人間の根本的、基本的欲望は「生きたい」「死にたくない」ということです。そうした欲望があるだけで、さまざまな苦しみを受けるのに、それが高じて、「人より儲けたい」「人に勝ちたい」「人を支配したい」となると、人間の苦しみはますます大きくなってしまいます。欲望が少なければ少ないほど、人間は心安らかに生きられるのです。
すべてのものごとは人間の心が作り出しています。科学も人間の心が作り出しています。科学は事実を発見する営みではなく、事実を作り出す営みです。たとえばブラックホール。ブラックホールは発見されたのではなく、心によって創造されたのです。しかも心が作り出しているのだから、“想像”でもあります。人間が想像に想像を重ねてきたことを自分たちが“創造”した、と思い込むことが人間の業です。
あなたの目や耳などの五官、そしてあなたの心でとらえているものはすべて一瞬、一瞬現れては消えています。実体のあるものは何もありません。あなた自身でさえ、おなじです。あなたにつかめるものも、触れるものもありません。すべてが影法師です。人も、車も、家も、海も、山も、みんな影法師です。
いかなる偉人超人の神秘体験や至高体験も個人的であって、万人のものにはなり得ません。したがて、真理とは言えません。でも、老いること、病むこと、死ぬことは万人が体験します。すなわち、「生滅変化の法則」だけが真理と言えるのです。
あなたは神さまや仏さまの存在を信じてもいいし、信じなくてもいいのです。実際に、信じても、信じなくても、幸せな人もいるし、不幸せな人もいます。でも、「変化の法則」「自業自得の法則」は“信じる”“信じない”ではなく、だれもが、“知らなくてはならない”ものなのです。
毎日世界のあらゆる所で人が亡くなっています。大切な人を失って無数の人が悲しんでいます。他方、「人間はいつでも死に得る。必ず死ぬ」という自然法則を受けいれて、大切な人の死に対する怒りや悲しみを乗り越える人も無数にいます。
ありとあらゆるものが光より速く生じては滅しています。現れては消えているのです。あなたの身体をつくっているミクロレベルの粒子が一瞬一瞬、生じては滅しています。そしてあなたをとりまくマクロレベルの大宇宙の果てまで一瞬一瞬、消えては現れているのです。あなたに見えるものはすべて滅して消えていくものの残像に過ぎないのです。
人間が“絶対に勝つことができない”ものが三つあります。それは、老いと病と死です。人間みんな敗者です。老いと病と死を人間の自然現象として受け入れ、“いま、ここ”を心穏やかに、幸せに生きる人がほんとうの勝者です。
すべての現象は一瞬にして過ぎ去っています。あなたの喜びや楽しみ、悲しみや苦しみと心持ちも、そして、それらをあなたに与えた人やモノもすべて過ぎ去っていきます。すべてが変化し、消えてなくなります。その真理への理解が深まれば深まるほど、心は静かになるのです。