バロックヴァイオリン 佐藤 泉  Izumi SATO

「コンサート情報」や「日々の気づき」などをメモしています。

菅 きよみさん ⑧

2023年10月24日 | コンサート情報
そんなこんなで、2023年現在に辿り着きました。

2023年11月23日にお聴き頂く最後の曲、バッハのトリオソナタBWV1039 は、現存する筆写譜やバッハのガンバソナタで残された自筆譜などを見比べうるち、細部の違いがどこから来るのか分からず混乱しておりました。老眼の影響で細かいチェックに悲鳴を上げていたある日 友人がいとも簡単に「あ、私ベーレンライターの現代譜持ってますよ!」というので、そっか 今は2023年・・・と気が付かない自分に呆れたのでした。(いつの時代の人?)

そう、今は2023年ではないですか! 恐らくバルトルド・クイケン校訂譜があるはず と検索すると案の定ありました。
2016年発売。。。なんで気が付かなかったのか!我ながらあほやなあ・・・と思う。

バルトルド・クイケンはもう40年以上図書館にいることが最も多い演奏家ではないかと想像します。なので現存するあらゆる筆写譜を調査、細かくチャックした上で校訂譜を出されるのです。

それを自分でしてこそ良い演奏が出来る訳ですが、老眼と語学のハンデに甘えて、この楽譜買っちゃいました
すると、なるほどなるほど~~~。バルトの調査と謙虚な考察、演奏家の思考を邪魔しないあらゆる配慮も伝わります。だからこそバッハが何を意図して書いたのかを考える一番大きな助けになるのでした。

菅さんが「え~っと、ここはなんでこうなる??」 と言い始めると部屋はすぐにこんな感じに。古楽あるあるですが、 あれ?どこかで見たことある光景。。。と思ったら、そう昔一緒の下宿にいた時の記憶。



昔、菅さんを尊敬し憧れるからこそ、私はバッハではなく、ついつい菅さんに注目して一緒に弾いていた。すると、音楽がよく分からなくなり、野球で言えばボール玉ばかり振るような状態になるのでした。

20年近くたって見えて来たのは、相手ではなく、バッハの意図を探り、腑に落ちるまで納得した上で一緒に弾くと、すっきりクリアな透明感を持って、シンプルに一致するという事。バルトルド・クイケンの教えです。

これで、良い演奏会になるね!と安堵した二人でした。(いやいや練習はここからよ

では、11月23日お待ち致しております。 
次回は福澤先生と山縣万里さんの通奏低音隊についてご紹介します。


菅 きよみさん ⑦

2023年10月23日 | コンサート情報
1970年代から模索が続いた古楽界も、時間が経つにつれ、1990年代にはクラシック期の楽器も模索し演奏するようになりました。

クラシック期のオリジナルのフルートや、そのコピーを皆が手に入れ練習し、ハイドン、モーツアルト、そしてついにはベートーヴェンまで演奏するように。

しばらくして我々もベートーヴェンの交響曲にトライし始めた頃、初めて第9を聴いた菅さんが目を丸くして、「何この音楽!?びっくりした@@」と茫然としていたのをよく覚えています。

モダンオケの人はもう全部覚えてしまっている耳慣れたレパートリーですから、逆に驚く菅さんに驚く。
特にフルートのお休み部分(数十小節ある)を 前田 りり子さんと 菅さんが指折り数える姿に爆笑する人もいました。

ハイドンがベートーヴェンに驚き、手に負えんわ・・・と思った気持ちを きっと菅さんは実感出来たのだと思います。

モダンオケの経験がある私も15年ほどバロックだけを演奏していると、久々のベートーヴェンで、ティンパニが登場した途端、何か爆発したのかと、リハーサル中に心の中で「きゃあ@」と叫び思いっきり振り返ったくらいですから。

練習中に、そうか、、この頃きっと武器も大規模化したんだろうな・・・更に騒がしく物騒な時代に入るんやな・・・とぶつぶつ思ったものでした。(指揮者の秀美さんが、本気で弾いてない!と憤慨されたのも無理はない。新しい時代に驚く老人の心境だったのですから)

続く

菅 きよみさん ⑥

2023年10月14日 | コンサート情報
続きです。

その後、バッハコレギウム ジャパンのオーディションに合格した菅さんは、前田りり子さんと共に、今に至るまで20年以上メンバーとして国内外の演奏旅行に、レコーディングに参加する様になりました。

マタイ、ヨハネの受難曲やカンタータのアリアに寄り添うトラヴェルソ・ソロ、アンサンブル曲のCDは数が多すぎて本人も把握出来ていないそう

2007年には日本に帰国。その前に結婚もしていたので、出産前は大きなお腹でオーケストラに参加。出産後はお母さまの助けを借りて、娘さんを連れてオーケストラの練習に行ったりしていました。

私が妹の車に乗ると、いつも菅さんの 「モーツアルト:フルート四重奏曲」のCDがかかるのですが、”あの2月の寒い時に、子育て真っ最中に、よくこれだけの演奏したなあ・・・」と感慨にふける私です。
その時丁度上京して彼女の家に泊まっていたのですが、レコーディングから夜遅く戻った菅さんに、”どうだった?”と聞くと、「面白かった! 若松夏美さんも 鈴木秀美さんも すごく素晴らしくて助けられた!」と 
玄関で輝いていたのを思い出します。 昔下宿で”どうだった?” 「普通。。。」と言っていた表情とは大違い。色々大変ながらも強くなったなあ、、、自分を存分に生かせる場所にいるんだなあ。。。と安堵したことでした。



菅 きよみさん ⑤

2023年10月01日 | コンサート情報
続きです。 

そうこうするうちに1999年夏を迎えました。
菅さんはブリュージュの古楽国際コンクールに挑戦。会場で見守る私。自分が弾く方がドキドキしないもんだな・・・と自覚。

最初はテレマンのとてもシンプルなソナタでした。他のトラヴェルソ奏者とは明らかに違う 遅いテンポを選んだ菅さん、”さっき聞いたのと同じ曲とは思えない。。。。”と皆が感じたのが分かりました。

次第に波に飲み込まれる様な感動が会場を包みました。殆ど演奏会 

すると隣のベルギー人トラヴェルソの学生が、走って外へ出て行ったのでした。後で聞くと「号泣しそうで外へ行ったの。そこで思う存分泣いたわ。あんな感動的な演奏初めて」とのこと。

その伝説の曲をもう一度聞きたくて、11月23日のコンサートでも無理を言って、1楽章だけ演奏して頂くことに。是非ご期待下さい

さて、翌日本選となりました。

一位になったヴァイオリンの桐山さん(宮様)は燕尾服の正装で登場。2位になった前田りり子さんも美しいピンクとブルーが微妙に混ざったドレスで正装。

その後、きよみは、普段着で登場。あまりに普段通りの演奏で、それはそれでよかったのだが、ちょっとしたミスがあって3位。

後で鈴木秀美さんに叱られたのは、私でした  「なんであんな服装で出場させたんだ!」 って言われましても 前日からきよみはブリュージュにいたので、どんな服持って行ったかは知らなかったんです。 ひや~~~。すみません・・・

ヴィーラント・クイケンが菅さんに「テレマン、凄く良かった・・・」と仰って下さったのもこの日。あのように音楽すればいいんだよって。

バルトルド・クイケンは帰りの電車で、きよみと前田りり子さんとバッタリお会いになったそうで、色々話せたよ。とのこと。

ペーター先生は、私に「く~~~っ 惜しかったね~。きよみの実力は皆が認めるところだけど、宮様のバッハ、 あの難曲 無伴奏ソナタ3番を暗譜で、しかも いかにも簡単そうにノーミスで弾かれたら、たまらんね! それにあの謙虚で喜びに満ちた表情でのステージでの態度とお辞儀。感動した」

ご存じのようにこの3人は、今も世界の古楽界で大活躍。あの日からもう24年かあ・・・