3月の彼岸
北村隊員は亡き犬を彼らが一生懸命引っ張っていたソリに乗せ、昭和基地と南極大陸の間にあるオングル海峡まで引っ張り、押し潰されそうな魂で 一頭ずつ水葬しました。


 
タロ、ジロ生存のニュースは日本中に感動を与えました。








第三次越冬隊が南極に留まり、
タロ、ジロはしばらく南極で観測隊と過ごします。

タロとジロがすっかり南極の環境に慣れてしまっていること、第四次隊の犬達と生活させようという思いからでした。

しかし、翌年の昭和35年7月9日、ジロは病気になり、第四次越冬中に5歳で死に、タロは第一次越冬隊唯一の生き残りとして第四次越冬隊と共に昭和36年5月4日に日本に帰国します。


タロはその後、生まれ故郷の北海道へ戻り、札幌市の北海道大学植物園に引き取られ、穏やかな老後を過ごします。

タロが札幌で晩年を過ごしている昭和43年、昭和基地近くで一頭の犬が遺体で見つかりました。


白い短毛の特徴から、リーダー犬のリキと推定されました。

この事実により、北村隊員は、かつて越冬中にまだ幼かったタロ、ジロの兄弟犬の世話をよくしていたリキの存在がタロ、ジロの生存に深く繋がっていたと考えました。






そしてタロは帰国から9年後の昭和45年8月11日、老衰で14歳7ヶ月、人間で例えると80〜90歳の長寿でした。


リキ

タロ

シロ

観測船 宗谷



タロ、ジロの像






1957年 昭和32年2月、第一次南極観測隊は、西堀栄三郎観測隊副隊長を隊長として、日本初の南極越冬を実現させた後、第二次隊へ引き継ぐ間際に数多くの不運に見舞われ、多くの犬を犠牲にしました。

日本中からの非難は、第一陣として数々の偉業を成した成果を掻き消すものでしたが、わずか2頭ですが南極の厳しい環境を生き残り、再び越冬隊の北村泰一隊員と再会を果たした喜びは、永遠に語り継がれる物語でしょう。




これまでの樺太犬タロ、ジロの記事を書くにあたり、越冬隊 北村泰一隊員、菊池徹隊員の数々の著書、それに国立極地研究所、公開のデータ、パンフレット等を参考にさせていただきました。













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