

同じ頃
サイド3(ムンゾ)
月を隔てた反対側で、地球からは最も遠いジオン公国発祥の地となった。 付近にはジオン軍の宇宙要塞ア・バオア・クーも置かれていた。 ジオン・ダイクンによってサイド3にジオン共和国が建国された後、サイドに存在する開放型コロニーを密閉型コロニーに改造し、工業生産能力と人口の収容能力等を他のサイドよりも増強させられている。 また、ジオンの本国としてズム・シティが置かれ、一年戦争ではア・バオア・クー、ソロモン、グラナダを本国に対する防衛拠点とし、それらを結んだ線を防衛ラインとして成立させ、万全の防衛体制をとった。
一年戦争末期、ソロモンが地球連邦軍に攻略された後には、第3バンチコロニー「マハル」をソーラ・レイへ改造するために住民を強制疎開させるなど、戦争の旗色が悪くなり一般住民に直接影響が及んだ。 星一号作戦の目標が判明する頃には、駐留する部隊はア・バオア・クー防衛のために動員され艦隊がほとんど残らなかったが最終的にア・バオア・クーは陥落、防衛拠点のうち2つが攻め落とされた時点でジオン公国改めジオン共和国は連邦政府と終戦協定を結んだ。
これによりジオン本国への直接攻撃は辛くも回避され、他のサイドのほとんどをジオン公国が徹底的に破壊した事により、皮肉にも最も工業生産能力を温存していたサイドとして、終戦後はコロニー再建計画等に関わることとなる。 その後、ジオン共和国はUC.0100年に自治権を放棄して消滅した。
1バンチ / ズム・シティ (Zum city) 名称はジオン・ズム・ダイクンに由来する。公王庁が設けられ謁見室やデギンの私室があり、裏手にギレンの官邸が配されている。 そのため公国の施政の中心となり、サイド3の政府高官・高級軍人・名家が住んでいる。ガルマの国葬もここで行われている。 地球連邦軍の星一号作戦の最終目標となっていたが、終戦協定により戦火を免れる。
UC.0100年の自治権放棄後のサイド3でも「首都」とされ、UC.0105年に旧公国庁舎の向かい側に一年戦争記念館が建造された。

「キシリア閣下。間もなくサイド:3エリアです。」

キシリア・ザビ=Kycilia Zabi
ジオン公国軍突撃機動軍司令で階級は少将。デギンの長女。
ギレンとは政治的に、ドズルとは軍事的に対立している。 座乗艦はグワジン級戦艦グワジンあるいはグワリブ又は、紫色のチベ級戦艦パープル・ウィドウ)。 ギレン以上の政治的手腕を持ち、サイド6の中立化政策も彼女の画策したものとされる。常に顔の下半分を覆うマスクを着けているが、その理由は戦場での肌荒れを防ぐためだとも、戦場の血の臭いを嫌悪しているからだとも言われている。 将官で普段からヘルメットを着用しているのは他に例を見ず、腰だめ撃ち用のレーザーガンはキシリアとシャア・アズナブル以外には装備を確認された人物はいない。
兄であるギレン同様、他者を政治的な力関係で見てしまいがちな人物であるが、ガルマの葬儀に、なかなか出ようとしない父デギンに労わりの言葉をかけており、ギレンが父を暗殺したことを知った際には怒りをあらわにしていることから、家族愛の意識は持っていたことが窺われる。 もっとも、父を大切に思う娘の気持ちはしっかりと伝わっていたとは言いがたく、デギンはギレンに対する忠告を行なった際に「キシリアは何を考えているのか」と独白している。 兄ギレンの父殺しを確定させるため和平交渉に向かった父の座乗艦グレート・デギンの座標情報をリークしており、この間接的な殺害で最後まで持ち駒のひとつとして利用していたことを明示している。 末弟のガルマに対しては、自分への忠誠心を持つようにある程度優しく接しながら利用していたようである。
次兄サスロの暗殺への関与疑惑、キャスバル暗殺のために無関係な乗客を巻き添えにした宇宙船の爆破、ミノフスキー博士の亡命を連邦軍への示威行動に利用、内通者や反対政治家の暗殺など容赦がない。 キシリア機関と称される独自の諜報機関(親衛隊)を指揮し、ジオン軍内部の綱紀粛正を行っており将兵から恐れられている。
また、奔放な男性関係を伺わせる。 自らも変装し工作活動に従事している。 その一方で、地球至上主義者のマ・クベを抜擢。 戦争継続のために南極条約調印交渉の全権を与えるのみならず、和平交渉決裂後に行われた地球降下作戦の指揮権を与えている。 また彼への信任の証として自らの本心を語り、末弟ガルマ・ザビの身柄を預けている。
若くして政治的な野心を持ち、長兄ギレンに対抗するため軍事力や政治ルートなどを独力で確立せんと試みるが、自身よりも年上で、すでに政治に身を投じていたギレンに対し、正攻法では困難と気づいていた。 そのためか、モビルスーツやニュータイプなど新しいものに目をつける傾向が見られる。大佐時代のUC.0078年10月にはモビルスーツ中心の軍備増強を主張して、宇宙艦隊を重視していた三男ドズルと激しく対立し、両者とも自説が容れられなければ軍籍を離脱するとまで発言している。 その結果、ギレンの調停により、ジオン公国軍はドズルの指揮する宇宙攻撃軍とキシリアの指揮する教導機動大隊をベースとした突撃機動軍に分割されることとなる。 なお、一年戦争中にも戦略海洋諜報部隊の本拠となるキャリフォルニアベースの取り扱いについてドズルと対立しており、ドロス級大型輸送空母ドロワを譲ることで彼の譲歩を得ている。
長兄ギレンと政治的に反目する過程で、自己の政治勢力を拡大することに腐心していく。月の裏側にあるグラナダ基地を根拠地とし、末弟ガルマ麾下の北米方面軍によって北米大陸を押さえる一方、そのガルマの死に憤るドズルに左遷されたシャアを登用してマッドアングラー隊(大西洋潜水艦隊)を預けたり、腹心マ・クベを地球に派遣して中央アジア(オデッサ)を中心に鉱物資源を採掘させるなどしている。
また、マ・クベと共にアッザムに搭乗して自らガンダムと対戦、その性能を目の当たりにしてドムなどの新型モビルスーツ配備を急ぐようになる。 ニュータイプに対しても一定の理解があり、フラナガン機関を創設している。
シャアとは、「幼い頃に遊んでやった」間柄でもあり、後にその正体を見破るが、彼の目的がザビ家打倒からジオニズム実現へと移行しているとの言質を取った上で、逆に自分の懐刀として使うことを伝えている。 キシリアが「シャア=キャスバル」であることを悟った際の心理は、幼いキャスバルの聡明さを愛していたせいか、その正体を知りながらもシャアに対する信頼は篤く、政治的計算の他にも期待するところが大きかったようである。 11歳にしてダイクンの後継者として毅然とした態度を見せたキャスバルに少なからず恐れを抱き、後に成長した彼のジオン入国を察知して暗殺命令を出した際には、「無名で朽ち果てるつもりなら生かしておいたものを」と独白したことからそれを伺わせている。
UC.年12月31日、長兄ギレンが父デギンを謀殺したことを知り、これを機にア・バオア・クー攻防戦の最中に司令部でギレンを射殺。兄に代わって総司令となるが、皮肉にもそれまで優勢だった戦況がこの暗殺による指揮系統の混乱をきっかけに暗転。 さらに連邦軍の猛攻によるドロス、ドロワを始めとする基幹部隊の壊滅やデラーズ艦隊の戦線離脱等々による防衛線の崩壊によってジオン軍の敗色が濃厚となる。 また、アルテイシア・ソム・ダイクンを担ぎ上げた予想外の叛乱部隊の蜂起によってキシリアのシナリオは狂わされる。戦局が絶望的となった時点で、司令部のトワニング大佐に事後処理を任せ、ザンジバル級機動巡洋艦で脱出を図るが、発進寸前にシャアがブリッジに向けて放ったバズーカ砲の直撃によって首を飛ばされ即死、死体もバズーカの着弾で四散した。
最期の瞬間、自分に砲口を向けるシャアを確認したときの表情は驚愕に充ちたものだった。これはこのとき、キシリアはシャアが搭乗していたMSジオングからの識別信号が途絶した報告を受けており、彼を戦死したものとみなしていたためである。 乗艦していたザンジバルもその直後に連邦軍艦の集中砲撃を受けて轟沈し、公式記録ではこれによる戦死とされている。
キシリア自身にもニュータイプの素養があったとされている。昔、幼いころのキャスバルとアルテイシアを見て「自分も金髪碧眼の男性と結婚し、こういう子供を授かってみたい」と感じていたという。
第ニ話へつづく。