チンネと池ノ谷ガリー
北方稜線に入るとそれまでの喧騒が嘘のように静まり返った世界が広がっていた。
ここでようやくザックを下して本格的な休憩を取ることにした。
考えてみれば、朝6時に出発して3時間あまり、ウィダーイン以外は水しか口にしていない。
ザックから乏しい食料を取り出して摂食する。 今回の行動食はポンパドールのチーズオニオンブレッドハーフを2つと7プレミアムのチョコスティックブレッド1袋、ヤマザキのランチパック1、ウィダーイン2が3日間+1日の全てである。 その他お菓子として、チョコスナックや柿の種を少々、焼き栗とナッツ&フルーツのミニパックも。
結果として4日間行動したので、ほぼちょうどよかった。
食料や装備は持てば持つほど安心ではあるが、必要以上のモノは無駄な重量に過ぎない。
自分がどれくらいのエネルギーで動けるかは経験を積めばわかるものだ。 必要最低限とは言わないが、必要充分を冷静に計算するべきだろう。 大抵はかなり余らせて下山しているはずなので、少しづつ減らしていけば自分の適量がわかってくる。
長次郎の頭 右側のルンゼを登り、回り込む。
長次郎のコルより本峰を振り返る
このようなバンドが数多く走っている。 うまくルートファインディングをして行かないと、難しいクライムダウンやトラバースを強いられることになる。
しかし、戻るのも簡単ではないのでザックを背負って4級くらいの岩場の登下降くらいが出来ないと危険である。
私は多少強引にショートカットしていったので、5.8くらいのクライムダウンやトラバースが入ってしまった。
皆様はあまり無理せず、難しいと思ったら戻ってやり直してくださいね。
源次郎尾根
八つ峰
八つ峰の頭付近
実はここでルートファインディングに迷ってしまった。
このコルからの降り口は急峻なガリーで、一目見て、ルートではないことが分かったが、
少し戻って斜面をくだってから回り込むのか、左側の稜線伝いに行くのか、判断がつかない。
ふと、ガチャのこすれる音が聞こえたので振り返るといま来た岩場を登っているパーティーがある。
ダメモトで対岸にいる人を呼び掛けて聞いてみた。
すると、なんと富山県警の警備隊のパーティーであった。 訓練なのかパトロールなのか、プライベート山行なのかわからないが、私が単独であることを認めると反対にいろいろ尋問されてしまった。
私:「池の谷乗越へは左ですか、右ですか?」
警備隊:「一人ですか? どこにいるかわかっていますか?」
私:「北方稜線を池の平に向かっています」
警備隊:「そこでルートに迷っているようなら引き返してください」
私:「・・・・・・・・・・・・・」
警備隊:「装備は、住所は、名前は、登山届は、経験は?etc]
もう完全に尋問状態。 百メートルを隔てて取り調べである。
「お前がやったんだろう。 ネタは上がってるんだ」
「嫁さんは泣いているぞ。」
警備隊からみれば、北方稜線に迷い込んだ危ない中高年の単独登山者と考えられても仕方ないのかもしれない。
実際、行方不明や滑落事故が多発しているルートである。 この日も行方不明者が出たので、後日私に情報提供依頼の電話が県警からかかってきた
一通り勧告したことで満足したのか、警備隊は行ってしまった。
結局ルートのことは何も教えてくれなかったが・・・・
さて、ヒトを当にしたのが間違いだった。
単独行は自分だけが頼りなのだ。
もう一度注意深く探しているとルートが見つかった。
ここから池の谷乗越までは急峻に落ち込んでいるために、上からのルートファインディングが難しいのだ。
3級程度の岩場を30mくらい降りるとそこが池ノ谷乗越だ。
池ノ谷乗越から降りてきた壁を見上げる。
正面に小窓の王が見えている。
これからは一番の危険地帯と言われる池ノ谷ガリーを降りる。 およそ200mくらいの非常に不安定なガレ場を下る。
チンネ側に沿って降りるといいらしいが、前半は反対の左岸に沿って踏みあとがあり、さほど苦労せず15分ほどで三の窓に降りれた。
池の谷ガリー
クレオパトラニードル
ここで休憩していると池ノ谷の下の方からガスが上がってきた。
ここから先が迷いやすいのに、まずいな。 先を急ぐ。
発射台のランペを登りきると小窓の王の基部だ。 ここで、自分の間違った思い込みでルートミス
三の窓雪渓と小窓雪渓が並列していると思い込み、 小窓の王を回り込むバンドを行って、あまりの悪さに引き返した。
地図アプリのGeographicaで地形を確認。 小窓尾根が左に折れている。
ガスの切れ間に踏みあとが見えた。
ここから小窓雪渓へのルートがわからず、1時間ほど右往左往する。
事前にあまり情報を仕入れないで来たので、こういう細かい部分で立ち往生する羽目に。
ガスはますます濃く、しばらく晴れる見込みが無い。 仕方ないので尾根伝いに池の平山を目指すことにしたが、これが道なき道で大変だった。
こんな調子ではビバークになるなと弱気になったところで、ガスが晴れ小窓と雪渓が見えた。
なんだ、あんなに近いのか
剣尾根と池ノ谷
小窓雪渓
目標さえ見えれば問題ない。 尾根から直角に下り、踏みあとに合流。
途中の急峻な雪渓は下部から回り込むことができた。
小窓尾根から見上げる小窓の王。
小窓と池の平山
小窓に13時40分到着。 池ノ谷乗越から2時間が経過していた。 約1時間のロスト。
ここは、テント2張りくらいの平地がある。 天候悪化の際はビバークポイントとなろう。
ようやく縦走の核心部を越えた。 コーヒーを沸かして休憩する。
先ほどの藪漕ぎで汗だくになったし、体力を消耗した。 こういうところでコーヒーブレークを入れて
余裕を取り戻さないと、疲労や焦りは遭難のトリガーになりうる。 行動食も食べてエネルギーチャージ。
さて、小窓雪渓から鉱山道に上がるポイントは見落としやすいと聞いていたので、地形図の直線距離を測り地図アプリのGeographicaでマークを打つ。 約1㎞で設定した。 ただしオフラインのため高度は出ない。
雪渓に降りると、結構硬くて滑りやすい。 持参した簡易アイゼンを装着して降りていく。
幸い視界は良く、登山道のマーキングはすぐに発見できた。 地図アプリのマークではまだ800mであるが、雪渓の末端ではなく、小窓から測ったからかもしれない。
小窓雪渓と2段の滝 これが対岸に見えたら鉱山道の入り口だ。
鉱山道は一般道ではない。
というか、全行程中ここが一番危険を感じたところだ。 雪渓側は崖となっており、高さは100m近いと思う。 道もところどころ崩れていて、トラロープ も撤去されている。
池ノ平山への分岐からは一般登山道となり、紅葉を眺めながら小屋までのんびり歩く。
15時過ぎようやく池ノ平小屋に到着。
ここのテン場はとても平で芝生もあり、眺めも素晴らしい。
小屋はこじんまりとしており、収容人数は30名がやっとだろう。
夕食を頼めないか聞いたが、宿泊でないとダメだというので、小屋に泊まることにした。
食料がないわけではないが、予備食程度のものなので。 夕食は小屋をあてにしてたからだ。
夕食・朝食ともにじゃらんで言えば★2つくらいの内容だった。 がんばりましょう。
しかし、ここは沸かし湯だがお風呂に入れる。 汗をかいた疲れた体には最高のごちそうで、風呂に入れただけで泊った価値があった。
<タイム> Geographicaのログ
2015年9月29日(火) 晴れのち曇り
剣沢 06:00 2526m
剣山荘 06:30
前剣 7:56 2809m
剣本峰 09:23 2999m
長次郎のコル 10:09 2873m
八つ峰の頭 10:48→ 11:10 尋問により20分ロス
池ノ谷乗越 11:35
三の窓下 11:45 2654m
小窓の王 12:07 ルートミスにより1時間ロスト
小窓 13:40 → 14:08 休憩 2305m
鉱山道分岐: 14:27 2122m
池ノ平小屋 15:10 2045m