BMI(肥満指数)が35以上の病的な肥満の人では、運動や食事など生活習慣を改善しても減量に成功する割合は低いとされている。そこで登場するのが、胃の容量を減らしたり、胃を迂回(うかい)して小腸につなげたりする減量手術。米ピッツバーグ大学医療センターのアニタ・P・コーカラス教授らは、肥満の糖尿病(2型)患者に減量手術と軽めの生活習慣の改善指導を行ったところ、強めの生活習慣の改善指導のみをした場合と比べて糖尿病が寛解(症状が一時的に治まった状態)する割合が高かったと、7月1日発行の米外科専門誌「JAMA Surgery」(電子版)に報告した。この効果は、病的肥満だけでなく、BMIが30~35の人でも認められたという。
◆日本では2014年に保険適用
減量手術は「肥満手術」や「メタボリック手術」などとも呼ばれ、世界で年間40万件以上が実施されている。日本での手術件数は少ないが、2014年から健康保険が使えるようになった。手術を受けるには、(1)BMIが35以上の高度肥満、(2)生活習慣の改善でも減量できない、(3)糖尿病(2型)や高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群など体重に関連した健康問題を抱えている―などが条件とされている。
コーカラス教授らは、25~55歳の肥満の糖尿病患者61人(平均47.3歳、女性82%、平均体重100.5キロ、平均HbA1c 7.8%、平均空腹時血糖値171.3mg/dL)を以下の2つのグループに分け、糖尿病への効果を比べた。なお、今回の対象者の4割以上が、日本では多くの施設で手術の条件に当てはまらないBMI 30~35の病的でない肥満だった。
1.強めの生活習慣改善を1年間行った後、軽めの生活習慣改善を2年間するグループ
2.減量手術(ルーワイ胃バイパス術=RYGB、または腹腔鏡下胃バンディング術=LAGB)を行った後、軽めの生活習慣改善を2年間するグループ
ちなみに、国内で健康保険が使えるのは「腹腔鏡下袖状(スリーブ)胃切除術(LSG)」と呼ばれる胃の容量を減らす手術のみ。今回の2つの手術方法には保険が適用されない。
◆減量手術受けた6割が3年で薬不要に
検討の結果、3年後に糖尿病の寛解(部分寛解または完全寛解)を達成した人は、生活習慣改善のみではゼロだったのに対し、減量手術をしたグループでは胃バイパス術(RYGB)で40%(8人)、胃バンディング術(LAGB)で29%(6人)。完全寛解に限定すると、RYGBの15%とLAGBの5%で認められた。
さらに、減量手術グループでは糖尿病治療薬の使用率が下がり、RYGB群の65%とLAGB群の33%で3年後にインスリンや飲み薬が不要となった。一方で、生活習慣改善のみのグループではこうした人はゼロだった。
3年後の減量率はRYGBで最も高く25%減、次いでLAGBの15%減で、生活習慣改善のみは5.7%減にとどまった。また、減量手術グループでは、肥満の程度を問わず、血糖値の目標達成率と維持率がいずれも生活習慣改善のみと比べて高かったという。
◆「全ての高度肥満糖尿病患者に減量手術を」
コーカラス教授らは、今回の研究の要点の一つとして、対象者の43%がBMI 30~35だったことを挙げ、「3年間の長期追跡で、BMIが30~35を含む肥満の糖尿病患者で、減量手術が生活習慣のみよりも糖尿病への効果が優れるという重要なエビデンス(根拠となる研究結果)が追加された」とまとめた。
ただし「減量手術が大小の血管に与える影響や、手術が糖尿病に影響を与える明確な仕組みについては特定することができなかった」と付け加えている。
この結果を受けて米フロリダ国際大学のミシェル・ギャグナー教授は、同号の論評(電子版)で「全ての高度肥満の2型糖尿病患者に減量手術を行うことを考慮し、冠動脈バイパス術(CABG)で50年前に導入されたような集団治療を開始すべき」と述べている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150712-00010006-mocosuku-hlth