大高評定 2
戦の模様を見物していた百姓らが騒ぎ立てているのを大手門の番卒が目撃していた。
元康君は義元様が間もなく見えるだろうから、城の警護を厳重にせよと命じられる一方で、昨夜から一睡もせずに砦を落とし、兵糧入れも成功させた兵の疲れも出るだろうと心を砕き、交代で休みをとらせた。
陽が陰ると、
元康君の御母方の兄上、伯父上にあたられる水野下野守信元の重臣、浅井六之助道忠と名乗る者が城下に現れた。
元康君の伯父上といっても、今は織田方にある御身じゃないか。
【一刻を争う直ちに元康様にお目通りを。】
六之助道忠がそう訴えかけているものの、
元康君の厳命だからと頑なになっている
大手門の番卒らの問答を聞いた石川数正が制して六之助道忠を招き入れた。
元康君は、数正が六之助道忠から預かった脇差に視線を向けた。
水野家の家紋、特徴ある水野沢瀉(みずのおもだか)を確認して使者が水野の伯父で間違いないと確信した。
【道忠、伯父上の使者というのは間違いないようだが。】
【では、我が主の口上を申しあげる。今川殿は既に討たれた、駿河の兵はみな城々を捨て明け渡された。織田の軍勢は明日にも押し寄せよう。君も早々にこの城を捨て駿河に引き上げられよ。】
城下の流言としていた松平の御家人達も、元康君の伯父上からの使者の口上から、この様な話を聞かされた重臣達も口を揃えて明け渡しを主張し始めた。
元康君はしばらく重臣達のやり取りを聞いていたが、二の丸に居合わせた全員の話が終わるのを待った。
【野州は母方の親類ではあるが、今は織田方に属している、その言葉はにわかに信じがたい。その言葉が嘘であったら、三河衆は流言を信じて城を明け渡したと嘲り笑われるだろう。三河者は臆病者だと後ろ指を指されるのは、武門の恥辱である。】
そう話すと、元康君は六之助を捕らえ置き、信じるに足る者〜三河者の知らせを待つことにすると言って、更に守りを強固にさせ、月が出るまで将兵らは交代で休む様に命じられ、本丸にお移りになった。
本丸に移られた元康君は、側から離れない平八郎に、【平八、夜陰に紛れて城を出ることになるだろう、夜通しになる。そちも休んでおけ。】
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水野沢瀉(みずのおもだか)紋〜水野家家紋